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第五話 艦長、快進撃です。

「増援が来たが……シャーロット、テックス、ルーカー……仇は取るぞ!」

「い、生きてます……」

「死んでねえよ……まったく」

「……(コクコク)」


 大破した機体の中で、三人は聞こえてきた通信に返答するが、三人の声は戦いに没頭するアレクには届かなかった。


「来たな、新型ーッ!」

「一機飛び出してきたぞ、飛鳥!」

「こっちは負けられないんだ、押し切るぜ!!」


 手に持ったライフルを投げ捨て、得意のブレードを抜く飛鳥。投げ捨てられたライフルは搭載された制御装置と小型ブースターによって、自動操縦でアマツの背中に装着される。

 飛鳥の為にわざわざ繁が考案し、作った機能であり、その効果は見ての通り大成功であった。


「はあぁっ!」

「フンッ!」


 剣と剣がぶつかり合い、激しく火花を散らせながら互いに睨み合う。


「コイツ、中々やる!」

「能力が劣っていても、操縦技術は一位なんでな!!」


 強化されている飛鳥の機体を押し返すアレクだが、もちろん飛鳥もそれに反応し再び接近する。


「エース機は飛鳥に任せて、私たちは他の隊と共に残りをやるぞ!」

「了解!」


 大輝は通常より口径の大きいライフルを両手で構え、次々に相手に向けて撃ち始める。

 遠距離ではスナイパーライフルとして、近距離では掃射可能な機関銃として運用できる、繁特製のライフルであるが、いくら大輝が飛鳥のパートナー的存在だからといって、対照的に射撃が抜きん出るほど得意というわけではないので、宝の持ち腐れではあった。


「いい援護だ、こちらも攻めなくてはな!」

「白い新型が来るぞ!」

「だがまて、あのブレード……長さはあるが振動していないぞ?」


 ツクヨミが持つ刀──それは従来の超振動ブレードとは違い、一切の振動を起こしていなかった。


「ハハッ! そんなナマクラで切れると思うな!」

「その言葉、そのまま返すぞ!」


 剣と剣がぶつかり合う──はずが、敵のエーテリアスのブレードはツクヨミの刃によって、両腕ごと切断された。


「月下神斬流一の型──新月」

「バカな、そんな剣で!」

「剣? 違うな……これは刀だ」

「アイエエエ……サムライブレード、ワザマエ……」


 片言の日本語と共に、刹那に斬られた敵はゆっくりと海へと落ちていった。


「アレ作るの結構大変だったなぁ……ブレード五本は重ねて一本に圧縮したっけか。そっから研ぐのも苦労したなぁ……」

「万能すぎるでしょ、君!」

「次はそうだな……合体ロボットでも──」

「それ以上はやめて!」


 このままではこのマッドサイエンティストが何を作り出すか分かったものではないので、帝は繁に深く釘を刺しておく。


 ──無論、その釘はすぐ抜けるだろうが……。


「さて、あっちも頑張ってるみたいだし、私達も頑張るわよ!」

「あいあいさー」

「もー、舵取ってるのは僕なんですからねー……」


 自分の手腕に全てを託されている光は、周りの自由な発言に疲れた形相でそう呟いた。


「くっ、行かせるか!」

「余所見してんなよ!」

「邪魔をするな紅白色!」

「だせぇよ! 角付きとか、赤角とか色々あるだろ!?」


 アマツの白地に赤の機体色を見て、アレクは別称を付けるが、もちろん飛鳥はそんなめでたい別称に納得するわけなく、突っかかるようにぶつかり合う。

 しかし、オーソドックスなパワーアップ機である換装パーツ一型は、特殊な装備も特殊な機能もなく、特に飛鳥のアマツに至っては中距離機として、二人のようなオリジナル兵器も存在せず、言ってしまえば特徴らしい特徴もなく地味なのであった。


「わけのわからんことを……各機援護しろ、確実に叩く!」

「そっちにいったぞ、飛鳥!」

「六機同時攻撃、貴様に捌けるか!」

「だーかーらー、何度も言わせんなよ。俺は──」


 前方から迫る一機目の攻撃を前進しつつ回避し、後方からの二機目もろとも、背中のブースターに接続された二丁のライフルで武装を的確に撃ち落とす。


「スペシャルで──」


 その一瞬の行動に怯む三機目を容赦なく切り払うと、三機目の後方から迫る四機目に目掛けて三機目を蹴り出すと、空中で衝突した二機はそのまま体勢を崩し、飛鳥から遠退いていく。


