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第四話 艦長、新たな……です。

「ミスター帝、君があのとんでもない戦艦で我が国の侵入を行ったのは……前回のを含めて何回めかな?」


 金色の髪で白い肌の若い男は総理である帝を前にして、机の上に両足を乗せるという礼儀もへったくれもない態度を取りながら、偉そうに質問を投げつける。


「あー……4回、でありましょうか?」

「Exactly……その通り、4回だ。我らは力の差はあれど、一応同盟国の関係……故に、君はこの事について、さほど大きな問題に感じていないんだろう。だが、これと同じことを、君のとなりの国々に行ってみるといい、3、4ヵ国が武器を持って喜んでやってくるだろう……まあ、世界中を飛び回っているアレを、本来の目的として運用すれば、負けることはないだろうが。だからといって、今みたいなことを繰り返していれば、間違いなく世界から孤立するだろうね」

「うう、私もそれはわかってはいます。ですが、そもそもアレが既に私の言うことを聞かずに行動しているので……止めようにも止められないといいますか……」

「止めてやろうか?」

「……はい?」


 あまりにも信じられない発言に帝は耳を疑った。

 この男、オットー某合衆国大統領は、あのエーテリオンを止める、そう言ったのだ。


「それは、いわゆるジョークというやつですか?」

「いや、私は真面目に答えたつもりだよ? ただし、条件が一つある」

「条件?」

「エーテリオンに乗っているロボット……エーテリアスと言うんだったか? そのデータと、予備の機体をこちらに渡してくれるというなら、すぐにでも戦艦確保の準備を開始しよう」


 スッと両足を降ろし、帝に顔を寄せて不敵な笑みと共にオットーは囁いた。


「そ、それは……」

「できない、というのかい? ミスター帝」

「うぐっ……しかし、エーテリアスには──」

「E‐actを持つ人間なら、もう用意している」

「うぐぐっ……」


(ここは素直に渡すのが一番なのはわかっている。まだEGの量産化に目処が立っていないわけだし、世界平和的にもそれで問題はない。だが、この男の目的はEGではなく間違いなくエーテリオンだ……エーテリオンにはカグヤがいる……もしもデータを渡せば、あの子が危険な目に会うのは避けられない……)


 どんなに言うことを聞かなくても、どんなに反抗的な態度を取っているとしても、昔から育ててきた可愛い娘。帝の一番の心配はそこにあった。


(だが、このままあの子に戦いをさせればそれこそ危険だ……)


「いつまで黙っているつもりだ?」

「──乗組員は……」

「ん?」

「乗組員は無事回収していただけますでしょうか?」

「……ふん、無論だな。全員無事君のもとへ送り届けよう。一国の代表として約束する」

「……わかり、ました」


 葛藤を続ける帝は、口から無理矢理言葉を吐き出した。了承をした後も少しの後悔が心に残る。


「グッド。では、後から送ってもらおうか。安心したまえ、君の選択は正しい、間違いではないのだからな、ハッハッハ……パイロット候補生に連絡しろ、実戦は近いとな」


 オットーは秘書を呼び用件を伝えると、帝を残し部屋から上機嫌のまま出ていった。



 ……



 合衆国、E‐actパイロット養成所作戦室


「アレク隊長、本当なのですか、日本が機体を渡すというのは?」

「シャーロットか、本当だ。データだけならすでに届いている。予備機体も直に届くだろう」

「……それで、私たちは何と戦うのですか?」


 シャーロット・エイプリー少尉は、年頃の女性でありながら、一人の兵士としての顔つきで、隊長のアレク・マーチス大尉に尋ねた。自分達の敵となる存在が一つでないことは、シャーロットも理解しているのだ。


「……もちろんWCと戦うために俺たちはいる。だが、間違いなく、エーテリオンとも一戦交えるだろう。こちらにその意思がなくとも、上からの命令は絶対だ……やはり、嫌か?」

