第十五話 艦長、決戦準備です。
「……さて、これからの事を話し合いましょうか」
エーテリオンにカグヤが戻り、アールテーミスの消火作業も終え、一段落を迎えた一同は教室へと集まり、今後の“進路相談”が始まった。
「まず繁先生、あのバカが落としていったアルテリアスの状態は?」
「十機は掠り傷程度で運用には問題ない、残り五機は完全にスペアパーツにしかならねぇな」
「ジャンナ、アールテーミスの炉は無事なのよね?」
「稼働には問題ありません。しかし、アールテーミスは先ほどの砲撃により、戦闘運用は修理完了までは難しいかと判断します」
「その件はあとでとして……先生、あの製造炉が使えるとして、アルテリアス用のプランはあるのかしら?」
そのカグヤの質問に、繁は聞くまでもあるまい、と自信満々の顔を作り、全員の目の前で高らかに宣言する。
「全パイロット用の強化プランなら既に完成済みよ! 一機数十分として二時間連続運用すれば無事におわるぜ」
「そっちはオッケー……っと。ジャンナ、アールテーミスの修理完了までの時間はどれだけかかるの?」
「炉を使い、そちらの整備員をお借りしたとしても一ヶ月はかかるかと……」
「そう……ティーターンがローメニアに到着するまでに追い付くには、いつまでに出発すればいいの?」
「ティーターンはあの大きさ故に航行速度は遅いですが、ローメニアへの到着よりも、後続の主力との合流を果たし、敵に回る事が第一の問題だと考えます」
「主力……?」
てっきりティーターンが主力艦と考えていたカグヤは、ジャンナへ聞き返す。
「はい、ディオス・N・バックスも王族となろうとしていた身……その身体にもしもの事があっては、ローメニアを継ぐ者がいなくなり、戦争が起きてしまいますから、いつでも救援に迎えるように待機しております」
「合流前に叩くには何日の猶予があるかしら」
「長く見積もって……一週間かと」
その絶望的な数字を聞き、アールテーミスの乗員は皆暗い表情をする。
アールテーミスの修理をしていては、まずディオスには追いつけない。自分達の姫を守ることが出来ず、それを悔しく思っていた。
──そんな時、再びこの男が立ち上がり、こんなことを言った。
「ったく、揃いも揃って暗い顔して……なああんたら、ニコイチって知ってるか」
「繁先生……?」
「いや、いい加減機体だけってのも飽きてきてたところでな、少しステップアップしたことをしてみようかとな」
「なんなのだ、その……ニコイチというのは?」
聞き慣れない用語に戸惑うジャンナは、アールテーミスの代表として、怪しい笑みを浮かべる繁に恐る恐る尋ねる。
「言葉のままだよ……修理するにあたって、二つの損商品物を合体させて一つの完成品にする……まあ、今回の場合は修理通り越してパワーアップまでするつもりだがな……無論あんただけじゃなく、ウチの艦長の許可もいるが……な?」
「フン、私が認めないと思ったわけ? いいじゃない、やれるだけやってもらうわよ、先生。いいわねジャンナ」
「は、姫様の思うがままに……」
もちろん期限内でね、と繁に付け足して命令すると、繁は時間が「時間がおしい」と言って、整備班、整備員を全員連れて、部屋から出ていった。
「さて、それじゃあこれからの一週間の話をするわ」
「戦闘訓練か」
「それは最終日近くでいいわ。これからの決戦は今まで以上の戦いになるわ……だから、整備班には悪いけど、私達はこれから三日ほど休みを取って、日本に帰るわよ」
「決戦前の里帰り、というわけか」
「ええ、ただし一つだけ言っておくわ……」
本来ならば言うべきではない言葉だろうが、エーテリオンは軍ではない、だからカグヤは思い切って彼等に向かって言葉を続けた