「スーパーパイロットで──」


 頭上から五機目、足下から六機目の敵が来る。五機目に対して左手に取ったライフルの射撃により、ブレードを持った腕を分断。すかさず銃を捨てて落下する腕を掴み、そのまま六機目に目掛けて投げつけ、見事その頭部を破壊する。


「主人公なんだぜ?」

「バカな、全方位からの攻撃を防ぐだけでなく、一瞬で全機退けただと!?」

「さすが、全能力トップの男は違いますね。性格は“アレ”ですけど」

「“アレ”で、刹那の空間把握能力、零の容赦のない戦法、貴理子の操縦技術の三つを合わせ持ってるからスゴいのよね……」

「アレ、アレって、飛鳥さんに少し失礼ですよ……」

「だって主人公バカアレだし」


 光の擁護にカグヤと命は何の迷いもなくそう答えた。


「ま、この場はアイツに任せておくとして……基地までの距離は?」

「もうすぐで主砲射程圏内だ」

「敵母艦が一隻存在しますが、艦の武装は通常兵器のみですので、フィールドを展開すれば問題はないかと」

「だったら真っ直ぐ基地に向かうわよ!」


 カグヤはビッと人差し指を差して、モニターに映る目標に攻めるよう命令を出す。


「よし、主砲射程圏! いけるぜカグヤ!!」

「主砲、撃てーっ!!」


 エーテリオンから放たれた主砲……それは基地上空を通り過ぎ、その後方の山を焼き払っていった。


「どこ撃ってんの!」

「仕方ありませんよ艦長、やっぱり元々対空を想定した主砲ですから、対地上には当たらないんです」

「むぅ……どうにかブッ壊すには……主砲、対空、上向き……そうよ!」


 パチンと指を鳴らし何かを閃いたカグヤ。そうして彼女が指示した命令は──


「光、バレルロールよ!」

「バレ……なんですか?」

「バレルロールよ、バレルロール! こう、グルッと」


 手を戦艦に見立て、カグヤは手を横に回し、腕を突き出す。

 もちろん光の第一声は反対から始まる。


「できるわけないでしょうが! 宇宙じゃないんですよ!?」

「命、できるの? できないの?」

「一応出来ますよ、艦内がとんでもないことになるでしょうが」

「でも棚とベッドには固定機能もあるから、とんでもない事になるのは机の上ぐらいじゃない?」

「ま、それもそうですね」

「待て待て待てーいっ!!」


 今まで褒められたり驚かれたりで、なんだかんだ有頂天状態だった繁が、急に血相を変え慌てた様子で叫び出す。


「なによ、先生」

「バレルロールだと? ふざけるな! 今俺の机の上にはな、ようやくフルスクラッチして出来上がったエーテリアスのプラスチックフィギュアがあるんだ! あとは型を取って量産しちまえば、好きな改造も、マニアへ販売だって出来るんだよ! だから──」

「バレルロール開始!」

「りょ、了解!」

「艦内の皆さんは所定の位置で安全ベルトを装着して、少々お待ちくださーい」

「おいいいぃぃぃぃぃーっ!?」


 必死の訴えなどお構い無しに、エーテリオンは少しずつ左へと傾いていった。


「くそっ! アイツらに人の心はないのか!?」

「せ、先生どこに!」

「部屋だ!!」

「き、危険ですよ! 先生、先生ーっ!!」


 艦の傾きにも負けず、繁は格納庫からダッシュで部屋へと向かう。

 己の築き上げた集大成──努力と汗と長い時間をかけた、たった数十グラムの宝を守るために……。


(部屋までダッシュで二分弱、この調子ならまだ間に合う!)


