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第十四話 艦長、主人公です。

 五分前……


「ふむ、そろそろディオス様が姫様を手中に納めた頃か。これでディオス様はローメニアを、果てはこの星すらも手にしてしまうかもしれない……ああ、素晴らしい」

「カイセル様、エーテリオンから一機出撃する機体が」


 愛するディオスの未来に酔いしれていたカイセル・ゲイ・ジュリアの邪魔をするように、ティーターンオペレーターはキャッチした情報を報告する。


「なんだと? アールテーミスからの連絡は」

「ありません。こちらとの通信を遮断しています」

「よもや白兵戦で落とされたか? いや、それならば報告があるはずだ……ならば、運よく脱出できた……いや、それならアールテーミスが対処を行うだろう……そもそも通信遮断の意味は……」

「エーテリアス、こちらに接近してきます!」

「二隻が結託したにしては行動が不可解だが、まあいい……撃ち落とせ!」


 カイセルの声を聞き、ティーターンの迎撃準備は即座に完了し、攻撃を開始した。


「なんのつもりかは知らんが、このティーターンに一機で迫るなど無謀の極み……囮の可能性もある、上空にも気を払え」

「エーテリアス尚も健在!」

「何!? 三種一斉発射の砲撃を受けて健在だと!」

「いえ、カイセル様……エーテリアスには一発も命中していません、全弾回避されました!」

「ふざけるな! 全砲門最新型AIによる予測攻撃なのだぞ!? それが旧型のエーテリアス風情が避けられるはずがないだろう!! AIの状態を調べつつ迎撃を続行! ディオス様の邪魔をさせるな!!」


 主砲、副砲、対空砲、全ての弾先が接近するエーテリアスに集中する。

 ある砲は先を読み、ある砲は現在地を、ある砲は後退先をそれぞれ狙い、光を放つ。

 しかし、二型、三型のブースターパックを両脚、背部に登載したアマツは、常人では操作もままならない高加速高機動の力により、それを全てスレスレのところで回避する。


 ──そんな代物を何故操縦できるのか?


