第十七話 艦長、告白です。
「さあ、着きましたよ姫」
「ハッ……まさか、手錠つけて里帰りするとは思ってなかったわよ」
体裁を気にし、紳士のように振る舞うディオスに連れられて案内された中世の洋城。
本来ならばホッとするような我が家のはずが、今のカグヤにとっては豪華な牢獄にしか見えなかった。
「で、一体どこに連れていくのよ」
「ローメニアの三帝貴族が、今後のあなたの処遇について話し合いたいとのこと……」
「ふーん、三帝貴族だか四魔貴族だか知らないけど、悪態ついてスパッと処刑でもされちゃおうかしら?」
自分の重要性を知る上で、ディオスに対してそんな煽りをするが、ディオスは一切顔色を変えることはなかった。
「例え禁固刑だろうと斬首刑だろうと、ここに着いた時点であなたの身は私の一存でどうにでもできる……つまり、私はもう何も恐れることはないのだよ」
「ようやく参られたか、ディオス卿」
「申し訳ないウルカ卿、まだ彼女も反抗の意思があるようで、連れてくるのに手間取りました」
「ディオス卿、洗脳されているとはいえ、その方は我らローメニアの姫君……あまり粗相のある扱いは控えたほうがよいと思うが?」
「そ、それは……そう──」
ウルカ卿の放つ圧力に負けそうになるディオスだが、間を割って入るように、貴族らしからぬ格好の大男が話に割り込んでくる。
「黙れウルカ、このクソ女は俺のアールレウスをぶっ壊したんだぞ!? 王女だかなんだかしらねぇが、体売って修理代稼ぐのが筋ってもんだろ!」
「ブラム、貴様! 姫に向かってなんと言う事を! そのような腐敗した筋、私が切り裂いてくれる!」
「あぁ!? テメェだってさっきの戦いでコイツの艦落とそうとしてたじゃねぇか! 所詮テメェは俺と同じなんだよ、ギャハハハハッ!!」
「くっ、この狼藉者が!」
ブラムの態度に怒りで頭に血が上ったウルカは、腰に取り付けられた鞘から剣を抜き、ブラムもそれに対して懐からナイフを抜く。
「アンタ……ホントに何も恐れることはないんでしょうね? ここ出る前に私死ぬかもしれないわよ?」
「だ、大丈夫さ、この私の計画が、は、破綻することなんて……ない、はずさ」
「斬る!」
「殺す!」
「そこまでだ、二人とも。君達二人が重傷でも負ったら、これから攻めてくる相手に僕は一人で戦わなくてはならないじゃないか」
刃を持つ二人を止めたのは、中央の席で沈黙を続けていたアルゴであった。
「アルゴ卿、しかしこやつは──!」
「君が逆上して姫の乗るエーテリオンを攻撃したのは事実だ」
「それは……弁明の余地もない」
「ブラム卿、アールレウスがやられたのは相手の行動を察知できなかった君の責任だ。私とウルカ卿は“察知したから”こそ艦に一つの痛手も負ってはいないよ? それに、今回は彼女の今後を話し合う場だ、君がどうしたいかも、そこで話せばいい」
もちろんアルゴもウルカも、カグヤの行動を予知して艦を停止させたり、後退させたわけではない……が、ブラムを止めるには自己責任であると思わせるのが手っ取り早いと考えたアルゴは、彼に対してそう話す。
「……チッ、わかったよ」
「わかってくれて助かります。ディオス卿、場の準備ができましたよ」
「すまないアルゴ卿……それでは話し合おうか」
アルゴによって整えられた場で、ディオスは口を開いた。
……一方その頃
「さて、これからどうするかだな……」
ローメニアから少しはなれた星々の影で、Rエーテリオンメンバーは今後の事について教室で話し合っていた。
「正面突破はやっぱり無理なのか?」
「ローメニア星には戦艦もEGもアモールも製造炉も、前回の比ではない程存在する、貴様であっても多分無理だ」
「飛鳥さんで無理ならまず無理ですね、諦めましょう」
「諦めちゃダメだってば……」
「とは言われても……艦長がいないと、艦が動いても、今のエーテリオンのピーキーなバスター砲は撃てませんし……」
二隻が合体することによって完成したエーテリオンの戦略兵器であるエーテリオンブラスター(命名者カグヤ)はそのパワー故に、ここにいるメンバーではコントロールできる人間は誰もいなかった。
「先に例のブツが封印されてるところに先回りするとかはどうだ?」
「いや、あそこはローメニアからそんなに離れてはいない……すぐに全勢力を投入されて負けるだろう」
「うーん……」
その後も、歌で解決しようだの、敵味方を全滅させるような古代兵器を探そうだの、夢オチにしようだの、訳のわからない討議を繰り広げる面々。
そんな中にいるのが耐えられなくなったのか、一人が教室から姿を消した。
(相馬さん……?)
