表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

最終話 艦長、そっちは味方です。

「くっ、あの三人はなにしてるんだよ、ブラム卿がやられて、ウルカとアルゴ卿は追ってきて、ああもう!!」


 小型のステルス船を駆り、目的の地へと進むディオス。

 しかし、進むにつれて聞こえてくるは、劣勢に傾く戦場の様子であった。


「いい加減諦めなさいよ! もうアンタの負けよ!」

「くっ、お前は黙ってろ!!」


 椅子に縛り付けているカグヤに対し、溜まっていくイライラを平手で晴らす。


 そんなことをしても状況が変わらないことはわかっている。今大事なことはいち早くExGを手にすることである。


「この強化アモールの認証をクリアできるのは、ごく一部の人間のみ……大丈夫だ、突破できるはずがない」

「……どうだか」

「何か言ったか?」

「なにも言ってないわよ」


 カグヤとしてはとことん反抗してもよかったのだが、ここで反抗したところで、自分が殴られるだけだと考え、今度は積極的に話を流していく事にした。


 最初の隔壁が開き、船はゆっくりと巨大隕石に偽装された封印の地へと入り込み、着艦させる。


 空気はあるが念のため宇宙服を着せられ、そのままカグヤはディオスに連れられるまま、薄暗い道を進んでいく。


「これは……扉?」

「ExG封印の扉だ」


 EG用の巨大な扉、古くから存在する扉ではあるが、一切の錆びもなく、何者も通そうとはしない強固さが伝わってくる。


「さあ、カグヤ姫、そこへ手を触れてください。あなたの手で封印を解き、私へ王の力をお授けください……さすればローメニア政権は終わり、私の世界を作りますからぁ、フフッ、アーッハッハ!」

「独裁者はいずれ革命によって死ぬわよ」

「フン、この先にあるのは神の力だ、革命だろうがなんだろうが、神は死ぬことはない」

「神? 敵として現れたら大体倒せるような名前負けの種族じゃない。チェーンソーでバラバラになる神だっているのよ? 本当に強いのなんて一握り、アンタみたいな小者は──!」


 そこまで言いかけたカグヤの横を、閃光が走る。


「うるさいなぁ、君は! 早く開けろって言ってるだろ!? それとも、当てなきゃわからないかなぁ!」

「女相手に銃を向けて、そういうのが小者だって言って──ぐッ!」


 エーテルの光が彼女の左腕を貫き、思わず苦痛の声を出す。

 しかし腹の立ったディオスは、その撃ち抜いた左腕を強引に引っ張ると、そのまま門に彼女の手を押し当てる。


「最初から素直にしていれば痛い目を見なくてもよかったのに、バカな姫様だねぇ! ま、これで目的は達成された、扉は開き、私は神になるんだ」


 カグヤの手から伸びるエーテルの光が、扉に魔方陣のような模様を描き、徐々に辺りを青い光が照らしてゆく。


 ──そして。


「開っ門っっ!! きた、きたきたきた、キタァァァーッ!! これが、これがこれが、ExG!」


 白い、真っ白な機体。

 神の力に相応しいほど、その白さは神々しさを見るものに感じさせ、停止してるにも関わらず、その力をディオスは宇宙服越しの肌で感じていた。


「イクスアレイ……これがこの力の名前か」


 石碑に書かれた文字を読むと、その機体の名を口にする。


「はぁっ……はぁっ……いい加減離したら? もう私には用はないんでしょ、とっとと殺しなさいよ」


 撃たれた左腕を押さえながら、痛みを耐えながらもディオスに強気な態度で発言するが、彼は一向に彼女を離さず、殺しもしなかった。


「いや、殺さないさ、君には当初のローメニア王家の筋書き通り、私の子を“いやと言うほど”作ってもらわなければならないからな」

「くっ……どこまでも腐った奴」

「フン! なんとでも言うがいいさ、力は手にした、もう何も怖くない、恐れる必要なんてないんだからなぁーっ!! 君の仲間が助けに来てくれるかもしれないが、全部、全て、まとめてこのイクスアレイで倒してあげるよ!」

「──やれるもんなら……」


 突然どこからか聞こえてくる声。

 ディオスは驚いた様子で辺りを見回すが、当然その近くに人の姿はない。


 ──人の姿“は”


