11 弱音
宿は先払いのため、受付で代金を払って鍵を受け取る。
宿代はアルフレッドと折半だ。
一部屋でベッドが二つある部屋が空いていたのは幸運だった。
話を聞かれずにすむし、個室よりも安く済む。
アルフレッドが若干物言いたげな視線を向けたけれど、任せると言った手前何も言わなかった。
節約の為に男女でも一緒の部屋に泊まることは珍しくない。
荷物を置いて、ベッドに腰掛けるとアルフレッドが口を開いた。
「間違っていたのかも、って思うんだ」
「何が?」
「俺は店を続ける為、細工師としてやっていく為に手に取りやすいアクセサリーを作るようになったけど、親父とデリクはそれに反対してたんだ」
それはソフィアも知っている。店に飾られた物を見て歯痒い気持ちになったのは一度や二度ではない。
「でも…。それで良かったのかって、今思ってる」
初めて聞く、アルフレッドの弱音だった。
ソフィアとアルフレッドの間に沈黙が落ちる。
アルフレッドはソフィアの言葉を待って、ソフィアはアルフレッドの顔をじっと観察して。
考えていたことをまとめて、ソフィアは口を開く。
「はっきり言っておじさんや弟さんの作っているタイプの装飾品は時代遅れよ」
商人として甘いことは言えない。
「ずっと言いたかったんだけど、二人が作った物がどのくらい売れて、利益がいくらで、店を続けるにはどれだけ不足していたのか。
二人にちゃんと話したことあるの?」
売れていないことは自分たちにもわかっていただろうけれど、日々の生活にかかるお金がどのくらいだとか、目に見えていたとは思えない。
「私たち商人にとって売れない品物を置いておくのってとてつもない無駄に見えるの」
店頭で見て、欲しいと思う人が全くいないとはソフィアも言わない。ただ現実にあれをぽんと買える人がどれだけいるのか。
お店に来た人は飾られている装飾品を見てすごいとは思うかもしれないけれど、これがほしい!とは思わないでしょう。
アルフレッドが声を掛けて連れてきたような人ならもっと気軽につけられる物を選ぶもの。
「気分で着け替えられるようなアクセサリーを探している人に、結婚式でも躊躇うような華美な物は買ってもらえないわ」
アルフレッドもわかっていることをソフィアはあえて口にする。
もしどうしても貴族向けの華美な装飾品を作りたいと弟さんが言うのなら、伝手をたどって注文してくれる人を探せばよかった。
そうすれば多少現実も見えたかもしれない。
アルフレッドは優しいから。
恨まれることを承知で手に取りやすい大衆向けの品物を店に置くことにした。
それは家族を養うためであり、店を存続させるため。
自分ばっかり傷付いてる。
「少なくとも自分が作りたい物の原価は稼がせないと駄目だと思う」
それだけでは店は潰れるけれど、修行中の見習いなら最初はそんなものだ。
「そっか、そうだよな…」
「方向性で揉めるのはどこの工房でもあるけれど、自分の意見はちゃんといわないと駄目よ?」
正しいと思っているなら尚更。
ケンカになったって言うべきことは言うものだ。
「ありがとう、ソフィア」
後悔を滲ませながらもアルフレッドはすっきりした顔で笑った。




