39……幕間・人の目・ザッツの場合1
幕間なので本編も一つ上げますね。
俺は木こりのザッツ。家族共々風鳴き峠の小さな村に住んでいる。
村とはいえ木こりの一家が数件と教会があるだけだ。
周りに他の村が無いのでキャラバンの休憩地点としての役割もある。
そんな我が家の狩りの相棒だった狐犬のガーディが死んで、うちには新しい子犬がやってきた。
すぐに相棒と言う訳にはいかないが、息子のパルコが気に入っているから今のところは良いだろう。
名前は息子の命名で頻繁に呼んでいた。
呼ばれたのがわかって寄ってくると喜んでぐりぐりと頭を撫でていた。
パルコが玄関を開けた際に飛び出して階段を転げ落ちた時は、自分のせいだと狼狽えてなだめるのに苦労した。
それからだろうか。犬のルーペがやたらとキョロキョロするようになったのは。
パルコと一緒に弁当を届けにきた時など、見回して目に留まった草にかじりついて変なうめき声を上げていたな。
あれはきっと苦い草に当たったのだろう。
村を歩き、森を覚えたルーペは翌日から一匹で家を抜け出していた。
今でもどうやって外に出たのかわからない。鍵は確かに内側からかけていたのだ。
その抜け出したルーペと森の奥で出会った時はとても驚いた。
喜んでいるのか俺の周りをグルグル回っている姿は愛嬌がある。
申し訳ないが薬草探しの続きがあるので家に帰るように言葉をかけると、何か訴えだした。
回る速度が上がり小さいなりに遠吠えを繰り返している。
困惑して首を傾げると回るのをやめてこちらを見上げつつズボンの裾をくわえて引っ張り出したので見返すと、今度は後ろ足を足踏みし始める。
お、この行動は見覚えがある。狩りの際ガーディが獲物を狙って飛びかかる際の予備動作だ。
わかっていたので一歩引いて構えていると飛びかかってきた!
まだ小さいのでジャンプしても俺の腹程の高さまでで精一杯のようで、結果はのけぞった俺の腹に乗っかるだけだった。
何なんだ。と見ていると、ルーペは俺の腰についていた精霊の鈴をくわえて、足場になっていた腹を蹴って距離を取った。
「何を……あ、鈴!」
精霊の鈴は風鳴き峠の森に入る為に必ず携帯しなければならない。
人を忌避する森の空気を鎮めて味方だと思ってもらう効果がある。
無いと迷い死ぬとまで言われている。空気とは精霊の事だ。
この森は昔あった国が滅びてから空気が人を忌避するようになったのだ。
慌てて追いかけるが、全力の犬と人では距離の差は広がるばかりのはずだ……走りながら思っていると、前方の岩の上でルーペは俺を待っていた。
姿を見つけるとまた走り出す。
……どこかに連れて行きたいのだろうか?
誰かの指示?
しかしそんな事をする知り合いこの村にいるとは思えない。
と言うかルーペがそんな細かい指示を理解してできるとは思えない。
「くおん!」
ルーペが鳴いて茂みを飛び越えると、カランと鈴が落ちたような音が暗い森の中に響いた。
手の明かりを掲げ、音の方に進むとルーペが止まっていて足元に精霊の鈴が落ちている。
周りを確認しようとルーペの視線の方向に目をやると、そこにはアイハーブの群生地があった。
精霊の鈴を拾い、すでに花が咲いているアイハーブを観察する。
ここに案内してきたのか。感心してルーペを見ると動く様子がない。
「く~ん」
ああ~これはアイハーブの威嚇に当たったな。
それならここからは俺が動こう。アイハーブの威嚇は単体にしか効かないのだ。
俺が近づくとアイハーブの群生地が地面を這うように動き始める。
こちらが速度を速めると合わせるように速くなっていく。
しかし人程の速さにはならないはずだし、動いているうちは威嚇が出来ないからルーペはもう大丈夫だろう。
そして追いかけているうち木立の方に近づく。木陰に逃げ込もうとしているのだ。
俺が追いつきそうになったところで逃げ込もうとした木陰からルーペが飛び出してきた!
いつの間に!
ルーペの身体はアイハーブの真上に落ちた。
「きゃん!」
あ……また威嚇にはまったようだ。タイミングが良いのか悪いのか……苦笑するしかない。
俺は自分の足で下草部分を抑え、様子を見ながらアイハーブの花を摘み始める。
やはり威嚇はルーペに行っているようだ。
上手くいったのはコイツのおかげだな。
その後もグルグル回ってズボンを引っ張るので、今度は信じて付いて行ったら村に一直線で到着した。
もう森を把握しているのは凄いな。
しかし誰が俺がアイハーブを探しているとルーペに教えたのだろう。
夜中にやっと帰ってきて水を飲んでむせ返っている我が家の犬を見て不思議に思った。
●名前について
ザッツ=thatです。
つまりその辺にいる普通の木こり。と言う意味合いの名前です。
同様にイット=itです。
もう一人のディス=thisが登場するかは今のとこ不明です。




