8……膨らんだ
「よし、帰るから籠を頼む」
「はーい」
お父さんの指示でパルコが山菜の籠を背負う。
俺はさっき落とした甘い茎をしっかりくわえ直してパルコの傍にいた。
お父さんは手際よく丸太にロープを巻きつけて縛っていた。
それが済むとつながった長いロープの端にくの字の重りをつけて、かなり前方の木の一番下の枝の上くらいの位置を狙って投げた。
重りはヒュンヒュンと音を立てながら飛んで行き目的の木を回ってお父さんのとこまで飛んで戻ってきた!
凄いなアレ!
俺が羨望の眼差しで見ていると、今度はお父さんは【精霊の鈴】を手に取った。
そして握りつぶした! そんなに柔らかいのかアレ!
握る度にカチカチと音がして、何だろ足元から気配がする。
見ていると下草を覆うくらいの深紫の霧が湧いてきていた。丸太を囲むようにだ。
続いてお父さんはロープをつけていない方の幹に足をかけ「せーの」でロープを引っ張った。
すると丸太がずるずると前に進む。てこの原理ってやつだな。それはわかる。
でも不可解なことも目の前では繰り広げられていた。
お父さんが「せーの」と言うと丸太が進む方角の下草が道を開けたのだ!
逃げるって感じではなく、できるだけ折られたりなぎ倒されたりしないように草が勝手に寝そべっている。というのが一番正しいと思う。
不思議だ……
しかも通り過ぎた後の草は何事もなかったように立ち上がって俺の目の前をふさいでいる。
そんなこんなで丸太をてこの原理を使って動かし森の外に出た。
「この木はね皮をむいて売りに出すんだよ。皮はよく水でほぐして繊維では布を作り、それ以外の部分はすいて紙を作って売るんだ」
パルコが突然俺に対して語りだした。
それって俺が理解できるかわかってないでしょ!わかるからいいけどさ!
「パルコ!まず牧師さんに薬草を届けてくるから先に帰ってなさい」
「はーい」
答えてパルコはいそいそと苗の袋を取り出して残りをお父さんに籠ごと渡す。
お父さんは家のある方角の道とは違う方に歩いて行った。そっちに牧師さんと言う人がいるのだろう。
あ、丸太はT字路に置きっぱなしです。はい。
「じゃあ行こうか」
パルコは俺を見下ろし声をかけると歩き出した。苗の袋を抱えて。
この苗が家の近くに植えられるのか……マザーみたいな花咲くのかなあ……夢が膨らむ。