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第十二話 艦長、人探しです。

「……つまり、あんたはWC──ローメニア星人で、さっきの赤いのはアンタが乗っていたってことなのか?」


 強く絞められたおかげで未だに痛む関節を優しく揉みほぐしながら、ジャンナが誰であるかをようやく理解する。


「そうだ。わかればいいのだ、わかれば」

「てっきり赤い機体だから、また変な仮面着けた奴がやって来たのかと思ったんだけど……」

「何か言ったか?」

「いえ、何も!」


 蛇のような眼でギラリと睨まれる飛鳥は、もうジャンナの関節技はゴメンだと、急いで誤魔化した。


「さて、話は戻るが……姫様についてだ。本当に知らないんだな?」

「そもそも、ウチの艦に横文字の名前は一人しかいないし、そいつもアヤセーヌなんて名前じゃない」

「……となるとあの似つかぬ振舞い、過去の記憶を失っているの可能性がある……十二年前の時か?」


 一人でブツブツと物事を整理するジャンナ。しかし、飛鳥にとっては何の事だか理解もできず、ただ一人頷くジャンナにイライラを覚える。


「なあ、姫とか十二年前とかよくわからない話してるけど……まさかお前達の目的って、その姫とやらを連れていくことなのか?」

「連れていく、とは失敬だな。行方不明になった姫を見つけ、保護するのが私達の目的だ」

「そのくせに、こっちの星にかなり攻撃的な気がするんだが……人探しにしては少し変じゃないか?」

「仕方あるまい、先代のローメニア国王が亡くなり、アヤセーヌ姫が跡を継いだが、姫は当時は四歳……力を持つ有権者同士が好き勝手に国を操れてしまう……姫捜索の案も、この星を支配した後に探し出す侵略派と、和平を持ち出して共に探し出す和解派二つの派閥があったが、今回は前者が多かった……ただそれだけだ」

「あんた……」

「まあ、私は侵略派だから問題ないがな」

「少しでもあんたをいい人だと感じた俺がバカだったよ」


 思った以上に好戦的な性格の異星人に、飛鳥は彼女から目を反らして、呆れたトーンでそう呟いた。


「……ちょっと待て、そもそも他の星からどうやってこの星にやって来るっていうんだよ。ワープでもしてきたのか?」

「何を馬鹿なことを、星から星に行く程度、エーテリオンがあれば充分可能ではないか」

「……は?」


 ジャンナの当たり前のように放ったその一言に、飛鳥は思わず目を丸くして彼女へと顔を向ける。


「待てよ、エーテリオンは日本が独自で造り上げた戦艦で、完成したのは最近だぞ?」

「……そうか、どうやらこちらはこちらで色々あるようだな」

「どういう意味だよ」


 先程から彼女の自己解決ばかりで、話の中身がまったく理解できない飛鳥は少し怒ったように尋ねる。


「エーテリオンは十二年前にローメニアで建造された、エーシリーズ一番艦だ。ローメニア国王に献上される予定であったが、直前に病により亡くなり、アヤセーヌ姫の物となった。エーテリアスは新型EGの試作として、一機のみ格納されていたらしい」

「……待て、それじゃあエーテリオンってのは十二年前から存在して、エーテリアスはその間に量産されたってことなのか?」

「預かり知らぬ出来事だ……詳しくは知らん」


 飛鳥の問いかけをバッサリと切り捨てるジャンナ。しかし、飛鳥もここまで聞かされては全てを知らないと気がすまないという様子でジャンナへと詰め寄る。


「教えてくれ、あんたの知ってること全部! エーテリオンに姫の事、ローメニアの事も全部だ!」

「何故知りたい?」

「そりゃお前……離脱してた主人公が戦いの全てを知って戦線に帰ってきたらカッコいいだろ!? それなのにこんな曖昧な話だけ聞いて帰っても、お前頭打ったの? みたいな反応されて終わりなんだよ! わかるか!? わかるかッ!? わかるかぁぁぁーっ!?」

「な、何を言っているのか理解はできないが、ま、まあ、その熱意だけは伝わった……話してやる」


 あくまで自分のアイデンティティーを完璧なものにしようとする飛鳥は、押し倒しそうな勢いでジャンナへと迫る。その理解できない謎の剣幕に圧されたジャンナは、思わず後ろへ数歩後退し、なすがままに話をすることにした。


