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第七話 艦長、転校生です。

 潜入任務……それは、相手に自分の素性を知られぬまま相手の持つ情報を引き出し、仲間に伝え、戦況を優位にする為の任務。

 故に、私の素性──合衆国軍所属EGのパイロットとしての素質があることが知られては絶対にならない。

 幸いにも能力を持っていることが知られなければ、私をパイロットに繋ぐものはなにもない……だから、絶対にE―Actだとバレなければ問題ない。

 そもそも相手は平和ボケした子供……そう簡単に悟られるわけがない!


 ──そんな事を頭の中で考えていたシャロは、自信満々な様子でエーテリオンへの潜入を開始した。


 軍人故にフラグという存在も知らずに、失敗フラグをそこら中にばらまきながら……



 ……



「転校生のシャーロット・エイプリーです。短い間だとは思いますがよろしくお願いします」


 教壇に立ち頭を節度を持って下げるシャロに対し、数名の生徒を除き拍手が送られる。


「ということで、ちょっと違例だけど転校生のシャロちゃんよ」

「ちょっとではないだろう月都カグヤ! 連れてきた経緯は聞いたぞ、もしもその子がどこかの国のスパイだとすれば、三蔵はハニートラップに引っ掛かったということになる。素性を調べなければ納得できん」

「あんたねぇ、いくら堅物だからって、こんな可愛い子がスパイなわけないでしょ? そもそもハニートラップに引っ掛かけたどころか、溺れて流されてきたところを危なく三蔵にハメられかけた可哀想な子なのよ?」

「しかしだな……」


 不服な顔色を浮かべる相馬だったが、どうも周りの──主に女子からの視線が痛く、強く反対の言葉を言い出せない。


「だ、だが、それだけならば非戦闘員のいる医療班でもいいではないか! ここは活性能力の高い、パイロットとブリッジクルーのみで構成されているはずだ!」

「なんだ、そんなこと……」

「なんだとはなんだ」

「フン、安心しなさい。たまたま計ったんだけど、シャロはパイロットとして問題ないほどの能力を持ってるのよ。このまま長く帰れなかったら、いっそ正規のパイロットとして運用するつもりよ」

「が、がんばります……」


 複雑な笑顔で、シャロはみんなの前で笑ってみせた。

 シャロの隠そうとした秘密は簡単に悟られ、パイロット能力があることまでバレていた。

 全ては偶然だった。カグヤがおもしろ半分に能力検知機を使用したのも、相馬が核心に近いことを喋った事も、全てはフラグに誘われた必然に近い偶数……誰も答えにたどり着いているわけではない──が、シャロとしては出鼻を挫かれたことに内心焦りを感じ、少し挙動不審になっていた。


「なんか、キリッとしてるみたいで案外ドジっ子そうにモジモジして可愛いな。しかも純正の金髪に白い肌、スタイルも……そこそこ」

「大輝さんって、ホントのところ女の子なら誰でもいいんじゃないですか?」

「そ、そんなことねぇよ!」

「なに、大輝も三蔵と一緒なの?」

「俺をあんなハゲと一緒にするな!」

「何で俺を引き合いに出した! 言え!!」


 あれ以降消沈気味だった三蔵が、大輝の言葉に反応して椅子から立ち上がって今にも掴みかかりそうな勢いで声を上げる。


「だって……なあ?」

「ねえ?」

「異議あり!! その不当な扱いに異議を申し立てる!」

「桑島三蔵の異議は却下します。この扱いは不当ではなく妥当って言うのよ」

「勝手に妥当にするなよ! どう思いますか、シャロさん!?」


 クルリと振り向いて、自分を助けてくれると信じて止まないシャロに問いかける。

 が、忘れてはいけない、そもそもこんな扱いを受ける事になったのは彼女が原因であると。


「妥当だと思います」


 言葉を一切詰まらせることなく、バッサリと切り捨てるように冷たく言い放った。

 慈悲は無い。何故ならその男は自分に不名誉を着せた張本人なのだから。


「ま、諦めろ三蔵……お前に勝ち目はない。主人公じゃないお前にはな」

「女子風呂侵入した挙げ句、汚物に落ちた奴が主人公を語るとは片腹痛いわ!」

「んだとこのタコハゲッ!!」

「黙れこの三流主人公がっ!!」


 擁護に入った飛鳥だったが、そのフォローになっていない言葉は逆に三蔵の怒りの炎に油を注いだ。

 油を注がれた炎は炎を呼び、瞬く間に教室にいる全員による口喧嘩が勃発した。


 やれ禿ハゲだの、やれ無責任艦長だの、やれ眼鏡割るぞだの、やれやれやれやれ……etc

 しかし、終わりの見えない口喧嘩は毎度のごとく現れる敵のおかげで終息を迎えることになった。


(警報音、敵が来た……でも、こんな連中がまともに戦えるとは……)

