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第十六話 艦長、決戦──いいえ仲間割れです。

「…………あぁぁぁーっ! カイセル、まだ合流出来ないのか!?」


 当初の計画が破綻し、それどころか最悪と言っていい状態になってしまったディオス。癇癪を起こす彼を、カイセルは慌ててなだめる。


「もうしばらくの辛抱ですディオス様! なにより、アールテーミスはあのダメージではしばらくは航行不能……とすれば、このティーターン、エーテリオンに速さでは劣っていますが、旧型艦故に連続ワープの出来ないエーテリオンとは違い、こちらは連続ワープが可能です! つまり……」

「心配する必要はない、と?」


 カイセルはコクコクと頭を振り、肯定の意思を示す。


「……そうか、ならば今度はこれからの事を考えなくてはな」

「どのように彼等をエーテリオンと敵対させるつもりですか?」

「なに、簡単なことだ。衝撃で記憶を失い、あの星の奴等に利用されていると言えば、どうとでもなるはずだ……問題はジャンナ達だが……」

「アールテーミスの乗員は全て洗脳された、というのはどうでしょう。そうすれば、我らのこの手傷も不意を突かれたと言えば誤魔化せるかと」

「ふふ、カイセル、お前も中々悪よのぅ」

「ディオス様ほどてはありませんよ……」

「何? お前、この私が悪だと言うのか!?」

「い、いえ、そういうつもりでは! あ──み、見えました!」


 二人の悪党がバカをやっている内に、お望みの大部隊がモニターへと映し出される。


「よし、連絡だ、連絡を取れ!」

「ハッ! こちらはティーターン副官、カイセル・G・、どの艦でもよい、聞こえるか!」

『アールパイス艦長、ウルカ・ファウストである。艦に損傷が見られるが、ディオス卿は無事であられるか?』

「は、はい! じ、実はですね──何ですかディオス様?」


 訳を話そうと、ディオスよりもピッチリとセットされた金髪に、正装であるスーツを着こなすウルカ卿に向かって口を開くが、それをディオスは無言で肩をつついて止めさせる。


「話すなら他の艦にしないか? ウルカ卿、嘘とか見抜きそうだし……」

「たしかに……鋭い方ですからね。非侵略派で仲もあまり良くないですし……すみませんウルカ卿、他の艦と代わってもらえないだろうか」

「ふむ……わかった」


 ウルカ卿は内心疑問を抱きつつも、毅然とした態度で話を聞き入れ、言われた通りに部下に指示を出した。


 そして、モニターに次の貴族が映し出される。


 貴族というよりは“海賊”というのが正しい風貌ではあるが……。


「俺だ、アールレウス艦長のブラム・ディム・ブラッドペインだ!」

「ぶ、ブラム卿……」


 ローメニアおいて貴族とは昔から、名声のあるもの、知恵のあるもの、力のあるものがなることを許されるのだが、このブラムと呼ばれる男は、その乱れた赤毛、破れた服装、獣のような顔つきから、力によって貴族となったことは、誰の目にも一目瞭然であった。


