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第二話 艦長、あの人ホモです。

 日本で建造された大型戦艦エーテリオンの乗組員及びEGのパイロットは、エーテルを活性化させその力を引き出す能力、通称E‐actイーアクトと呼ばれる力を持つ者を中心に構成されることになった。

 だが、いざその能力者を集めてみると、集まった人数は能力の強弱を含め二十数名。しかも全てが十六歳の子供達だった。

 もちろん、子供達だけに兵器を与える事に反対の意見は多かった。しかし、E‐actを持たない者には戦艦の運転、転移どころか、EGの指一本を動かすのがやっとの代物であるがために、反対派は口を閉じ、やむを得ず彼らを乗組員として任命せざるおえなかった。

 さすがに子供達だけというのは問題があるので、半ば監視役として医療班専属教員と整備班専属教員(ブリッジクルーやパイロット達の通常教養は映像授業のみ)として二名の乗り組みを決めた。当初の計画では子供達が余計なことをしないように見ているように、という算段だったが……。


「大丈夫ですよ、彼らだってもう子供じゃないんです、やって良いことと悪いことの区別はできるでしょう。だから私は特に口出ししませんよ、ハハハ」と医療班教師談。


「あぁ!? 俺はこのEGをイジリたくてここに来たんだ。俺の手足として働けるようガキ共に整備の方法は教えてやるが、この艦がどこいってなにしようがなんて、俺の知ったこっちゃねぇぜ、ハハハハハ!」と整備班教師談。


 これが一度目の他国領域への侵略問題での責任管理を問われたときの、彼らの返答だった。

 もちろん政府は新たにまともな教育係兼監視役を用意し、補給の際に二人との交代を考えた。が、新たな担当をよく思わない子供達が、今度は政府に対しデモを起こした。それも「補給されたミサイルを都庁に撃ち込むわよ!」だの「EGで国会を占拠するぞ!」などと自衛隊でも手に負えないほどの、過激なテロに近いもので。代わりのないE‐actを持つ子供達や、貴重な戦艦等を手放すわけにもいかない政府は、二人の教員を継続して艦に乗せることを渋々了承した。