 答えは決まっていた。


「主人公舐めんなぁぁぁぁぁーっ!!」


 神野飛鳥(主人公)、だからである。


「エーテリアス、アヤセーヌ姫の寝室横に張り付きました!」

「場所がバレているだと……くっ、ディオス様……」


 誘爆により“愛する者”が死ぬことを恐れ、カイセルは迎撃を中断させた。



 ……



「カグヤ! こっちに来い!!」


 ハッチを開けながら、アマツの左手をブレードでこじ開けた窓へと伸ばし、カグヤを呼ぶ。

 衝撃によりその場に膝をついていたカグヤは、迷うこともなくその手に乗り、引き寄せるよりも早くコックピットへと飛び乗った。


「はぁっ、はぁっ……助かったわ……でもどうして?」

「その指輪、アイツがバカやってる間に繁先生に作らせといたんだよ。盗聴と位置情報が取得できる特別製だ」

「持たせた理由になってないわよ」

「理由? そんなの簡単だ──」


 ブレードを引き抜くと、アマツはバックパックからライフルを取り、ディオスの残る寝室に銃口を向ける。


「なっ!? くっ!」

「ロボット物の金髪二枚目ってのはなぁーっ! だいたい総じて悪者ワルモノなんだよぉぉぉーっ!!」


 無茶苦茶な持論を持ち出しながら、生身の相手にライフルの引き金を躊躇いなく引いた。


「そしたらどうだ、三十分もしないうちにポロポロポロポロ、ボロ出しやがって! てめぇはバカ丸出しだぁーっ!!」

「か、カイセル! これはどういう事だ──うぉっと! 警戒もせずに惰眠をしていたか!!」


 次々に爆発と共に崩れていく廊下を激走し、アマツの攻撃を間一髪で避けながらディオスはブリッジのカイセルに向けて怒りの声を飛ばす。


「そんなことは! 奴はティーターンの迎撃を抜けて──!!」

「やはり寝ていたか! そんな寝言は寝ているときに言っていろ!!」

「ち、違っ──!」

「言葉などいい、汚名は行動で撤回しろ! ティーラルキアを使え!!」

「イエス・ユア・ハイネス!!」


 ブリッジ後方の転送機から、瞬時にコックピットへと移動し、汚名返上の為の準備を開始する。


「旧型風情がディオス様の邪魔立てなど……ティーラルキア、出撃するぞ!!」


 ゆっくりと外への道が開く一方で、飛鳥は撃ちきったマガジンを捨て、次の射撃の準備をしていた。

 ディオスを殺る勢いで乱射するが、中に逃げたディオスの居場所などわからないので、見当なしに撃ち続けるアマツ。その中からは「多分上よ! 撃ちまくりなさい!!」だの「どこ逃げたこのロリコン野郎!!」だの、二人の楽しそうな罵声が聞こえてくる。


「今度は下──って飛鳥、横からなにか来るわよ!」

「ディオス様とティーターンを、これ以上はやらせんぞ!!」

「ちっ、なんだあのデカブツ!!」


 ティーラルキアの姿を確認した飛鳥は思わずその容姿を叫んだ。

 人型とは程遠く、無人機のアモールに似た巨大で無機質な飛行物体。コックピットを中心として十字に四本の巨大な腕が延びており、一本の腕がアマツへと向かう。


「空飛ぶグラブロかよ!」

「そんな豆鉄砲、戦艦と同等のエーテルフィールドを張るティーラルキアに、効果などないわ!!」


 接近するティーラルキアのコックピットに全弾当たる軌道の弾丸は、全て見えないフィールドに弾かれる。

 これはマズイと直感した飛鳥は予備マガジンを投擲し、一発でそれを撃ち抜く。

 マガジンは破裂音と煙を出し、中の弾をバラバラに撃ち放つ。マガジンの放つ煙は微々たる物だが、眼前で起きた煙はカイセルの視界からアマツを隠す。


「チッ、煙幕とは小賢しいぞ!!」

「そうでもしないと勝てそうにないんでね!!」

「そこか!!」


 視界外から放たれた弾丸に反応し、巨腕を延ばすが、ティーラルキアが掴んだのは自立飛行するライフルであった。


「囮!?」

「バリアー相手なら実体剣だろッ!!」

「そんなナマクラではなぁっ!!」


 アマツのブレードはフィールド抜けティーラルキアの装甲に傷を付けるが、その強固な装甲は刃を通さず、逆にアマツの高加速によって放った一撃のパワーに耐えられず、ブレードの方が砕けるように折れた。


「んなのありかよ──くっ!!」

「ハハハハハ、掴んだぞ、掴まえたぞ! 捕まえたぞ!! この虫けらが!」

「ちょっと、どうにかしなさいよ!」

「無茶言うな!」

「なによ、助けに来たと思ったらこれ!?」

「宇宙に行く前あのバカがボロ出さなかったら助けられなかったんだぞ!?」


 機体をガッチリと掴まれ、危機的状況だというのに、コックピットの中ではガミガミと痴話喧嘩を繰り広げる。カグヤも飛鳥がいるだけで、先程のディオスとの状況よりも、心が落ち着いていたのだ。


「おい、エーテリアスのパイロット、早く鍵を差し出してもらおうか……安心しろ、お前の命も助けてやろう」

「……嫌だといったら?」

「四肢を破壊して機体ごと持ち帰るのみだ。それしきのことティーラルキアには容易だ」

「あくまで“鍵”は大事……か」

『飛鳥さん、こちらは準備できました……でも、ホントにやるんですか? 言っときますけど、失敗しても救助は無理ですからねー』

「わかってるって……さてと」

「命よね……? 準備ってなんの……」


 カイセルに聞こえぬように小声で飛鳥に尋ねるが、飛鳥は何も答えずパネル操作をいくつか済ませると、座席から立ち上がり、カグヤに手を伸ばす。


「カグヤ、今回はあと一回だけ……俺を信じてくれ」

「な、なによカッコつけて……バッカじゃないの」

「カグヤ──」


 今までに見たことのない、神野飛鳥とは思えないほどの真剣な表情でカグヤを見つめ、自身の決意を伝える。


「俺が絶対に守ってやる」

「…………言ったからには絶対だからね」


 ただでさえ最初の言葉で頬をうっすら赤くしていたカグヤは、最後の言葉で顔を真っ赤に染めながら飛鳥の手を握った。


「……ん? ハッチが──引き渡す気になったか……」


(男の方はここから落としてしまえばいいか……)