「他の艦と通信をお代わり願いたい」

「あぁ!? テメェ、ぶっ殺されたいか!! 俺じゃダメだってのか? あぁん!?」

「ヒッ!」


 カメラ越しから伝わる殺意と威圧感に、思わずカイセルは机の下へと隠れる。


「すまないブラム卿。だが、今回は少々難しく長い話になる……だから、君のその熱意は戦闘で発揮してもらいたいのだが、駄目だろうか?」

「あー……? あー……了解した。少なくとも戦えるってなら文句はねぇ、代わるぞ」


 彼の欠点は、やはり戦闘狂故に学問的分野が壊滅的なことであり、戦い以外の話を聞くということにおいては、九割以上を理解できないほどである。

 自身も苦手であるということを理解しており、ブラムは次の相手に通信を回した。


「ただいま代わりました。ディオス様、ご無事そうで何よりです」

「ああ、えーっと……カイセル」


 眼鏡をかけた会社員のような相手を前に、ディオスは机の下にいるカイセルの名を小声で呼んだ。


「何ですかディオス様」

「アイツ、名前なんだっけ……?」

「アールヘルメー艦長のアルゴ・タレリアですよ。ローメニアの内政を、王無きこの十二年支えられたのは、彼の力があっての事……まあ、他二人に比べて地味ではありますが」

「ああ、そうだったな……いつも部屋に籠ってるせいで、三十路半ばの今もまだ独身の奴か」

「誠実な方ですが……やはり地味ですからね」

「ディオス様、どうなされましたか?」


 よもや、机の下で自分の事をアレコレ言われているとも思わないアルゴは、ディオスの事を気にかけて声をかける。


「い、いやなんでもない。ところでアルゴ、一つ急ぎの話がある」

「話、ですか。何でしょう」

「残念な事ではあるが、アヤセーヌ姫は敵の惑星で洗脳を受けていた……その際、ジャンナは私達を救うためアールテーミスと共に虚を突かれ敗れた……もし生きていたとしても、おそらく洗脳されているやもしれない……とにかく、エーテリオンは敵だ! 発見次第即事迎撃を──」

「えーっと、エーテリオンと言いますと、後ろにいるアレですか?」

「……なに?」


 ディオスはモニターがないにも関わらず、思わず後ろを振り返る。

 しかし、確かにディオスの向く方向からは、1隻の白色戦艦がワープゲートから姿を見せていた。


「目標発見、ティーターンおよび他の艦隊、合流しているようです」

「多いわね……反応次第で戦闘になるわ、逐次準備して!」

「……あー、艦隊、展開を開始。ちょーっと遅かったみたいですね」

「チッ、見積り甘いじゃないのジャンナ。こうなったらプランBよ!」

「あ? ねぇよそんなもん」

「あるでしょうが! 事前の作戦会議で話したでしょうが!」

「命ちゃん、毎度の事ながらふざけてる場合じゃないと思うんだけど……」

「それもそうですね、準備ならできてますよ、艦長」


 命はパパっとキーを打ち込み、あらかじめ用意していたプログラムを起動させた……。


「まさかこんなに早く追い付いてくるとは……だが、少々遅かったな。私の勝ちだ!」

「戦闘は彼等に任せて後方に下がりましょう、ディオス様」

「それが一番ではあるが……鍵を手にするのが優先だ、例の機体は用意できているな?」

「無論です……」

「カイセル様!」

「何事だ!」

「エーテリオン、巨大ホログラム使用し、オープン回線で演説を始めました!」

「なんだと!?」


 モニターに現れたのは、エーテリオンよりも巨大な姿として君臨したローメニアの姫、カグヤの姿であった。


「私はローメニア星現王女アヤセーヌ・ルーナス・ローメニアである。今回の一件、全てはそこにいるディオス・N・バックスによって仕組まれた事であり、我々の敵は他でもない、奴等である!」

「ほう……」


 ブラムを除く二人の貴族は、カグヤの放つ言葉に興味を向け、耳を傾ける。


「諸君らは私が洗脳されただのと根拠のない戯言を吹き込まれたと思うが、それは真っ赤な嘘である。奴はこの私の記憶を消し、更には洗脳し、奴隷にまで貶め、封印された力を独占しようとした極悪人であり、ローメニア繁栄を脅かす敵であるのは明白! この話を聞き、尚も奴に肩入れし、我々と戦うと言う者がいるのならば、こちらも容赦はしない……だが、もしも私の事を信じるというのならば、この戦場から直ちに退け!」