「いえ、私は軍人です。国のために命令に従い、国の繁栄に役立てるのならば、躊躇いません」

「真面目だな、お前は……便りにしているぞ、パイロットの中でも一番E-act能力が強いのは、お前なんだからな」


 ポンポンと肩を優しく叩きながら、アレクは優しく声をかける。そんなことをしても、彼女の表情が柔らかくなることはなかった。


「ハッ! しかし、元々士官学校に入学して間もない私が少尉という階級につくのは、やはり抵抗があります……」

「戦闘兵器のパイロットに下士官を乗せる方が問題だろう。それともシャーロット少尉は、上からの昇任命令を躊躇うのか?」

「……失言でした、命令に従うのが軍人の責務、このシャーロット、与えられた任に不満を持つとは……隊長」

「なんだ?」


 ジッ、と目を見つめてくるが、何人もの隊員を見てきたさすがのアレクも、こんな無機質な目を見せられたところで、シャーロットが何を考えているのか一切理解できなかった。


「殴ってください」

「やだね、俺は女は殴らない」

「……わかりました」


 表情は変わらないが、どことなく悲しそうなオーラを体から放っていた。


「明日までに反省文を書いてきます」

「いらねーっての!!」


 真面目なのか、それともバカなのか、シャーロットの相手に疲れたアレクは思わずため息をついた。


「相変わらず大変そうだな、隊長さん」

「テックス、それにルーカー、二番隊のお前達まで呼ばれたのか?」

「見ての通りだよ。それだけ上層部も本気なんだろ? なあルーカー」

「……」


 テックスに話を振られたルーカーは、コクコクとただ頷く。


「他にもまだまだ来る……今回の作戦、かなり激しい事になりそうだぜ」

「エーテリオン、か……一体どんな奴らなんだ……」


 アレクは青く晴れた空を、作戦室の窓から見上げた。



 ……



 そのころエーテリオンでは、自分達の周りで色々な事が起きている中、普通に授業が行われていた。

 言うまでもないが、高校生が教師のいない放映授業をまともに受けるわけもなく、一部の真面目勢を除き、大半は寝る勢に属している。


「あー、ヒマだー」

「ヒマねー」


 とはいえ、いくら若い学生とはいえ、毎日毎日10時間の睡眠を体が受け付けるわけもなく、眠気の無くなった者は渋々授業を呆けて見るしかなかった。


「暇と言うなら、真面目に授業を受けろ」

「やだー」


 刹那のもっともな意見を不真面目な奴らは声を揃えて反対した。


「まったく……ん?」


 その時、呆れた刹那が画面を見ると、いつの間にか数学の講師が、見覚えのある日本の総理大臣に変わっていた。


「あー、授業中だとは思うが、一つ聞いてほしい話があって、やむを得ず連絡させてもらった」

「グー」

「寝ないで! しかもそれ、狸寝入りでしょ!?」

「うっさいわねぇ……なによ、また説教? それとも消費税が20%にでもなった報告? ロクな話じゃなかったら、今から主砲ブチ込みにいくわよ!? ファッキンナウよ、クソジジイ!」

「カグヤちゃーん、少しはお父さんの面子を考えた体裁を持ってくれないかなぁ……? そんなふうに育てた覚えはないんだけどなぁ……」

「いい大人がいじけんな! ほら、さっさと話しなさいよ、こっちは授業中なのよ!」


 さっきまで、暇だ暇だと言って授業をサボっていた奴が言うとは到底思えない台詞であった。


「わ、わかったよ、じゃあ話すよ、実は──」


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


 ようやく話を始めようとした矢先、WCの出現を知らせる警報が艦内に鳴り響き、帝の通話画面はワイプとして縮小され、モニターには出現位置を知らせる世界地図が表示された。