「さあ、姫をこっちに渡せ!」

「……ああ、わかった」


 素直に応じる相手を見て、この先の未来も知らない少年に対し嘲笑の笑みを浮かべるカイセル。


 ──だが、先の未来を知らないのはカイセルも同じであった。


「──お前達には絶対に渡さない」

「おまっ──バカなっ!?」


 ティーラルキアの腕に立った飛鳥は、カグヤを強く抱き寄せたまま空へと身を投げた。

 その予想外な男の行動、最重要の鍵である姫の安否、そして姫を無事確保できなかった時の自分への処遇等が頭の中で一斉に駆け回り、カイセルは思わず素っ頓狂な声を上げる。


「あと、そいつは俺からのプレゼントだ──あばよ相棒……」

「早く救出を──エーテリアスからエーテル反応!? これはまさか──!!」


 設定した時間になり、機体に搭載されたエーテルエンジンが自動的に臨界を超える稼働をし、そして──


 ドオオオォォォォォーン!!


 ティーラルキアの腕に掴まれていたアマツは、強烈な爆発音と衝撃を起こし、自爆した。


「くっそぉぉぉーっ!! 鍵を無事届ければならないというのに、こんな事をしてティーラルキアを傷つけられると思っていたのか!!」


 自爆する機体を手に持っていたにも関わらず、その腕は焦げ付いているものの健在であり、血走った目でカイセルは確保すべき目標と、倒すべき目標を探す。

 しかし、カイセルが最初に目にしたものは二人ではなく、見たことのない白いEGであった。


「ナイスだぜ、命、繁先生──来い、俺のアマツ!!」


 ただ、入力された位置へと射出されただけの機体は、飛鳥の声に反応したかのように、両手を使い、解放していたコックピットに二人をゆっくりと入れる。


「アレは……バカな、機体を外部からエーテルで操作するなど、能力に長けたローメニア人でも難しいというのに!!」

「これは……?」

「アールテーミスに一機だけあった予備のアルテリアスに、アールテーミスのエーテル製造炉とか言うので繁先生が作り出した装備を換装させた……それがアルテリアス──アマツ」


 飛鳥が左右のレバーを握り、機体のエーテルを活性化させると、純白の機体は背中の翼を広げ、大空へと羽ばたいた。


「くっ、ジャンナめ、アルテリアスベースのカスタム機をもう一機持っていただと……!? そしてローメニア人でもないくせにアルテリアスに乗るなどと、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁーっ!!」

「来るか? だったら──相手してやるよ、行けっ、リーヴェス!!」


 ジャンナから知らせられたその名を叫ぶと、アマツの広げた翼が散り、ひし形の小さな羽となったそれらは、エーテルの光を帯びると一斉にティーラルキアへと放たれた。


「バカなバカなバカなっ! エーテルで遠隔操作を行う必要のあるリーヴェスだぞ!? あのジャンナのヘイラーでさえ、重力のない宇宙で六つが限界だというのに。この重力圏内でいくつ操作できるというのだ!?」


 カイセルの目では数えることすらできない、その小さく高速で動く羽の数は合計で24存在し、全てが別々の方向からの突撃攻撃を仕掛ける。


「だが、この程度の出力ならば、このティーラルキアのフィールドを突破することは不可能!」

「ちっ、そう何でもカッコよくはいかないか……だったらコイツで」


 飛び交う羽達は攻撃を仕掛けるも、ティーラルキアの障壁に弾かれて、宙へと舞う。それを見かねた飛鳥は翼の付け根にある新型ライフルをエーテルを使い手元へと引き寄せ、照準が重なると同時に引き金を引く。