「エーテリオンの帰還は自由よ、そのまま残りたいなら、残ってても構わないわ」
「……カグヤさん」
「いいのよ命、身内問題で関係のない人に死んでほしくないだけよ……艦長としてね」
「ハッ、何が関係ないだよ!」
「俺たちは元々お前の起こした問題の為に戦ってきたんだぜ? だったら、関係ない奴なんてこの艦にはいねぇよ、最初っから全員お前の関係者──エーテリオンのクルーだろ?」
「飛鳥……」
「大丈夫だって、全員帰ってくる、いや、残るとか言った奴は俺が無理矢理でも連れて帰る!」
「フン、馬鹿馬鹿しいな」
飛鳥を鼻で笑いながら立ち上がった相馬は、突っかかるような言い方でそう言った。
「月都カグヤ、君は艦長として我々を理解していないようだな」
「……え?」
「この場に今更逃げ帰ろうなどと思う者は誰もいない、という意味だ。艦長ならばそれぐらい察しろ」
「あっ、察し……ついにデレ期ですか、相馬さん」
「命ちゃん、察するなら場の空気を察しなよ」
「おっと、こりゃ一本取られた」
場の空気を変えたかったのか、それとも素でやっているのか、命のいつものノリは、結果的に場の空気をいつものエーテリオンに戻していった。
「まったく、ホント真面目に話すのがバカらしくなるわね……はいはい、この話もうおしまい! 時間はないのよ、とっとと支度して帰るわよ」
カグヤはエーテリオンの空気に飽きれ、全員を解散させ、会議を無理矢理終わらせた。
そんなエーテリオンの空気に助けられた少女は、皆の退出する背中を見て、一層最期の決戦に対する気持ちを強く持った。
……
アールテーミスに搭載されていた輸送船により、二隻が改修を受ける中、生徒達は故郷の地に数ヵ月振りに帰ってきた。
各々が家に帰り、再会を喜ぶと、少しの休みを楽しんでいた。
「……それなのに、なんでアンタはここにいるのよ」
「フッ……主人公たるもの、帰る場所もなく、孤独を愛するものさ──って、置いてくなよ!」
「だったらどっかの河川敷で捨て犬とでもじゃれてなさいよ」
「それは主人公よりもキザなライバルがやることだ」
「んなこと知らないわよ」
何のために休みをあげたと思っているんだ。カグヤは自分について来る平常運転の飛鳥を見て、コイツが主人公バカだと再認識する。
「しっかし、やっぱり周りの家全部デカイなぁ……お前の家、もしかして城だったりするんじゃねぇの?」
「たかが総理よ、国王でもなければ群を抜くほどのお金持ちでもない、選挙で選ばれて国の行く末を周りから文句言われない程度に管理してるだけ。あんな奴、凄くもなんともないわ」
「酷い言われようだな……一応は父親だろ?」
「どうだか……エーテリオンに必要な存在だから、大事にしたかっただけじゃないかしら」
「……それでも、あのオッサンはあのオッサンなりにお前のこと大事にしてるんじゃないのか?」
悪い方、悪い方へと考えるカグヤを説得するように、帝の事をフォローする飛鳥。
しかし、それはかえってカグヤを怒らせる結果となってしまった。
「なんでそんなにアイツの肩持つのよ……ずっと黙って育てられたのよ? エーテリオンに乗る前も、乗ってからも、ずっとアイツは父親面して接して──あんな奴、父親でもなんでもないわよ!」
「……か、カグヤ」
予想外の剣幕に圧された飛鳥はカグヤの名を呼ぶも、何と言おうか少し黙ってしまう。
「…………でも、そんなこと言ったらお前の家族はもう……」
元気付ける言葉も思い付かず、思わず正論を口から溢す。
数十年カグヤを育てた帝。その妻はカグヤが現れる以前に失っており、カグヤは片親の家で育てられていた。そして実の父は暗殺され、ローメニア王家の生き残りは彼女を残して他にはいない。
