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某国出張報告書  作者: モコ田モコ助
第1章 13年9月
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1.初めてのお使い

 前回、某国某キュウヨウ董事長の、あっと驚くタメゴローな振る舞いにより急遽、近接高速打突型霊波紋(スタンド)を発動しそうになったアズマダ。

 今回より、そこに至るまで。そして、その顛末を記する物語が始まるのである!



 某年、8月20日、午前7時。

 空港行きバスに、少なくない人数が乗り込んでいる。


 初めての海外。某国出張に向け、人より小さな肝を震え上がらせている小者がいた。


 私だ!


 お盆休み明け初日である。

 お盆直前にトウキョウへ出張してました。

 東京の次は南京ってか? ハッハッハッハッ……あれ?



 原因は、営業が一人抜けた(諭旨免職ヒャッハー!)ための、中継ぎリリーフ。


 なぜか製造部に属する私が、狩り出されたのだ!

 迷惑な事……もとい、忙しい事この上ない。


 しかも、そのおかげで某国出張の打ち合わせも、ほぼできていない。

 先任者である同行者におんぶにだっこ。

 明らかに準備不足。

 いやが上にも不安が高まる!



 今回の行程は、4泊5日。


 初日は飛行機で南京入り。工場で打ち合わせた後、南京泊。

 2日目は、南京の工場で打ち合わせ。南京泊。

 3日目は、列車移動。上海経由でズーチー入り。移動時間が長いため、そのままズーチー泊。

 4日目は、ズーチーの工場で打ち合わせ。夕方に上海へ移動。その夜は上海東浦空港近くのホテルで宿泊。

 5日目は、ラクショーっしょ?の移動日。昼の便で帰国。


 そんなスケジュールです。




 同行者と待ち合わせの場所は、出国カウンターG付近。

 で、……Gにいませんよ。……と。


 ここで推理。


 同行者は、ロマンスグレー+顎下肉タプタプのナイス年寄りだ。

 GとJって発音似てるよね? 同じザ行だしね。年寄りだしね。


 ……Jに向け、旅行鞄(コロコロ)を転がしていく。


 あ、いた!

 いたよ、おっさん!

 初回からこれかよ。


 つーか、GとJの区別つかなくて、よくもまあ海外出張できていたな!

 感心するよ!


 この先任者。便宜上「工場長」と呼んでおこう。


 彼は、田中角栄元総理が日本・某国国交正常化の一連事業に伴い、某国へ技術指導に狩り出された猛者である。

 海千山千の、正にレベルSの冒険者である。加齢により、攻撃力と防御力はドレインされているが、経験値はカンストしている猛者である。


「おお、アズマダ君。時間通りだね。今受付が混んでるから、先にお土産とか買いに行こうか?」

 この時は、それが正しい作法だと思っていました。


 コロコロ引きずって、パソコンが入った大きめのショルダーバッグ抱えて、お土産物やさんを梯子します。海外出張って体力使う仕事なんだ!

 ……と、その時は思ってました。


 お土産も買い込み、次は搭乗手続き。

 荷物を預け、飛行機の席を指定します。

 予約した飛行機は某国民間企業の大手航空会社(MU)です。


 ……で、


「アズマダ君、非常口近くの席を予約するのが通なんだ! あそこは構造上、足下が広いんだ。くつろげるぞ! みんな知らないんだぞ!」

「そっすか! さすが経験者!」


 ……一抹の不安がありました。非常口近くの席って、万が一の時、避難誘導の……。


 搭乗手続き係員は日本の方です。


係員 「お席はどうなさいますか? 通路側ですか? 窓側ですか?」

同行者「非常口の席は空いてますかね?」

係員 「お客様、英語もしくは某国語は話せますか?」

同行者「いや、話せないけどね」

係員 「申し訳御座いません。非常口近くのお席は、避難誘導の際、添乗員のアシスタントをお願いする事がありまして、英語もしくは某国語に堪能な方でなければご用意できない決まりとなっております」


 おっさん、こっち向いて頬をピンクに染めています。知ったかぶりしてたんだね。


 ……いや、あんたは恥ずかしいだけで済むけど、私は恥ずかしい上に、処理方法の悩みも生じてるよ!


 気まずい思いを後にして、手荷物検査を済ませ、出発ゲートへと進みます。

 ……トラブルの予感が高ぶっていきます。




 そして……飛行機3時間遅れ!

 まだ某国を出発してない!?


 出発ゲート前で、3時間余計に緊張を長引かせる事となる。

 ……嫌な予感がする……とっくにしてますけど。


 緊張する私に、同行の先任者が声をかけてきた。

「ハッハッハッ! 大丈夫大丈夫! こんな事で滅入ってたら体もたないよ! 定刻通りに出発するなんて珍しいよ。3時間くらいしょっちゅうだよ!」


 某国では日常茶飯事なのか! 不安を煽ってどうするの?