「おいでなすったわね!」

「敵の規模は中規模。ま、らくしょーですね」

「っしゃあ! 俺が全部ぶっ倒してやるぜ!!」

「艦長、とっととブリッジに行こうぜ!」


 水を得た魚のごとく、寝る勢のやる気と殺る気が、さっきまでとは見違えるように燃えたぎっていた。

 その変化に数人は呆れて声も出なかった。


「何の話かしらないけど、終わってからでいいわよね」

「え、ああ、うん……大丈夫だよ」

「よーし、光、ワープ準備! 目標は合衆国よ!!」

「わかりました!」

「まあ、大事な話ではあるけど、急ぎの話でもないし終わってからでも……って、合衆国!? ちょ、やっぱりカグヤちゃん、話をしてから──」


 我が娘の速攻のフラグ回収に驚愕し、声を裏返しながら呼び止めるが、敵を目の前にしたカグヤは止まるはずもなくブリッジへと駆けていった。



 ……



 合衆国近隣の太平洋にワープを完了し、EGの発進を進める中、命は戦場の妙な違和感を感じとる。


「……おかしいですね」

「どうしたの、命」

「敵の減少スピードが、今までのどこの軍よりも早いです。前回の戦闘でも、エーテル障壁の中和できない兵器を使っていたはず……異常です」

「そりゃ、対WCの兵器開発も進めば、そういう兵器が最近作られたって変じゃないでしょ? どれどれ、一体合衆国はどんな兵器を作ったのかしら? まさか、EGの模造品? お隣さんじゃないんだからまさか……ね……」


 エーテリオンのモニターに映し出されたのは、模造品どころか、自分達が使っている機体、エーテリアスと完全に一致していた。

 反射的にカグヤは先程の通信画面をブリッジに表示し、深く息を吸い、そして──


「どういうことか説明しなさいよ、このクソジジィィィーッ!! そんなに国会に主砲叩き込まれたいの!?」

「ひっ!? それだけは許して!」

「土下座しても許すか! いいから、説明、しなさい!」


 今にも通話マイクが壊れそうな声で叫ぶカグヤに、帝は思わず椅子から転げ落ち、オドオドとカメラを見る。


「実は──」


 事の詳細を話終わる頃には、現れたWCは合衆国の手により全滅し、次の目標としてエーテリオンに接近を開始し始めていた。


「ジジイもジジイだけど、相手も相手ね。恩を仇で返すとはこの事ね、いいわ、受けてたとうじゃないの」

「でも気をつけてね、まさかこの短期間で量産工場まで作ってるとは思ってなかったから……」

「合衆国のかがくのちからってすげー」

「もう、茶化すのはやめようよ命ちゃん」

「フン、量産工場もろとも全滅よ! 私達がジム風情に負けられるかっての!」

「相手がジム風情だと、こっちもジムなんですけど……」


 相手は劣化コピーではなく、同機体ということを指摘する光をカグヤは無視し、全機に攻撃命令を下した。



 ……



「はあ……なんで同じ人間同士争わないといけないんだよ……」

「簡単なことだ大輝……相手が人間だからだ。様々な欲望が人を駆り立てる、だから争いが起きる」

「様々な欲望……ね」


 渋々パイロットスーツを着終えた大輝はその言葉を聞いて、チラッと飛鳥の姿を見る。


「対人戦か……おもしれぇじゃねぇか。無殺プレイがいかに難しいかやってみるか」


 完全にゲーム脳。戦いを遊びでやろうとする危ない子供がそこにいた。


「飛鳥、戦いは遊びじゃないし、命はおもちゃじゃないんだぞ?」

「……じゃあ、むざむざアイツらに負けろってか? 言っとくが俺はやだぜ。かといって、本気で戦争するつもりないし……だったら、これぐらいの心構えでいいんだよ」

「……飛鳥」

「ヘッ、神野飛鳥出るぜ! また戦争がしたいのか、あんた達はーッ!!」


 真面目な話をしていたのかと思えば、いつも通りの厨二病に戻り、相手に向かって台詞を叫ぶ飛鳥がそこにいた。



 ……



「各機、戦闘開始しました」

「よーし、こっちも援護するわよ、主砲発射準備!」

「いやいやいやいや、主砲当たったら相手死にますよ!?」

「そこは……あれよ、ギャグみたいな叫び声をあげたら死なないー的な奴で」

「敵頼みじゃないですか、それ! あっちは平気で家族の写真をコックピットに張り付けるような集団なんですよ!? 全員出撃と同時に死神に取り憑かれてますって!」


 ちなみに、コックピットに写真があるから死ぬ、なんてジンクスはアニメや映画の中だけであって、現実でもそうなのかと言われれば、大体の人はそうではないと答えるだろう。そもそも、そんな呪いのアイテム的な扱いを受けたら、写真に写った家族に失礼である。