カグヤが帝を切り捨ててしまえば、彼女は家族を失い、一人になってしまうのだ。
「一人だって大丈夫よ……ほら、着いたわよ」
カグヤがそう言って扉の鍵を開けたのは、飛鳥から言わせれば充分デカイ一軒家であった。
「大丈夫、か……んなわけないだろ」
感傷に浸ったような顔をする飛鳥は、彼女に聞こえないように呟いた。
ズカズカと廊下を進んでいくカグヤを追って、家の中を進んでいくと、廊下の奥に存在する木製のドアをカグヤは力任せに叩き開け、その部屋へと入り込んでいった。
書斎と称するのが合っているその部屋には、机に両肘をつけ、手を組んだ帝が待っていた。
「……よく来たね、カグ──」
「なにカッコつけて待ってんのよ、このクソジジイがぁーっ!!」
「ぐっはぁっ!!」
接客机を踏み台に書斎机を飛び越えて、憎き相手へとドロップキックを顔面に喰らわせる。
「ちょちょちょちょ! 真面目な話しに来たんじゃないの!?」
「うっさいわね! だったら普通に待ってなさいよ、なに子供を利用しそうな父親のポーズして待ってんのよ! 似合わないのよ、アンタには!」
「ま、まぁカグヤ、とりあえず話を聞こうぜ。このままだったらお前、文句だけ言って終わりそうだし……」
「……チッ、わかったわよ。我慢してアンタの言い訳を聞いてあげるわ」
マウント状態から拳を降り下ろそうとしていたカグヤはその手を止め、渋々話を聞くことにした。
もしも飛鳥が止めなかったら本当に殴るだけ殴ってエーテリオンに帰っていただろうと、少し衝動的だった自分を反省する。
「あ、ありがとう、飛鳥君……さてと、それでは何から話すべきかな」
「最初から、全部よ!」
「そ、そうだね……ゴホン、それじゃあエーテリオンを見つけた時の話からしようか」
倒れていた椅子を元に戻し、二人と向き合いその口から過去の話が語られる。
「十二年前、エーテリオンが日本へと墜落した。幸いにも艦の自動着陸システムが作動したおかげで、辺りに被害はなかったものの、その存在は政府としても扱いに困ったものだ……しかも、中にはまだ小さな少女が倒れているときた」
「……私ね」
帝は無言で首を縦に振ると、話を続ける。
「それからエーテリオンの大半を分解、解析が始まった……幸いにも様々なマニュアルが文献やデータとしてあったから、語学解析をすることで幾分か楽にエーテリオンやEG、エーテルについては知ることができたから、WC──いや、ローメニア星軍の侵略に対して秘密裏にEGを量産し、戦闘に備えたわけだ……」
「秘密裏にやってアレしかできないなら、最初から合衆国に渡せばよかったじゃないの」
自分達を苦戦に追い込んだEG部隊や、そのパイロット達を振り返り、正論を述べるカグヤだったが、帝は素直にその言葉を受け入れず、苦し気な表情で反論をする。
「……たしかに、戦うためならそれでよかったかもしれない──けど、そうなると、エーテリオンと共にカグヤちゃんを送る事になってしまう……そう思ったから、私は他所に頼らなかった。エーテリオンで発見された君が、行った先で普通の生活を送れるとは思わなかったからね」
「…………」
カグヤはその言葉に何も言うことができず、ただ複雑な表情で帝から目を反らす。
「……ちょうど数日前に、私は出産前の妻を病気で亡くしていてね。その時は身寄りのない君を助けたいと周りに言って引き取ったが、単に私は君にその埋め合わせをしてほしかったんだ……でも、いや、だからこそ、私は我が子と同じように君を育て、エーテリオンやローメニアとは関わらないようにするつもりだった……でも、いくら探してもエーテリオンを起動できる──君の代わりになれる人物は現れなかった!」