 結論からして、彼らのやることに政府は口を出すことができず、明確な主従関係が完成しているのである。


 迷惑な世界の救世主もいたものだ。

 見守る者達は、口を揃えてそう言った。


「敵、超弩級型、大気圏降下を開始!」


 突如現れたWC、その巨体は全長400mのエーテリオンを易々と自身の影で覆った。


「あんなものが地上に落ちたら、地球はもう……!」

「艦長、何かいい手はないのかよ!?」

「くっ、全長4、50メートル級のスーパーなロボットならまだしも、10メートル前後しかないEG相手には、サイズが違いすぎる……こんな相手、無理に──」

「はっ、何弱気になってんだよ、らしくねぇな」


 エーテリオンから単機で飛び出すエーテリアス、そのコックピットからの通信がブリッジに流れる。

 声の主は飛鳥だった。


「ちょっと、何やってんのよ!? EG一機で何ができると思ってんの、バカなの!?」

「時間ぐらい稼げるだろ。エーテリオンなら、ちょっと時間はかかるが単艦で地上から宇宙にいけるんだろ? だから、お前らは逃げろ」

「なに言ってんのよ、いくら機体に敵の特攻やら、味方の誤射やら、エーテリオンの主砲やらが直撃してもピンピンして帰ってくるアンタでも、今回はホントに死ぬわよ!」

「へっ、仲間かばって死ぬなんて、スゲー主人公ぽいじゃねーか……最高だね」

「──ッ! 死んだらそんなの関係ないじゃないの、バカ……神野のくせにカッコつけんな!」

「……最期ぐらい、カッコつけたっていいだろ?」


 その場に留まっていた飛鳥は、思い切り飛び立ち、超弩級型のWCの前に立ちはだかる。


「飛鳥ぁーっ!」

「くっ、うおぉぉーっ!!」


 その質量は見た目通り重く、両手で押し返そうとする飛鳥のエーテリアスなどものともせず、地上に突き進んでいく。

 機体の両手両腕がひしゃげ、コックピットには警告のアラートがけたたましく流れる。


「ちっ! いけえぇぇーっ、カグヤァァァーッ!!」

「くっ、飛鳥……アンタの犠牲は無駄にはしないわ……主砲、最大出力!」

「へっ、いいって──って、主砲? ワープの間違いだろ!?」


 クライマックスらしく格好つけていた飛鳥の顔が、その発言により一瞬で緩み、普段の顔に戻った。


「なに言ってんのよ、オーバーヒート寸前の今のエーテリアスに主砲を叩き込めば、核並の大爆発が起きるのよ……だから、ね?」

「ね? じゃねぇよ、ちょっと待て! 仲間を助けるために死ぬのはいいが、仲間に背中を撃たれて死ぬのだけは絶対イヤだぞ!」


 しかし、反論する飛鳥のことなどお構いなしに、淡々に着々と準備が進んでいった。


「準備完了だ!」

「完了すんな!」


 淡々と準備を済ます焔。


「神野飛鳥に対し黙祷」

「まだ死んでねぇよ!」


 勝手に黙祷を捧げる命。


「僕のこと好きだっていうの、忘れないよ」

「好きじゃねぇよ、大体お前男だろうが!」


 衝撃の戯言を抜かす光。


「さよなら飛鳥、多分──初恋だった」

「そんな告白、今すんなよぉぉッ!」


 ほほを赤らめるカグヤ。


「くそっ、ふざけやがって。こんなところで死んでたまるか! どうにかして逃げてやる!!」


 薄情な仲間の対応に耐えられるわけもなく、この場から逃げ出そうと考えた飛鳥だったが、今WCから手を離せば、確実に腕だけではなく、機体がバラバラになる。

 そう、時すでに遅し。もう飛鳥に逃げ場はなかった。


「主砲、ってぇぇーッ!!」

「やめろおぉぉぉーっ!!」


 ──ドサッ!!


 次の瞬間、飛鳥の視界が体に対するニブイ衝撃と共にブラックアウトした。仲間の主砲に撃たれたからではない、二段ベッドの上から落ちたからである。


「痛つつ……くそっ、夢オチか。いや、あの展開的に夢で助かったが……」


 下のベッドで飛鳥の状況など知らずに、スヤスヤと眠るカグヤをチラリと見る。男女比の関係上、出来てしまった男女による二人部屋。男子で選ばれたのが飛鳥で、女子はカグヤだった。クジ故に二人とも文句は言えず、ラッキースケベをすれば殴られる生活に、飛鳥も次第に慣れてきた。