その事に気がついた貴理子も、辺りを見てからコソッと教室から抜け出し、その背中を追う。
「相馬さ──」
「来るな!」
「え……?」
「知っていたのか?」
「な、何を……?」
「とぼけるな! 私がお前よりも弱いと言うことを知っていたのかと聞いてるんだ!」
「それは……」
感情をあらわにして吠える相馬に、思わず貴理子は言葉を詰まらせた。
……数ヵ月前
「貴理子さんは能力が一番高いですが、副隊長をお願いします」
同じメンバーのはずが、何故かEGの成績表を片手に持ちながら自分に接する命に、小首をかしげながら聞き返す。
「副隊長?」
「はい。艦長に全部の隊長が女だと、なにかとバランスが悪いと言いますか、男女間で格差が生まれてしまいますので、副隊長です」
「たしかに……そう言うことならわかった、やろう」
「助かります。一番二番の副隊長を隊長にすると問題が増えそうなので……あ、言い忘れてました」
「なんだ」
「赤城相馬さん、メンバーで一番弱いんで守ってあげてください」
「赤城相馬か……わかった」
顔写真付きの電子成績表を貴理子に見せると、その名前を呟いた彼女は、笑顔でそれを引き受けた。
……
「知って……いました」
「ッ! やはりそうか、君は私の事をいつも道化だと心の中で笑っていたのか、神野飛鳥と同じように!」
「そんなことはないです!」
「信じられるか……もうなにも──」
その場から闇を抱えて立ち去ろうとする相馬だったが、その手掴まれて歩みを止める。
「信じて……ください」
「……貴理子」
「相馬さん、ここで初めて会ったときの事を覚えてますか?」
「……すまない、覚えてない」
「私は覚えてます。相馬さんが声をかけてくれたときの事……誰とも馴染めずに一人でいた私に声をかけてくれたのは相馬さんでした……」
当時の貴理子は中学校時代、その趣味故のイジメを受けた後だった事もあり、エーテリオンの他の仲間とは馴染めずにいた。
他の生徒からまたイジメられたらどうしようか? そんなことばかりを考え、誰とも話すこともなく、1人うつむいたまま席に着いていた。
そんな彼女に声をかけたのが相馬であった。
「君はまともそうだな、私の補佐をしてくれないか、って……すごい声の掛け方でしたけど、その時の私はとっても嬉しかったです……その日から私は相馬さんのことを尊敬してきました。例えパイロット技術が劣っていても、いつも全力で何事にもぶつかっていく貴方の事を!」
「貴理子……」
「私にとっての主人公は、ずっと赤城相馬ただ一人です……だから、一度失敗したからって逃げないでください……また全力で戦ってください、ずっと尊敬できる存在で居続けてください! 私は、貴方のことを忘れたくないです、嫌いになりたくないです……好きで居続けたいんです!」
「…………」
相馬は無言のまま無重力で浮いていた足を地面に着け、足先を涙を溢したままうつむく彼女へと向けた。
「……重いな、その言葉は」
「ッ──!」
嫌われた、と感じた貴理子はその肩を小さく揺らし、空いた片手で熱くなる目元を押さえようとする。
──しかし、その手は目元へと向かう前に、相馬に掴まれてしまう。
「だから、一緒に背負ってくれないか? 私が私でいられる為に、これからも一緒に……」
「…………っく……はい!」
悲しみと喜びでグシャグシャになった顔を相馬に向けて、貴理子は涙混じりに心の底からわき出る笑顔を見せた。
「恋の歴史に、また1ページ、っと…………私もそろそろ仕掛け時ですかね……」
影から覗いていた少女は、ゆっくりとその場から立ち去ると、その胸に思い人の姿を思い浮かべる。