強く握りしめた拳を机にぶつけ、帝は感情的に悔しそうな声を挙げた。
「十数年経って、ようやくエーテリオンの準備が整い、能力を持つものによって人員は選定された……もちろん、結果は今と代わらない。僕は君を戦いから遠ざける事に失敗したんだ……だが、それでも私は諦めなかった。合衆国なら、イレギュラーではあったが世界中の能力者なら、君に代わる存在を見つけ出せて、君を艦から──戦いから降ろさせると思った……もっとも、そこのエースパイロットを筆頭に望みはことごとく粉砕されたけどね」
「……」
いつもならば、エースパイロットなどと呼ばれればデレデレと喜ぶ飛鳥だが、話が話だけに、反応を返すことができずに押し黙る。
「……帰るわよ」
「カグヤ、いいのか? まだ十分も経って……」
「いいのよ、聞きたいことは聞けたから……それに、アンタだってバカな事言ってないで、実家に戻る必要あるでしょうが。時間は限られてるの、急ぐわよ」
「カグヤちゃん!」
飛鳥を無理矢理引っ張って部屋から出ていこうとするカグヤを帝は呼び止める。
カグヤ自身も思う事があってか、ピタリと足を止める。
「帰って……きてね」
「ッ! なによそれ、私が戦って死ぬと思ってるの!? それとも私達が負けて、めでたくお姫様に戻っちゃうとでも思ってるの!?」
「い、いや、そういうわけでは──!」
扉を開けたカグヤであったが、帝のその言葉を聞くと、回れ右で帝に掴みかかる勢いで戻ってくる。
「だったら、自分の娘の事ぐらい信じて、親らしく待ってなさい! いいわね!?」
言いたいことを言い終えると、飛鳥の腕を再び掴み帝の元から去り、扉をバタンと音を立てて閉ざす。
「カグヤちゃん…………ありがとう」
椅子に腰かけた父親は、娘の放った言葉に対し、一人そう呟いた。
「本当にもっと家にいなくてよかったのか?」
「いいのよ……聞きたいことも聞いた、言いたいことも言った。今が一番未練も後悔もないから……」
「カグヤ……」
飛鳥から顔を反らして鼻をすするカグヤ。これ以上何かを言う必要はないと、飛鳥は黙って顔を見せたくない少女の真横を歩いた。
「……さてと、それじゃあ行くわよ」
「どこに?」
「アンタの家に決まってるでしょうが、こっちだって招待したんだから、それぐらいいいでしょ?」
「招待って……」
書斎に案内され、もてなしなどないままに、気まずい空気の中話を聞き、十分ほどで外に出る。
招待と言うにはあまりにも酷いものであった。
「まぁ、いいか……大事な話聞いた以上、“こっちも”話した方がいいよな」
「飛鳥?」
「地獄からの囁きだ、気にするな」
「……厨二病乙」
エーテリオンから出たときよりも、明るい顔つきになっていたカグヤは、バカな事を抜かす飛鳥にその言葉を送った。
しかし、飛鳥は反論することもなく、ただ家までの道のりを歩いていった。
……
住宅街の中にポツンと存在した少し古いワンルームアパート。その扉の鍵を飛鳥は開けた。
「ほら、俺の家だ。狭いだろう」
部屋にはベッドと机と衣服用のカラーボックスに漫画だらけの本棚だけが寂しく置かれていた。
「狭いだろうって……アンタね、家に帰るっていったのに、なんで下宿先に案内すんのよ!」
「いや、下宿じゃなくて、ここに住んでるんだって、俺」
「あのねぇ、こういうのは一人部屋って言うの! だいたい、ベッド一つだけしかないのに、他にどこで寝るのよ!? なに? この押入の中? アンタの家族は未来から来た青タヌキか……って、の……」
他に寝られそうな場所を探し、勝手に部屋の押入を開けたカグヤは、それを見て口を止めた。