「じゃあどうすんのよ、黙ってみてろって言うの? 無理よそんなの、私我慢できずに撃っちゃうもの!」

「そこは我慢してくださいよ!」

「──艦長、提案があります」

「はい、命ちゃん」

「量産工場、破壊しましょうか」


 命のその提案に、カグヤはもちろん二つ返事で答えた。


「また、書類作業か……」


 その親は悩みで頭を抱えていたが……。



 ……



「くそっ、コイツら、中々強ぇじゃねえか……」

「昨日今日操縦し始めた奴らのはずなのに、なんでこんなに強いんだよ!」

「簡単なことだ、戦闘以外で操縦しない貴様らと、操縦方を知ってから、日々訓練をする我々とでは、決定的に我々の方が強い!」


 零と宗二の攻撃を払いのけ、テックスは二機をアッサリと弾き飛ばす。


「なっ……!?」


 二人は驚いた顔をして機体を立て直す。そして、声を揃えて叫んだ。


「なんで話通じてんだ!?」

「フン、これもエーテル技術のちょっとした応用だ。エーテルを戦闘技術にしか用いなかったようだが、こういったことにも使えるのだよ!」

「くっ! 偉そうにしてんじゃねぇぞ!!」

「威勢はいい、だが、相手がヒヨッ子ではな!!」

「くそっ!」

「ヤバイな、このままじゃ……」


 二人の後ろから援護を行う三蔵も、状況の悪さに苦い表情を浮かべる。

 敵の数、強さ、どれをとっても勝ち目がない。


「隊長、一機動きの鈍い敵を発見。攻撃します」

「殺すなよ、シャーロット」

「何故ですか、相手は──」

「上からと俺からの命令だ。相手は子供なんだ、それに、今までWCの侵略を抑えたのも彼らだ」

「だからと言って、彼等のやったことは!」

「返事は?」

「……了解、武器を破壊し、無力化します」


 シャーロットは渋々アレクの命令を受け入れ、三蔵の乗るエーテリアスに接近戦を仕掛ける。


「──後ろ!?」

「もらった!」

「くそぉぉぉーっ!」


 シャーロットは三蔵がこちらに気付いて振り返り、武器を構えるであろう位置にブレードを降り下ろす。すると予測通りに現れた小銃を切断し、そのまま海面に目掛けて蹴り飛ばした。