……
「だから、俺は単騎だろうと敵陣突っ込んでも死にゃしねぇって!」
「無茶も休み休み言え」
「俺の無茶に休みはない! 主人公だからな」
「誰かコイツをつまみ出せ! パイロットの腕があっても頭は空だ」
「はぁ……話が一行に進まん……」
艦長不在での教室内の話し合いも難航し、全員の舵が取れずに数人が頭を悩ませていた時、勢いよく扉が開けられて、相馬が教壇へと立ち上がった。
「今更なにしに来たんだよ」
「フン、いつまでたってもまとまらないお前達を、クラス委員長としてまとめに来ただけだ」
「……できるのか、お前に?」
「愚問だな──これは私にしかできない!」
試す口ぶりの飛鳥の言葉に、どこからそんな自信が出てくるのか、相馬は力強くそう宣言した。
「カグヤ撃とうとしたくせに」
「フッ、あれは緻密な作戦だ。あそこで手を出さなければ、君達は今ごろ宇宙の藻屑だ。神野飛鳥が止めに入り、奴を追い払うと予想しての私の作戦だ」
その場の感情に支配され、躍起になっていた男は、その行動を緻密な作戦と言い張り、一切動じることはなかった。
「結構偉そうですけど相馬さん──いえ、そこまで自信があるのなら、“艦長代理”とでも言いましょうか……今後の作戦はもう考えてあるんですか?」
「勿論だ……なにせ私は艦長だならな!」
「いや、代理だろ……?」
「うるさいぞ神谷大輝! 相馬さんが艦長と言えば、艦長なのだ!!」
「はっ、はい!」
相馬の隣に立つ貴理子は、大輝を名指ししながら指差すと、訳の分からない理屈を押し付けて、黙らせる。
「それでは、作戦を伝える……」
恋をして変になった二人の暴走を止められるものはおらず、相馬の考案した作戦に、みんなは渋々耳を傾ける事にした……。
……
相馬の立てた作戦にいくつかの修正を加え、エーテリオンの作戦会議は結果的に無事終わり、後は作戦準備を待つだけとなった。
「……」
「どうしたんですか飛鳥さん、珍しく黙っちゃって……主人公らしく黄昏てるんですか?」
「命か……ま、色々な」
「……飛鳥さん」
「ん?」
「私と初めて会ったとこの事、覚えてますか?」
「ん? んー………………ごめん、覚えてない」
「私は覚えてますよ。飛鳥さんが声をかけてくれたときの事……誰とも馴染めずに一人でいた私に声をかけてくれたのは飛鳥さんでした……」
当時の命は中学校時代、その趣味故のイジメを受けた後だった事もあり、エーテリオンの他の仲間とは馴染めずにいた。
他の生徒からまたイジメられたらどうしようか? そんなことばかりを考え、誰とも話すこともなく、1人うつむいたまま席に着いていた。
そんな彼女に声をかけたのが飛鳥であった。
「俺は神野飛鳥、今日からよろしくな……って、まあ、ただ隣の席だったから挨拶してくれただけだと思いますが……嬉しかったです」
「嬉しかったって、大袈裟だな」
「大袈裟じゃないですよ。それから飛鳥の事をいっぱいからかいました、沢山ちょっかい出しました、結構自分から声だってかけました……飛鳥さんの事が大好きだから……」
「そっか…………ファッ!?」
気を抜いて聞いていた飛鳥は、命の唐突の発言に耳を疑い、素っ頓狂な声を発する。
「毎日とっても楽しかったです、焦らせば赤くなりますし、悪戯すればすぐに引っ掛かりますし、それに──」
「待て待て! 何て言った、お前?」
「……何度も言わせないでくださいよ……大好きです、飛鳥さ──」
その場の勢いに任せてか、命は大胆にも飛鳥の肩に手を置くと、そのまま自分の顔を飛鳥の顔へと引き寄せる。
──しかし、その唇は飛鳥の顔へと向かう前に、飛鳥に止められてしまう。