「ハッ! 真実なんてどうでもいい、戦えるんなら戦闘だ、ヒャッハァー!!」

「くっ、艦を退け! そして、ディオス卿には真実を問わなくてはならない」

「この場に停止。洗脳され、立場を利用している可能性がある、出方を伺い行動を再開する」


 三人はそれぞれが思うがままに行動し、その結果は見事に三つに別れた。


「……艦長、ティーターンを除き、一艦が前進、一艦が後退、残り一艦は停止しました」

「全員まとまってくれればよかったんだけど……焔!」

「準備出来てる、いつでもいいぜ!」

「だったら、とりあえず半分は落とすわよ!」


 ニヤリといつもの悪い笑みを浮かべると、机からトリガーを引き抜き前方へと構える。

 艦前方に出ていたホログラムが消えると、そこにはバスター砲の準備を終えたエーテリオンの姿があった。


 ローメニア姫による演説は、全てこのための時間稼ぎでしかなかったのだ。


「エーテリオンより高エーテル反応──バスター砲チャージ完了しています!」

「なにっ!? 回避しろ!」

「くそっ、こっちも回避だ!」

「エーテリオン──ブラスタァァァァァーッ!!」


 アールテーミスとの合体により増えた砲門、エーテル量、そして強化された砲身により、元のエーテリオンとは比にならないほど強力な閃光が宇宙を駆ける。


「くっ、ヤバイよキャプテン、レウスの三割がぶっ飛んだ!」

「うるせぇ、んなもん見ればわかんだよ!! 無事な機体は全機出せ! アモールも全部だ!! 俺もトラキアで出る、テメェらは火ぃ消して後ろ下がれ!」

「ラジャー!!」


 舵を取るビキニのお姉さんはブラムの指示に従い、消化作業を各員に行わせながら艦を後方へと後退させる。


「み、見ろ、やはり奴等は洗脳されている! お前達も早く戦闘に加わるのだ!」

「くっ、まさか姫の姿を使い卑劣な罠を仕掛けるとは……アールパイス前進せよ! あのような奴等、私が出るまでもない、このまま私は指揮をする。各機出撃せよ」

「ふむ、真実は分からないが、このままと言うわけにもいかないか……アールパイスの後ろを航行、微力で構わない、無理しない程度に戦闘に加わり、気楽に戦ってくれ」

「この俺に不意打ちとは面白ぇ、久々に骨のある相手みたいだな……ハハハッ」


 激昂する者、思慮深い者、嬉々とする者、そしてそんな三人に慌てて命令を下すディオスとの、初の宇宙戦闘が始まった。

 