 一言余計である。

 元気づけてくれたんだろうけど、余計な不安が募るだけである。


「アズマダ君! 昔は飛行機が飛ばないなんてザラだよ。3時間遅れってアナウンスがあるってだけで天国だよ!」

 どんな魔界を歩いてきたんすか!?


「昔、経験したことだけどさ。帰り便の話なんだけどさ。某国系の飛行機会社だから、全くアナウンスが無くてさ。飛行機が来なくてさ。なぜか人が移動していった。おかしいなぁー、と思って流れに付いていったらホテルへ運ばれたんだ。同室の某国人に、身振り手振りで聞いたら、飛行機が飛ばなくなったっポイ事を言われた」


 それって運がよかったとか言いませんか?


「いやー、あそこで勘が働かなきゃ死んでたね。いいかい? 某国じゃ勘が頼りだよ。言葉通じなくたって勘で何とかなるよ」

 満面の笑みです。


 この人、エスパーだ!


「そんな経験をアズマダ君にも積んで欲しくてさ!」

 必要ねーよ!


 つーか、私があなたの立場だったら、後輩の為に、JALかANAしか使うな! ってアドバイス&命令するよ!

 あと、某国語のできる案内人を付けるよ!


 あ! わかった!

 この人、舞い上がってる!


 初めての人間を自分が引率してるもんだから、興奮して舞い上がってんだ!


 この人、悪気は無いんだけど、いわゆる「嬉しがり」なのだ。関西の一地方で言うところの「ちょけ」なのだ。


 さらに有り難い経験談は続く。


「昔ね、両国国交正常化イベントの一つでね、某国政府主導で訪問団組んで出かけた時さ……。向こうの列車で移動中にさ、もよおしちゃってトイレに行ったんだよね。そしたら、トイレ前で某国の一般おじさんに胸ぐら捕まれてさ『俺は日●人が嫌いなんだ!』みたいな事を叫んで拳を握るんだよ。あの時は命に危険を感じたね。あれは怖かったなぁ」


 今ここにこうして出発ゲート前に座ってるって事は、事なきを経たって事なんだろうけれども……。


「その後、ど、どうなったんですか?」

「同行していた●産党の幹部が駆けつけて、事なきを得た。政府が呼んだ客に何か有ったら詰め腹物だからね」


「拳のおじさんは?」

「制服の人に連れて行かれた。その後は聞いても答えて……もとい、聞かされていない」

 聞いてはいけないんだ……。


 いやがおうにも緊張感は高まるのであった!




 3時間後。

 予定ガタ狂いで飛行機は離陸。


 今回の出張は、仕事の引き継ぎも兼ねている。

 つまるところ、某国方面を担当していた工場長が高齢につき体力面でアウト。私がその後を継ぐ事になったのである。


「アズマダ君。PM2.5がすごいからね。曇りみたいだけど、それが晴れの天気だからね」

 嬉しそうな工場長。母国か?


 飛行機に乗ったら乗ったで、工場長がはしゃぐはしゃぐ!

「入り口で新聞取らなかった? もうすぐ機内食が出るからね。その後で無料の飲み物サービスがあるからね。もらわなきゃ損だよ。タダだしね」

 自家用機のノリである。


 まあ、なんつーか……。

 それなりの機内食であった。


 後から思えば、日本発の飛行機には日本製が積まれるしね。


 で、工場長お勧めの機内無料サービス。

「コーラ・プリーズ! こっちも同じの!」

 頼んでないのにペプシコーラ。


 もう一方のメーカーより、こちらを好む私としては嬉しい限り。

 ただし――


 常温でなければね!




 生ぬるいコーラを乗せたまま、飛行機は一生懸命飛び続ける。


「アズマダ君、某国へ近づいた証拠を目で確認する方法があるんだよ!」

 工場長のおちょけが続く。

 身になる情報か否かは、聞いてから決めようと思う。


「なんですか?」

「某国に近づくと、海が茶色くなるんだよ!」

「……」


 あ、そうか、デカイ川があるんだ。内陸の土砂を運んでるから海がアレするんだ。


 工場長の予言通り、見事線を引いたように、茶色くなった海域が現れた。

 どうやら、某国の制海圏に入った模様。間もなく着陸の模様。


 機内で上映されていた、某国制作ドラマの上映も終了しました。

 旧日本軍が某国非戦闘員を虐殺しまくっている映画を撮っている設定の映画です。


 日本から出発したんだから、日本人も半分くらい乗ってます。

 何が言いたいんだろうか、よく解りたくもありませんが、気まずい空気を乗せて、飛行機は南京空港へと高度を下げていくのであった。


 あーっ! イライラする!




次話で、ようやく某国着陸。

スーパーサラリーマンが行く!

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