「……ごめん、それはできない」
「……ああ、一度断ると見せかけての、オッケーってやつですね? さっき見ました、テンプレ通りのデジャブで──」
「俺はカグヤが好きだ、だから命とはつき合えない」
そこに言葉には一切の嘘はなく、彼女に一つの希望も持たせないように、キッパリとした言葉で、彼女の思いを断った。
「……カグヤさんは宇宙人ですよ?」
「構わない」
「もう帰ってこないかもしれないじゃないですか」
「俺が必ず連れ帰る」
「だって、でも──!」
「命!」
頭が混乱し始めている彼女の名を強く呼ぶと、飛鳥は彼女の事を強く抱いた。
「……足りないとは思うけど、これで我慢してくれ」
「…………飛鳥さんは、なんで優柔不断な主人公じゃないんですか……? 少しぐらい勝ち目があってもいいじゃないですか……」
「優柔不断な主人公なんてさ、それはもう俺じゃないだろ?」
「……それもそうですね」
パシャ!
「え?」
「フフフ、私の演技に騙されましたね。撮っちゃいましたよ、飛鳥さんの好きなカグヤさんに見せたら、マズーイ写真が」
飛鳥の腕からスルリと抜け出した命は、無重力空間に浮かぶ携帯を手に取ると、タイマーで撮った二人が抱き合う写真を飛鳥に見せる。
「お、お前! ってか演技!?」
「そうですよ。もしかして自分は結構モテるとか勘違いしちゃいましたか? ないですよそんなことー、あーっはっはっはー」
「くっ、命ーッ! 覚えてろよ!!」
彼女らしい元気のない高笑いと共に、命は飛鳥の前から姿を消した。
「あーっはっはー──っと、綾瀬さん、どうしま──んぐ……」
廊下を曲がり彼女を待ち受けていたのは、同部屋に住む綾瀬であった。
命は抱き締められ押し込められた彼女の胸元から顔を出すと、この行為についての意味を投げ掛けた。
「あの、私男同士は好きですけど、女の子同士──しかも私自身にはそういうキャラではないんですが?」
「泣きたいときは、泣いてもいいんですよ」
「……だから、私はそういうキャラじゃ……ないですって……」
命は弱々しく呟くと、出した頭を再び綾瀬の胸の中へと埋めていった。
……
「──では、姫様のこれからの処遇は地下への幽閉、ということでよろしいか?」
「ええ」
「姫に子を産む前に死なれてはローメニアを再び戦火で焼くことになる。それが妥当だ」
「俺はそれでも構わねぇけどな」
主に過激な案を出すブラム卿を抑えるのに時間がかかった会合もようやく終わりが見え、ディオスはその時を今か今かと待ち望む。
幽閉場所へ送る途中で抜け出す算段は既についており、城内の兵は既にディオスの手が回っているのであった。
「で、ではここは婚約者である私が、彼女を──」
「まあ、待ちたまえディオス卿。幽閉といっても彼女の身分は姫なのだから、それ相応に必要なものを牢の中に置いてもいいだろうから、彼女の欲しいものを聞こうと思う」
この場から離れようとするディオスを、アルゴ卿が呼び止め、彼に意見を述べた。
たしかに、愛する嫁をただ何もない牢へと送るのは、夫としてはおかしいことだ。周りから怪しまれてしまう。
ディオスは冷静になり彼女から手を離すと、その場に立ち止まりアルゴの意見に同意する事にした。
「ではアヤセーヌ姫、何か必要な物は──」
「お待ちくださいディオス卿。姫も年頃の女の子、洗脳されているとはいえ、婚約者に伝えるには恥ずかしい物もあるでしょう。ですから、ここは私が個人的に話を聞きたいと思いますが……よろしいでしょうか?」
「なにっ!? あ、いや……ゴホン、それでいい……頼むぞアルゴ卿」