「ローメニア星はここから遥か遠くに存在する惑星だ。古くよりエーテルの力を利用し、発展していった……無論、星の政権を手にするために、戦争と呼ばれる規模の争いは幾度となく繰り返されてきた」

「エーテリオンもその戦いのために……」

「いや、星の名がローメニア星──つまりローメニア政権となってからのこの数世紀、戦争は行われていない。強い力を持つ戦艦は力を誇示するためのシンボルであり、有権者にとって戦艦は“実用性のあるコレクション”という位置付けが妥当だろう。戦艦は城、EGは武具と言ったところか……それ故に、兵器以上に皆思い入れがあるがな」

「あ……そう……」


 実用性はあれど、自分は棚に飾られているロボットフィギュアで戦っているという事実に飛鳥は少々気を落とした。


「そして十二年前、王が亡くなり次の代表となったのがアヤセーヌ姫だ」

「だが、姫はいなくなった、と」

「そうだ、当時四歳にも関わらず単身エーテリオンを操舵し、行方を眩ませた……この星にたどり着いた、ということだけは反応を追跡してわかったが、地上に墜落でもしたせいだろう、そこで反応は消失した」

「それで侵略、か……姫のいなくなった理由が家出だのいたずらだのだったら、こっちはたまったもんじゃねぇな……」


 その後飛鳥は、十二年自分の住む星を危機に陥れようとしている理由を色々と想像し、自分達の戦いの結末が“そんな呆気ないオチ”で締めくくられるのではないかと不安を感じた。


「そして、先日エーテリオンからの放送で、ようやく姫の姿を確認した。おそらくあの振舞いだ、過去のことは忘れてしまっているだろうが…… 」

「記憶喪失か……まあ、大体の話はわかったが……姫の写真とかはないのか?」

「残念だが、写真は人の魂を取ると言われているから、王族は写真を撮ることは許されていない」

「めんどくせぇな……明治時代の日本人かよ……」

「高貴なお方だ、例えお前の目が腐り崩れた魚のような目であっても、一目見ればわかるはずだ……頼むぞ」

「それが人に物を頼む言葉か!?」

「別に実力を行使してもいいのだが?」


 両手をパキパキと鳴らすジャンナに威圧され、思わず「スミマセン……」と言って即刻土下座をするが「冗談だ」と一切の笑みもなくジャンナはそう返した。


「お前には姫を探すと同時に、私達が敵でないことを伝えてほしい」

「……わかった。だが条件がある」

「なんだ、言ってみろ」

「お前の機体を俺にくれ! やっぱり強くなった機体で帰るのが──!」


 思い入れがある、という言葉を忘れていた飛鳥は、そのままジャンナに本日最後となる絞め技をかけられた。



 ……



「……! 反応あり、アマツです」

「ホントに無人島にいたんだ……」

「……フン、やっぱり生きてたのね。面倒かけさせるんじゃないわよ、このバカ飛鳥!」

「危機を救った主人公をバカ呼ばわりかよ、まったく……」


 エーテルによる自動回復を待つと言ったジャンナと別れた飛鳥は、アマツの胸の上でエーテリオンの姿を見上げる。


 ──その異星の戦艦を……


 エーテリオンに帰った飛鳥を待っていたのは、可愛いヒロインではなく、苛立っている整備班長の繁であった。

 理由はもちろん、機体をボロボロにしたからである。それも、ただでさえ出せる機体が少なく、他の機体の整備にすら手が足りないこのタイミングである。繁が怒るのも仕方ない。

 その後ブリッジクルーと大輝達に出会うが、その反応は「よく生きてたな!」というよりも「やっぱり生きてたか……」という、どこか素っ気ない反応であった。


「あれ……俺ホントにこの艦のピンチを救った救世主だよな?」

「日頃の行いのせいよ」


 疲れはてて自室に帰った後、回りの反応から、自分はあの時活躍したのか不安になる飛鳥に、カグヤはベッドに寝転び漫画を片手に的確な答えを返す。


「俺がなにしたってんだよ。合衆国との激戦を有利に進め、世界中相手に斬り込み隊長もやり遂げ、今回は単騎で敵エースを撃退した主人公だぞ!?」

「いつも命令違反、男子生徒を焚き付け女子風呂を覗き、遠くから女の水着姿を見て興奮してるヘンタイの間違いじゃないの?」

「うぐっ……いや、それはそれで主人公らしいと言えばらしいんじゃないかなー……?」

「苦しい言い訳ね」


 片手で箸でポテチを食べ、もう片手で漫画のページをめくりながら、飛鳥に対して辛口な答えを返す。


(エーテリオン艦長、月都カグヤ──この戦艦艦長故に姫である可能性は充分ある……が、このパターンは大体最後に会った奴が一番怪しいはずだ。そもそもコイツ、これでも総理の娘だし……)


