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第十三話 艦長、ヒーローです。

「……話は分かったわ。で、ドッキリ成功のプレートはどこよ」

「姫様、現実逃避はなさらないでください」

「そんなこと言ったって仕方ないじゃないの! こっちはただでさえ敵に投降してメンタルやられてるってのに、なに? 貴女が姫です? そんなの悪夢だと思うに決まってんでしょうが! そもそも十二年前の女の子が私だって証拠はあるの!?」


 捕虜の関係も一転し、姫と従者の関係となったカグヤは、ジャンナに向かって文句を連ねる。


「その赤桃色の髪はローメニア王族の血筋の証拠です」

「髪の色ォ!? この艦に何人特殊な髪の生徒がいると思ってんのよ! 一昔前のエロゲ並のカラーバリエーションなのよ!?」

「いや、確かにカラフルですけど……艦長みたいにケミカルな色は居ませんよ?」


 “薄紫色”の髪の命がカグヤに伝える。


「凛の緑髪や綺羅の黄色も派手だけど……染めてるだけだしな」


 限りなく赤に近い茶色の焔が他の生徒の事を振り返りながら呟く。


「宗二の銀に近い白髪も脱色した結果だそうだし、三蔵はハゲだし、シャロの金髪も外国人だから普通だな」


 髪型は漫画並に刺々しいが、純粋に黒色の飛鳥も思い出しては名前を列挙する。


「アンタ達はそこまでして私を除け者にしたいか!! くっ……まずはアイツに連絡よ、よくも人のこと十二年も騙して育てたわね……」

「すみませんが姫様、現在この近辺にはエーテリオン制圧の際に使用したエーテルジャミングが残っているため、エーテル以外での通信装置は使用困難となっております」

「あー、通りでワープの発見に遅れたわけだ」

「チッ、運よく延命したわね……あのジジイ」


 手に取った受話器を憎悪の笑顔と共に元にへと戻す。


「それで、結局のところこれからどうするのよ? 私を連れて帰って、それで終わりなの?」

「そうですね。命令さえあるのならばこのまま制圧作戦を──」

「しないわよ。金輪際地球には出入りさせるもんですか」


 短い間とは言え、今まで育った星であり、仲間達の住む星でもある。それを手のひら返しで侵略するほど、カグヤは外道ではない。


「でもいいのかよ、このままだと離ればなれになるんだぜ?」

「綾瀬を連れ出したアンタに、とやかく言われたくないわよ。もしも綾瀬が姫だったらお別れの言葉もなくサヨナラだったのよ?」

「あの時は……戦いをいち早く終わらせようと……」

「だったら私も同じよ。戦いをいち早く終わらせるために、素直に故郷に帰るわ」


 真剣な艦長モードの時と同じ表情で、真面目に飛鳥へと告げる。


「お早い決断、感謝いたします。もう少しでローメニアへの戦艦が到着するかと……」

「……え? あの赤いので帰るんじゃないの?」

「アールテーミスを含むアールシリーズ艦は、あくまでも火力よりも機動力に長けた中型戦艦。これより参られるのは大型戦艦ティーシリーズ最新鋭艦、ティーターンです」

「エーテリオンと同じサイズのアレが中型……?」


 地球では他に類のみないエーテリオンは大型戦艦と呼ばれていたにも関わらず、ローメニアの尺度では中型に値すると言われ、光はスケールの違いを思い知らされる。


「記憶を失い、覚えていませんとは思いますが、ティーターンはディオス卿が艦の長を務めております」

「……ディオスって、誰?」


 本来ならば喜ばしい事ではあるが、記憶のないカグヤに伝えるにはあまりにも急だと感じたジャンナは、複雑な表情で少し黙った後、相手との関係を告げた。


「ディオス・Nニュー・バックス卿……姫様の……婚約者です」

「……婚約、者?」

「……そう」


 その言葉に困惑する飛鳥を余所に、カグヤは素っ気ない態度で事実をあっさりと受け入れる。


「そう、って……婚約者だぞ!? 結婚相手! いいのかよ、お前──!」

「うるさいわね、そんなに言わなくたってわかってるわよ! でも仕方ないじゃない、私は一国……ううん、一つの星の姫なのよ!? 私が誰かと結婚して跡継ぎを作らないと、今度はローメニアで争いが起こるの、子供の私の後ろで好き勝手するような奴らしかいないのよ? 王族がいなくなれば自分の好き勝手に出来るように必ず兵器を手に取るに決まってるわ……だから、少しぐらい我慢しなくちゃいけないのよ。そうでしょ、ジャンナ」