「お任せあれ……抵抗の意思がないのならこちらへ、姫様」
カグヤはチラリとディオスの顔を伺う。あくまでここで一番偉いのはディオスであり、自分が手元から離れて困るのもディオスである。
本当に行ってもいいのかと確認するカグヤに、ディオスはアルゴを顎で指した。
行ってもいい、ということらしい。
会合の場から隣の個室へと移ったカグヤとアルゴ。
アルゴは鍵をかけることなく椅子に腰かけると、カグヤも相手の出方を伺いながら慎重に椅子に座る。
「さて、話を──」
「私の欲しいものは自由と権力とあんた達を倒せるだけの兵力よ。牢に入るものだけなら、C4と小銃と弾をよこしなさい!」
「はは……これは随分な物をご所望で……だが、残念ながらそれはできないよ」
手錠をかけられながらも強気に発言するカグヤに、思わずアルゴは小さく笑うと、優しくカグヤの意見を却下した。
「……ところで姫様」
「何よ、他に欲しいものはないわよ」
「洗脳なんてされてませんよね?」
「だから欲しいものは……は?」
思いもよらないアルゴの発言に、カグヤは耳を疑った。
洗脳された姫として会合を済ませたはずなのに、その男は端から知っていたようにカグヤがなにもされていないことを見破ったのだ。
「なんでそう思うのよ……まさか、あんたが黒幕ね!」
「いやいや、私に野望なんてありませんよ。平和が大好きですから……」
「ローメニアの平和好き詐欺はもういいわよ、どうせアンタも侵略派なんでしょ?」
「いえいえ、私は中立派です。攻めることもなく、また攻める彼らを止めることもない。傍観者です」
「……一番タチが悪いってことかしら?」
「周りをよく見ている、と言ってくれると光栄ですが……まあ、いいでしょう。あなたが洗脳されていない根拠だってちゃんとあります」
ポリポリとこめかみの辺りを人差し指で掻きながら、アルゴは持論をカグヤへと伝え始めた。
「まず一つ、十二年の間、ロクにこちらのアモールの相手も出来ない連中が、洗脳のような高度な技術を持っているとは思えない」
「エーテリオンを動かすために十二年掛けて開発したか、十二年掛けて私を洗脳したかもしれないじゃない」
「それなら私は十二年掛けてエーテリオンを改造するか、複製艦を作ります、姫様無しでも動かせるような艦をね。わざわざ洗脳などという不確定な事をするよりはそっちのほうが安全だ……しかし、エーテリオンは十二年前のまま稼働した……武装の強化もなくそのままね。つまり、艦を稼働できるように維持はできるが、改造する技術はないということだ」
カグヤは話が面倒になるのがいやなので、先日エーテル生成炉を使い大改造をやってのけた男の存在は、敢えて伏せることにした。
「次に目的だ。彼等の目的が防衛だというのなら、今こうしてティーターンを追ってくるのはおかしい。そのまま星にいればいいのだから……」
「日頃の連勝で調子に乗って攻めてきたのかもしれないじゃない」
「こちらの戦力がアモールだけでないのは、アールテーミスやティーターンと戦闘を交えたならば予想できるはずだ。そちらは一隻、こちらの戦力は未知数……それなのに攻めるということは、余程の馬鹿者か、余程攻めにいかなければならない理由があるか、だ。先程の戦いの騙し討ちや、戦法を見るところ、馬鹿ではない……つまり、なんとしてもここに来る理由があった」
「 ExGが欲しかっただけかもしれないじゃない」
今まさにディオスの求める物の名を、アルゴに向けて放つが、それを簡単に論破させる。
