3.チャイナー・フォーミュラー
今日は帰国の日。
ホテルから高速バス乗り場まで移動します。
高速バスに乗ってしまえば、後は寝てても自動的に空港へ着くのである。
初日の件も有り、マージン2時間とって早朝出発。
これはワンさんと私の意見が合致した結果である。
ワンさんは、全て私のせいだとほざいている。私はワンさんのせいだと主張している。
やはり二国間に跨がる文化の溝は、埋まらないものだな。
文化の違いを乗り越え、奇跡的な認識の一致を得た我々は、ホテルでのんびりする計画を急遽変更。早めにチェックアウトする事にしました。
バス乗り場まで順調に経過。予定通りバスが来て、予定通りに出発。
ノープレブレム! ラクショーっしょ?
いやいやいや、この先が問題だ。まだ気を緩めてはいけない。
とは言うものの……
某国出張の激務により、睡魔が襲ってきた。けして二日酔いではないことをここに明確に記しておく!
高速道路に乗れさえすれば、後は一本道。そこで初めて安心できる。
初日の事もある。高速道路に乗るまで、高速に乗ったのを確認するまでは眠らないぞ!
ETC装備確認! 料金所ではノンストップ!
高速への道路標識確認! スロープを上っていく高速バス。
空港への案内板確認!
空港まで赤信号ならびに交差点なし! 交通事故要因第一位排除完了!
バスは、ご当地名物、盛んな車線変更行動を取りつつ前進を開始した。
よし!
仕事終了!
総員第一種警戒態勢解除! 通常シフトに移行!
もう、トラブルはあり得ない。
戦士は休息を求め、瞼を閉じたのであった。
しばらくうたた寝していると……。
それなりに激しい制動。
某国では通常のブレーキ操作だが、目が覚めてしまった。
このバスはETC装備車。高速道路で停車したってことは、空港に着いたか混雑で止まったかの二択問題。それ以外ありえねぇ!
フロントガラス越しに前を見る。
何だ、赤信号か。
ヤレヤレだぜ。
……。
赤信号?
高速道路の赤信号か……。
あれ?
ここどこ?
両側にお店が並んでるよ。
一般道だよね?
ここ一般道だよね?
三択問題だったの?
後ろを振り向くと、高速道路が左右に渡ってます。
……間違って下へ降りた?
やっちまったな!
車線変更しまくって、下へ降りるレーンに嵌まってしまい、戻れなくなって降りちゃったパターン?
うっそぉ!
「どうやらそうらしいデス」
ワンさんが近くの乗客から情報を拾ってきた模様。
「だから、アズマダさんと一緒に行動するのは――」
それはッ! こっちのッ! セリフだぁッ!
そうこうしている内にバスは、一つ目の交差点でUターン。
もう一度、高速道路へ戻ろうとその巨体をうねらせる高速バス。
高速道路入り口へ向かう交差点。赤信号待ちでストップ。
まあいいでしょう!
こういう事もあろうかと、2時間のマージンを取っていますので、現時点ではラクショーっしょ?
と、思ってたら――。
右から大型トレーラーが交差点に進入、右折。スクタ2台も一緒に右折。
グシャリ音がバス車内まで聞こえてきたー!
内輪差でスクタ轢いたーッ!
それも2台まとめてェッ!
目の前で人身事故ォッ!
トレーラーが交差点のど真ん中で立ち往生ッ!
どーすんの!?
動かない?
なんで、こーなるのーッ!
「私達より、バスの運転手さんが大変な事になりますよ」
ワンさんがなんだか楽しそう。
「バス会社の規則破って道を間違えた上に、事故で乗客が飛行機に乗り遅れた。運転手さん、懲戒免職の上、被害実費精算間違い無しですよ!」
え、その嘘ホント?
「たぶん!」
これはワンさん意見なんだからね!
15分、そのままの姿勢で経過。
とうとう運ちゃんは覚悟を完了した模様。
エンジンを思い切り吹かし、ハンドルを切った!
『歩道が広いではないか。行け!』
バスの運ちゃんはクラクションを鳴らしまくり、片輪を歩道に乗り上げ、信号待ちしている歩行者を蹴散らし(安全は確保してた。と、思う)ながら、強引に右折。
ちょっ! ちょっ、待っ!
『関係ない。行け!』
クラクション鳴らしっぱなし。窓開けて怒鳴りっぱなし。
ここエジプト? 某国だよね?
そのまま下道を高速道路に沿って走ります。
位置的に高速入り口に入れなかったみたいで、次の合流地点まで下道を爆走します。
『飛ばせ』
いや、ほんと爆走。
ほぼバイクのライン取り。バイクのすり抜けの方が安全なマージン取ってるってアブナイ! ぶつかる! ぶつからな~い! 轢いたぁ! ギリセーフ!
結果?
25分遅れただけで、空港へ無事到着しましたよ(事実)。
左右のGがスゴカッタネ!
飛行機?
うん、1時間遅れで離陸したよ。
台風来てたみたいだけど、日本に上陸する前に着陸したよ。
台風ごときに、いちいちかまってらんねぇよね!
トラブルメーカーのワンさんとは、2度と一緒に出張しねぇからな!