「……仰る通りです、姫様」


 記憶を失い、姫としての役目を全うすることなど不可能と思っていたジャンナだったが、その覚悟ある瞳を見て、ローメニア安泰の未来を少し確信し、心の中で安心するジャンナ。

 しかし、カグヤを直ちに連れ戻し、そんな重責を背負わせることに心苦しくも思った。


「大丈夫よ、どんな奴だって問題ないわ」

「……ん、艦長、通信です。アールテーミスから引っ張った識別コードによると、噂のティーターンのようです」

「いいわ、繋いで」


 カタカタと、通信の準備を済ますと、一同が集まっていた教室の黒板型モニターに映し出される一人の男性。

 長身で、短くも輝きを放つ金色の頭髪。服装もジャンナとは比にならないほど装飾の施されたきらびやかな制服で、その顔立ちはエーテリオン男子生徒では太刀打ちできないほど整っており、一言で表すならば完璧な美男子という言葉が相応しかった。


『……あ』


「……?」


『会いたかったよアヤセーヌゥゥゥ! 十二年、十二年も君のことを探していたんだ。長かった、長かったよぉ、探し出しの頃はまだ二十代だったのに、僕なんてもう三十代に突入してしまった! 君は僕のことを忘れたかもしれないけど、僕は覚えてるよ! 大きくなったね、昔の倍は大きくなった! あの時はまだ小さかったからね、一人じゃ怖くて寝られないとかいって、まだ騎士見習いのジャンナを無理矢理引っ張って一緒に寝てたっけ? ああ、なにもかも懐かしいよ、本当に会えて──……』


 カグヤのアイコンタクトを受け、命は通信音量をミュートにする。

 そんなこと露知らずディオスは身振り手振りでカグヤとの再会に喜び、その思いを止まることなくカメラの前で伝え続けていた。


「ジャンナ、訂正するわ……アレは無理」


 数十秒前まで覚悟をしていたカグヤの顔つきは、いつもの月都カグヤ特有のわがままなお嬢様フェイスにへと戻っていた。


「ひ、姫様!」

「いや、だってキモいんだもん! なんかナルシストっぽいって言うか、四歳児の私を十二年あんなふうに待ってたってことは、かなりのロリコンってことでしょ? 無理、ムリムリムリ! もう犯罪者予備軍にしか見えないわよ、アレ!」

「……ポチッとな」


『──だったんだよ……ああ、アヤセーヌ! 君のことを十二年前から愛して──……』


 少しはまともな事を言っているかと期待し、音量を元に戻したが、そこには変わらず熱弁を繰り返しているディオスがいた。


「……はぁ、死にたい」

「ディオス様は誠実な方です。姫様の事を昔から思い、今回の捜索にも力を尽くしております」

「そうは……言っても……ねぇ」


 人知れずローメニア星の数多くの人々に迷惑をかけていると考えるカグヤは、アレなディオスに対しても、心から突っ返す事に抵抗があった。


「ところでジャンナ、あいつ何派だ?」

「私と同じ侵略派だ、神野飛鳥」

「少しでも迷惑かけたと思った私がバカだったわ……」


 ローメニアの侵略派は9割以上を越えているのではないか? その場にいた者達は呆れながら彼女らしい故郷に声もでなかった。


「ワープ反応、私達の更に上からです」

「お出ましか……」


 バチバチと音を立て、エーテリオンのはるか上空に出現したワープリング……その巨大な輪はエーテリオンの物の四倍から五倍、そして徐々に姿を見せる黒く重々しい大戦艦の影は、エーテリオン、アールテーミス両艦を易々と包み込んだ。


「でっか……」


 ティーターンの姿を目の当たりにした誰もが、口を揃えてそう呟いた。



 ……



 ティーターン艦長であるディオスが派手な装飾の輸送機に乗って現れたのはそれから数時間後であった。


 ──そんな長時間何をしていたか?