「うおおおぉぉぉーっ!! 俺のフィギュアァァァーッ!」


 走り、走り、時に跳ぶ。そうして迎えた部屋の入り口を教員カードで開け、そのままの勢いで転がり込み、再び跳躍し机へと飛びかかる。


「よし、今度こそいけるぜ!」

「この状態で撃てる限り撃ちなさい! 発射、発射! 発射ーッ!!」


 上下逆さまとなったエーテリオンから放たれる閃光が、地を、草木を、建物を焼き払い。巨大な量産基地を容赦なく蹂躙していく。

 よし、とガッツポーズをするカグヤだったが、命は状況をすぐさま把握しカグヤに伝えることにした。


「目標尚も健在」

「チッ、しぶとい! 光、もう一度バレルロールよ!」

「うえぇぇ、またですか!?」

「ダメです艦長、地球上での立て続けのバレルロールは、艦への負担が大きすぎます。それに──」


 命は艦内カメラの一つをカグヤに見せる。


「ふはは……俺に不可能はないんだからな……カハッ!」


 大事なフィギュアを胸に抱き、艦の回転の中必死に守り抜き、部屋の中で満足気な顔で倒れた漢の姿がそこにはあった。


「……先生のことはともかく、艦の負担は避けたいわね。別の方法……命、基地の地図を出して」

「あーい」

「……基地の大きさ、地形、エーテリオンの可能な攻撃手段……そこから導き出される結論は……光!」

「はいはい、今度はなんですか?」


 再び何か妙案を閃いたカグヤ。どうせとんでもない事なんだろう、そして、そのとんでもない事をやらされるんだろうと予想し、諦め半分に光は話の内容を聞いた。


「基地にこの艦をぶつけるわよ!」

「本当にとんでもない!!」


 ブッ飛んだその発言に、身構えていた光も思わず声を大にして驚いた。


「艦の負担がどうとかいってませんでしたか!?」

「問題ないわよ、底面にエーテルでフィールド作って、そのフィールドで基地を圧壊させる──エーテリオンで基地を押すのよ!」

「無茶です!!」

「成せば成る、エーテリオンは男の子!」

「艦に性別なんてありませんよ!!」

「ああ、もう! うっさいわね!!」


 強い反論を続ける光に、ついに堪忍袋の緒が切れたカグヤは艦長席から立ち上がると、光を椅子から引き剥がす。


「焔、押さえてなさい」

「了解!」

「ちょっと艦長──って、ほ、ほ、ほ、焔さん、胸、胸が当たってますって!」

「……? だから?」

「ふん、ウブな光はこれで行動不能、あとはこの私に任せなさい!」


 悪い笑みを浮かべながら両手で舵を握り、攻撃目標をしっかりと定めると、エーテリオンは更に加速する。


「このまま最大戦速を維持、エーテルフィールド全開、総員対ショック姿勢! そのまま動かず座ってなさい!!」


 視認できるほどの濃いエーテルを纏ったエーテリオンは、たった一人の無謀な運転により、真っ直ぐと目標に突き進む。


「エーテリオンに栄光あれえぇぇーっ!!」

「それ失敗する人のぶッ──し、舌噛んだ!」


 衝突前に90度横へ回頭し、横滑り状態で基地へと突き進む。

 全長400メートル程の戦艦が放つ力のフィールドは、基地を跡形もなく粉々に粉砕していった。


 ──一人の少女の高笑いと共に……。



 ……



 そのころ、飛鳥はアレクとの戦いに決着をつけようとしていた。

 周りでは他の仲間たちが量産型エーテリアスを次々に撃墜し、数の有利もなんとか覆ろうとしていた。


「どうするよオッサン、これで終わりにするか、それとも続けるか?」

「そんな決定権が貴様にあるのか!」

「あるさ──主人公だからな!!」


 飛鳥の乗るアマツは両手にブレードを手に取ると、変則的な軌道を一切描かず、ただ真っ直ぐアレクに向かっていった。


「主人公、主人公と……いい加減うるさいんだよ!」


 対するアレクも、その飛鳥の戦い方に応じるように、一本の線のように直進する。


(最後の一撃──)

(勝負は一瞬──)


 互いに操縦桿を強く握り、次の瞬間に備えて深く息を吸うと、そのまま呼吸を止めて相手の動きを見据え、二機のEGは剣を構える。


「くらえぇぇぇーッ!!」

「今だあぁぁぁーッ!!」


 咆哮と共に剣が動き出し、その決着は刹那に着いた。

 突き刺そうと進むアレクのブレードを、飛鳥は左手のブレードで切り払い軌道を変えられる。そして、懐に入り込んだ飛鳥の右手に握るブレードは、アレクに次の手を与える暇もなく右腕と両足を切り裂いた。