 エーテリアスの情報を流し、何度かこちらに迷惑をかけた懐かしき帝の姿を思い返す。


(とにかく、少しは目星でもつけとかないとな……いきなりやって来て連れ帰られても後味悪いし、なにより、これは秘密の共有という主人公に許された特権! 共有する相手がいないことには意味がない)


「ん? なに難しい顔してんのよ……アンタには似合わないわよ」

「余計なお世話だ……ちょっと出掛けてくる」

「んー」


 漫画に夢中のカグヤは適当な返事をするが、そんな声を聞くこともなく飛鳥は部屋から出ていった。

 元々男子部屋の空きがなくカグヤの部屋に押し込まれていた飛鳥の部屋は、エリア的に女子部屋の中央に位置しており、外へと出れば一人二人は誰か女生徒がいるのである。


「げっ……! 神野飛鳥」

「これはこれは、奇跡的生還を果たした飛鳥さんじゃないですか」

「貴理子に命? なんだか変わった組み合わせだな」


 腐りに腐った彼女達の趣味を知らない飛鳥は、その二人の組み合わせに意外性を感じ、この趣味がバレては不味いと貴理子は焦りを感じた。


「何もってんだ、ソレ」

「こ、これは──本だ! 命から借りたんだ。私のものではない!」


 もしもバレてもいいように、先に予防線を張り自分の安全地帯を築く貴理子。さすがは数少ない優等生だけあって、頭の回転が早かった。


「えー、貴理子さんがー読みたいってー言ったんじゃないですかー」

「貴様ッ!? 私はそんなこと言って──!」


(貴理子か……悪くないとは思うが、姫が眼鏡ってのは……新しいが、まずないよな)


 二人がキャーキャーと言い合う中、貴理子の顔をジッと見て姫の姿を想像するが、太いフレームの眼鏡がそのイメージの邪魔になるので、姫候補から名を外す。


(命は日頃あんな性格だが、まるっきり可能性がないとも言えないよな……謎は多そうに見えるし……候補には入れておくか)


「それで、貴理子さんの趣味があらわになったところで、飛鳥さんはどう思いますか?」

「ん? ああ……いいんじゃないか? 俺もちょっと好きだし……じゃあな」


 二人のやり取りをまったく聞いてなかった飛鳥は、投げやりに返事をして二人を後にした。


「……まさか飛鳥さんがホモに寛容だとは予想外でした」

「いや、あれは話を聞いてなかったんじゃないか?」

「いえ、飛鳥さんは実は腐男子で、ホモなんですよ」

「それは……ないと信じたい」


 エーテリオン内において、実力だけは認めている相手だけに、貴理子の複雑な思いが口からこぼれた。


「医療班ガールズは見るからにモブ顔だし、テレビに出たのもごく僅か。零はさすがにアレで姫というには無理があるし、刹那も代々剣の家系だとか言ってたから違う。凛のアイドル活動は親に勧められて始めたらしいし。綺羅は可愛いし、焔は筋肉バカだし。日本にエーテリオンは落ちたんだから、シャロも違うだろう。光は……少し怪しいが、どうだろうな……大分絞れてきたかな」


 何人か飛鳥の適当な理由で候補から外された者や、男もいるが、少しずつその候補者を絞っていく。


「ひーめ、姫……アヤセーヌ・ルーナス・ローメニア姫ーはいませんかー」


 一度しか聞いていないにも関わらず、その名を全て暗記しているあたりは、そういう単語が大好きな飛鳥らしいとも言える。


「アヤセー──」

「はーい、呼びましたか? 飛鳥さん」

「あ、あ、あ、綾瀬さん!? どうしてここに」

「あら、先程飛鳥さんは、綾瀬、綾瀬と呼びませんでしたか?」

「あー、あれはアヤセーヌであって綾瀬さんじゃ……あれ?」


 ふとおぼろげに気になることを思い出した飛鳥は、その確信を掴むためにその質問を問いかけた。


「綾瀬さんのフルネームって何でしたっけ?」

「え? 姫乃川綾瀬ですけど」


(ドストライクじゃねぇか!! アヤセ被りならまだしも、苗字に思いっきり姫って入ってるんですけど!)