 ディオスは長々と語っていたのだ、誰も聞いていないにも関わらずカメラに向かって……。

 それから話終え、汗だくとなった彼は、姫へ謁見のための身だしなみとして、入浴、エステ、マッサージを経て、髪型のセット衣服の着用を行い、ようやくやって来たのであった。

 その間、四度程カグヤが主砲をぶっ放しそうになったのは言うまでもない。


「アーヤセーヌゥゥゥー──ぐっはっ!?」


 そんな完璧にコーディネートされたディオスは、カグヤに抱きつこうとして喰らったカウンターパンチにより、容易く崩壊した。


「アヤセーヌ……久々に会ったら随分と荒々しくなったんだね……」

「アンタにはこうするのが正しい接し方だと思っただけよ」

「そんなに僕のことを考えてくれてるのかい? いやー、記憶がなくなってもやっぱり僕たちは繋がってるんだ──がはッ!!」


 続いて強力なボディブローが腹部に刺さる。

 待たされたイライラの発散が出来たせいか、少しカグヤも楽しそうだった。


「うっさいわよ! アンタのことなんか忘れたわよ!! 面倒だからとっとと連れていきなさい!」

「いいのかカグヤ? もう通信障害もないんだ、アレでも親父なんだから連絡ぐらいとれば……」

「……いいのよ、アイツは私達に山ほど隠し事して、エーテリオンを私物化しようとしてただけなんだから」


 エーテリオンを私物化していた張本人は、自分達を騙していた帝の事を軽く切り捨てる。


「送別会ぐらいやってからでも……」

「戦いが終わるかもしれなのに、悠長にそんなこともしてられないでしょ? それに、攻めてこれるってことは来れない場所じゃないってことよ。今度は話を済ませてからちゃんと帰ってくるから、それまで待っててくれればいいわよ」


 一時の楽しみよりも、早期の平和を姫としての責任からか、カグヤは出来るだけ早い帰還を望んでいるようであった。


「では行こうかアヤセーヌ、帰ったら早速式を上げよう! めでたいことは多い方がいい、そうに決まっている! うん!」

「はいはい、アンタはうるさいから少し黙って──」

「カグヤ!」

「──っと……指輪?」


 今まさに輸送機に乗り込もうとしたとき、呼び止められたカグヤは反射的に飛んできた物をキャッチすると、投げた相手を急いで確認する。


 ──飛んできた方向に立っていたのは飛鳥であった。


「なによこれ」

「俺の秘められし力を抑えるために、聖なる力を秘めた秘めたる指輪だ」

「ヒメヒメいいすぎよ、新手の嫌がらせ? だいたい、力抑える指輪渡したらアンタはどうすんのよ。返すわよ」

「そ、それはスペアだからいいんだよ」

「スペアって……秘めたる指輪いくつあんのよ……」


 キャッチした指輪を呆れた目で見つめながら、飛鳥のアホらしい言葉にツッコミを入れていく。


「とにかく、これから一人になるんだ、お守りみたいなもんだよ。何かあった時は祈りを捧げ──いや、助けを呼べば、正義の主人公が必ず現れるからな」

「何かあったときアンタなんか呼んでどうすんのよ。逆にややこしくなるに決まってるわ……でも──」


 カグヤが輸送機の中へと入ると、ハッチがゆっくりと閉まっていく。

 閉まりきる前にクルリと振り返ると、飛鳥に向かって言葉を続ける。


「ありがたく貰ってあげるわ。じゃあね、飛鳥」


 彼の名前を呼び終えると同時にハッチは閉鎖され、輸送機はティーターンに向けて飛び立っていった。


「へっ、最後まで偉そうにしやがって……」


 輸送機の行方を目で追いながら、静かになった格納庫で飛鳥は小さく呟いた。



 ……



「これがティーターン……」

「そうだよアヤセーヌ、主砲は上部下部合わせて26門、副砲は36、対空レーザーは52も装備してる! EGも30機以上入るし、大型のエーテル製造炉もあるから、アモールもほとんど枯渇しないし、機体の整備もすぐに出来る」