「やってみやがれぇぇぇーっ!!」

「飛鳥ッ!」

「ななな、何ぃーっ!? EGだと! バカな、外には強化型アモールが──ま、まさか!」


 封印の地へ足を踏み入れる飛鳥のアマツ。

 その機体のリーヴェスは全壊し、頭部、左腕、両翼、右足も破壊されていた。

 その機体の傷跡は、まさしく激戦を潜り抜けてきた証。


「最終決戦、ボロボロの機体……へっ、やっぱり俺が主人公なんだぁぁぁーっ!!」

「こっちにくる! くっ、止まれ、止まれぇぇぇーっ!!」


 カグヤを突き飛ばし、手に持つハンドガンでアマツに向かって弾を撃つが、そんなものがEGを止められるわけもなく、アマツは二人のいる場所へと勢いよく突っ込んでいった。


「ぐおわぁぁっ!?」

「カグヤッ!!」


 二人の間に割って入るように突貫したアマツから飛び出し、飛鳥は突き飛ばされたカグヤの手を掴み、自身へと引き寄せる。


「飛鳥……」

「腕、大丈夫か」

「うん、もう大丈夫」


 飛鳥に抱きつくカグヤは、ただ彼がここに来てくれたことだけで元気が出て、腕の痛みも先程より痛く感じなくなっていた。


「ま、まだだ、所詮はガキ一人が現れただけ……こんな大破寸前の機体ではなにも──な、貴様何を!?」


 アマツの影から身を出して、二人の様子を目の当たりにしたディオスは、彼らの行動に対し思わず叫んだ。


 あろうことか自分の乗るはずだったイクスアレイに、二人は今まさに乗り込み、ハッチを閉めたのだ。


「コイツは頂いてくぜ、ディオス!」

「ふざけるな!! なにが主人公だ! 私の乗る機体を奪う奴が、主人公を名乗るなど!」

「ハッ、何言ってやがる、機体を勝手に奪って使うなんてのはな、主人公として当たり前なんだよ! むしろそうしなきゃロボット物主人公とは言えないと言っても過言じゃねえ!!」