「馬鹿な、こんな子供に……」

「バーカ、ロボット同士の戦いに、子供と大人の差なんてないんだよ」


 ゆっくりと落ちていくアレクの言葉に、飛鳥は聞こえない程度に呟いた。


「みんな、大丈夫か!」

「テメェが最後だよ、バカ飛鳥!」

「まったく、いつまで時間を掛けているんだ」

「なっ、こっちはエースを一人で倒したんだぞ! 雑魚ばっかり狩った分際で、いい気になるなよな!」


 アレクを打ち破り上機嫌の飛鳥だったが、零と相馬の態度に思わず腹を立て言い返す。


「なんだと!」

「なんだよ!」

「アンタ達、いつまでやってんのよ! 終わったならさっさと帰るわよ!」


 新装機体同士一発目の撃ち合いが始まろうとした矢先、量産基地だったものの上に居座るエーテリオンから、カグヤの通信が飛んでくる。


「だ、そうだ……帰るぞ飛鳥」

「ああ、わかったよ。覚えてろよ委員長……」

「その言葉、そのまま返す……」


 全機が帰還する中、アマツとレッドは睨み合いながらエーテリオンへと向かっていった。

 ようやく激しい戦いに終止符が着いた。そう思っていた時だった──


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


 WCの出現を知らせるアラートが、静かになっていたエーテリオン艦内に鳴る。


「休ませる気はなしってことね……場所は!?」

「出現位置、再びここです」

「まったく、人気者は辛いわね……各機補給を済ませて──」

「数300」

「は……? はぁっ!?」


 命がさらっと言ったその言葉に耳を疑いながら、艦長席に戻りモニターを確認する。

 すると、確かに赤い敵の標示合計が300と示していた。


「艦長、さすがに今のパイロットの疲労を考えると……」

「…………各機、今から言う指示に従いなさい」


 現在の戦場を確認したカグヤは、真剣な面持ちで全機にそう告げた。



 ……



「くそっ、こんな時に敵だと!」

「どうするよアレク、こっちは全機行動不能。あるのはEG用に改造された航空母艦一隻だ。戦闘機は数機あるが……」

「……いや、奴等がどうにかしてくれるさ。あの子達ならきっと──」

「……そうもいかないかもな」


 ルーカスはそう言って母艦の方向を指差した。

 そこにはツクヨミとアマツがブレードを使い、母艦の飛行甲板を破壊している姿があった。


「なっ!? あれでは戦闘機が発進できない!」

「喧嘩売っておいて、助けてくれるなんてのがそもそも甘い考えだ。相手は子供、腹を立ててこういう行動に出ても不思議じゃない」

「じゃあ、なにもできずに殺されろと言うのか、アイツらは!?」


 アレクの失望と怒りとが混ざった訴えに、二人は顔を反らす。

 そして、アレクの僅かな望みも叶わず、エーテリオンのEGは全機収容され、ワープゲートと共に姿を消した。


「……くっ、許さん、許さんぞエーテリオォォォーン!!」

「──! た、隊長……あれを!」


 シャーロットがWCのいる方向、その更に後方の位置を指差した。


「あれは──ワープゲート!?」

「ワープ完了! 位置、敵後方」

「命、エーテリオンをバスターモードに移行!」

「了解、艦をバスターモードに移行、パイロット以外の乗員は安全区域まで移動するように。繰り返します──」


 驚くアレク達を余所に、着々と敵殲滅の用意を行うブリッジクルー達。


「全員の移動を確認、左右カタパルト回転開始……回転完了、バスター砲との結合、外部及びエーテル回路に異常なし」


 カタパルトの底面が中央を向くように90度回転し、その後引き込むようにして艦体の中心と連結する。すると、底面と底面に挟まれた艦体の奥の装甲がゆっくりと開き、主砲をも超える巨大な砲門が姿を現す。


「全側面ブースター点火、地上との水平を維持、姿勢制御異常なし! チャージどうぞ」

「了解、チャージ開始、艦内全エーテルを砲身へ送信。トリガーロック解除……艦長、エーテルアクティベーション準備完了です」

「──エーテルアクティベーション!」


 艦長席から立ち上がったカグヤの前には、机の中央から現れた銃の持ち手のような装置を握ると、思い切り引っ張りながらそう叫んだ。

 引っ張ったトリガーに追従して、取り付けられた各種コードが波打ちながら伸びる。


「活性率オールグリーン、活性完了まで十秒前……五、四、三、二、一、全エーテル活性完了! いけるぞ、カグヤ!!」

「……目標敵勢力、合衆国母艦に集まってるおかげで有効射程圏にほとんど入ってることを確認」

「ほとんどじゃだめよ! 砲身圧縮値下げてでも全部捉えなさい!!」

「はいはーい……捉えました。艦長──撃てます」


 調整をパパッと済ませた命は、顔をモニターからカグヤに向け、報告をする。


「だったら──」


 カグヤは手に取ったトリガーを構え、目の前に映るモニターの敵に向ける。実際の照準は命の操作のためその行為に一切の意味はないが、カグヤのその瞳は今までで一番真剣であった。