「製造炉? アモールってなに」

「アモールは特攻兵器……今までアヤセーヌ達が倒していたアレだよ。でも安心して、アヤセーヌはまだ誰もローメニアの人々を殺してはいない、アモールは無人機だからね」

「アモール……ね。まさかそんなに簡単に造れたなんて」


 時に主砲でなぎ払い、EGで殲滅してきた敵が、取るに足らない存在だと知り、ショックを受けるカグヤ。


「簡単に作れるのはティーターンぐらいだよ。アールテーミスレベルの戦艦のエーテル製造炉はここのに比べて小型で、数も一つだけだしね」

「ふーん」


 ズラリと並ぶヘイラーに似た灰色の機体を見据えながら、ディオスの言葉にから返事を返す。


「よかったらもっと見ていくかい? ここの上には第一格納庫があって、そこには新型のティーラルキアが……」

「いいわよ、興味ないし」


 その時カグヤは確信した。

 あの場で大人しくせず彼等と敵対していれば、こちらの被害はタダでは済まないと。

 自分が素直に従うことでみんなを助けられた、と。


「ここが君の寝室──アヤセーヌスウィィィートルゥゥゥムだよ」


 連れていかれるままついていくカグヤを待っていたのは、まるで豪邸の一角のように豪華な寝室であった。

 赤い絨毯、輝かしい照明、クローゼットにドレッサー、屋根付きのベッド……まさに姫の部屋と呼べるものであった。


「……豪華ね」

「喜んでもらえて光栄だよアヤセーヌ。時間も時間だ、今夕食を持ってこさせよう……カイセル、予定通りだ」

「承知いたしました」


 カグヤにとってのジャンナと同じように、ディオスの側近であるカイセルの名を呼ぶと、ペコリと礼をしその場から去っていった。


「……ようやく二人っきりになれたね、アヤセーヌ! さっそく一夜をを共に過ごそう──かはっ!?」

「見境なしなの!? アンタは!」


 顔をうっすら赤く染めたカグヤはディオスに向かって鉄拳をお見舞いする。


「じょ、冗談だよ。大事な君にそんな事するわけないだろ?」

「ふーん……」

「信用されてないなぁ……それじゃあまずは故郷の話でもして、距離を縮めるとしようか……」


 故郷、という言葉を聞いて、カグヤは黙って反応を示した。

 自分が産まれた、自分の国……全てを忘れてしまった星の話……それは、これからの自分に必要な物であった。


「ローメニア星、この名前は君の一族が全土統一から名付けられて……」

「その辺はあす──仲間から聞いたわ。この数世紀、ローメニア家を柱として成り立ってるんでしょ」

「成り立ってる、と言われると、今はかなり不安定な状況だね。だって、そのローメニア家が十二年もいなくなってしまったんだから……不幸中の幸い、エーテリオンに乗って単身行方を眩ましてるわけだから、死亡扱いされなかったのが救いだったかな……もしも戦艦が宇宙の藻屑もくずとなって発見されてたら、今頃ローメニアでは星を我が物にするために戦争が始まってるよ。発展した兵器による、一層激しい戦争がね」

「……」


 ヘイラー、アールテーミス、ティーターン……エーテリオンやエーテリアスを凌ぐ数々の兵器を目の当たりにしたカグヤは、その言葉の重みと、自身の重大性を心に感じ、押し黙ってしまう。


「……アヤセーヌのこの星での名前は……カグヤ、だっけ? いい響きだね……君はアヤセーヌと呼ばれるよりもその名前で呼ばれるのが慣れているようだから、これからは僕もそう呼んであげるよ。そもそもカグヤは、ローメニア家が数世紀に渡ってその座を守り続けられたのは何故だと思う?」

「……? 全員が良い主導者だった……から?」

「はは、そうじゃない。ローメニア王家の中にも色々と“特殊”な王は存在した。絵に見るような圧政を強いる者、色好きで側近を数百の女性で囲わせた者、少年が好きな者もいたし、政治を下に押し付けて一人旅を楽しむ者もいた……あとは──」

「あー、聞きたくないから本題を続けて……」


 一体自分の先祖はどれだけ曲者揃いなのか? 興味本意で知りたいという気持ちもあったが、聞いてしまえば後には引けない気がしたので、カグヤはペラペラと話すディオスを止めた。