 ヘイラーのライフルよりも弾速が落ちる代わりに、高出力のエーテルが赤い光を放って発射される。


「くっ、蛮族がエーテルライフルまで……だが、その程度の弾なら先程の豆鉄砲の方が速かったぞ!!」


 巨体ながら腕の動きと大型のブースターを駆使し、その巨体からは想像できない軽やかな動きで、舞散る羽を払い除けて、射線から大きく退避する。


「リーヴェスにはこういう使い方もできる!」


 一度言ってみたかった言い回しができ、満足気な表情を浮かべた飛鳥は、念じるようにリーヴェスをエーテルの力により操作する。

 操られた羽は羽同士と結合し、三つ一組となったソレは高速で円を描くように回転し……。


「バ、バカな!? リフレクトだと!」


 回転する羽に当たった閃光は、一度エーテルとなり消滅すると、次の瞬間にはティーラルキアの腕を背後から貫くように、羽からエーテルの光が放たれた。


「まだ攻撃は終わってねぇぞ!」

「くっ!?」


 腕を貫通したエーテルを次の羽が受け止め、再びティーラルキアの腕を射ぬく。

 それからも連続的に反射と攻撃を繰り返し、ティーラルキアの四本の腕は一発の弾により全て破壊された。


「ディオス様から頂いたティーラルキアが……悔しいが、今は退くしかないか」

「逃がすかよ!」


 腕を失い、武装のないただの飛行機に成り果てたティーラルキアは、急ぎティーターンへと飛び、それを追うようにアマツも残った翼の根のブースターを全力で稼働させる。

 しかし、機体の大きさと飛行能力の違いから、その距離は次第に離される。


「フン、追い付けるものかよ、このティーラルキアに!」


 リーヴェス達も追い付けずにアマツの翼へと戻り、射速の遅いライフルは楽々と回避される。


「だったら……!」


 飛鳥は残された手として、腰に装着された武器を手に取った。

 それはヘイラーとの戦闘で驚異の存在であった、エーテルブレードであった。


「カグヤ──お前の力、貸してくれ」

「私の……! わかったわ!」


 飛鳥の膝の上に乗るカグヤは、その手を飛鳥の手の上に重ねる。

 飛鳥がエーテルのコントロールの天才だとすれば、カグヤはエーテルを力として扱うための活性化能力の天才であった。

 そして、マガジン式のライフルと違い、ブレードは機体内の、パイロットが活性化させたエーテルを活用する。

 機体の持つエーテルの大半が、カグヤの力により一斉に活性化し、アマツが天に掲げたブレードの穴から決壊したダムのようにエーテル溢れ出る。

 それを飛鳥が一つの刃へと紡ぎ、そのブレードは完成した。


「なっ!? なんだアレは!!」

「人のこと散々鍵扱いしておいて、ただで返すと思わないことね!!」

「くらえぇぇぇぇぇーっ!!」


 巨大な光の大太刀は雲を裂き、風を切って、そのままティーラルキアを容易く叩き斬る。


「ちっ、こんなところで死ねるかぁぁぁーっ!!」


 機体の九割近くを失ったティーラルキアだが、それでもまだ脱出ポットは奇跡的に生きており、カイセルを乗せた脱出機はティーターンへと飛んでいく。


「ちっ、しぶといやつね──って、飛鳥!?」

「アレもやらなきゃダメだろ!」


 翼を元に戻し、飛行能力が向上したアマツは一先ずブレードを腰に戻すと、ティーターンに目標を変え、接近を開始する。