「WC出現、場所は南米、規模は大」

「了解、全員戦闘準備、整備班は全機スタンバらせなさい!」

「了解だ、予備機含めてすぐ終わる」

「シャロちゃんは二番隊のサポート、いきなりだけどできる?」

「え、あの、シミュレーション通りなら……」


 その教室の空気、カグヤのあまりの変わりようにシャロは思わず戸惑いながら返事をする。

 能力を調べられてから、一度シミュレーション機で模擬戦闘訓練を行わされたシャロ。当然手を大いに抜いて実行したので、強いパイロットではないと判断されたため、カグヤにサポートを任された。


「ちなみに二番隊というのは?」

「あの三人よ」

「あ?」

「あン?」

「どうも……」


 柄の悪い男女にハゲ一人。シャロは自分の配属された隊に不安しか感じなかった。


「足引っ張んじゃねえぞ!」

「はい!」


(うう、隊長として守れなかったらどうしよう……)


 隊長としての責任を感じる零。


「邪魔だけはするなよ」

「はい!」


(カッコ悪いところ見られたらバカにされちゃうよ……)


 後輩の前での失敗を恐れる宗二。


「君は俺が守る」

「いえ、結構です」


(あっれー、やっぱり俺だけ嫌われてる?)


 自分の扱いがやはり不服な三蔵。


(見ていてください隊長、私は負けません)


 元の隊の事を思い出し、決意を固めるシャロ。

 思い思いの事を抱き、四人は廊下を走り抜ける。


「ところで艦長、なんでシャロさんを二番隊に入れたんですか? 一番隊のほうがあっていたのでは?」

「一番隊は飛鳥バカの面倒で手一杯だろうし……エイプリーって4月って感じで、名前に数字のある二番隊に合うかなって思ったし。それにほら、シャロちゃん入れればまともになるかなーっと……二番隊そういう人いないから」

「三蔵さんがいるじゃないですか」

「ダメよ、あのエロ河童、実力微妙なくせに飛鳥並みに調子に乗りやすいから、新型与えられて今ちょっと舞い上がっててまともじゃないわ、よくある負けフラグみたいなの立ってるわ。シャロちゃんに手は出すし」

「まぁ、それはそうですけど……」


 たしかに最近の三蔵は、いつもに比べて口数が多く、少し舞い上がっている傾向はあった。しかし、それでもちょっと変わった程度であり、普通に接していては気づかないレベルだ。


 ──それを彼女は見抜いたのだ。


「それじゃあ、シャロさんのために二番隊に入れたんではなく、三蔵さんのためにシャロさんを入れたんですか?」

「護衛対象がいれば少しは周りを見て戦えるでしょ? ま、いざというときは彼女が助けてくれるでしょ」

「模擬の結果でもわかるように、初心者ですよ、あの人」

「そう? 私には接待プレイしてたように見えたんだけど」

「……これ以上話したら、自分の有能という肩書きに傷がつきそうなので黙ります」


 一体どこまで彼女の事や、周りの事を見ているのだろうか。少なくとも自分以上の観察眼であるのは間違いない。

 命は彼女の大きく見えた背を見ながらブリッジへと駆けていった。



 ……



 格納庫へと足を運び、シャロの目に映ったのは、自分や仲間を落とした新装備をつけたエーテリアスであった。

 その中でも目を惹くのは自分を落とした黄土色のドライ。

 しかし、今は味方。彼女は気を取り直しその隣の何もついていないエーテリアスに乗り込んだ。


「機体は同じなんだ、問題はない……」

「シャロさん、発進どうぞ」

「もうついたか……シャーロット・エイプリー、出る!」


 足を固定するカタパルトに運ばれ、シャロを乗せたエーテリアスは大空を飛ぶ。


「艦長、作戦は」

「え、そうね……見敵必殺、サーチアンドデストロイよ!」

「りょ、了解」


(なんだその無茶苦茶な作戦は……そもそも作戦と言えるのか? 我々はこんな奴等に遅れを……)