「なあカグヤあのまま演説しとけばなんとかなったんじゃないか?」

「無理よ、この短時間で考えて覚えられたのがアレよ? これ以上長い演説なんて考え付かないわよ。それにやっぱりバトった方がハッキリ決着つくじゃない」

「……アレ、お前の故郷の奴らってこと忘れてないか?」

「ディオスに騙されるようなバカなんて知ったことじゃないわよ!」


 お前もその一人だっただろう。飛鳥は発進準備を整えながら、ティーターンに乗ったカグヤのことを思い出す。


「まあいいか……神野飛鳥、出るぞ!!」


 バスター砲形態により前方カタパルトが使用できない為、後ろ向きに取り付けられている第三カタパルトからアマツは宇宙へと突入した。


「これが宇宙か……ヘッ、いつもより動きやすいな!」

「またアイツは勝手に……」

「こちらも新型だ、追いつけるさ──神崎刹那、参る!!」


 見た目が大きく変わらないスサノオとツクヨミ。しかし、その中身はキチンと新型のアルテリアスへと変貌し、性能は天と地ほどの差が出来ていた。


「最近良いとこ無しなんだ、久々に暴れるぞ!!」

「言われなくてもわかってんだよ!!」

「ああ……またこの隊か」

「大丈夫、私が守るから」

「……庇って死ぬとかは止めろよ?」

「その時は代わりに三蔵が庇ってくれる」

「……それ、俺を庇う意味ないよな? 結局被弾するの俺だよな!?」

「「うるせーぞタコ!!」」


 零と宗二どころかシャロにまで振り回される三蔵は、思わず頭を抱え、胃に穴が出来ないか心配になった。


「武装が増えても機動力が上がっている、これがアルテリアスの力か……」

「行きましょう、相馬さん」

「ああ。緑川、黄瀬、そっちは行けるか」

「問題なし」

「大丈夫です!」

「よし、ではいくぞ!」


 動く武器庫と化していたレッドを筆頭に出撃する相馬達。カラフルな四機は黒一色の宇宙であっても目立って見えている。


「ジル、レイ、リーヴェスの準備はいいな?」

「動作異常ありません」

「こちらも大丈夫です」

「あのバカにリーヴェスの扱いだけは遅れを取るわけにはいかないからな……全力で迎撃せよ!」

「了解!」


 ヘイラー、ガメイラ、テレイアは本来の適性通り、宇宙専用武装であるリーヴェスを新たに機体へと取り付け、第四部隊としてエーテリオンメンバーの後ろを追う。


「全機出撃を確認」

「だったらこっちも撃ちまくりよ! 伊達に砲台の数が増えた訳じゃないってことを、知らしめてやりなさい!」

「バスター砲状態から通常状態に移行、二連装エーテル砲五門、単一小型エーテル砲六門、対空砲全門、各ミサイル発射装置異常なし、オッケーだぜ!」

「時間さえあれば弾は精製炉で作れるわ、出し惜しみは無しよ! 全砲門ってぇぇぇーッ!!」


 久々の全力攻撃に心から昂りご満悦のカグヤは、もちろん味方の事など考えなしに、出撃先である全砲の火力を前方一点に集中させる。


「ったく、強化されて驚異度増し増しだなカグヤの奴……そんじゃ、その主砲利用させてもらうぜ──リーヴェス、リフレクトモードッ!」

「まったく、更に器用な事をする……こちらは一芸しかないと言うのに!」

「一芸もない奴もいるんですからねッ!」


 実体剣からエーテルブレードへと鞍替えした刹那は、迫るアモールを次々と切り払っていく。

 剣の形が不定ということには文句があるようだが、その切れ味だけは素直に認めていた。


「ハッハッハーッ! 落ちろ落ちろーッ!!」


 パワーアップを遂げ有線から無線式となったリーヴェス式両腕を持つアインは敵を次々に蹂躙し、腕が無くなり無防備と言われていたコアユニットは機体を変形させ、両足を爪代わりにした大型クロー付戦闘機へと豹変し、敵を残虐にチョンぎっていった。


「死にやがれカトンボがーッ!!」


 片腕がガトリングだったツヴァイは利便性を見直し、ガトリングを腕の側面へと取り付けるように変更されたが、エーテル弾により容量が増えたことをいいことに、今度はレッドとドライをリスペクトしたかのように、肩、胸、膝、バックパックと、至るところにガトリング砲を取り付けられ、その凶悪度はアイン同様に増していた。


「くっ、あの二機は危険だ、あの動きのノロい奴を──」

「ショッギョームジョー、ワザマエ」


 敵の背後から突如現れた“六機”のフィアーが、敵の持つライフルを短刀で断ち切った。

 本体を除く残り五機は、近接型リーヴェスにホログラム装置を取り付けた分身であり、実体はないが、ステルスにより突然現れた敵の正体を見破るほど、敵も冷静ではいられなかった。


「ど、どこから……!? それに分身だと!? くっ、銃がなくとも目標は変わらん、近接戦で!」

「六機ですか……その倍はいけますよ、このドライなら」


 数十の刃がドライを囲む機体の腕や頭を貫いた。

 改装により、隠し腕から隠しエーテルブレードへと内蔵物が代わり、五指や関節と至るところに積載した結果、むしろ体のどこが武器でないのかを見極めるほうが困難となっていた。