「正規兵のアンタがそれを言っても、説得力ないっての……」

「う、うるせぇ! とにかくこの機体は俺が使う! 起動しろ、イクスアレイ!!」


 エーテルの光と同じ碧の光を目に宿し、飛鳥の手によりイクスアレイはゆっくりと動き出す。


「くそっ、私の王の力がぁぁぁーっ!!」

「何が王の力だ! お前を確保して、この戦いも終わりだッ!!」

「くっ、神の力を前にして、その力に捕まるなど、こんな終わりかたは認めない、イヤだ、やめろぉぉぉーっ!!」


 その悲痛な叫びが彼の願いを叶えたのか、新たな機影がその場に現れる。


「ディオス様から離れろぉぉぉーっ!!」

「チッ、新手か!」

「その声、カイセルか!」

「コイツは私が抑えます、その間にディオス様はお逃げください!!」


 まだ動きの鈍いイクスアレイに飛びかかると、そのまま反転し、自身と共にディオスのいるその場から外へと押し出した。


「大した忠誠心ね」

「忠誠心? 違うな、これは愛だ! 愛の力だ!!」

「お前、ホモかよ!!」

「ああ、そうだ! 私は男が大好きだ!! 来い、ティーラルキアス!!」


 カイセルの後方から姿を現した巨大な影は、そのまま彼の乗るEGと結合し、再び巨大なEGとなり二人の前に立ちはだかる。


「新型機に乗ったらカグヤがいて、相手はホモの巨大EG……これも主人公の宿命ってやつか?」

「馬鹿馬鹿しい宿命だけど、それなら勝てるわね」

「勘違いするなカグヤ、俺は誰が相手でも負けねぇよ……ところで」


 格好よくキメる飛鳥は、一つの疑問をカグヤに投げ掛けた。


「──コイツ、武器は?」

「……え?」


 封印を解かれたイクスアレイの全身をくまなく探すも、武器らしい武器も、武器らしくない武器も搭載されておらず、飛鳥はどうやって戦えばいいのかと戸惑っていた。


「まさか武神の如く素手で戦うから、神の機体とか呼ばれてた訳じゃねぇだろうな……」

「そんなわけないじやない……多分」

「多分ってなんだよ! あーもう、少しはその辺の情報聞き出しとけよ!」

「うっさいわね! こっちだって撃たれたり──って、前!!」


 ティーラルキアスは装甲を開き隠された巨大な砲口をイクスアレイへと向け、光を放っていた。


「チッ、何が神の機体だよ、だったらそれっぽい武器と盾ぐらい持たせとけよ!!」


 強力なエーテル砲はイクスアレイに直撃し、大きな爆発を巻き起こした。


「フン、避けられなかったか……神の機体も予想以上に呆気ないもの……!?」


 爆煙の中から赤い閃光がティーラルキアスの機体を掠める。

 その閃光の勢いに吹き飛ばされた煙の中からは、無傷のイクスアレイが、銃と盾を持ってティーラルキアスを狙っていた。


「バカな、武器も盾も無かったはず……まあいい、先程のエーテルライフル、威力を算出したが、このティーラルキアスの進化したエーテルフィールドの前には効果は──」


 再び赤いエーテルの光がティーラルキアスに放たれる。

 絶対の自信を持つカイセルはその場から動かず、飛鳥にこの機体の力を見せつけようと防御姿勢を取る。


 ズドン!!


 しかし、カイセルの予想は大きく外れ、イクスアレイの放った弾丸は、ティーラルキアスの一部を容易く貫通していった。


「バカな、威力が上がっているだと!?」

「なに驚いてんだよ──っていうのは野暮か、俺も驚いてるし……」

「くっ、貴様何をした!」

「俺はなにもしてねぇよ、やったのは全部コイツだ」

「ExGの力だと言うのか!?」

「ああ、そうだ」

「ッ!! その力は本来ディオス様の物……それを貴様は!!」


 両サイドから展開する巨大な鋏でイクスアレイを捕縛すると、ゼロ距離で砲口を飛鳥へと向ける。


「この距離ならシールドは使えないな! 落ちろぉぉぉーっ!!」


発射と同時に拘束を解き、イクスアレイは光の中へと消えていく。


「フッ、いくら神の機体と言えど、この至近距離からのエーテル砲ではひとたまりも……なッ!?」

「効かねぇんだよ!!」


 煙が晴れて、そこから現れたのは、やはり無傷のイクスアレイであった。


「クッ、だが、近距離線ならば、武器のない貴様よりは──!」

「こいつはテメェの想像を凌駕する! きやがれ、対艦刀イクスブレイド!!」


 手に持つシールドとライフルを投げ捨てると、二つはエーテルの光となって消え、なにもない空間にかざした手には、巨大な太刀が現れる。


「バカな! 武器をエーテルから作り出しただと!?」

「武器だけじゃねぇ、機体の装甲も出力も全て、コイツの作るExエーテルがある限り、俺の想像を創造することができる!!」


 ティーラルキアスのクローを切り捨てると、剣を捨て、小型ライフルを両手に作り出し、追い撃ちをかける。

 通常なら小口径のエーテル弾など、フィールドで無効化できるはずだが、その銃は飛鳥が想像し創造した銃。

 全ての弾丸がフィールドを突き抜け、機体を蜂の巣にする。


「トドメだ! イクスリーヴェス!!」


 ティーラルキアスの周囲から産み出される飛鳥の新たな翼が、合体した巨大オプションを細切れに引き裂き、カイセルのEGを引きずり出す。


「ひぃぃっ!」

「……終わったわね」

「ああ、これで終わりだ……」


 ──と、思ったか?


「なんだ!?」


 飛鳥は突然聞こえてくる声の主を探すため、周囲を見渡す。

 すると、先程までこのイクスアレイが封印されていた巨大隕石から、一つの光が接近していた。


「黒い……EG?」

「やあ、またあったねカグヤぁっ!!」

「ディオス!? なによその機体は!」

「君たちが戦っている間、その力を手にすることができず、悔しくて悔しくて、イクスアレイの石碑をぼーっと眺めていたら、そこになんて書いていたと思う……? 機体番号02、イクスアレイ──つまり、ExGは二機あるんだよ! 君のイクスアレイと、このイクスディスの二機がね!!」