「はぁ、日頃あんなに滅茶苦茶だけど、寝顔は……まぁ、可愛いよなぁ……」

「何、やってんの……?」


 つい好奇心で頬をつつくと、カグヤはアッサリと目を覚ましてしまった。


「あ、いや、これは、ち、違っ──」

「問答無用ッ!」


 横になった体制からの右アッパーが、飛鳥を再び夢の世界へと誘っていった。


 ……


「あー、まだ痛え」


 全員が高校生ということで、エーテリオン内に作られた教室、教室のデザインは近代的であるが、机は14個、まるで田舎の学校である。


「また何かやったのかよ、懲りねえなぁ飛鳥」


 幼なじみの神谷大輝が飛鳥の様子を見て、空いている前の席に座り、声をかけてきた。


「事故だ、しかたねぇだろ」

「昔からそういうところは主人公の素質あるよな、SFじゃなくてラブコメの主人公だけど」

「うるせぇ」

「おはよう、二人とも」

「お、おう、おはよう」


 男子制服を着た白雪光が飛鳥の隣座り、丁寧に挨拶をする。昨夜の夢の事もあり、警戒して少し飛鳥は距離を取った。


「何で離れるの?」

「いや、ちょっとな」

「?」


 純粋な光に対し「お前、もしかして男が好きなのか?」なんてこと聞けるわけもなく、飛鳥はそっけない返事を返す。


「おーっす、飛鳥。怪我大丈夫か?」


 女子制服を着た魚見焔が飛鳥の左隣に鞄を置き、バシバシと飛鳥の肩を叩く。相変わらずこの二人は性別が互いに逆ではないのかと、いつも言いたくなる飛鳥だった。


「おはようございます飛鳥さん、朝から両手に花ですか、うらやましいですね、フフフ」

「ま、片方は薔薇の花だけどな」


 三、四世代前の携帯ゲームを片手にした茨命が、大輝が譲った席に座り、飛鳥を茶化す。


「そうですね……でも飛鳥さんならイケますよね?」

「いや、イケねぇよ!? ホモじゃねぇよ、俺!?」

「え、そうなんですか……それは残念です」

「なに、残念がってんだよ」

「いえ別に、なんでもありませんよ、フフフ……」


 戦闘中のダルそうながらに真面目な命とは遠くかけ離れた、BL大好き姿の腐った彼女がそこにはいた。


「でも私的に、三蔵さんあたりは熱いと思うんですよ、あのツルツル、中は絶対ホモですよ、同じ隊の阿久津さん狙いだと予想してます」

「あー」

「おい、勝手に変な噂をするな! 周りも同意もするな! 俺はれっきとした尻好きだ!!」


 最前列に座っていた桑島三蔵は話が聞こえると同時に立ち上がり、聞いてもない情報を声を大にしてカミングアウトした。


「男の?」

「違うっ! 形、大きさ、柔らかさ、全てが美しい安産型の──!」

「「うるせータコ」」


 顔中を怒りで赤く染めた三蔵だったが、同じ隊で両隣に席を取る阿久津宗二と一ノ瀬零に、同時に顔面をグーで殴られ、そのまま三蔵は机を覆うように崩れ落ちた。


「あーあ」

「三蔵さんは安産型の男の尻が好み、と」


 必死の反論もむなしく、命の脳内での三蔵の好みが勝手に決定された瞬間であった。


「くっ! 朝からホモだの尻だの、健全な学校生活には相応しくない単語を軽々しく口にするな!」

「お、委員長が怒ったぞ」

「いつものことだ、ほっとけ」

「だな」

「聞こえているぞ神谷大輝、ホモの飛鳥!」

「誰がホモだ、じ、ん、の、飛鳥だ!」

「この場合、攻めは相馬さんですか?」

「「違う!」」


 半暴走気味の命に同時に否定の言葉が返される。


「まったく、いい加減にしろお前達、朝から相馬さんに迷惑をかけるな!」

「お、副委員長も怒ったぞ」

「副委員長と呼ぶな、葵と呼べ!」


 相馬の前に座り勉強をしていた葵貴理子あおいきりこが、 青フレームの眼鏡をクイッと右手で上げ、 補佐役のように相馬の隣に立ち、声を上げる。


「じゃあ貴理子さん、相馬さんは攻めだと思いますか、受けだと思いますか?」

「攻めだの受けだの何を言っている、バカバカしい。相馬さんは……」

「相馬さんは?」

「相馬さんは──誘い受けに決まってるだろうが、この愚か者めが!!」

「…………」


 その時、大半の人間が固まり、彼女に対してかける言葉がなかった。


「……あっ」


 その時、命は彼女から何かを察した。


「……うっ」


 その時、相馬は一番信頼していたと思っていた相手に恐怖を感じていた。


「……はぁ」


 その時、ちょうど教室にやって来た神崎刹那は、あまりのうるささにため息をついた。


「えっ……な、なんなんだこの空気、相馬さん、私なにか変なこと──えっ、何でなにも言わずに座るんですか!? 何で顔をそらすんですか!? もしかして相馬さんは強気攻めで──!?」