「ああ、そうだな……家族はそこで寝てる……他に場所がないからさ、お前と違って裕福でもないから、ちゃんとした家に住めないしさ……」
押入には二つの写真立てと、必要最低限の物が揃った小さな小さな“仏壇”が置かれていた。
「飛鳥……?」
「お前と同じだよ、俺は小学生の時、両親を──いや、クラスメイトとその家族を、みんな失った」
「……ローメニアのせい?」
カグヤは、その原因を自分が作ったんではないかと、恐る恐る飛鳥に尋ねる。
肯定された時、自分はどうすればいいのだろうかと思考するが、答えが出ないどころか、殴られたように頭がクラクラした。
「いや、カグヤもローメニアも関係ない。ただの事故だよ。家族同伴の臨海学習の帰りに、バスが崖に落ちた……で、俺だけが生き残った──ただそれだけだよ……漫画だろ」
飛鳥は鼻で笑い、皮肉めいた事を言う。
「俺はそれから一人になった。ずっと家に帰れば、学校にいけば誰か帰ってきてる、生きているって、しばらくは信じてたけど……やっぱり現実は変わんなかった……で、まだ小学生の俺は、大好きな特撮を見ながら言うわけだ、なんでみんなを助けてくれなかったのー? ってさ……ヒーローなんて実在しないのにな」
日頃から主人公という言葉を連呼する少年とは思えない発言に、カグヤは絶句した。
「……でもその番組でさ、ちょうど最終回でサポート役のモブが言ったんだ、ヒーローが現れないなら、自分がヒーローになればいいってな……まぁ、無謀に敵に向かう前にちゃんとヒーローは現れたけど──」
「ちょっと待って……まさか、アンタが主人公主人公うるさいのって──」
「まあな。まあ、俺は元からモブじゃなくて主人公だけどな」
「……はぁ、アンタはやっぱりアンタね」
暗い空気を変えたかったのか、それとも巣で言っているのかわからなかったが、そういうことを言えるのがこの男なのだと、カグヤは呆れ混じれに小さく微笑む。
「……カグヤ、一ついいか?」
「なによ、まだ何か言うことあるの? 言ってみなさいよ」
「俺、お前が好きだ」
次の瞬間、飛鳥の背後へと回り込んだカグヤは、無意識のうちに裸絞めを決めていた。
「場の空気をなごませたくて冗談言うにも、もっとマシなこと言いなさいよ!」
「じょ、冗談でこんな──あががが、絞まってる、絞まってるぅぅぅーっ──痛ぁーっ!?」
「うっさい黙れ! だ、だいたいアンタが好きなのは綾瀬さんでしょうが!」
「あ、綾瀬さんはアレだよ人気アイドルの推しメンみたいなアレで、恋人とかじゃなくてだな! と、とにかく俺はお前が好きなんだよ! はじめて会ったときから気になってたんだよ! 部屋同じでお前の匂いがするだけで、心臓張り裂けそうで二、三日は寝れなかったし、風呂覗いて胸触った時なんて、同部屋じゃなければ間違いなくその日に“オカズ”にして抜いてたたぞ!?」
「本人の前でオカズなんて言うなんてバカじゃないの!? ああ、バカでしたねアンタは! バーカバーカ!」
「くっ! で、どうなんだ、付き合ってくれるのか? それともダメなのか!」
「うぐっ……一つだけ、一つだけ聞かせて」
真剣な表情で迫る飛鳥にたじろぎながらも、カグヤは一つの質問を投げ掛けることにした。
「……なんだ」
「その日ってことは、私をオカズにしたことはあるのね?」
「……四か──ぐはぁっ!!」
隠さずに正直に打ち明けた瞬間、カグヤの照れ隠しと怒りの右ストレートが容赦なく飛んでくる。
「アンタってやっぱり最低のクズだわ!」
「仕方ないだろ! 思春期の性欲は伊達じゃないんだぞ!?」
「知るか! もう帰るわよ」
「まてよ、答えは!」
「…………」
殴り飛ばした飛鳥を置いて部屋から出ようとしたカグヤを、すかさず飛鳥は呼び止める。