 中央を向くカタパルトの間には、バチバチと密度の高いエーテルにより発生する光が弾け出し、その瞬間を待っているかのようだった。


「エーテリオン──バスタァァァァァーッ!!」


 叫び声と共にカグヤが強くそのトリガーを引く。すると、巨大な砲門から莫大な量の活性化されたエーテルが、カタパルトの間に形成されたエーテルの砲身を通り、放たれたエーテルは砲身からエーテルを吸収すると同時に、砲身の中で圧縮されながらカタパルトの間を突き進む。


 ──そして、圧縮されたエーテルは、砲身から解き放たれると同時に大きく広がり、巨大な光となって敵を飲み込んでいき、全機の敵を昇華させるのには十秒とかからなかった。


「すごい……」


 その圧倒的一撃に、思わずアレクは思っていることを素直に呟いた。


 破天荒な姫都カグヤが、エーテリオンの艦長を勤める理由──それは、莫大な量のエーテル活性を必要とする、このエーテリオンバスターを扱うことができる程の強い能力者が、彼女しかいなかったからである。

 艦長以外でもいいのでは? と思うところだが、操舵手ならば勝手に突撃し、火気を任せれば撃ちまくる、副艦、オペレーターはやる気もなく適当に──そんな彼女を多数のストッパーにより一番抑えられるのが、あろうことか艦長という席であったのだ。


「──あ」

「何?」

「先日直撃を受けた右カタパルトのブースターが、異常を出して停止しました」

「……つまり?」

「このままだと撃ち切る前に、エーテリオンバスターが地上に放たれます」

「なーんだ、そんなこと──って、整備班なにやってんのーっ!!」


 ガクンという衝撃と共に右へと傾いていくエーテリオンの中、班長不在の整備班に向かってカグヤは怒りの声を上げる。


「このままだとバスター射程上に合衆国母艦が」

「光、艦の姿勢を取り直して」

「艦内のエーテル回路が戻るまでは、補助動力だけしか使えないんで無理です!」

「くっ! 別に合衆国の母艦なんてどうでもいいけど、このままじゃ後味悪いじゃないの!」

「どうでもいいんですか……」


 さっきまで格好よく見えていた艦長だったが、やはりカグヤはカグヤであることに落胆し、光がぼやく。


「──ったく、やっぱり俺がいないとこの艦はダメだな!」


 聞きなれたお調子声がブリッジに流れる。すると、艦の傾きは止まり、姿勢が安定する。

 命はいち早く状況を調べ、艦長に報告する。


「飛鳥さんのアマツがカタパルトの下から押し上げています」

「アイツ……って、飛鳥の分際でカッコつけてんじゃないわよ!」

「そこは黙って見守ってろよ! うおぉぉぉーっ!!」


 エーテリオンの体勢が少しずつ平行に戻され、母艦消滅の危機はなんとか避けられた。


「ふん……よくやったわね、飛鳥」


 本人や周りには聞こえない程の小さな声で、自分を救ってくれた少年に対し、カグヤはお礼の言葉を呟いた。


「──あ」

「今度は何?」

「エーテリオン──逆方向に傾いています」

「もっとだ、もっと傾けえぇぇぇーっ!! アマツは伊達じゃねえぇぇぇーんだッ!!」

「傾けんな、このアホーッ!!」


 バンと床を踏みつけると、本人と周りに聞こえる程の大きな声で、カグヤは罵声の言葉を叫んだ。

 だが、当の本人はそんな言葉などお構い無しに、ブースター最大出力でエーテリオンを押していく。


「……おい、あの光こっちに向かってこないか?」

「まさか、そんなこと──」

「……くるよ」

「え?」


 海上を漂う機体の上で、四人は落ちてくる光を見上げながら、微かな危機感を感じていた。


「嘘だろぉぉぉーっ!!」

「光が……広がって……」

「……死ぬほど痛そうだ」

「やっぱり許さんぞ、エーテリオォォォーン!!」


 エーテルの光は海に触れた瞬間、大きく海水を巻き上げ、周囲に大波を作り上げ、四人はその大波に飲まれる中、思い思いの言葉を叫び、呟き、絶叫した。

 不幸中の幸い、ようやくエーテリオンバスターの光が消えかかっていたので、大波に巻き込まれた兵は何人もいたそうだが、死者は出なかったそうで、圧壊した量産基地も無人運用だったらしく、今回の戦闘において、奇跡的に死者は一人もいなかった。


「よくもやってくれたわねーっ! 死ね、飛鳥ぁぁぁーっ!!」

「俺が何やったっていうんだよーっ!?」

「はあ……バカばっか」


 その後、帰還しようとしたアマツに向けられてカグヤの怒りの主砲が放たれ、日本への帰還が遅れたのは言うまでもない。

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