そんな装備で大丈夫か?
おいおい聞いてくれよメアリー、オイラはいつの間にか2次元デビューを果たしていたようだぜ。
今の私の脳内をアメリカンに表すと、こんな感じである。メアリー誰だよとかツッコんじゃいけない。
月島さんからの自己紹介を受け、思考停止を起こした私を気遣って赤井くんと月島さんは先に教室に戻った。
保険医さんはまだ戻ってこないようだ。
つまり、今保健室には私一人!
………………よし。
「おいおいおい…、ちょっと待ってよメアリー、勘弁して。なんだって私がお助けキャラ?やってられんわ。そんな余裕ないわ。え、まじかよ。」
とりあえずこの混乱を整理せねば!!!前世の記憶だけでも混乱してるところにこんな爆弾投げ込まれて、まったく困っちゃうね?!?!
くっ、とりあえずメモだ!!頭で考えるだけじゃ追い付かない!!
保健室の中を探すと、使われてないメモ帳とペンを発見した。
保険医さんには悪いがこのメモ帳拝借します。今度新しいの持ってくるので許して。
と、心の中で謝罪。
「とりあえず、まとめるべきはゲームの概要か。」
思い出せる限りでこの世界のことを書き出していくことにした。
正直一人の人間の人生におけるゲーム1作品なんて、どんなに好きであってもちっぽけなものだ。ブラック企業での苦い思い出が大半を占めていてゲームの記憶があんまりない…。
それでもなんとか概要はわかった。
ゲームのタイトルは《スターダストメモリー》略して《スタメモ》。
舞台はここ、幼稚舎から大学院まである私立星野原学園。集まる生徒は財界のドン、はたまた政界の重要人物の御子息、御令嬢ばかり。つまりは金持ちの集まりだ。だがしかしこの学園に入れるのは金持ちだけではない。ほんの少しの奨学金制度の枠を勝ち取った一般生徒も存在する。
そんな中、超難関と言われる編入試験をほぼ満点で合格した転校生がやってくる。それがヒロイン、月島朱陽【つきしま あき】。
彼女は転校してきてから様々なトラブルを経ながらも、徐々に仲間たちと共に成長していく――――。
まぁ要するにこんな感じだ。
これだけなら別に私に害はないし、私だって自分の真横で繰り広げられる青春ラブロマンスに耐えるぐらいの甲斐性はある。多分。やられたことないからわからないけど。
だがしかし問題はそこでなく、あっちなのだ。どっちかって?だからあっちだよわかってくれよメアリー。
そう、このゲームただ恋愛だけしていればいい乙女ゲームではない。
本当に思春期のキラキラした、でもほんのちょっぴりしょっぱい思い出を再現しているのだ。
つまり、攻略対象の大体は学生特有の物思いって言うかね?まぁそういうのを患っていてだね?それをヒロインが解決していってあげるんだけどね?
青春ってさ、恋愛だけじゃないじゃん?学生時代の思い出は友情と恋愛五分五分でしょ?まぁつまりそういうことだ。
この乙女ゲームをクリアしていくには、ヒロインは周囲の友人たちの力を借りる必要がある。まぁ絶対必要ってわけでもないんだけども、力を借りた方が攻略がしやすくなる。
例えるならあれだ、「えー〇〇ちゃんってあの人が好きなのぉ?もう!早く言ってよ水くさいなぁ!私、〇〇ちゃんのためなら一肌脱いであ、げ、る ♡」って感じだ。
今悪寒がしたわ。
ぶっちゃけると、私は人のために一肌脱いでいる余裕はないのだ。ゲームの朝日奈雪子の家がどうだったかは知らないが、私の家は一般家庭、しかも両親が離婚したため今は母と私の二人暮らし。全く余裕はない。
もちろんこの学園には奨学金制度を利用して通っている。そしてお察しの通りこの学園の奨学金制度のボーダーは非常に厳しい。まじで。金持ち学校なだけでなく、超難関校としても知られる星野原学園内で常に成績10位以内をとり続けなければならないのだ。苦行に等しい。
確かに、この学園じゃなくても国公立くらいなら通うお金はウチにもあった。だがしかし、それよりもこの学園を卒業した時のメリットがでかいのだ。この学園の名前を背負っているだけで有名企業の採用優先度までぐーんと上がる。将来のことを考えれば明らかにこの苦行に耐えた方がいい。
というわけで私には呑気に人の恋愛に首を突っ込んでいるような暇はないわけだ。
いわゆる貧乏暇なしってやつだ。
しかも高1から続けて、高2になってまで押し付けられたクラス委員長の仕事も相まって非常に忙しい。つらい。
だから月島さんには悪いが、私は微塵も協力する気はないどころかむしろ邪魔するぐらいの勢いだ。
恨むなら攻略が進めば進むほど友人の助けも必要になるこのゲームのシステムを恨んでほしい。
まずは敵の把握が大事だ。
攻略対象は6人…、だったかな?
黄山 悠
高校一年で生徒会所属。少しボケボケした天然さん。財閥の御曹司。常にぬいぐるみを持ち歩いてる。
黄山 龍 《キヤマ リュウ》
高校一年生徒会所属。黄山悠の双子の弟。兄と反比例してしっかりしてる。
赤井 蓮 《アカイ レン》
高校二年生でクラスの副委員長。堅物で真面目。奨学金制度を利用している一般家庭の生徒。月島さんとは幼馴染みで、月島さんが転校してきたことによって数年ぶりの再会を果たす。
紫村 アルト 《シムラ アルト》
高校二年生で軽音部の幽霊部員。サボりと遅刻癖がすごい。マイペースな問題児。
青柳 静 《アオヤナギ シズカ》
高校三年生で生徒会長。少し俺様気質が入ってる。世界でも有数の企業の御曹司なため権力が強い。でもバカ。
緑川 薫 《ミドリカワ カオル》
高校三年生で生徒会副会長。青柳静の幼馴染みで、彼もまた伝統ある名家の跡取り息子。青柳静のコントロールがうまく、少し腹黒だがそれを感じさせない紳士っぷりを見せる。
…………たしか、こんなだった気がするけど…。やばいな、全然思い出せない。これじゃあイベントやらを抹消する方法すらわからん。
しかも私、この中の数人最早関わってるし…。知り合いめっちゃいるし…。
どうすんねんコラ。
とりあえず、ゲームでの私の立ち位置もメモしておく。
朝日奈 雪子 《アサヒナ ユキコ》
高校二年生で月島朱陽、赤井蓮、紫村アルトが所属する2年B組の委員長。
転校生である月島朱陽を気遣って一緒にいる内に親友となる。
親友となった朱陽の学園生活を全力でサポートしてくれる。
いや、他人の学園生活を全力でサポートするとか良い子過ぎか私。それに加えて恋愛もサポートって、あれか、「恋愛は青春の一部よ☆」って感じかな。ふざけてる。
でも記憶が正しければこのゲームのシナリオはヒロインが高2の間の一年間だった。
つまり!!
「この一年間、何としても乗り切る…っ!!!」
大丈夫、私には、
「私にはレッド〇ル、アリナ〇ン、メ〇シャキ、その他栄養ドリンク各種がついてる!!!」
志新たに意思表明をし、すっきりした気持ちでベット横のカーテンを開け教室に戻ろうとした私の目に飛び込んできたのは、
「………おう。大丈夫か、朝日奈…。」
体調不良で倒れた私を心配してやって来たであろう担任の先生からの「こいつ大丈夫か」という視線であった。
死にたい。