「二号機奪うのもお約束ってか? まったく」


 自分の主人公としての宿命を皮肉りながら、迫るイクスディスへとライフルを構える。


「エネルギー最大出力のイクスライフルは、エーテルバスターと同等の力を持つ……くらえっ!!」


 設定の上乗せをしたライフルは、銃口とは不釣り合いの巨大な柱を作り出し、宇宙を駆ける。

 しかし、その光は爆発も起こすことなく、イクスディスに触れた瞬間に消滅した。


「なっ!?」

「イクスアレイが万物を作り出す創造神ならば、このイクスディスは破壊神……万物を全て無に帰す消滅の力だ!!」

「へっ、ラスボスにはおあつらえ向けの機体だな。そっちに乗らなくて心底ホッとするぜ」

「抜かせ!!」

「来るわよ!」

「……一先ず下がる」


 後ろに乗せたカグヤを見て、飛鳥は転送装置を創造し、イクスディスから遠く離れた宙域に転移する。


「ここなら大丈夫か……」

「アイツから逃げてどうするのよ」

「怪我したお前乗せたままアレと戦うなんて、危なっかしくて出来るかよ。とりあえずお前はエーテリオンに転送させる……いいな」

「……わかったわ」


 自分がここにいても役に立つことはない、それをすぐに理解したカグヤはそう答えた。


「それじゃあ……」

「待った。開けなさい、飛鳥」


 コンコンと、宇宙服の顔ガラスを叩くカグヤ。

 飛鳥はそれに対し、意味も分からず言う通りに開ける。それを確認し、カグヤも同じく顔を出す。


「カグヤ、なにを?」

「助けてくれたお礼よ……私のこと好きなんでしょ、だから──」


 目を閉じて顔を近づけるカグヤ。飛鳥は突然の展開に、高鳴る鼓動を必死に抑えながら、マナーと思い目を閉じた。


 コツン


「……あ」


 しかし二人の至福の時は、互いのヘルメットのフチによって、寸前のところで阻まれた。


「残念、これじゃあできな──」


 続きはお預けか、と残念がる飛鳥だが、カグヤはすぐにヘルメットを脱ぎ、飛鳥の顔を両手で寄せて口づけをする。


「……ヘルメットが邪魔でキスができないなら、脱いでやればいいのよ。私達には時間も余裕もまだあるわ、余計な事は考えなくてもいいのよ」

「ああ、そうだな……それじゃ」

「わかってる。負けんじゃないわよ、飛鳥」

「当たり前だろ、俺は主人公だぜ?」

「知ってる。少なくとも私を二度も救ってくれた主人公(ヒーロー)よ、アンタは……ありがとう」


 光となって消えていくカグヤは、久々に笑顔を浮かべ、飛鳥に感謝の言葉を伝え、コックピットから姿を消した。



 ……



「よっと……ん、キズが治ってる、これもイクスアレイの力、か」

「か、かかか、艦長!? どこから……ま、まさか幽霊!?」

「違うわ! まったく、変わらないわねここは……」


 変わらないからこそ安心するカグヤは、艦長席に座ろうとするが、そこに先客がいることに気がついた。


「ああ、艦長、帰ってきちゃったんですね」

「帰ってきちゃったわよ。早く元の席に戻りなさい、命」

「あーい」


 から返事を返し、ゆっくりと椅子から立ち上がる命は、フラフラと副艦長席へと戻る。


「……命」

「はい?」

「何度アタックしても、私は気にしないから、これからも好きにしなさい」

「……なんの話ですか?」

「別に、独り言よ」

「呼び止めたくせに……まったく、だったらお言葉に甘えて好きにさせてもらいますよー、だ」


 いなかったクセに何でも知っているような事を口にするカグヤに、命は勝ち目がないとわかりつつも、強がった事を机に向かって言葉にする。


「……なんの話ですかね?」

「さあ?」


 話についていけない二人は、カグヤ達の様子を伺いながら、自分達の仕事を進める。



 ……