「だったらこのアマツが全部片付けてやるよ!」

「主人公らしく……か?」

「おうよ、援護でも雑魚狩りでも好きにしな!」


 シャロの呆れなど知らずに、いつも通りの突貫をかます飛鳥と、そのサポートに回る大輝。

 近づく敵を次々と斬り倒すが、その隙を見てアマツの背後へと近づく敵が現れる。


「させねーっての!」

「私も行くか」

「まったく、こちらも援護させてもらうぞ、神野飛鳥! 三番隊は奴の残りを排除せよ!!」

「了解しました、相馬さん! 私も敵陣に突入します、構わず攻撃を!」

「わかった」


 アマツの援護を実行するスサノオの周囲に、レッド、グリーン、イエローが現れ、ブルーが飛鳥の後を追うように進撃する。


「よし、全弾叩き込むぞ!」

「はいはい、合わせますよっと」


 通常兵装のグリーンとイエロー、特殊ライフルのスサノオの弾幕がおまけに見えるほどのド派手なレッドの火力によって、敵の軍勢に大きな打撃が与えられた。

 さらに穴を空けていくようにアマツ、ツクヨミ、ブルーが手近の敵を撃墜していく。


「凄い……」

「作戦なんていらないんですよ、シャロさん。これが俺たちの戦いかたなんですから!」

「でも、相手がこちらより上回っていた場合は!」

「その時はちゃんと作戦立ててくれますよ、あの艦長は。それに評価するのは癪ですけど、どこかの主人公バカの実力は頭一つ抜き出てますし……」


 自分達の部隊の強さとは違う強さがエーテリオンには存在していた。それがなにかはシャロにはまだわからなかった。

 そのモヤモヤとした気持ちが、統率のない部隊の戦いや、それに自分達が負けた事などが合わさって、シャロの中に不愉快さを生んだ。


「こっちも仕掛けるぞ!」

「言われなくても!」


 他の隊の活躍に痺れを切らした零と宗二は、残虐な方法で次々に敵を狩っていく。

 とくに隊人類用にアインの両手に内臓されていた閃光、音響兵器が対WC用の小型マシンキャノンに変更されたことにより、そのゲテモノ兵器に磨きがかかっていた。


「チンタラやってンじゃねぇぞ三蔵!」


 有線腕手で捕縛した敵をそのまま蜂の巣にしながら、零は戦果を上げない三蔵に優しく(?)激を飛ばす。


「はいはい、わかりましたよ! シャロさん援護を!」

「了解!」


 戦場の空気にあてられたせいか、それともあまりに腹立たしい現状のせいで素性を隠すことを忘れてしまったのか、シャロは軍人のように三蔵の指示に答えた。


「フン! はあぁぁーっ!!」


 手に持った槍で敵を倒しながら、死角を突こうとする敵を隠し腕により撃墜する。

 その体系故に動きの遅いドライではあるが、まさに山の如し鉄壁さであった。


(あんな奴でも、一応はパイロットということか……)


 標準ライフル二丁で敵を少しずつ倒しながら、その戦いを横目で拝見する。


「──! シャロさん!!」

「──え……?」


 周りの戦いを観察するあまり、自分に迫る敵へ注意を払っていなかったシャロに向けて、小型WCが目前へと迫っていた。

 もうダメだ、回避行動は間に合わない。そう直感で悟ったシャロは操縦レバーから手を離し、必死にも手をクロスして自分を庇おうとする。もちろん直撃すればそんなものでは助からない。


「…………」


 ──生きてる。


 身に何が起こったのか理解していないシャロは手を元に戻し周囲を見渡す。


「──ハッ!?」

「大丈夫ですか、シャロさん!」


 シャロのすぐ近くには左腕が破損したドライがいた。二型の短距離ブースターによりなんとか三蔵がシャロを庇ったのだ。


「あ、その……ごめんなさい、私の不注意が原因で」

「いえ、無事ならいいですよ。いっぱいある内の一本ですから」

「でも!」

「仲間は助け合いですよ、シャロさん」

「──ッ!」


 その三蔵の優しい言葉が、逆にシャロの心を苦しめた。


 ──自分は仲間ではない。情報を集め、いずれはエーテリオン奪取を目論むスパイなのだから。


「何やってんだテメエら! 邪魔だから下がれ!!」


(ふぇぇ……三蔵君の機体ちょっと壊れてる……私のせいだよね? 私がちゃんと倒さないと……)