「……艦長、二番隊劣勢です」

「まったく、あの二人の威勢がいいのは口だけなの? 一番、三番は!?」

「一番隊は飛鳥さんと刹那さん、三番隊は相馬さんと貴理子さんが善戦していますが、ただでさえ数で負けているので、二番隊の相手が加勢されると厳しいかと」

「私の花道ぐらい確保しなさいよ……まったく」

「あの、迂回していけば……?」


 エーテリオンは平常通り敵の中央に目掛けて舵が取られており、確かにその後方に量産工場があるとはいえ、かなり無謀な道のりであった。


「はっはー、何言ってんのよ私が直進以外するわけないでしょ」

「オート前進の呪いの装備でも着けてるんですか、私達は!?」

「強者は黙って最短ルートよ!」

「その強者が今まさに転落しようとしてるんですよ!? 私達どころか、他のみんなだって危険なんです、もっと考えてくださいよ!」


 光は思わずカグヤに向かって叫んだ。

 確かに、このまま戦闘を続けていては万に一つの勝ちもない。そんなことは言われなくともカグヤも承知である。


 ──だからこそ、直進しているのだ。


「はぁ……そろそろいい距離ね。もしもし、繁先生」

「あー、こちら整備班。どうした艦長さん」

「“アレ”準備万端なんでしょ、全機分用意しなさい! 順番は二番、三番、一番よ」

「…………へっ、ようやく俺の力を世界に知らしめる時が来たようだな……了解だ。テメェら、急いで準備するぞ、チンタラやってるやつは全員海に叩き落とすからな!!」

「了解ッス!!」


 繁は嬉々とした顔で、整備班の生徒に大声で指示を出し始め、生徒たちもそれに応えるかのようにテキパキと行動を始める。


「まったく……光、私が何の考えもなしに突貫してると思ってる?」

「え、そりゃあ……わりと──」

「──は?」

「いえ、思ってません、全然!」


 カグヤの眼力に圧され、光は自分の意見をコロッと変える。

 それもそうだ、いつもと何ら変わらず平常運転しているように見えないのだから、何か考えているなど光は微塵も思えなかった。


「か、カグヤちゃん? 淡々着々と用意してるけど、アレって何の事かな? お父さん何にも知らないよー? ねえ、無視しないで答えてくれないかなー」

「フン! 教えてあげるわ、機体の性能が戦力の決定的な差になるって事を!」


 帝の声など耳にも入らず、カグヤは悪い笑顔を浮かべながら負傷した二番隊に帰還命令を出した。



 ……



「三機が帰還、数が減った今がチャンスだと!」

「そうだな……一気に攻めるぞ、シャーロット!」

「一気にきたーっ!?」

「慌てるんじゃないの、綺羅!」


 数十機の相手が増え慌てる綺羅を凛が冷静に対処しながら援護する。


「二人とも大丈夫か!?」

「大丈夫なわけないわよ、数が多すぎ!」

「フン、まるで隊列がなってない連中だな、このまま仕留め──ぐっ、なんだ!」


 進撃するテックスの機体に格闘による振動が走る。

 レーダーに敵機体の反応はなかった筈だ、テックスは確認をするためにレーダーを見るが、やはり反応はない。


 ──しかし、そこに更なる衝撃が機体を襲う。


「くっ、なんだこれは……腕なのか、腕を飛ばしているのか!?」


 エーテリアスにそんな特殊で悪趣味な装備は存在しないはず。それは、乗る前に機体を確認したパイロットならば、誰だって理解している。だが、現に今自分を攻めている、ないはずの装備でこちらを攻撃していた。


「さっきはよくもやってくれたな、白もやし野郎が! 掴まえたぞ」

「貴様は──先ほどの!?」

「まずは目だ!」

「何ッ!?」


 頭部を掴んでいる巨大な右手、その掌から、強烈な光が発せられ、メインカメラ越しにテックスの目を光が襲った。


「続いて耳ぃッ!!」


 後続して現れた青い左手、その掌が左右に別れると、手の内部に内蔵されていた装置から、強力な音波が発生し、テックスの視覚だけでなく聴覚までもを奪い去る。


「トドメにその鼻、へし折るっ!!」


 身動きの取れないテックスのエーテリアスの目の前に、赤黒く、凶悪なデザインの機体が姿を表し、量腕を装着すると同時に、機体の頭部から胸部にかけてを鋭利で巨大な足で踏みつけ、海面目掛けて蹴り落とした。

 見ることも聞くこともできないテックスは、体を襲う衝撃に恐れながら、機体を操縦することもできず、海に落ちていった。


「なんだ、あの機体は……」

「エーテリアス──アイン、私の専用機だ」

「くっ、よくもテックスを……!」


 寡黙なルーカーも堪らず怒りを口にし、零の乗るアインに向かい攻撃を仕掛ける。


 ──しかし、敵は一人ではなかった。


 ズドドドドンッ!!


 ルーカーの横から、いくつもの激しい射撃音が聴こえた。ハッと我に帰ったルーカーは、冷静にその弾幕を避け、その相手を確認する。

 血のように赤く彩られたアインとは対照的に、青黒い機体──その名はエーテリアスツヴァイ。

 左腕を大口径のガトリング砲に改造され、右手には近接用の散弾銃を持つ、アシンメトリーな機体デザイン。

 アイン並に凶悪なその機体は、ルーカー目掛けて接近を開始する。


「テメェは俺の獲物だ!!」

「……ッ!」


(武装は遠距離仕様……接近戦ならば、まだこちらが優位!)


 機体の特性を読み、こちらからも接近を開始するルーカー。だが、ルーカーの予想も、目視でわかる範囲であり、よもやツヴァイにもアインと同系統の兵器を積んでいて、“既に放っている”事は彼も予想していなかった。


「……! 何だ!?」

「有線式の捕縛ワイヤーだよ、このマヌケがっ!」


 ツヴァイの背面から射出されていた四つの拘束機械はルーカーのエーテリアスの手足を捕らえ、その動きを封じていた。


「ダルマにしてやるよ、雑魚が!」


 ズドドドドッ!!