 ──そのころティーターンでは……。


「くっ、ディオス様から頂いた機体が……」

「カイセル、貴様は一体何をやっている! 姫も取り戻せず、ティーラルキアも大破させ、それでおめおめ逃げ帰ったか!!」

「ディ、ディオス様! しかし、あの相手の力量は──!」

「言い訳は後でもいい、アルテリアスが相手の手に渡っている以上、ジャンナも事の真相に気付いている……ティーターンを宇宙に後退させるぞ!」

「ですが、それでは姫は──!」


 反論を述べようとするカイセルの襟首を掴み、顔を近寄らせながら今の自分達の状況を怒声のまま説明する。

 しかしカイセルは怒られている立場ではあるが、ディオスの顔の近いこの状況は満更でもなかった。


「こちらは先駆けをジャンナ艦一隻に任せていたのだぞ!? 故に、このティーターンには機体はあっても、優秀なパイロットはお前しかいない。今あの羽付きだけたが、ジャンナやその側近騎士に攻められれば、この艦は終わりだ!!」


 危機的状況をカイセルに伝えると、掴んだ手で彼を格納庫の床に突飛ばす。


「ティーターンのアモールを展開しつつ、ワープの準備だ。念のため下の主砲の何門かは使えるようにしておけ」

「イエス・ユア・ハイネス!!」


 カイセルは急ぎブリッジへとワープすると、艦内に命令を下達かたつする。


「飛鳥、ティーターンからなんか来るわよ!」

「なんだよあの数……!」


 ティーターンから放たれた無人のアモールは、カイセルの命令からおよそ数分で、その数は三百を超えていた。


「チッ、最期の抵抗ってか!!」

「気をつけて、アレはティーターンの製造炉から何体でも作れるって言ってたわ」

「それはジャンナからも聞いたっての! くそっ、アイツらエーテリオンにも向かうつもりか!」


 エーテルライフルにより数十機単位でアモールを撃墜できていた飛鳥だが、増加はさらにその上をいき、アマツの横を抜け、エーテリオンへと矛先を向ける。


「待って、あっちからもアモールが!」


 カグヤが目にしたのはティーターンのアモールとは正反対の方向から現れたアモールであった。

 しかし、そのアモールはティーターンからのアモールと衝突し、次々に数を減らしていく。


「こちらはジャンナだ、作戦通り、お前一人では到底なんとかなりそうにないようだから、これより貴様を援護する……ジル、レイ、行くぞ!」

「了解! ジル・ド・リリィ、ガメイラ出ます!」

「同じく了解! レイ・ド・リリィ、テレイア出ます!」

「よし、ジャンナ・D・ローゼス、ヘイラー出るぞ!!」


 アールテーミスから三機の薔薇色の機体が、アモールを引き連れてアマツの援護に入る。


「俺もいるぜ、飛鳥」

「大輝──って、何でエーテリオンの上なんだよ、お前」

「お前は固定砲台だけやってろ、だそうだ」


 それを言ったのは、恐らくジャンナであろう。


「こちらは大丈夫だ、だからお前はティーターンとその逆賊を捕まえろ!」

「大丈夫だって……くそっ、どう見ても四機じゃ無理だろうが!!」


 相手は増え続け数千近く。だが、こちらはアモールを含めても百にも満たなかった。

 そんな状況で、仲間を見捨ててティーターンへと行く訳にもいかず、飛鳥は仲間達を守るためにティーターンに背を向け、リーヴェスを展開し、ライフルとブレードを手に持ち、アモールを撃墜していく。


