夏の出来事
はじめまして。
文章練習も兼ねて、短編というよりは掌編小説的な話です。
うまくまとめれたかは分かりませんが、目を通して頂けると嬉しい限りです。
――それは、いつもの……他愛もない夏の一ページ――
蝉が鳴く夏――変わらない道、変わらない僕――
伊勢崎 俊太朗は、歩いていた。
8月15日――この日は俊太郎にとって、一年に一回の唯一の楽しみの日。
高校を卒業後、恋人の春香をこの地元に残し、上京したのが3年前の春の事だ。
――いつ来ても、ここの景色は変わらない。
また……今年も帰る事が出来た。
それは、春香が今年もこの道を通ってくれた事を意味していた。
素直に喜ぶべきだろうか――俊太郎は一瞬、顔を曇らせてしまう。
彼女は毎年この日、この道を通って僕に会い、そして……帰っていく。
立ち去る彼女の背中を見送るたびに、胸が痛む。
――もう、来なくてもいいと……そう、伝えられたらと。
学生の頃、愛らしかった彼女もこの3年で綺麗な女性へと変わった。
いつまでも、変わらぬ……変わる事の出来ない自分。
不甲斐ない想いと胸を焦がす葛藤――僕は毎年、この日を迎えるたびにホッとすると同時に悲しくもなる。
お互いにとって、このままの関係でいいのだろうか?
この日、この道を歩くたびに同じ事を悩み……結局、僕は彼女を目にしてホッとしてしまうのだ。
――今年も、また逢えたねと――
牧歌的な田舎の景色――実りつつある稲穂の緑が、風に優しく揺られている。
静かな、真っ直ぐに伸びた上り坂。
毎年、この道を汗を拭いながら歩いているのだろう春香を想う。
僕の頬が涙で濡れる事はこれから先、訪れることはない。
上り坂が唐突に終わりを告げ、見慣れた背中を見つけ頬が緩む。
白いワンピース――僕と最後に買った思い出の服。
春香は毎年、それで来てくれる。
――春香――
僕は春香の背後まで近づくと、背中越しに声をかける。
春香から返事が返る事はない。
春香は膝を折り、手を合わせている。春香の頬を涙が伝う。
真新しい墓石――3年前に建てられたその墓石は真新しく、苔ひとつ見あたりはしない。
その涙を拭えない自分――悲しみを取り除けない自分。
だから、せめて想う。
――春香すまない……そして、ありがとう。
――それは、いつもの……他愛もない夏の一ページ――
蝉が鳴く夏――変わらない道、変わらない僕――
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
初めて掌編小説を書いたのですが、うまく書けていたでしょうか?
普段は長編を書いておりまして
タイトル:それでも俺はくじけない
というファンタジーものを長期で続けるべく頑張っています。
この小説のURL : http://ncode.syosetu.com/n6910cz/
ついでに宣伝ということで、応援してもらえるとうれしいです。
それでは、失礼します。