 身動きの取れない敵に対し、右腕、右足、左足、左腕、頭部を順々にガトリング砲で破壊し、最後には小さなワイヤーで器用に機体を叩き、テックス同様に海へと落とす。


「くっ、二人をよくもぉぉーっ!!」

「よせ、シャーロット!」

「まったく、二人とも派手にやる。あれじゃあ俺の機体が地味になるじゃないか」


 三蔵は二人の戦いを見て、ブツブツと文句を垂れながら、シャーロットの前に立ちふさがる。

 機体の名はエーテリアスドライ、黄土色で二機に比べて凶悪なシルエットも、強烈な装備も持っていなかった。


「三機目!? だけど、こんなところで止まれるかーっ!!」

「さっきのか──借りは返す!」


 ブレードとは違い、長い槍を装備したドライ。しかし、シャーロットは武装の違いに恐れることもなく、辺りへの射出兵器を確認しながら懐に入る。


「早いな……けど残念だが、こっちは近接特化の機体なんだよ!」

「近接特化だろうが、槍で両手が塞がっているなら!」

「残念、この機体──手数は多いんでね!」


 両手でブレードを持つシャーロットとつばぜり合いをする中、量膝、量腕、量肩──仕込めるであろう全ヵ所から補助腕が姿を表し、全ての手に近接武器を装備したその腕は、シャーロットの機体を串刺しにした。


「くっ、こんなところで──!」

「……南無三」


 相手を殺したつもりはないが、三蔵は坊主として格好つけてそう言った。



 ……



「ちょちょちょちょちょーっ!? アレなに、カグヤちゃん! どっから調達したの!?」

「調達って、新型じゃないわよ。換装したのよ、か、ん、そ、う」

「換……装?」


 思わず帝はカグヤの言葉をオウム返しする。


「それは俺が説明しよう」

「あ、繁先生、丁度よかった、面倒だから説明しといてー」

「投げやりなのはアレだが、まあいいだろう。換装パーツ二型、アイン、ツヴァイ、ドライ……ちょっとクセの強い武装と、変則変態的な武装を搭載させた、俺の作品の一つだ。特徴は短距離ではあるが瞬間的に高速で移動が可能なブースターを搭載することにより、小回りの利く機動力の高いシリーズとなっているのだ!」

「いやいや、ちょっと待った。なに、作品? アレ作ったの? どうやって?」


 目の前のトンデモ兵器を見て、裏返った声で繁に迫る。


「あ? んなもん予備パーツと予備兵器、それらに俺の科学力を加えれば、この通りよ!」

「君はキテレツかアストナージの生まれ変わりか!! ザクのパーツでゲルググ造ったような物だよ!?」

「ハッハッハ、そんなに褒めるな。また何か作っちゃうぞ!」

「作らんでいいわ! まって……二型? シリーズ? ということは……」


 帝の予想は無論的中した。


「赤城相馬、エーテリアスレッド、出る!」

「葵貴理子、エーテリアスブルー、出ます!」

「緑川凛、エーテリアスグリーン、出るわよ!」

「黄瀬綺羅、エーテリアスイエロー、で、出ます!」

「戦隊物か!」


 出撃終了と共に、帝がツッコミを入れる。


「私が数を減らす、その後凛と綺羅は撹乱、貴理子はその隙を突け!」

「了解!」


 カタパルトから放たれたレッドは、すぐにその場で停止し、敵のロックオンを開始する。


「マルチロックオン開始、全砲門開放──射撃準備完了」


 エーテリアスレッド、その姿は二番隊に負けず劣らずのトンデモ機体であり、量肩にエーテリオンの主砲を小型化した長距離エーテル砲を装備し、量腕にはツヴァイと同型のガトリングライフルを持ち、機体の各所にはミサイルポットが取り付けられていた。