「フフ、まさか正面から堂々と現れるとはな」

「こそこそ背中撃つのは趣味じゃねぇんだよ」

「たいした心がけだ……だが、後悔するのは貴様だ!」


 黒いイクスディスは怪しさを放ちながら、イクスアレイへと接近する。

 その機動性もスピードも、アマツを超越するイクスアレイと同等の速さを誇っており、たとえ消滅以外の武器がないイクスディスでも驚異であった。


「近寄ってこないと消滅できないなら!」


 両腕、両肩にガトリング砲、両手にはイクスライフルを持ち、背部や脚部にまで銃器を取り付け、一斉発射する。


「無駄無駄無駄無駄ァッ!! 何でも消滅させられんだよ! コイツはぁ!!」

「チッ、インチキ能力も大概にしやがれ!!」

「貴様に言われたくはないわ!!」


バズーカ、実弾を絶え間なく繰り出すイクスアレイだが、それを全てたえらげるように、イクスディスは消し去った。


「リーヴェス、一斉攻撃!」

「チッ、羽虫がッ!!」


 振り払うように手を動かすと、それに合わせてリーヴェスも消滅させられる。


「そこだッ!」

「後ろか!」


 背後から迫るリーヴェスだったが、高性能のExGはそれを察知し、ディオスへと伝える。

 振り返ったイクスディスは、背中を刺そうとするリーヴェスを消滅させると、再びイクスアレイへと向き直る。


「どうした、もう終わりか?」

「命、こっちに来る味方を全部下がらせろ」

「え? 結構近くまで来てるんですけど。ここは応援に駆けつけてラスボスを倒すまでがテンプレのお約束じゃないんですか?」

「ちょっと一暴れする、巻き込まれたくなかったら来させるなよ!」


 転移により距離を少し離すと、一息ついた飛鳥はこれからの攻撃を想像する。


「なにをするつもりかは知らんが、無駄なことを……」

「無駄がどうかは試してみなきゃわかんねぇだろ? 来い、イクスミサイル!!」

「ハッ、なにかと思えばミサイルだと? そんなものがなんだと……」


 イクスディスのモニター映し出された機影アラート、その数はゆうに百を超えており、もちろん全ての威力が桁違いの代物である。


「アトミック改めイクスミサイル、全弾進めッ!!」

「ちぃッ、小賢しい真似を! 高威力のミサイルだろうが、起爆する前に消してしまえば問題などない!!」

「だったら起爆させてやるよ」


 ミサイルを一つ一つ消し去るイクスディスに向けて、ライフルを発砲する飛鳥。もちろん狙いはイクスディスではなく、彼に向かうミサイル群である。


「くっ!!」

「まだまだぁッ!!」


 次々に誘爆し、強烈な光を放つ爆心地に、使える限りの力を使い、イクスディスの力に対し物量で畳み掛ける。


 数十、数百の銃器が、数千、数万の弾丸を叩き出す。

 もはや一人で後方に控える艦隊の力を扱っているに等しかった。


「はぁっ、はぁっ……やったぜ、カグヤ」

「やれてねぇんだよバァァァーカ!!」


 イクスディスを中心に広範囲が消し飛ぶ攻撃を仕掛けたはずだったが、イクスディスは多少の焦げ付きはあるものの、そこに健在していた。


「ハーッハッハーッ、このイクスディス凄いよ、さすがExGのお兄さん!」

「チッ、やったか? って言わなきゃなんとかなると思ったんだけどな……」

「ハン! 無駄だったな神野飛鳥、貴様はそこでエーテリオンが沈むところを見学しているんだな!」

「くっ、エネルギーが──ぐあぁぁぁーっ!!」


 イクスディスの最高速からの蹴りをまともに受けたイクスアレイは、ディオスの言葉に反応せずに、力尽きたように宇宙空間にへと漂う。


「……」

「ふん、衝撃で気絶したか……まあいい、イクスアレイは貴重な力だ、後で回収する必要があるからな。さて、待っていろよカグヤァァァ、こうなったら楽にしてやるからさァァァーッ!」