「この図体デカイだけの役立たずが、とっとと失せろ!!」


(目の前の敵だけじゃなくて、仲間に近寄る敵全部倒さないと……)


「「全滅だオラァァァァァーッ!!」」


 口調は別として、とても仲間思いな二人は責任を感じ、先程よりも勢いを増し、鬼神の如く敵を一掃していった。


「大丈夫、ですか?」

「え、まあ、やられたのは腕だけですから」

「そう……」

「三蔵、戻って機体を直しなさい。シャロは三蔵の護衛、いいわね?」

「……了解」


 三蔵のドライと共に、戦線から離脱するシャロ。

 敵はまだ多く存在し、倒すまでにはまだ時間がかかりそうであった。そして、艦にはパイロットは存在せず、こちらには破損したドライ。少女の中に残る軍人としての役目が、今が好機だと訴えかける。そしてシャロ自身、これ以上一緒にいれば作戦を実行できないと感じていた。


 ──ここにいて楽しいと感じたから。


 ──ここにいて優しくされたから。


 ──ここに少しいたいと思ったから。


 この気持ちを捨てるには、馴染み切っていない今しかなかった。


「──くっ!!」

「ぐぁっ! シャロさん!?」


 ドライの前に回り込み、ブースターを使ってエーテリオンの甲板上に押し倒すと、二丁のライフルをドライとブリッジの双方に素早く向ける。


「動くな、エーテリオンブリッジクルー及びそこのパイロット!」

「シャロ……さん?」

「私は合衆国EG第一部隊隊員のシャーロット・エイプリー少尉だ。死にたくなければ大人しく投降しろ」

「チッ、想定していた事だけど、いざやられるとここまでやるせない気持ちになるなんて……」


 もしも軍のスパイであっても、出来れば篭絡して仲間に引き入れようとも考えていたカグヤは苦い表情を浮かべる。


「シャロさん……なんでこんなこと」

「私が合衆国の軍人だからだ。前回の戦いの報復でもある」

「だからって──!」

「貴様もその原因の一人だ! 先程は助けられたが、先日の戦いで私を落としたのは貴様なのだからな」

「──なっ!?」

「あー、そりゃ三蔵さんに当たりが強いわけだ」

「今ふざけたこと言ったら有能の肩書きに傷がつきますよ?」

「はーい、黙りまーす」


 どんな状況でも平常運転の命を、光はさっき聞いた言葉で黙らせる。


「あの時のパイロットなのか……君が」

「そうだ」

「…………」

「フン……それで、答えはどうなんだ」

「その前にこっちからも一つ提案があるわ、今回の事はなかったことにしてあげるから、これからも一緒に世界のために戦わない?」

「ふざけたことを言うな、誰が貴様達の仲間などに……」


 一つの未来がシャロの頭を過ったが、そんな未来はあり得ないとすぐに振り払った。


「そ、だったらノーよ、ノー。そう簡単に譲るわけないでしょ、私だって艦長なんだから」

「こちらは本気だぞ!」

「そう、私もいつだって本気よ……右を見なさい」


 シャロは双方に注意を払いつつ、横目で素早く確認する。そこにはエーテリオンの主砲がこちらに向けられて、発射準備を整えていた。


「どういうつもりだ」

「この距離なら撃ち損じはしないわ、確実にあなたを落とせる」

「ハッタリだな、そんなことをする前に貴様達を撃つ……同士討ちが望みなら別だが」

「くっ、やめろシャロ、あの艦長なら本当に撃つぞ!」

「ならばこちらも撃つだけだ、EG一機とエーテリオンに打撃を与える……そうすれば軍人として少しでも国の為に貢献できる」

「そんなものに貢献するために死ぬなんてバカげてる!」

「国の貢献の為に死ぬのは軍人のほまれだ」


 軍人の瞳に迷いはなく、トリガーにかけた指はすぐにでも発射できる状態にあった。


「君が死ねば悲しむ人間だっているはずだ」

「……だろうな」

「死んだら会いたい人にも会えないんだぞ」

「……だろうな」

「だったら──!」

「私は軍人だ、死ぬ覚悟はいつでもできている」


(さっき盗撮した画像送ろうかなー……殺されたくないからいいや)


 腕をクロスして涙を軽く浮かべている少女の画像を命は眺めるが、やはり命は大事なので、下手な挑発はしないことにした。


「…………艦長、主砲を元に戻してください」

「なんのつもりだ」

「……仲間は助け合いだって言ったろ。俺の事が憎くて撃ちたければ撃てばいい、その代わり艦には手を出すな、そして空いた二番隊には君が入ってくれ……そうすれば君を含めた仲間が全員助けられる」