「あの……飛鳥さん?」

「綾瀬さん、話したいことが──!」


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


 姫の話、ローメニアの話、戦いを終わらせる話……全てを告げようとした矢先、艦内にその音は鳴り響いた。

 WC──ローメニア軍出現の警報が。


『WC出現、前回の赤い機体です。飛鳥さん、大輝さんは出撃急いでください』


「くっ、アイツか──来てください」

「え、あの、飛鳥さん?」


 協力を約束した間柄ではあるが、ジャンナは侵略派の一人。このまま無事に過ぎるとは思えなかった飛鳥は、戦闘が激しくなる前に彼女に綾瀬を引き渡そうと考え、綾瀬の手を強く引く。


「戦いを止める為なんです。現実は辛いかもしれませんけど、受け入れてください……辛かったら俺が支えますから!」

「一体何の話を……?」


 困惑する綾瀬を連れて格納庫へと入ると、誰かに止められる訳にはいかないと、アマツのコックピットへと一直線で走り抜ける。


「おう飛鳥、アマツなら完全に──って、何で綾瀬を連れて……お、おい、飛鳥!?」

「掴まってて」

「は、はい」


 一体何が起ころうとしているのか理解できることもなく、綾瀬はただ飛鳥の言う通り座席の後ろへと周り、椅子にしがみつく。


「ん? もしもし、こちらブリッジ……はい……はぁ……わかりました」

「誰から?」

「繁先生です」

「またろくでもないこと?」

「いえ、何でも飛鳥さんが綾瀬さんに無理矢理突っ込んだ──訂正、綾瀬さんを無理矢理コックピットに乗せて出撃したそうです」

「ふーん…………はあぁぁぁーっ!?」


 緊急時でも冗談を欠かさない平常運転の命の言葉に、一瞬理解が遅れた後カグヤは思わず素っ頓狂な声を上げてリアクションを取った。


「なに考えてんのよアイツは! あんな動く地獄の一丁目、バカ専用棺桶に綾瀬さんを連れていくなんて……大輝、飛鳥を捕まえてきなさい! 今すぐに!!」

『あの赤いのがいるのに無茶言うなよ! いなくたって無理に近いんだぞ!?』

「自分はカイ・シデンじゃなく、マクシミリアン・ジーナスだと思いなさい! それなら主人公にも勝てるでしょ!?」

『訳のわからない冗談言ってる場合か!? とにかく、スサノオ出るぞ!』


 ただでさえ人数が少なく、戦闘にプレッシャーを感じていた大輝は、カリカリしていたこともあり、そのふざけた発無理難題に珍しく怒った反応を示す。


「ったく、相手はあの赤いのなんだぞ……一体なに考えてんだアイツ……」


 昔からその行動に振り回されている大輝には、未だに彼がいつも何を考えて行動しているかを理解することはできなかった。


「ん……? あれはあの男の……出撃してきたということは、まだ話していないのか、それとも敵対する道を選んだか……どちらにせよ接触しなければな!」

「こっちに来ます!」

「わかって、ます!」


 銃も剣も手にせずに接近する相手を確認し、飛鳥も何も持たずに突出を開始する。


「きゃぁっ!」


 機体と機体のぶつかり合う衝撃に、思わず小さな悲鳴を漏らす綾瀬。戦いなれている飛鳥は怯みもせずヘイラーとのぶつかり合いを続行する。


『聞こえているか、神野飛鳥』

「ジャンナか!?」

『まずは状況説明をしてもらおうか、お前は敵対したのか……していないのか!』

「落ち着け、姫なら連れてきた!」

『そうか、ならば早く──ッ!』


 ジャンナのヘイラーがアマツを蹴り飛ばし、互いの距離が遠く離れ、二人のいた場所へスサノオの銃弾が通過していった。


「チッ、やっぱり速い!」

「大輝!? くそっ、お前は手を出すな!」

「偶然か騙し討ちかはわからないが、邪魔者を先に片付ける!」


(ジャンナ──大輝を!?)