「みんなよくやっているな──私だって!」


 弾幕の濃さだけならば、旧エーテリオンと同等の力を持つレッド。

 しかし、その弾幕を潜り抜け、接近する機体が一機存在した。


「ったく、いつまでも調子に乗ってんじゃねぇーぞ!!」

「何っ、あの弾幕を避けてきただと!?」

「このトラキアが、他の雑魚と一緒だと思ってんじゃねぇぇぇよ!!」

「相馬さん!」


 相馬への接近を阻むよう、トラキアの頭上から貴理子のブルーがライフルを掃射して相馬の前へと割って入る。


「チッ、いい動きする奴もいるじゃねぇか……だが、戦いかたがヌルいんだよ!!」

「しまっ──くっ!」

「貴理子! 貴様ッ!」


 腕から発射されたニードルがブルーの左腕へと突き刺さり、時間差により爆発を起こす。

 寸前で腕を切り離しはしたが、その爆発は機体を揺らし、相馬はそれを見て怒りと共に前へと出る。


「相馬さんは下がってください!」

「君を置いて、隊長である私が退ける訳がないだろう!!」

「せっかくの好敵手だってのに、邪魔するんじゃねぇよ!!」


 至近距離からの全弾発射。通常なら避ける事など不可能に近い行為を、目の前の男はやってのけ、腕から生えた獣のような爪をレッドのコックピットに向けて降り下ろす。


「──ッ!?」

「相馬さん……よかった……」

「貴理子!?」


 直撃を免れない攻撃は、レッドを突き飛ばし盾となったブルーへと命中し、機体の半分を引き裂いた。


「庇う、か……つまんねぇ奴だな。そんな雑魚、お前のかせにしかなってねぇじゃねぇか」

「私が……枷だと」

「そうだよ。観察眼、反応速度、操縦技術、何もかもテメェはコイツよりも劣っている」

「そ、そんなはずは……私は隊長だ……」

「ハッ、所詮指揮能力だけが高くて抜擢でもされたか? まあ、戦況判断は甘いみたいだがな、このクソ野郎が!!」

「くっ──!?」

「二人まとめて死ねやぁーっ!!」


 左右から繰り出される鋭利なクローは、一塊になったレッドとブルーを両断しようと襲いかかる。


 ──しかし、次の瞬間に両断されたのは二人ではなく、二本の腕であった。


「何っ!? トラキアの腕が!」

「動けない奴にトドメ刺す必要はねぇだろうがよ、このクソ野郎が」

「飛鳥……?」

「貴理子を連れて下がれ、委員長」

「だが、お前一人では!」

「一人で充分だ」

「バカを言うな、お前は私と同じ程度の実力ではないか! いつも私と戦って──」


 一人で暴れては止めに入り、互いによく戦ったからわかる、飛鳥の実力。

 彼の操縦技術は自分とは変わらない。最近活躍しているのはたまたま運がいいからだ。そう思っている相馬だったが、飛鳥は状況が状況だけに、バッサリと切り捨てた。


「……悪い、委員長。あれ、ずっと手抜いてやってんだ」

「なに……?」

「パイロットの中でお前が一番危険だと思った、大輝には刹那、三蔵には零か宗二、今ならシャロがいる。黄瀬と緑川は二人いれば互いに補える……お前には貴理子がついていれば大丈夫だが、貴理子の力を発揮させるには、自由にやらせるのが一番だ……だから一番安全だと思う場所にお前を置いた……ただ守りに徹する貴理子と違って、俺なら戦いながら守れると思ったからな」

