2 細工師の青年
うれしそうな顔に変わらないな、と思う。
持って来てよかった。前を歩くアルフレッドは大切そうに石を包んでしまう。
この街に来たら必ず顔を出す細工師の青年、アルフレッドは好奇心旺盛でソフィアの持ってくる石を何でも興味深そうに見てくれる。
もちろんソフィアも商売にならないものを売りつけるような真似はしない。売り物にならないものは街を案内してくれるお礼として渡すのだが、他所では価値にならない石ですら彼は美しいアクセサリーとして加工してしまうのだ。
初めてその腕を見た時は魔法みたいに見えた。
それ以来この地方に来るときにはここに寄るようにしている。
今回持ってきた石も彼へのお土産ならではの一品だ。
脆く崩れやすいため、加工用として価値がない石を荷物に増やしてまで持ってきてよかった。アルフレッドならきっと喜ぶだろうと思ったから。
きっと今はあの石をどう加工しようかということで頭がいっぱいなんだろうな。
彼の作品があまり認められていないのを残念に思う。
世に出せばきっと多くの人に好かれる物だろうに。
さっき声を掛けていたのは彼の客じゃなく、実家の商会の客引きをしていたんだろう。
派手な宝飾品が似合いそうな綺麗な女性だった。
「今回はどこまで行ったんだ?」
アルフレッドが振り向いて聞いてくる。
「南のカチス地方から西のミディア地方かな。 その後王都に寄ったよ」
拠点を持たないで国内を好きに移動して、南東にある顔見知りのいる街で商品を売り捌くということを繰り返して旅を続けている。今回は西の国境近くまで行ったのでこの街に来るのは久しぶりだった。
「ああ、さっきの石はミディアの片隅にある村でしか取れないらしいよ」
希少価値はあっても使いどころのあまり見つからない石なので、現地では路傍の石と変わらない扱いだったくらいだ。せいぜい村の女の子たちが紐を巻きつけてペンダントとして下げるくらいだ。
扱いやすければ特産品にもなるんだろうに、もったいない。
「へえ。 じゃあ、じっくり使い方考えなきゃな」
うれしそうな顔。客に向けるのとは違う素直な表情にソフィアも笑んでいた。
「それにしてもこの街はよく変わるね」
半年という長くもない時間なのに、この街には新しい道が出来、商店や工場が増えている。来るたびに案内を頼むのもそのせいだ。
「住んでいるとあまり意識しないものだけどな。 普段行くところなんてそう変わるもんでもないし」
「そう言うけど、案内はちゃんとしてくれるよね」
知らなければ案内もできないだろうに。
今歩いている道も前回にはなかった店が多くある。
ソフィアの興味を引きそうな店もあり、アルフレッドが説明してくれた。
さっき入った通りも記憶にない通りだったし、この街はどこまで変わっていくのだろう。
「生き物みたいね」
生きているみたいに変化を続ける、良くも悪くもそういった面を持つこの街がソフィアは思いのほか好きだった。
「そういえば、宿はいつものところか?」
「そうね、まだ決めてないけれどそうするつもり」
宿はほとんどの時でエヴァンズの宿にしている。
大きくはないけれど、綺麗で落ち着いた部屋と営んでいる夫妻が気に入っていた。
「そいつは残念だな、今改築中で泊まれる部屋は少ないんだ。 満室かもしれないな」
「え、そうなんだ」
一応行ってみるけれど、空いてなかったらどこにしよう。
次の候補を頭に浮かべていく。
日が暮れるまではまだ時間があるのでのんびり探そうっと。