「ああ、わかった。ローメニア家が王家として数世紀機能できた理由……それは──“力”だよ」

「……力?」

「そう、力だ。それも戦争を抑止できる程のね」

「一体なんなの、その力って……」

「……初代ローメニア国王は元々科学者でね、それこそEGの設計に関しては天才と呼ばれるほどの頭脳を持っていて、ある日、とあるEGを奇跡的に作り上げた……」


 一息ついたディオスは表情を一転させ、鋭い目付きで言葉を続けた。


ExGイクスギア…… EGと呼ぶにはあまりにも強大な力から、そう称された機体だ」

「イクス……ギア……」

「僕も実物を見たことはないが、初代国王はその機体を使い、たった一人で世界を征した……そんな、神のような力をローメニア家は保有し続けている」

「だから、他の奴等はローメニア家に手出しができないってわけ……? だとしたら、今頃誰かに取られてるんじゃないの?」


 王家不在の今、ExGが完全にフリー状態ではないのかと思ったカグヤ。しかし、ディオスは小さく笑い、話を続ける。


「まさか、そんな兵器を誰の手にも届く場所には置かないさ……先代はちゃんと強固な保管場所を用意して、錠もかけた──」


 カグヤの白く艶のある手を取り、その手を彼女の目の前に強引に持っていく。


「ローメニア家一族のみに解錠できる、生体認証の錠前をね」

「ちょっと……何触って……」

「ローメニア家の歴史において王女は決して少なくない……だが、婿入りしていく男に与えられる特権など何もない。王家にとって他所の男など、ただローメニアの血筋を絶やさないための子種にしか見られていないんだ!」

「痛ッ──!」


 自分に対する不名誉な呼び名に腹を立てたディオスは、掴んでいるカグヤの手を強く憎しみを込めて握りしめる。

 その痛みに思わずカグヤも声を出した。


「僕はそんな王家の子種として一生を終えるつもりは更々ないよ? 僕はね、ExGの力を使ってローメニアの神になるんだ……先代を薬で葬って、あとは君に開発した記憶消去のエーテル弾を撃ち、僕の傀儡くぐつにさせる予定だったのに、記憶の消去完了までの間に逃げられてしまうとは予想外だったよ──くっ!?」


 掴まれていた手を引き抜き、全身の力を込めた体当たりによりディオスを押し飛ばし、扉の近くへと逃げるように距離を取る。


「ペラペラペラペラ、よく喋るわね! 何? 帰ったら結婚式よりも死刑執行が望みなの!?」

「フフフ……この艦に君を助ける者は誰もいないし、アールテーミスの連中が、ここで君の身に何が起こっているかを知ることはできない……逃げ場はないよ?」

「くっ……!」

「君がエーテリオンで逃げたこと、今では感謝しているんだよ? 婚約者として他の貴族よりも戦力の増強に力を入れることができたし、何よりコレの開発にも成功した」

「なによ……それ」


 ディオスが腰から引き抜いた物、それは拳銃に近いフォルムの、怪しい兵器であった。


「記憶消去なんて回りくどい物じゃない、撃った相手を文字通り奴隷にできる服従のエーテル弾……前回と違って効果は即効性だ」


 逃げ場がないと言われたせいか、カグヤはゆっくりと扉から離れ、壁を伝って窓側へと移動するが、ディオスは彼女を追い詰めるように距離を詰めていく。


「さあ、帰ったら予定通り式を上げよう……そして君は宣言するんだ、彼がこの星の新たな王だ、ってね……それじゃあ、僕だけの姫になってくれよ──カグヤ姫」


 銃の引き金に指を掛け、ゆっくりと掛けた指を引いていく。

 逃げ場も為す術も無くなったカグヤの頭の中に過ったのは、出発前に渡され、人差し指に通していた指輪と、渡してきた彼の言葉だった。


 ──助けを呼べば、正義の主人公が必ず現れる。


 我ながらそんな不確定なものに頼るなんてどうかしている。だが、自分に残された事など、ただその名を叫び、聞こえるはずのない助けを呼ぶだけであった。


「──ッ! 飛鳥ァァァァァーッ!!」

「ふん、いくら叫んだところで助けな……ど……」


 ティーターンの主砲は26門、副砲は36門、対空レーザーは52門存在し、例え下から敵が攻めてきたとしても、その半数の砲台が待ち構えており、事実上その弾幕の壁を抜けることは並の機体やパイロットでは不可能と言える。

 ましてや十二年も昔の機体が、たった一機で新型戦艦の攻撃を潜り抜けるなど、あり得るはずがなかった。


 ──では、今目の前にいるのはなんだ?


 勝利を確信したディオスの目には、ブレードをこちらに向けて突き立てようとする改造されたエーテリアスの姿があった。


「カグヤァァァァァーッ!!」


 それは夢や幻ではなく、二人の前に突如として現れたアマツはブレードを室内へと突き刺し、カグヤとディオスの間に割って入っていった。

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