 コックピットに銃を構えられながらも、ゆっくりと立ち上がりシャロの前へと無防備な姿で向き合う三蔵。


「ふざけるな、助ける為に死ぬだと? それに私はお前達の敵だぞ、そんな約束聞くと思うな!」

「たしかにこの艦のやってることは周りに敵を作りまくるような事ばっかりだよ、俺だって最初は驚いたさ……でも、今も昔もこの艦の目的は変わらない、世界のために戦っている。だから、俺にとって──いや、俺達にとって君は敵じゃないんだ」

「綺麗事を!」


 少し後退るエーテリアスに、ゆっくりと迫るドライ。


「なら撃てよ、俺が君の敵だって言うなら好きにしろ! お前が国のために死ぬのが誉れって言うなら、俺は女のために死ぬのが最高の誉れなんだからな!!」

「くっ、今さら……今さら戻れるものか……私は──私は!」


 ──ここにいたいと思った。


 強い能力がある、ただそれだけで昇進し、軍では周りから冷たい目で見られ、同じ女性隊員からはイジメだって受けた。

 アレク隊長が助けてくれたこともあったが、いつも隊長がいてくれるわけではない。隊長や仲間がいなくなれば彼女はいつも一人であった。

 それでも軍人らしく生きようと頑張ってきた、だが、自分がいくら変わったところで、周りの評価が変わることはなかった。


 ──それでも自分を騙し続けた。


 ──どうでもいい国の為だと、


 ──尊敬する隊長の為だと、


 ──決して報われない自分の為ではないと。


 そんな彼女にとって、ここは居心地が良すぎたのだ。

 だが、もう戻ることはできない。その気持ちが彼女の心を圧迫する。


「くっ……はぁっ……私は……私はっ!」


 手の震えからマニュアルによる照準が定まらない。

 片方の銃を捨て、両手持ちにすることでブレを抑えようとする、しかし、それでも狙いが定まることはなかった。


「シャーロットォォォーッ!!」

「くっ、まやかすなぁぁぁーっ!!」


 定まらないままに放たれた銃弾の数々は、甲板に穴を空け、ブリッジを掠め、次にドライへと収束していく。


「くっ、なんとぉぉぉーっ!!」


 だがドライは──三蔵は気合いの雄叫びと共にブースターを開き、迫る銃弾を全身に受けながらも暴走するシャロへと躊躇う事なく接近し、銃を持つ手を空へと向け、そのままの勢いで甲板から海上へと落ちていく。


「私……は……私は……もう……」

「いいんだよ……シャロはここにいてもいいんだ。大丈夫、ここのみんなは優しいから、すぐに馴染むさ……それでも怖いなら、俺がずっと着いててやる」

「──くっ、うあああぁぁぁぁぁーっ!!」


 シャロの心から泣く声と共にWCは全滅し、今回の戦闘は終了した。

 二人の機体は回収され、特に被害は無いと言うことで、シャロ自身に何かが課せられる事もなく、エーテリオンの日常は一時間もしないで元へと戻った。



 ……



「ま、何はともあれ一件落着ってとこかしら?」

「ですねー、僕達生きてますし」


 ぐでー、っと授業を受けるカグヤ達は、今こうしていられることに幸せを感じていた。


「主砲で煽ってアイツに本気で説得させる作戦とはいえ、あんなやつに自分の命運を賭けたのが今でも信じられないわ」

「いいじゃないですか、シャロさんもすっかり馴染んだみたいですし。三蔵さんにもなついてますし」

「たしかに……なついてるわね」


 席をくっつけて二人で授業を受ける姿を面白くなさそうに見るカグヤ。


「三蔵ー、ここわからない」

「ここは、こうやって……こうだよ」

「そっかー、うん、わかったー」


 そこにいたシャロに、軍人としての凛とした態度は欠片もなかった。


「ホント恋人というよりは、犬と飼い主みたいね」

「忠犬シャロってとこですかね」

「ま、アイツらいつもセットでいるもんな」


 ずっと着いててやるという三蔵の言葉にドップリと甘えたシャロは、見ての通り軍人らしさをすべて捨て、一人の少女──というより、一匹のわんこのように三蔵にくっついていた。

 そこに三蔵の求めるような恋愛要素があるのかと言えば……まだ、なかった。

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