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某国出張報告書  作者: モコ田モコ助
第1章 13年9月
5/43

4.四日目 キューヨーにてゴゴゴゴ

 

 大要塞キューヨーにて……。


 第1話にて書いた、董事長との馬鹿げたやり取りの後。

 重い空気に耐えかねた通訳のシェンさんが、場所を変えるよう提案してきた。


 移った場所は会議室。

 董事長は「話は済んだ」、として移動してこない。おお、来んな! てめえの顔なんざ二度と見たかねぇや! おとといきやがれ!


 今でも思い出すたび、――董事長の、あのドヤ顔が、……悔しくて悔しくて!



 50人は座れる会議室で、キューヨーの雇われ総経理とシェンさん、なぜか愛想笑いをしてる工場長と、全てを放り投げた私の四人が片隅で固まっている。


 頼りの、経験値レベル100の工場長も「こんなの初めて♪」だそうな。


 どうしてくれる! と、雇われ総経理に詰め寄るが、「私は雇われですので、オーナーには逆らえません」と、ほざくのみ。


「この国の契約書って、羽毛より軽いんです」

 眉をハの字にしたシェンさんが、そんな馬鹿げた事を言っている。


「私は雇われ総経理なので、オーナーには逆らえません」

 散歩中の会話みたいな調子で、雇われ総経理が軽く笑っている。

 そのセリフは聞き飽きたってんだよ!


「アズマダ君、この国はこんなモンだよ。敗因は、我々とキューヨーの間に信頼関係を築けなかった事だね」


 信頼関係も何も、バイヤー立てて……。


 工場長が私の話をカットしてきた。

「悪いのは我々だよ。私も南京の工場と、沢山飲んだり食べたりしてやっと今の関係を築いたんだからね。ここは頭を下げてでも作ってもらおう。アズマダ君はこれから飲む食いで信頼関係を築いていかなきゃならないんだよ!」


 ……。


 納得いかねェー!


 工場長の、説に納得いかねぇー!

 こっちは金払ってんだぞ! 作っていただいてるんじゃないんだぞ!


 自分は絶対メシ食う席で商売しないぞ! と心に固く決めた瞬間である! 


 全然納得いかねぇッ!


「この国はそんなモンだ」

 そんなこと言ってるから舐められんだよ!


「郷に入っては郷に従え」

 工場長は、早速土下座交渉を始めだした。


 私は……携帯電話を取りだし、この仕事を任せたバイヤーに連絡を取った。

『うまくいってますか~? 何でも要求出してやってくださいよ~』


 すげー明るい声で出てきたんで、プツンっと切れしてしまった。


「カクカクシカジカでこうなった。あんたの話は全くでたらめだった。ついては契約を打ち切らせてもらう! 別工場で頼んでいた商品もキャンセルする。この国の法律じゃぁキャンセルできるんだろ? 私が感情的になってるだって? ああ、なってるよ! 今後、全ての仕事は●×さん(ライバルにして元部下のバイヤー)に手伝ってもらうつもりだ!」


 電話を替われと言われた。電話の向こうのバイヤーさんに言われた。

 キューヨーの総経理と代わってくれと言われた。


 総経理に携帯を渡した途端、大声での怒鳴り合いが始まった。某国語なんで、何言ってるのか理解できやしねぇが、お互い感情的になっているのは理解できるぜ! こんな場面で、感情ぶちかませねぇ野郎は信用するに値しねぇ! こっちからブチ切ってやらぁ!


 このバイヤーとは、2年前から、年間にして指1本分の取引を行っている。このバイヤーが入り込んでいる某国の工場は、某国の生産数第3位の大工場為、何人ものライバル・バイヤーが入りこんでいるのだ。

 私に伝手のあるバイヤーも2人入り込んでいる。


 なので――、

 途中から代わってもらっても、全くかまわん!(某ガングロ海王風)


 30分も怒鳴り合っただろうか、キューヨーの総経理は、携帯を私に返してきた。代わってくれと言う。

 通話口から、バイヤーさんの疲れた声が聞こえてくる。

「総経理が折れました」

 をう!


 私の得意技、「他人に丸投げ」炸裂したぜ!

 ……今から思うと、よくもまあ何とかなったモンだ。失敗していたら……ゾッとしたぜ


 続けて、総経理はこう言った。

「董事長には黙って生産を続けます」


 ドドドドド……。


 なんだか、敵が勝利を確信した瞬間に負けが始まった件について。……そんな感じである。劇中のような勝利感は、ちっとも出てこないのであるが……。


「もともと、あの董事長の経営方針には疑問を感じていましたし」


 のがキューヨー上海から日系企業で働いていた某国人管理職を10人ほど引き抜いて来た。だから、ここ数年で工場管理が上向いたのだ。

 総経理がその気になれば、数字しか見てない……、数字しか見ようとしない董事長なんて、ある程度は欺けるそうです。


 ……。

 だったら最初からそれやれよ! いっぱしの商人のフリしてんじゃねぇよ!


 落ち着くには、トイレで用を足すのが一番である。小さいのより大きい方がより効果的である。

 いいかみんな! これだけは言っておく! 素数は役にたたねぇ!(経験談)

 

 落ち着いた後、交渉は再開された。

 再交渉の結果、なんとかゲザの線で走れそう!


 完納には45日遅れとなりますが、全てが全て、納期までに必要なわけではないのだな、これが。

 数次にわたり分納、という形で納品していく「個人的な」約束が交わされるのであった。


 後日談ですが、

 納品は、約束した日より1週間のズレスケジュール進行でした。


 日本の得意先からは蛇蝎がごとく叱咤されましたが、なんとかペナルティ無しで終える事ができたので、ご安心を。




 定型的な工場見学の後、総経理と雑談に、不本意ながら花を咲かせた。

 だって、サラリーマンだもの。

 総経理からも、品質の自信を伺いさせるドヤ言葉が飛び出している。

 怖いものは一つも無くなったので、気になっていたところを質問してやった。丁寧語で。


「生産における不良で、どの項目が一番多いんですか?」

 まず、弱点を数値化し、多い物から順に潰していけば、自然と品質は向上するものである。


 その基本とも言える質問に対し、返った来た総経理の答えは、

「わかりません」


 ……ハァ?


「不良数を把握していません」


 ちょい私の耳が遠くなったのかな?


「不良品の整理をすると董事長に怒られます」

 は、はぁ?


 だってあんた、舌の根が乾かないついさっき、品質には自信有るって言ってたよね?


「そんな仕事に時間を割くな。生産に時間を使え! と董事長から怒られます」


 不良率30%~50%。最後の完成品検査工程で不良を国技人海戦術で全て除く。出荷されるのはA各品のみ。


 ……そりゃ、品質良いわ。


 ……不良で落ちる経費はどこで補填してるんだろう? 


 考えられるのは人件費、福利厚生費、……あとは税金と従業員の保険……。



 ここで半年も暮らせば霊波紋使いの達人になれる気が、どんどんどんどんどんどんしてきたぜ!



 ゴゴゴゴゴ……。



 電話口で交渉してくれたバイヤーさんとはその後もお付き合いしています。

 後日、その方と一緒に某国へ出張するのですが、それがまた……。


 その時の話は、いずれまたの機会に。




次回、いよいよ、帰国です。

はたして、生きて帰れるのか!?

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