「イクスディス、来ます!」


 その兆候をいち早く察知した命は、奴を止める方法を頭の中で考え続けるカグヤへと伝える。

 しかし、イクスディスの消滅の力に策など思いつくはずもなく、必死の抵抗を焔に向かって命令する。


「くっ、主砲を前面に──弾幕を張りなさい!」

「ハッハーッ! 無駄無駄ァッ!! そんな攻撃効かないんだよねーッ!!」


 戦艦の──それも、攻撃に特化された改造をされたRエーテリオンの主砲も、消滅の力の前には何の気休めにもならなかった。


「イクスディス、尚も接近!」

「──っ! どうすれば……」


 万事休す。せめて他のクルーを逃がす時間でも稼ごうかと作戦を考えるカグヤへ、一つの通信が入ってきた。


「……オン……エーテリオン……聞こえてるか? エーテリオン」

「あ、飛鳥!? アンタ無事なの!?」

「ああ、今イクスアレイ本来の力で機体を再生してる。完治したらそっちに迎う」

「そう、よかった……」


 飛鳥の生存に心から安堵するカグヤ。

 そして飛鳥は、そんな彼女に対して一つの案──作戦を送ろうとしていた。


「……カグヤ、俺の指示に従ってくれないか? 奴を倒す方法が一つだけある」

「アンタが私に指示……? なによ、聞くだけ聞いてあげるわ」

「難しい話じゃねえよ──アイツにエーテリオンブラスターを撃て」

「エーテリオンブラスターって……どうせ消滅させられるわよ」

「いや、それならアイツを倒せる──俺に任せろ」


 一体どんな策で、あの化け物を止めようというのか……? どうせこの男の事だ、凡策ではなく奇策。確実な安全策ではなく、一か八かの危険策に決まっている。

 いままでの飛鳥の行動をよく知るカグヤはそう思った。

 しかし、この男がそんな一か八かを過去から今にかけて全て成し遂げてきたのも事実である。


 ──ならば、今回も……。


「…………わかったわよ、かなり癪だけどアンタの策に乗ってあげる」

「……助かる、それじゃあ頼むぞ!」

「まったく、いつも自分勝手なんだから──命、Rエーテリオンをブラスターモードに移行! 焔も準備!」

「了解、艦をブラスターモードに移行、左右カタパルト回転開始──回転完了、バスター砲との結合、外部及びアールテーミス、エーテリオン両艦エーテル回路に異常なし」

「ブラスターカタパルト展開、全エーテルフィン回転開始。ブラスター対ショック用ブースターフルオープン、全機能オールグリーン!」


 回転した両カタパルトの砲身が展開し、両カタパルト、二列に並んだ小さなフィンが一斉に高速回転を始める。

 そして、二艦の全ブースターユニットがブラスターの衝撃に備えて大きく開く。

 その姿はまるで翼を広げた様であった。


「各部スラスターユニット調整、宙域に姿勢固定完了! 姿勢制御異常なし!!」

「ほぅ……最期の足掻きというやつか……だが、強化されたと言っても所詮は戦艦のバスター砲! このイクスディスの敵ではない!!」

「イクスディス、接近! 発射まで間に合いません!!」

「貴様達の負けだッ!」

「負けは──お前の方だァァァーッ!!」


 イクスディスの上方から、ステルス機能を解き姿を現したイクスアレイ。

 その手に持つ二本のイクスブレードで、イクスディスの両腕をバッサリと斬り捨てた。


「何っ──!? イクスディスの腕が!」

「飛鳥ッ!」


 腕を失ったイクスディスを逃がさないように、飛鳥はイクスアレイの両腕をイクスディスの残った肩に巻き、ガッチリと押さえ付ける。


「くっ、身動きが……このっ、離せ、神野飛鳥ッ!!」

「ハッ! その言い方、その慌てよう……やっぱり、その腕だけが消滅の力を持ってるようだな……ま、でなけりゃ一々手を攻撃方向にかざしたり、ミサイルを爆破前に消したりなんてしないで、堂々と立ってるだけでいいはずだからな!」

「貴様、あの攻撃でイクスディスの弱点を!?」

「ああそうだよ! 今時の主人公は頭だって使うんだよ。ザマー見ろ!!」

「ナイスよ飛鳥、さあ、そのままそいつにトドメを刺しなさい!」


 カグヤは飛鳥に対して命令するが、イクスアレイは一向にイクスディスを離そうとはせず、調子づいてディオスを罵倒していた飛鳥も急に黙り続けた。


「……どうしたのよ、飛鳥」

「…………ハハ、そうしたいのは山々なんだけどさ。さっきのラッシュと機体の修復、近づくために作ったステルス機能のせいで、こっちもエネルギー切れってやつでさ…………だから──」


 悲観そうな顔でもなく、ただいつも通りの笑顔をモニターに向けて、飛鳥は言葉を続けた。


「……俺からの指示は変わらない、カグヤ。このまま撃て」

「──ッ! 何バカなこと言ってんのよ、だったらさっきの攻撃で倒せばよかったじゃない!」

「おいおい、ラスボスを不意討ちなんて主人公らしくないだろ……? だから、コイツの腕が治る前に俺ごと撃て」


 なにが主人公だ。自分の命よりもそんなに主人公であることが大事なのか? 普通ならそう怒鳴り散らしているだろう。

 だが、これがこの救いの無いバカで、最後まで自分勝手な男、神野飛鳥なのだ。


 カグヤはそんな彼を責めることもなく、ただただ状況の打開策を模索した。


「……焔、主砲は」

「無理だ、ブラスターモードに移行してるから他の火器は使えないし、モードを解除してから主砲を撃つまでには十五分かかる!」

「……命、他の味方機は」

「先程の飛鳥さんの攻撃を回避するため全機後退させたので、近い機体でも五分以上はかかります。そもそも、拘束していないあのExGを艦砲射撃で捉えるのは無理ですし、あの状態であれば結局……」


 火器はない。予備のEGは? 旧型全て格納庫の奥、出す時間はない。近くに味方機は──やはりいない。アモールを作れば間に合うだろうか? いや0から精製しても間に合わない。どうすれば、どうすれば、どうすれば──……。