「それ以上話すな貴理子ッ! それと、言っておくが僕はノンケだ、君の頭の中だろうと、僕をホモにするのはやめろ! いや、やめてくれ……」


 相馬は今にも泣きそうな声を出し、机に伏せた状態で貴理子に懇願した。心の底から、切実な思いで。


「……はっ、わ、わ、私、ち、違うんです! 私は──」


 本日二度目のカミングアウトを無意識にしてしまった事に気づいた貴理子は、三蔵以上に顔を真っ赤に染め、崩れ落ちた相馬に弁明をしようとする──が。


「BL好き」

「だぁーまぁーれぇー、茨ーッ!!」

「まあまあ、今度色々貸して上げますから」

「ぐっ──それは嬉しいが。だがいいか、今は黙れ、いいな!」

「相馬さんは誘い受け、フフフッ……」

「ぐはぁっ……!」


 命の容赦のない一撃が、相馬の心に大ダメージを与える。もはや赤城相馬は大破寸前であった


「いぃーばぁーるぁーっ!!」

「はぁ……何であんなのがウチの隊長と副隊長なのよ。ばっかみたい」

「そんな、二人とも気が利いていい人じゃないですか」

「……一番気が利いてるのはアンタよ」


 三番隊員である緑川凛みどりかわりんは呆れ、黄瀬綺羅きせきらは少しでも二人をフォローしようとする。


「ホント、ここは朝から賑やかねー」

「ん、遅かったな、カグヤ」

「だから、アンタが早く行ってからじゃないと、着替えもシャワーも浴びれないから仕方ないじゃない、まったく」


 文句を垂れながら飛鳥の後ろの席に座り、鞄を机に引っ掛ける。言葉からして、朝からシャワーを浴びてきたカグヤから、飛鳥はほのかに良い香りを感じた。


「おはよう、みんな。それじゃあ出席とるぞー」


 カグヤが着席してからすぐに、医療班教師の王乃真人が今週のHR担当のため、クラスに足を運んできた。


葵貴理子あおいきりこ」「……はい」

赤城相馬あかぎそうま」「……はい」

阿久津宗二あくつそうじ」「……ん」

一ノ瀬零いちのせれい」「……ん」

茨命いばらみこと」「はーい」

魚見焔うおみほむら」「はいはーい」

神谷大輝かみやだいき」「うっす」

神崎刹那かんざきせつな」「はい」

黄瀬綺羅きせきら」「はい!」

桑島三蔵くわしまさんぞう」「……はい」

白雪光しらゆきひかる」「はい」

神野飛鳥じんのあすか」「はい」

姫都ひめみやカグヤ」「はい」

緑川凛みどりかわりん」「はい」

「何人か元気がないけど……十四人全員いるね。それじゃあ授業開始だよ、真面目に受けるようにねー」


 およそ五分程で真人は去っていった。この子達なら大丈夫だ、そう信じているのだ。


 ──何を根拠に彼らを信じているのかは不明だが……。


「ところで、飛鳥さん」

「なんだよ、命」

「真人先生って、ガチホ──」

「まだその話続けるのかよ、ホモの話はもうやめろ! ここにいる男は全員ノーマルだから!」


 終わらないホモトークに、飛鳥は声を裏返させながら猛反論する。


「ちぇー、私達高校生なんですよ? 少しぐらい夢があってもいいじゃないですか」

「そんな夢は絶対に実現しない!」

「はたしてそうでしょうか? フフフ」

「そこの二人……まぁ、なんだ、静かにな」

「見ろ、あの精神崩壊した虚ろな目をした委員長を。今にでも、あれは彗星かな? とか口にしそうだぞ!?」

「それはそれで……真人先生との介護プレイですよ」

「ダメだこいつ、完全に頭の中が薔薇色に──」


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


 授業中の教室に赤いランプと共に、警報音が鳴り響く。モニター型の黒板に映し出されていた教育用の映像が、地図へと切り替わり、赤い点が表示される。


「よし、この腐った会話もこれで終わりだ」

「もう少し飛鳥さんの反応を見て楽しんでいたかったのですが……仕方ありませんね。現れたWCの規模は大きめ、六十以上はいるでしょう。場所はオーストラリア近辺の太平洋上空」