「時間稼ぎはなんとかできたな……ティーターン、ワープ開始!」


 空に再び現れた巨大なリングはティーターンの巨体を徐々に転移させていく。


「よし、いまなら……カイセル、主砲を二隻に向かって放て」

「しかし、この距離では……」

「撃沈せずとも、少しの間追いかけてこれなければそれで充分だ」

「ハッ! 主砲を放て!!」


 ティーターン下部の砲門がいくつか光を灯す。飛鳥もそれに気付きはしたが、数百のアモールに囲まれた今では、対処するために動くことができなかった。


「飛鳥!」

「チッ、せめて少しだけでも──リーヴェス!」


 敵を次々に刺突していく羽達は、飛鳥の示す目標に狙いを定め、エーテルを羽の先端に集中させる。


「今だ!!」


 主砲がアモールを巻き込みながら下にいる二隻に目掛けて発射される。

 しかし、発射されたエーテル一つに対し、反射では跳ね返せないと判断した飛鳥は、射撃モードに切り替えたリーヴェスを四機一組で真横からエーテルを放たせる。

 ほんの少しの邪魔により軌道をズラされた主砲は、エーテリオンに届く頃には大きく反れ、海上に水柱を建てた。


「くっ、残り二発──一発はこっちに来ます!」

「光、回避運動“しないで”下さい。艦のエーテルはこちらで使わせてもらいますから」

「わかりま──って、ええっ!? 攻撃来てるんだよ!?」


 焦る言葉に耳を傾けることなく、命は艦のエーテルを総動員しフィールドを構築。更に主砲の反応から予測着弾地点を割り出し、一点集中型のフィールドを作り上げた。

 主砲は命の予測通りの位置に着弾し、厚いフィールドが主砲と激突し、それを阻む。

 予測通りにいかなかったことがあるとすれば、それは主砲の威力が高過ぎて、相殺することが出来ず、一部がフィールドを突き抜け着弾したことであった。


「そう上手くはいかないかー。損傷確認、メインブースター三割破損、他軽微の損傷多数。ミサイルへの誘爆は問題なし……っと。大輝さーん、あそこは盾持って防ぐ場面じゃないんですかー?」

「スサノオどころか全機に盾なんて無いだろうが!」

「そこはーほら、体で……」

「俺に死ねってか!?」

「冗談ですよー。さて、あっちの様子はー……あー……」


 一難を乗り越え、大輝を茶化し終えた命は、アールテーミスの様子を見た。

 そこには黒煙をモクモクと立ち上がらせ、撃沈まではいかないものの、かなり危険な状態のアールテーミスの姿があった。

 アールテーミスの艦長であるジャンナと、その右腕左腕のジルとレイが戦場に出払っているため、命ほどの高レベルな芸当どころか、まともな対応すらできていなかったのだ。


「よし、あれならばしばらくは追ってこれまい……」

「カイセル様、先程のエーテリアスの攻撃により、右側ブロック3番から8番までが炎上、尚も被害が拡大しております!」

「なんだと!? まあいい、右側の区画は全て姫の居住スペースだ、他の乗員に支障はあるまい……炎上しているブロック及び、被害が少しでも出た区画は切り捨てろ!」

「よろしいのですか?」

「本隊と合流した際にディオス様の艦に損傷があれば、笑い者にされるではないか! 切り捨てた場所は合流までに製造炉で作らせれば問題ない」


 ディオスの顔に泥を塗るわけにはいかないと、大胆な命令を出すカイセルに、乗員は迷いながらも言う通りにその区画を切り捨てた。


「ふむ、これでいい」

「しかし、よろしかったのですか?」

「……? 一体なにがだ」

「いえ、被害のあった区画には……ティーターンの格納庫の一部があったのですが……」

「な、ななななな、なんだと!? どうしてそれを先に言わない!! ただちに回収部隊を──!」

「ワープ、無事完了しました」


 別のオペレーターからのその一言で、カイセルの顔から血の気が引いた。


「今戻った……どうしたカイセル、酷い顔をしているな。今回の件はもう忘れろ……次に失態を起こさなければそれでいい」


 身だしなみを整えてブリッジへと戻ってきたディオスはカイセルに優しい言葉をかけるが、カイセルは既に“次の失態”を起こしていたのであった。


(ま、まあ、所詮この艦に積んであったのはティーラルキアとアルテリアスの素体だけ、ティーラルキアは別区画だから、落ちたのはただの素体のみだ……素体ならば大きな問題ではあるまい……)


 アマツが元々アールテーミスの機体でローメニアで造られたと勘違いしているカイセルは、この時まだ知らなかった……。

 アマツがエーテリオンに住む創造の魔物によって造られたと言う事実を……。

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