「それならばアールテーミスが来る前に、エーテリオンはこちらへ来たはずだ……十二年間なんとかアモールと戦い生き延びてきた星なんだから、今更次々現れる敵を倒す必要はないだろう? むしろ、そんな戦いで大事な艦が壊れては元も子もない」
「……」
「最後に、ディオス卿には怪しい節が多い、彼の言葉を“信じずに”聞けば、その目的はだいたい読める」
「……だったら姫としての命令よ、今すぐ私を解放して、アイツを倒しなさい!」
「……それはできない」
真実を確認したアルゴは、カグヤの命を却下した。
「なんでよ! 真実がわかったなら──!」
「確かにわかったが、今貴方を助けたとしても、個室で洗脳されたと言われれば反論は不可能だ……ぶつかったとしても、あの二人相手には勝つことはできない。なんとか持ちこたえたとしてもこちらの犠牲は甚大だろう……」
「それでも……!」
「民に死ねと言いますか? 平和のためには仕方ないと……たしかに、貴方にはその権利があります──が、私はそうなるぐらいなら、一人の犠牲で平和を手にします」
椅子に座ったまま、アルゴは腰から取り出した拳銃をカグヤへと向ける。
その目には人の良さそうな先程までのアルゴとは、別人のような殺気を感じた。
「……わかったわよ、もう何も言わないわ」
「ありがとうございます……奴が尻尾を見せたとき、その時は私も協力しましょう。それまでは姫を使い、泳がせてもらいます」
「アンタ、この星が平和になったら、その顔を平和じゃなくしてあげるから、よーく覚えてなさい」
「それはこわいこわい──!」
ヴィーッ!! ヴィーッ!! ヴィーッ!!
アルゴが苦笑いを見せた瞬間、城内に警報音が鳴り響く。
敵襲──つまりエーテリオンが現れたのだ。
「敵大型艦、ワープによりローメニア近海に出現! こちらへ向かってきます!!」
「奴らめ、アヤセーヌ姫を取り戻しに来たか!」
「来たか! じゃあな、俺は行くぜ! おい、二番艦の火を着けろ! 出航だッ!!」
「くっ、奴め、また勝手に……アールパイスの出航準備を──!」
「待たれよ、ウルカ卿」
カグヤを連れて戻ってきたアルゴは、ブラムに続き出航しようとするウルカを留まらせる。
「アルゴ卿、何故お止めになる」
「ディオス卿は姫を連れて城内下層部へお逃げください」
「わ、わかった!」
「アルゴ卿!」
「奴等にはジャンナがいる。ならばこちらの戦力も知らずに正面から来るなどあり得るはずがない」
「勝てぬと分かった上での決死の覚悟やもしれぬ」
「フッ、決死とは何かを成すためにする覚悟の事、自殺とは違う。奴等には勝つための策がある」
「では、ここで待てと言うのか!」
分からぬ策のために、みすみすブラム卿に遅れをとるわけには。ウルカは焦りを感じアルゴに対し怒声を浴びせる。
「アルゴ卿、ウルカ卿!」
「何事だ!」
「き、奇襲です! ワープによりEGが三機、六番アモール生成工場に攻撃を開始!」
「これが奴等の策か! わかった、今すぐ──!」
「待たれよ、ウルカ卿」
「何を馬鹿なことを申すかアルゴ卿! 奴等の狙いはハッキリした。外の戦艦を囮に、こちらの戦力を削る──」
またも引き留めるアルゴ卿に対し、ウルカ卿はその言葉に対し意義を唱える。
しかし、アルゴ卿はその意義に対し、即座に答えを返す。
「ならば巨大な一番から三番の工場を狙うだろう……わざわざ我らが近くにいるこの六番工場へは攻撃しない……」
「では奴等の狙いは!」
「──だ。工場の敵は私が抑える、ウルカ卿は──」
「言われなくともわかっておる、そちらは任せたぞ!」
「任せよ」
ウルカ卿とアルゴ卿はそれぞれの役目を果たすため別方向へと駆け出した。
この戦いが、最終決戦へと続くとも知らぬまま……。