「だったら──」


 一体どこから出てきたのか。カグヤは懐から制帽と肩掛けマントを取りだし、それぞれを一瞬にして身に纏う。


「第一種戦闘配備、全EG出撃用意! 艦は十分後に戦闘区域にワープするわよ!」

「了解!」


 ただの女子高生は一瞬にして艦長に変わり、周りもそれぞれの役職の兵士としてそれに答える。


「いくぞ、貴理子、凛、綺羅!」

「は、はい、相馬さん! 私、見事汚名挽回してみせます!」

「汚名は返上するもんでしょうが……」

「汚名挽回も意味合い的には合ってるんで、大丈夫ですよ、凛さん!」


 敵が現れたことにより元気を取り戻した相馬が、三人を引き連れて教室を出ていった。


「ちっ、待てよ、一番は俺達一番隊だ! いくぞ大輝、神崎!」

「慌てるなよ飛鳥、出撃はワープ後だぜ?」

「やめておけ、神谷。こうなった神野は誰にも止めらない……そうだろう?」

「そりゃ、まあ、そうですけど……」


 刹那の問いに大輝は素直に答える。長い付き合いだけに幼なじみの性格はよくわかっていた。


「神野、お前は先にいっていろ。私達は敵の布陣を確認してから出撃準備を行う」

「そんなの、バーッと行って、バッタバッタ片付けりゃ──」

「そういう芸当ができるのは、お前のように実力のあるパイロットだけだ……わかったなら先に行け」

「お、おう、そうだよな……フフン、わかったよ。お前らも早く来いよな!」


 刹那の意外な言葉に少し顔を赤くした飛鳥は、上機嫌で走っていった。


「扱い上手いッスね」

「部下を上手く扱ってこその隊長だ、奴のように実力と運だけでは、所詮副隊長止まりだからな……。よし、行くぞ」

「敵の確認はしないんですか?」

「それならもうすませた。それに、バーッと行って、バッタバッタ片付ける実力ぐらい、私にもあるからな」

「ああ、そうッスね……」


 部下の大輝を連れて、長い黒のポニーテールを揺らしながら、ゆっくりと格納庫へと歩いて向かっていった。


「……あの、俺達はいかなくて──」

「ああ!?」

「ひっ!?」


 目付きの悪い二人に睨まれ、三蔵は思わず怯む。

 間違いない、これは人殺しの目だ、下手をすれば俺は殺される。坊主故に三蔵は悟った。坊主でなくても、二人の殺気ぐらいなら悟れるだろうが……。


「ちっ、しかたねーな、阿久津、桑島、いくぞ」

「指図すんじゃねえ、ったく……」

「……サボらないあたり、やっぱり二人とも意外に素直──」

「三蔵!!」

「は、はい!」


 素直だからと言って、優しい訳ではない。怒らせれば間違えなくぶん殴られるので、三蔵は余計なことを言わないよう口を塞ぎ、急いで二人の後をついていった。


「さーて、私達もブリッジにいくわよ」

「あ、待ってください、口うるさい総理から通信が」

「話すだけ無駄だから切りなさい」

「コラコラコラ、言わば私は君たちにとって校長のような存在なんだよ?」


 すぐに切られると予期した総理は、無理矢理回線を教室に繋ぎ、黒板にその顔を映らせる。

 いままで寝ずに大量の書類作業でも行っていたので、その目の下には大きなクマがあった。何の書類作業なのかは、言うまでもない。


「だから、意味も興味もない話をただブツブツ話すだけのジジイってことでしょ? 時間の無駄じゃない」

「お父さん! 私君のパパだから! ジジイとか、そんな悲しいこと言わないの!」


 日本の現総理大臣である月都みかどは、まごうことなきカグヤの父親であった。

 父と娘との仲は……見ての通りであるが……。


「まあまあ、面倒ですけど話ぐらい聞きましょうよ。聞くだけ聞いて、後で無視すればいいんですから」

「白雪君!? 君ってもっと優しい子だと思ってたんだけど!? なに、そんなに私って嫌われてるの!?」

「今さら……」

「なにを……」

「言ってんだか……」

「……ねぇ?」


 彼女達の言葉を受け、一児の父である総理は娘の反抗期を思いだし、深く心を痛めた顔をする──が、そんな顔をしたところで、彼女達が優しくなってくれるわけでもないので、気を取り直して要件を口に出す。


「ゴホン……まあいい、では聞くだけ聞いてもらうぞ。まずは君達がいつも使っている兵器の量! 一発撃つ毎にどれだけ国の財布に響いて、赤字に拍車をかけているかわかってるのかな? 装甲だって安くないんだから、戦艦を最前線に突撃させる戦い方は今後控えるように! あと何度も言ってるけど、君たちは一応自国防衛の名目で活動できてるわけ、だから先日のアメリカ付近も含めて、勝手に地球の至るところで戦闘をするのは控えてくれたまえ、一回の戦闘でどれだけ苦情と訴えの書類が飛んでくると思っているんだ! 来る度に謝罪をしなければならない私達の気持ちがわかるかい? 毎日胃に穴が空きそうで、こっちだって大変なんだからね、それと──」

「長いわ!! 偉そうに、最前線で戦ってるのは私達なの、他にやることもないんだから、書類ぐらい頑張って処理しなさい、以上! 目的地、オーストラリア、ワープ準備急ぎなさい!」