 機体を立て直すと標的をスサノオへと定めエーテルライフルを構える。

 しかし、ジャンナの攻撃よりも先に行動したのは飛鳥であった。


「大輝ィィィーッ!!」

「アマツ、スサノオへ攻撃を開始しました」

「ホントにどうしたってのよ……前ので頭打ったんじゃないの!?」


 いつものように仲間に向けて主砲を撃つにも、綾瀬のいるアマツに当てるわけにもいかず、大輝のスサノオならば本当に当たってしまう可能性があるので、さすがのカグヤも撃ち躊躇う。


「飛鳥!? どういうつもりだ!」

「こっちにも色々あるんだよ……とにかく、アイツに手出しはさせねぇぞ!」


 ヘイラーとスサノオの間に入り込み、スサノオに攻撃を止めさせると共に、ジャンナの行動を抑制する。


「……わかりました」


 不穏な空気の中、命はポンと手を叩きそう呟いた。


「分かったって、なにが!」

「飛鳥さんの行動です……おそらく飛鳥さんは──」


 命の言葉に一同が固唾を飲み込み、次の発言を緊張と共に待つ。


「先ほどの無人島で美少女と遭遇。そこで禁断の関係に発展したものの、彼女は敵の宇宙人だったー。俺に彼女を撃つことはできない、例え仲間に銃を向けてもー俺は彼女と添い遂げるー……みたいなのかと」