カグヤは少し黙った後、振り返って──
「この戦いが終わったら、答えてあげる」
フラグを立てた。
「それ、ロボット者で言ったら必ずどっちか死ぬやつじゃねぇか!!」
「なに、アンタはフラグを立てられたら死ぬような主人公なの? フラグを立てられたら私の事を守れないの? 主人公名乗るなら今まで通りどんなフラグもへし折ってみなさいよ! そうしたら、アンタを主人公って認めてあげるわ」
「……へっ、上等じゃねぇか。だったら主人公らしくヒロイン守ってハッピーエンド迎えてやるよ!」
飛鳥は立ち上がり、カグヤの前へと立つ。
互いに覚悟を秘めた瞳で見合い、カグヤは握りしめた拳を前へと出して信頼する相手に決意を述べる。
「必ず勝つわよ」
「当たり前だ」
飛鳥も笑顔で拳を出し、互いの拳をコツンとぶつける。
互いを理解しあった二人は同じ決意を胸に秘めて、その部屋から出ていった。
……
「迷いは無くなったか、刹那よ」
「はい、師匠。一日剣に打ち込むことで、雲は晴れました」
「まあ……弟子全員を倒しておいて曇ったままでは、打ち込まれた者達も納得できまい」
師匠と呼ばれた白髭の老人は、刹那の周りに倒れた弟子百人を横目で心配しつつ、刹那に皮肉を垂れる。
「では神崎刹那、この月下神斬流を仲間の為に振るいます」
「……刹那よ」
道場から去ろうとした刹那の名を老人は呼び、道場の主として一つの思いを伝えた。
「次に帰ってきた時、この道場は貴様に預ける」
「師匠……」
「こちらも歳だからな、次の代が必要なのだ」
「……その話は、帰ってきた時に致しましょう。未来の希望は時に刃を迷わせるので……それでは」
師に対して深く礼をした刹那は、石階段を一歩一歩下っていった。
……
「ではアレクさん、私は帰ります」
「ああ、わかった」
家族に会ったシャロは、世話になったアレクの元へと訪れていた。
彼も以前の状態から普通の生活が送れるほどに、精神状態は回復していた。
「シャーロット、この戦いが終わったら俺の──」
「……?」
「俺の為に綺羅ちゃんと凛ちゃんのサインを持ってきてくれないか?」
その言葉を聞くと、シャロは何かを悟ったような表情で「わかりました」と優しく答えた。
その言葉を聞いたアレクは、子供のように無邪気に喜んだ。
回復したと言っても、やはり重症のアイドル中毒と化していたアレクに別れを告げると、シャロは精神病棟から急ぎ足で去っていった。
……そして、決戦の時はすぐにやってきた。
「先生、全部準備はできたのよね?」
「ああ……徹夜で完了させてやったよ、やっぱり俺って、不可能を可能に……」
フラフラとしていた繁は、目標を達成したことによってか、白目を向いてその場にバタリと倒れた。
「王乃先生、綾瀬さん、整備班を医務室で寝かせてあげて」
「ああ、わかった」
真人は医療班全員を呼び、繁をはじめとする疲労困憊の整備班を医務室に送るように指示を送る。
「……さてと、それじゃあ行くわよ、みんな! 焔、艦の武装最終確認! 命、大気圏外にワープ準備!」
「新武装含めて問題なしだぜ!」
「あらかじめ準備しときましたー」
「オッケー。光、発進可能状態になったら行くわよ!」
「発進可能まで五秒前! 四、三、二、一……行けます!」
三人の言葉を聞き終えた艦長は、スッと息を吸い、艦に最初の命令を実行させる。
「アールエーテリオン、発進ッ!!」
エーテリオンとアールテーミスが合わさって出来た改造艦──Rエーテリオンは、元よりもその姿を一回り大きくなり、発生させたワープゲートから宇宙へと旅立った。
二隻の搭乗員と、整備班が作り上げた武装を身に付けたアルテリアスと共に……。