「ふ、ふざけるな! そんな、バカなこと──飛鳥!!」

「余所見してる暇あるのかよっ!!」


 予備腕を取り付け、襲い掛かるトラキア。

 しかしその鋭い攻撃も、仲間を傷つけられた事により本気を通り越して覚醒状態である飛鳥には止まって見えた。


「邪魔だぁぁぁーッ!」

「くっ、コイツ──俺より強いだと!?」


 リーヴェスにより腕を、足を、頭をもがれたブラムは、悔しさと共に脱出装置により爆破寸前の機体から逃げ出し、三人を残してその場から去っていった。


「わかったろ……もう下がれ、相馬」

「っ……ああ、わかった」


 悔しさに唇を噛みながら、傷ついたブルーを担ぎ、Rエーテリオンへとゆっくりと向かっていった。


 ……



「敵、三割を無力化。いいペースですね」

「フフン、これが強化された私達の力って奴よ」

「艦長、かなり慢心してますね、変なこと起きなければいいけど……」

「光、そう言うことは言わない方が……!」


 フラグというのは立てばたいてい起きてしまう。そう感じながら、命は画面に現れた警告に反応してカグヤを呼ぶが、少し遅かったようだ。


「艦長──!!」

「ストーップ、ストーップ、攻撃を止めたまえ、エーテリオンの諸君」


 ブリッジの上に突然、ディオスの乗るアルテリアスが現れた。


「チッ、セコい事してくれて……」

「君をこっそり連れていくための最新鋭のステルス機という奴だ、大した武装はつめないのは欠点だけど、ブリッジくらいなら叩き潰せるよ、カグヤ姫?」

「あーやだやだ、姑息な奴ってこれだから…………で、私がそっちにいけばいいのかしら?」

「ああ、そうだ。そすれば仲間の命は助けてやろう」

「でたー、助ける気ないのに、助けるとかいう子悪党」

「命ちゃん、聞こえたら本当に殺されるから黙ってて……」

「うぃーっす」


 緊張感など欠片もない命を、フラグを立てた張本人である光が静かにさせる。


「命、カメラ繋げて」

「はい、どうぞ」

「何か──おい!」

「やっぱり、困るわよね? 出ていくまでにこの艦に何かしたら容赦なく自害してやるから、そのつもりでいなさい!」

「くっ、わかったよ」


  できるはずがない、とは思うものの、頭にに銃を当て、何か事故が起きないとも限らない。ディオスはカグヤの行動と言葉に仕方なく従うことにした。


「そのまま脅して、助けが来るのを待っていれば? どの道ブリッジに手出しは出来ないんですから」

「ブリッジ以外の乗員を人質に取られたらどうにもできないでしょ?」

「艦長……」

「大丈夫よ──って私が言うのもおかしいか……ちゃんとお姫様を助けに来なさいよね!」

「自分の事お姫様って言いますか? 普通」

「なによ、本当に姫なんだからいいでしょ!?」


 カグヤは足音を強くならしながら命に近づき、顔を近づけて文句を言う。

 そして、次に命の耳元に囁きかけた。


「──アールテーミスと合体して私がいなくてもエーテリオンは動くから……後は任せるわよ、命」

「……勢い余って死んでなければ助けますよ、艦長」


「相変わらず適当なんだから」と笑うカグヤに「それが私ですから」と命も素直に笑ってカグヤを見送った。


「……出てきたか」


 着なれない宇宙服へと着替え、体を無重力に任せながらディオスの機体へとゆっくりと流れていく。


「ようこそ、我が機体へ──その前に危険物は没収する!」

「ちょっと、どこ触ってんのよ! 変態! ロリコン! ペドフィリアーッ!!」

「うるさい、十六ならペドは関係ないわ! コホン、さて、これで自害される心配はなくなったわけだ」


 取り上げた銃を宇宙空間へと放り投げると、ハッチを閉めカグヤをコックピット内へと閉じ込める。


「舌噛みきって死ぬわよ」

「ギャクボールがご所望なら持ってきてますが?」

「やっぱり変態じゃない……くっ、なにすんのよ!」


 後ろの座席へとカグヤを押し込むと、その腕と足は座席のベルトにより拘束され、身動きがとれなくなった。


「暴れられて操縦の邪魔をされても困るのでね。さて、腹いせにブリッジでも……」

「アンタ、話が──!」

「散々私を振り回してくれた罰だよ! 僕は君の絶望した顔が見たいんだ──!!」


 アラート音を聞き、急いで回避をするディオス。数発の弾丸がブリッジを掠める。


「エーテリオンはやらせん!」

「くっ、当たったらどうするつもりだ!」

「黙れ! お前と月都カグヤの犠牲でこの戦いは終わらせられるんだ!! だったら!」


 次弾装填を終え、再び銃口をディオスへと向ける相馬のレッド。

 その行動にディオスはカグヤに問い詰める。


「どうなっているんだ、君の仲間は!?」

「脆いメンタルぶっ壊されて錯乱してるわね……アンタ、もう一回姿消して何とかしなさいよ、じゃないとマジで死ぬわよ?」

「あれはエーテル使用量が多い……あと一分は使えん!」

「こんなとこでアンタと死ぬなんてゴメンよ!」

「私だってそうだ! だが、この機体では……」


 再びアラート音が鳴り響く。

 この至近距離からの射撃、ブラムのトラキアならば避けられたであろうがディオスのアルテリアスではまず避けられる訳がなかった。


「落ちろーッ!!」

「はあ……仲間に落とされるなんて、皮肉なもんね……」

「くっ、こんなところでぇぇぇーっ!!」


 死を覚悟した二人であったが、レッドの放とうとした武器がいくつか破壊され、相馬は思わず攻撃を中断する。


「何っ、敵の増援か!?」

「味方の参入だ……このクソ野郎が」

「飛鳥!」


 リーヴェスを翼に戻し、癪ではあるがディオスのアルテリアスをレッドから守るように間に入る。


「ディオス、お前の機体を達磨だるまにしてやることもできるが、後ろからあのバカにバカスカ撃たれれば確実にできるとも限らない……だからこの場は何とかしてやる、その代わり大人しく帰れ」