 動く弾薬庫と言っても過言ではない。


「死にたくなければ退け! こちらは手加減できないぞ!!」


 捕捉した敵に向けて、全ての弾薬が発射される。

 単機でありながらエーテリオンの弾幕に近い効力を発揮するレッドに、敵は思わず恐れて引き下がる。


「いまなら……いくわよ綺羅!」

「はい、凛さん!」

「あのー、繁君」

「なんですか、総理」

「何あれ?」


 二人の機体を見た帝は、繁に向けて恐る恐る声を出す。

 それもそのはずだ、何せ二人の乗る機体は、どっからどう見ても人型ではない……見たままにそれを言うとすれば、そう、それは──戦闘機。

 そう、舞うように飛んでいるのだ、二機の小型の戦闘機が──


「いやー、可変機とかカッコいいかなと思って」

「そんな理由で作ったの!? いや、むしろそんな理由で作れたの!?」


 それは設計者の気まぐれの産物であった。

 気まぐれので可変機を作る、やはりこの男はただ者ではない。


 ──正義か悪かと聞かれれば、見た目は悪の研究者ではあるが……。


「三人の作った機会、無駄にはしない!」


 青い閃光、そう呼ぶに相応しい速度で、貴理子のブルーは二人が隙を作った戦場を駆け抜ける。


「換装パーツ三型は初めは遅いが、長距離移動を得意とする加速ブースターを搭載している。レッドとブルーについては時間はかかるが、最高速度は他と変わらんから、作戦に支障はないと自負している」

「でも貴理子さん、すぐ二人に追い付いてませんでしたか?」

「ま、あの人は──別格ですから」

「え? はああぁぁぁーっ!?」


 命はパイロット資料を光に送り、光の度肝を抜いてやった。


「なんだこの機体! 早すぎる!!」

「これがEGの動きか!?」

「遅い、一機も逃がさんぞ!」


 手に持つ使い慣れた二丁の標準ライフルを的確に武器、頭部を狙い、破壊をしていく。背中には強力なキャノン砲と誘導性能の高い小型ミサイルポットを積んでいるが、一切使う気配を見せない。

 量足にも武器を積む予定ではあったが、本人の要望により、換装パーツ二型と同じ高機動ブースターを装着していた。それにより、加速ブースターでの高速移動の慣性をほとんど殺さずに、方向転換が可能となっている。

 しかし、無論高速で移動中に方向転換など、タイミングを合わせるのは至難の技であり、また、機動ブースターの調整を失敗すれば、機体はブースターに振り回され、操縦不能に陥る。

 だが、貴理子は何の問題もなく縫うように移動を続け、敵を落とし続けていた。


「このパイロット技能、三番隊どころか、全隊でもトップスリーに入る成績じゃないですか! 何で貴理子さんは副隊長なんてやってるんですか?」

「それは男女の権力の均衡を保つため……ほら、艦長、一、二番隊の長は全員女の子でしょ? これで三番隊まで女の人じゃ、男の肩身が狭いってことで、一番口うるさくてリーダーシップのある相馬さんを隊長として選んだんです。まあ、クラスでリーダーシップが活きているかと言えば、微妙ですけどね」

「そんな理由が……」

「飛鳥さんって候補もありましたが、なんか調子に乗りそうなんで却下しました」


 妥当な判断だ。それにはみんな首を縦に降って同意した。


「こちら貴理子、十二機を行動不能にした。補給のため一度戻る」

「了解……って、敵さんまだ出てきます」

「どんな量産速度よ! パイロットもよくいるわね!」

「ま、そこは合衆国補正ということで……」

「やっぱり基地を潰さないといけないわね……」

「──だったら、道は俺たちが作らせてもらうぜ」


 最後に帰還した一番隊、自称主人公の飛鳥が、換装中にブリッジのモニターに顔を映す。


「できるの?」

「俺を誰だと思ってやがる」

「ただの鉄砲玉でしょ。生きて帰ってくるけど」

「違うわ! 主人公──ヒーローなんだよ! 時間なら稼いでやる、だから行け。この戦いの結末は俺らじゃなく、基地を破壊できるお前次第なんだろ!」

「……フン、艦長に命令とは、アンタも偉くなったわね……でも、いいわ、だったら徹底的にやりなさい、飛鳥! 作戦が成功するか失敗するかは、艦を基地まで行けるようにするアンタの頑張り次第なんだからね!」


 飛鳥とカグヤは互いに少し笑いながら、信頼できる仲間に自分達の未来を託した。


「エーテリアス改めアマツ、出る!」

「まったく、隊長を置いて出るとはな……では、こちらも名を改め──ツクヨミ、出るぞ!」

「ま、いつもの飛鳥らしいな……スサノオ出るぜ!」


 アマツ、ツクヨミ、スサノオ──神の名を持つ三機のEGが、発進する。

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