「…………」

「──大丈夫だカグヤ、俺を信じろ」

「………………命、発射準備」


 もう成す術がない。そう悟ったカグヤは、彼の言葉に背中を押され、命にそう伝えた。


「……できません、艦長」


 しかし、彼女はそれを拒否した。

 たとえ付き合うことが出来ないとしても、彼女にとっても、彼は大事な人だから。


「私には、飛鳥さんは撃てません!」

「……じゃあ誰がアイツの事を信じるの?」

「……」

「信じろって言ったあのバカの事、誰が信じるの! 仲間である私達以外に、誰が信じて味方アイツに撃てるのよ!! アイツはね大丈夫だって、言ったのよ。何度も困難を乗り越えて、無理だと思うことも、無謀だと思うことも全部何とかして、主人公らしくもないのに主人公みたいなことをやってのける主人公アイツが言ってんのよ。それなら──大丈夫なんじゃないの……命?」

「くっ………………了解……しました。アールテーミス及びエーテリオン艦内の全エーテルバイパス解放、砲身へ送信。トリガーロック解除……艦長、エーテルアクティベーション準備──完了です!!」


 頭を伏せるように下げながら、バスター砲の準備を済ませる命。その机には彼女から流れ落ちた涙があった。


「ありがと、命……エーテル──アクティベーション!!」


 ゆっくりと立ち上がり、机に現れたトリガーを握りしめると、それを一気に引き抜き、その見えない銃口を仲間へと向ける。


「くっ、腕の修復が間に合わない! 離せ、離せ離せ離せ!! 私はこんなところで終われないんだ、新生ディオス帝国の帝王になる私の望みは、こんなところで終われないんだあぁぁぁぁぁーッ!!」