「書類以外にだって色々──って、オーストラリア!? また他の国に迷惑がかかるような──プツン」

「あー、まちがえてスイッチおしちゃったー……てへぺろー。さて、いきましょうか、艦長」

「そうね、みんな、ブリッジに急ぐわよ!」

「おう!」


 四──三人の少女達と一人の少年は教室を飛び出し、パイロット達とは逆方向に走っていった。


 ……


 警報から十五分後……エーテルの光の輪と共に、戦艦エーテリオンが戦場に現れた。

 もちろん地元の軍の人間達は、そのとんでもない姿を唖然として見上げることしかできなかった。


「おい神野!」

「なんだよオッサン、これから出撃なんだぞ、こっちわ」

「オッサンじゃない、虎川繁だ! なんだその呼び方は、一応先生なんだぞ!?」


 色白でひょろっとした体型に、医療に携わる真人とは、別の意味で白衣が似合いそうな男、虎川繁。その性格と合わさり、まさに悪の科学者の如く、EGの魔改造プランを独自に作り上げ、日々修理用の予備パーツで実験を繰り返している。

 ただし、その実験の賜物が、戦場で活かされたことは、いまのところない。


「で、何のようだよ」

「いいか、神野……いつもいつも武器をポイポイ投げ捨てるな! 何度言えばわかるんだバカ野郎!!」

「なんだよ、武器を投げ捨てるぐらい、ロボアニメじゃよくあることだろ? いちいち腰に取り付けて武器変えてたらカッコ悪いしな」

「アニメみたいに武器が無限にあるわけじゃないんだよ! 投げたら無くなるんだ。こっちだって武器を山ほど改造したいんだぞ? だけど、お前が捨て続けて、いざというとき武器がありませんでしたー、じゃ困るから、俺達整備班は我慢してるんだ! わかるか? わかるな!? わかったか!」


 無論、彼の本音は後者である。悪の科学者──もとい、一人の機械工学に携わる人間として、みんなが驚くトンデモ兵器を作りたくて仕方ないのである。


「わかった、わかったって、ちゃんと持って帰るから、そんなに顔を近づけるなよ、オッサン!」

「お前また──!」


 コックピットに乗り込んでくる繁を押し返し、急いでハッチを閉める。飛鳥にとって、これ以上うるさくなるのはゴメンであった。


「システム起動、モニターの展開を確認機体温度、各種メーター異常なし、各種関節系統異常なし、各兵装弾薬確認、異常なし。エーテルアクティベーション開始──エーテル活性化率オールグリーン、全兵装安全装置解除完了。神野飛鳥、出撃準備完了!」


 キリッとした顔つきで、カタパルトの先に見える、戦場に視線をやる。


「あのー、毎回思うんですけど、飛鳥さんは何を言ってるんですか?」

「出撃前の機体の確認よ。機体に不備がないか、ちょっとマニアックな兵器アニメとかで、よくあるでしょ?」

「ええ、でも、エーテリアスって……」

「そうよ、エーテリアスは起動すればシステムが自動で機体チェック諸々をしてくれて、その情報はエーテリオンにリアルタイムで送られてくる。そして、もしも機体に異常があれば、こっちですぐに確認できるの……つまり──」

「つ、つまり?」

「単なるアイツのカッコつけよ」


 カグヤのその一言は、飛鳥の抱く男のロマンや厨二心を真っ向から否定する、容赦のない一言であった。


「飛鳥さん、発進どーぞ」

「神野飛鳥、エーテリアス、出る!」


 威勢のいい言葉と共に、エーテリオンのカタパルトから勢いよく飛び立った飛鳥のエーテリアスは、そのまま敵の集団目掛けて突貫をはじめた。


「おいおい飛鳥、いきなりかよ!」

「主人公ともあろうものが、敵を端からプチプチ潰すわけないだろ? 叩くならど真ん中からだ!」

「数を考えろ、数を! ったく、隊長、自分は飛鳥の援護に回ります!」

「わかった、艦の防衛はこちらにまかせろ」


 その言葉を聞き、大輝のエーテリアスは飛鳥の後を追うように敵の中へと消えていった。


「さて、そう言えば一機で戦うのはこれが初めてだが……少々多いな」


 近寄るWCをブレードで次々と斬り捨て、再びブレードを構え次の敵に備える。刹那の戦闘能力は、隊長として申し分のないものであったが、さすがに今回は少し敵の数が多かった。