「神野飛鳥! 貴様敵を庇うのか!?」

「黙れよ、今の俺の敵はコイツじゃねぇ……テメェだ!」

「くっ──神野飛鳥ぁぁぁーッ!!」


 レッドとアマツによる“一方的”な戦いが始まった。


「なんだかわからないが、今がお言葉に甘えるとするか……各艦隊よ、エーテリオンからアヤセーヌ姫を奪還した、残存部隊を殲滅せよ!!」

「アンタはことごとく……」

「ハッハッハ、戦いに綺麗も汚いもないのだよ」


 助けてもらおうがなんだろうが、自分の成すべき事は変わらない。ディオスは高笑いと共にカグヤを連れてその姿を消した。


「どどど、どうしよう命ちゃん!?」

「ま、とりあえず退きますか、このまま戦ってもアレなんで……全機撤退、出来ればこちらの喧嘩も止めてくだ──あ、決着つきましたか」

「クソっ! クソっ! クソぉぉぉーっ!!」

「チッ、今から探すのは無理か……」


 半壊状態のレッドとブルーを格納庫へ送り、敵地を見るが、もうディオスがどこにいるかを見つけ出すのは不可能であった。


「後続の二隻からバスター砲反応……光、ワープ準備」

「場所は!?」

「お好きなところに」

「そんな適当な!」

「私はいつも適当ですから……距離は、えーっと」

「結局指示するなら先にしてよ!」


 振り回されながら移動先を入力し、艦のエーテルをワープにへと回す。


「アールバスター、発射三十秒前」

「ヘルメーとの発射タイミングを完璧にしろ!」

「ふむ……恐らくあちらが合わせてくれるだろうから、こっちは普通に発射しようか」

「了解」


 アールパイスとアールヘルメーは横に並び、共にエーテリオンに向けてその準備を整える。

 カグヤと違い必要レベルのチャージを済ませ次第発射を行う二隻の攻撃は、劇的に早かった。


「アールバスター発射!!」


 二つの閃光が一つになり、デブリを消し去り、螺旋を描いてエーテリオンへと突き進む。


 だが、今艦を任せられている少女は、小賢しさで言えばカグヤよりも勝っていた。


「ワープゲートにはこういう使い方もできりゅぅぅぅー、っと」

「すごい、ホントに防げた!」

「防ぐだけじゃないんだなーこれが」


 フフフ、と悪そうなドヤ顔を作ると、彼女の意図した通りの事が敵の身に降りかかる。


「やったか?」

「──側面よりバスター砲反応! ワープゲートにより転移して来ました!!」

「なんだと!? 回避せよ!」

「これは、一杯食わされたかな……」


 二隻の放ったバスター砲は、二隻の側面から現れ、艦の一部を抉り、破壊する。

 威力を抑え、二発目も撃てる状態であったが、この反撃によりそれは不可能となった。


「これも次元連結ワープゲートのちょっとした応用ってやつ? さ、感動してないでもう一個のワープゲートでワープ、ワープ」

「はっ、はい!」


 あらかじめ反撃とは違う移動用のゲートを作っておいた命は、だだっ子のように光に指示を出し、移動を促した。


「ちっ、逃がしたか」

「気にするなウルカ卿、姫は手にしたのだ、後はどうとでもなる」

「そうだと……よいのですが……」


 ウルカ卿は今日の戦闘を見て、少数ながらの敵の強さに、慢心を抱くことはできなかった。


「しかし、ジャンナめ、あれほどのアルテリアスを持っていたとは聞いてないぞ……」

「は? あれはあんた達──」

「ディ、ディ、ディオス様、ご無事ですか? 早くお戻りになってください、皆心配しておりますので!」

「わかっている……まあ、いいか」


 アルテリアス程度の機体、扉の先に待つ力さえあればどうにでも……。ディオスはカグヤを横目で見て、夢の実現を確信した。

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