「終わりなんだよ、お前の野望は! カグヤを、カグヤの国を、俺達の故郷を巻き込んだテメエの夢なんて、俺が──俺達がぶっ壊す!!」

「ふざけるなぁっ! 貴様も死ぬんだぞ、わかっているのか!?」

「へっ、この身と引き換えに世界を守る。なんだよそれ、超主人公じゃねぇかよ! 最高だね!!」

「ば、バカだ──お前は大バカだあァァァーッ!!」

「ハッ……よく言われたよ、アイツらに」


 この戦いの最期に、飛鳥はエーテリオンでの日常を振り返った。


 ロボットに乗って戦ったり、

 カグヤによく撃たれたり、

 相馬にも撃たれたり、

 カグヤの裸を風呂で目にしたり、

 エーテリオンで製造基地ぶっ壊したり、

 カグヤの水着姿にちょっと興奮したり、

 三蔵がシャロを連れてきては一騒動あったり、

 世界中を納得させるために学園祭を開こうとしたり、

 カグヤが音痴だったり、

 世界中を歌で洗脳したり、

 ジャンナ相手に全滅仕掛けたり、

 ジャンナに無人島で酷い目会ったり、

 カグヤ助けたり、

 カグヤと協力して敵倒したり、

 カグヤの事打ち明けられたり、

 カグヤに打ち明けたり、

 カグヤに告白したり、

 カグヤと宇宙行ったり、

 相馬キレたり、

 カグヤ連れ去られたり、

 命に冗談告白されたり、

 総力戦になったり、

 アマツボロボロにされたり、

 カグヤ助けたり、

 カグヤとキスしたり……たりたりたりたり。


「ったく……最高に充実しすぎだろ、俺の青春──ホントに主人公かっての……」


 イクスディスを挟んで見えるエーテリオン。そこでの思い出が、いかに自分にとって大事な日々だったかを再確認させられた。


 こんな場面、あと言いたいことはたった一つだ……。


「全エーテル活性完了、最終安全装置解除……いけるぞ、カグヤ」

「……飛鳥、撃つわよ」


 笑顔もなく、涙もなく、怒りもなく、複雑で空っぽな表情で、飛鳥に最終確認をするカグヤ。


「……カグヤ」

「何……?」

「──やっぱり大好きだ」

「…………私もよ」


 カグヤの声は、その時確かに震えていた。


「…………撃てぇぇぇぇぇーッ! カグヤァァァァァーッ!!」

「──ッ! アールエーテリオン──ブラスタアァァァァァーッ!!」


 こらえていた涙が、全ての気持ちを込めた叫びと共に流れ出す。

 エーテリオンから放たれたフルチャージのバスター砲は、黒い宇宙に白線を引き、そのままイクスディスへと向かっていった。


「まぁぁぁぁぁてえええぇぇぇぇぇーッ!!」


 ディオス最期の絶叫と共に光は二機を包み込み、光が消えたそこに、イクスアレイの姿はなかった。


「イクスアレイ、イクスディス、両機の反応……消失」

「…………」


 構えていた腕をダランと落とし、握っていた手からトリガーが床に落ちる。


「…………! 二機のいた宙域から反応、こちらに近づいてきます!」

「──! モニター映して!!」

「あれは──戦闘機……?」

「飛鳥! 飛鳥なんでしょ!?」


 一体あの戦闘機がなんなのかはわからない。だが、あれが飛鳥であると感じたカグヤは、マイクに向かってその名を叫ぶ。


「ったく、そんなに呼ばなくても聞こえてるっての……ただいま、カグヤ」

「……バカ、何がただいまよ。最後の最後までカッコつけて!」

「でも飛鳥さん、どうやって?」

「ん? ああ、それは……」



 ……一分前



「くっ、私もこれで終わりか……だが、一人では死なん貴様も道連れだ」

「ふぅ……さて、もうそろいいかな」


 感動の別れを体感した飛鳥は、もうここに残る必要もなくなったので、イクスアレイの能力を使用し、次の準備を済ませる。


「なっ!? 貴様、なんだそれは!」

「何って、戦闘機型脱出ポットだよ。ロボ物の鉄板だろ、こういうので戦艦に帰るのは」

「なんだと!? この身と引き換えに世界を守るんじゃなかったのか!?」

「はあ? なに言ってんだ、やっぱり主人公が帰ってこそのハッピーエンドだろ。何が悲しくてお前と心中して、夕日に向かって敬礼されなきゃならねぇんだよ! そんなバッドエンド俺はごめんだね」

「待て、僕も連れていけ! おい、一人で行くな、おい、おいってばっ!! 待て、まぁぁぁぁぁてえええぇぇぇぇぇーッ!!」



 ……



「てな感じでな……ああ、あとアイツのコアも脱出前に改造しといたから、多分生きてると思う。完全再生まで時間もかかるだろうけど、念のために早めに回収しといてくれ」

「せっかくの涙も引いて、呆れて笑える内容ね、まったく……」

「……悪い。でも、やっぱり主人公ってたら、戦闘機型のポットで帰るもんだろ? ま、コアさえ残ってれば──」


 イクスアレイのコアである戦闘機が二つ折りに変形すると、なにもない空間から上半身と下半身が現れ、ドッキングを果す。

 そこには無傷のイクスアレイが存在していた。


「イクスアレイも元通り、っと」

「この──バカ主人公!! こっちはホントに心配したんだからね!」

「だから悪かったって!」

「絶っっっ対、許さないわよッ!!」

「はぁ……準備するか、艦長?」


 いつものノリで主砲でも撃つのかと焔が尋ねるが、カグヤは少し考えながら艦長席に座り次の行動を指示した。


「…………もう、いいわよ! とっととみんな回収して!」

「はいはーい、全機帰還お願いしまーす」

「良かった……無事終わって」

「ま、私達にかかればこんなもんよ」


 月都カグヤ

 茨命

 白雪光

 魚見焔


「ほら隊長、俺がキッチリ終わらせたんだなら、とっとと帰ろうぜ」

「……無事終わったか」

「そのようですね……それではウルカ殿、私はこれで」

「いや、だーかーらー、置いてかないでって!」


 神野飛鳥

 神崎刹那

 神谷大輝


「終わった……の?」

「うん、全部終わったみたいだよ。帰ろっか、零ちゃ──」

「二人とも無事ですかー!」

「無事に決まってンだろうがこのハゲ!!」

「とっとと帰るぞ! 遅れんなよハゲ!!」

「やっぱりこの部隊キツいや……」

「よーしよーし、大丈夫、私がいるよ」


 一ノ瀬零

 阿久津宗二

 桑島三蔵

 シャーロット・エイプリー


「まったく、やはり騒がしい連中だな」

「でも、それでこそエーテリオンですよ、相馬さん」

「あ、隊長、無事でしたか!?」

「見りゃわかるでしょ、早く帰りましょ隊長、疲れたわ」

「そうだな……では帰ろうか」


 赤城相馬

 葵貴理子

 黄瀬綺羅

 緑川凛


「まさか、あの激戦で誰も死なないとは……」

「味方だけでなく敵であった三帝貴族の皆さんも無事」

「諸悪であるカイセルにディオスまで……」

「まったく、姫様といい神野飛鳥といい、とんでもない連中だな、エーテリオンというのは……」


 ジャンナ・D・ローゼス

 ジル・ド・リリィ

 レイ・ド・リリィ


 全戦闘員欠員無く、無事帰還。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