「なに一人で戦ってんだ。獲物を独り占めするつもりか?」

「二人占めもさせねぇぞ、一ノ瀬ッ!」

「これより援護します……これってフツー隊長か副隊長の台詞のはずだよなぁ……」


 刹那よりも上空から放たれる三つの援護射撃が、辺りを飛行する敵影を一つ一つ撃ち落としていった。

 その発射元は、うるさい罵声のやり取りですぐに分かる、二番隊である。


「零か、助かる」

「てめぇを助けに来たわけじゃねぇ、私達は敵をブッ倒しに来ただけだ」

「艦長、零さんがツンデレテンプレート台詞を言いました」

「いや、あれはツンデレじゃなくて、ただ戦闘狂なだけだから! でも、負けてられないわね。こっちも主砲、撃てーっ!」


 命の無駄な報告に対し、珍しくツッコミを返すカグヤ。彼女は目の前の敵を撃滅することに忙しかった。


 ──その頃、敵の中枢


「オラオラオラオラーッ!!」


 接近する敵を避け、密集した敵の群れを縫うように突き進みながら銃を乱射する飛鳥。その技量はたしかに他のパイロットよりも、頭一つ抜きん出ていた。


「ちょっと多すぎんじゃねぇーのッ!」


 背後から迫る敵に対し、脇の下をくぐらせた銃で撃ち落とし、再び前方の敵に集中する。しかし、撃破したと思われた爆煙の中から、その時新たな一機が特攻を仕掛ける。


「しまっ──」

「飛鳥ーッ!」


 飛鳥と敵の間に割り込むように現れた大輝のエーテリアスが、迫る敵を間一髪で撃ち払う。


「大輝か!?」

「まったく、無茶すんな飛鳥。お前が無茶したら、サポートする俺が死にかけるんだからな!」

「だから、主人公は少しぐらい無茶するのが──」

「だったら、俺も混ぜろ。無茶な主人公には、それをサポートする優秀なパートナーが必要不可欠だろ?」


 機体を背中合わせにし、全方位を互いにカバーしながら、敵の猛攻撃を退ける。


「優秀って、自分で言うか?」

「その台詞、そのまま返してもいいんだぞ……? で、どうするんだ、この状況」

「……これ使え」


 飛鳥は新しいマガジンを装填し、自らの銃を大輝に手渡す。


「なんのつもりだ、飛鳥」

「勘違いすんな、オッサンが捨てるなって言うから渡しただけだ。それに、俺はこいつ一本あれば──っと」


 不意に大輝が放り投げたブレードを、飛鳥はなんとかキャッチした。


「二本あったほうが様になるだろ?」

「へっ、ありがとよ……俺が前衛、お前が後衛。主人公をサポートするパートナーなら、ちゃんと援護しろよな!」

「おう、任せろ!」


 飛鳥は大輝のブレードを強く握り、大輝は飛鳥の銃の引き金に指をかける。


「イクぜっ、大輝!!」

「ああ、イクぞっ、飛鳥!!」

「「うおおぉぉぉぉーっ!!」」


 二人の男の雄叫びは、互いに戦場に響き渡った。そして──


「二人ともやっぱりホモじゃないですかー……! って、あれ?」


 一人の少女の薔薇色の素敵で腐った夢が、幕を下ろした。


「……おおぅ、まさか、飛鳥さんの夢オチから私の夢が始まっていたとは……我ながら恐ろしい芸当をしたものです。ナイスカップリングが堪能できたのは満足ですが、少し残念ですね」


 命にとっては幸せすぎる夢故に、とても残念な気持ちでベッドから起き上がる。


「おう、命。今日は珍しく早起きだな」


 命が起きると、ちょうどトレーニングルームで朝の一汗を流してきた同居人の焔が、裸にタオル一枚という、恥もクソもない格好で牛乳をガブガブと飲んでいた。


 ……


 ──その後


「貴理子さん、貴理子さん」

「ん? どうした茨、お前から話しかけてくるなんて珍しいな」


 授業間の休み時間、一人になったところを見計らい、茨は貴理子に声をかけた。要件は勿論──


「貴理子さんはー、もしかしてBLが好きなんですか?」

「なっ!? き、きさま、な、な、な、何故知っている!? 誰だ、誰から聞いた!? それとも部屋に監視カメラでも仕掛けていたのか!?」


 その言葉に反応を示した貴理子は、夢の中と同様に顔を赤く染め、命に掴みかかった。


「おおー、夢だけど、夢じゃなかったー」

「な、何を訳のわからないことを言っている、茨ーッ!!」


 恥ずかしさから怒り狂う貴理子だったが、命の秘蔵本三冊がその怒りをなんとか静め、それから二人には奇妙な友情が芽生えた。

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