「そんな事で俺が裏切ると思ってるのか!」


 事件の中心人物である飛鳥が命に向かって文句を送りつける。


 ──だが。


「なるほど、あのヴァカなら一理あるわね」

「カグヤ?」

「たしかに、孤独の戦いーとか、たった一人の女のためーとか、そういうシチュエーション好きそうですもんね……」

「光?」

「ま、飛鳥らしいったららしいか」

「焔?」

「お前が冗談でもその気なら、俺だってお前を撃つ!」

「大輝……ッ! テメェら揃いも揃って俺をバカにして! 誰があんな“ババア”のためにお前らを裏切るか──っとぉ!? 何すんだよジャンナ!」


 全員の思い込みに反論を叫ぶ飛鳥の背中を、ジャンナのヘイラーが容赦なく狙い撃つ。しかし、さすがは飛鳥、見もしないで直感でそれを回避する。


「誰がババアだ、私はまだ22だ!!」

「マジかよ……って、撃つな撃つな! こっちには姫が乗ってんだぞ!」

「知ったことか!」

「おい!! って、後ろからも!?」


 ジャンナの怒りを避けていた飛鳥の背後から、今度はスサノオの攻撃が飛んでくる。


「大輝、飛鳥は既に錯乱しているわ! 威嚇じゃなくて落とすつもりで撃ちなさい!」

「綾瀬さんはどうするんだよ!」

「大丈夫よ、こういうのは撃墜しても人質は助かるってのがお約束なんだから!」

「何がお約束だ! エーテリアスのコックピットブロックはそんなに頑丈じゃねぇんだぞ!?」

「大輝さんの言う通りですよ、艦長!」

「うるさいわね、だったら私が代わりに撃つわよ!」

「落ち着けってカグヤ、主砲で撃ったらそれこそ助からねぇんだから」

「だったらバスター砲よ、下手な攻撃より謎生存するわよ!」

「艦長、現実と架空の区別はちゃんとやってください」

「いつもゲームしてるアンタには言われたくないわよ!」

「お前らさっきから撃つ、撃つって、本人の聞こえてるところで言ってんじゃ──くそっ、マジで当たったらどうすんだ、このッ!」

「撃ったな貴様! やはり私を撃つための罠か!」

「正当防衛だろうが! そもそも先に撃ったのはお前──チッ、下手くそが邪魔すんな!」

「だれが下手くそだ、このバカ飛鳥ァァァーッ!!」

「やるってんなら容赦しねぇぞ!」

「本性を現したわね、こっちも撃つわよ! スサノオの援護!」

「だから撃てねぇって──!」

「──!!」

「──!!」


 通信回線を通して敵からも味方からも攻撃的な言葉が飛び交い、また飛鳥自身も時に叫び、戦場の空気は荒れ、次第に混沌としていった。

 そんな時、この空気を打破しようと一人の少女が声を発した。


 ──綾瀬だった。


「みなさん、落ち着いてください!」

「綾瀬さん……?」

「私を支えてくれるんじゃなかったんですか? そんな状態では誰も支えられませんよ」

「すみません、熱くなりすぎました……」


 後ろから優しく声をかける綾瀬に、思わず顔をうっすら赤くして反省の言葉を述べる。


「ふふ……飛鳥さん、出撃の前に言いましたよね、戦いを止める為って。私がそのために必要なんですよね?」

「…………はい」

「どうすればいいんですか?」

「アイツに、綾瀬さんの帰るべき場所に連れていってもらえば……」

「帰るべき……場所?」


 覚えていないのも無理はない、飛鳥は無言で首を縦に振ると、綾瀬の声により攻撃を中断したヘイラーの前に立ち、ハッチを開け、綾瀬と共に外へ立つ。

 自動操縦とはいえ、その高度は少し高く、打ちつける風は冷たく、痛い。


「ジャンナ、彼女が姫だ!」

「……」


 飛鳥の行動に合わせ、ジャンナもハッチを開け飛鳥達と対峙する。


「……はじめまして。姫乃川綾瀬です」

「……ジャンナ・D・ローゼス」


 互いに名前を名乗り、後は少し悲しいが綾瀬を連れて、ジャンナは去っていく。そんな流れを予想していた飛鳥に、ジャンナは声をかけてきた。

 さっきの文句か、それともお礼か──飛鳥は耳をすまして彼女の声を聞く。


「──で、彼女は誰だ?」

「……は?」

「は、ではない。誰だこの女は、と聞いている」

「誰って、姫だよ、姫! さがしてるのはアヤセーヌ姫なんだろ? 彼女の名前は姫乃川綾瀬、姫でアヤセなんだぞ?」

「記憶が消えている人物が、本当の名前を覚えているわけがないだろうが!」


 ああ、ごもっともな意見で。自身のバカさ加減に思わずハッチの上で自信を喪失する。


「それじゃあ、一体誰が姫なんだよ!」

「それは……“これから確かめる”」


 ジャンナが怪しさを含んだ発言をすると、命のディスプレイにキャッチされた反応が表示される。


「後方からエーテル反応──これは……転移。でもこのサイズは……」


 エーテリオン後方から発生した光のリングは、エーテリオンと同じほど巨大なワープゲートであり、そのゲートから突如ヘイラーと同色の戦艦が姿を現した。


『貴艦は本艦アールテーミスの主砲により、即時撃沈の用意が出来ている。大人しく降伏せよ、繰り返す……』

「……艦長」

「…………チッ!」


 使える武装、EG、作戦を考えるカグヤだったが、どう足掻いても詰みのこの状況に、ただただ舌を打つ。



 ……




 エーテリオンがアールテーミスに対し降伏を受け入れると、エーテリオン乗員を一ヶ所に集めるようにジャンナから指示が入り、一同は大人しくそれに従った。


「これで全員か」

「そのようですジャンナ様」

「抵抗する者はいませんでしたので、命令通り拘束はしておりません」


 ジャンナの側近であり、頼れる右腕、左腕に値するジル・ド・リリィと、レイ・ド・リリィはジャンナへの報告を二人で済ませる。


「それで、姫は見つかったんだろうな?」

「ああ……それにしても酷い顔だな」

「余計なお世話だ」


 飛鳥の顔面には二発の殴られた痕跡があった。帰艦後すぐに大輝から一撃を喰らい、降伏を受け入れている最中にも関わらずブリッジに呼ばれてはカグヤにグーパンチを喰らわせられていた。


「話はだいたい聞いたわ。それで、家出した挙げ句記憶喪失になって、戦争を引き起こしたアホのお姫様は一体誰なのか教えなさい! 言った瞬間カタパルトにくくりつけて射出してやるから!!」


 初の黒星にイライラがピークに達していたカグヤはボロクソに姫のことを罵倒しながらジャンナにへと問い詰める。


「……自身をそう悪く言うものではありませんよ“姫様”」

「どう言おうが私の勝手──……今、何て?」

「端的に申しますが……貴女が姫です」


 ジャンナは膝を地面に着け、カグヤを崇拝するようにこうべを垂れる


「マジかよ…………カグヤが──アホ姫?」

「ふんっ!!」

「ぐあぁぁぁーっ!!」


 余計な一言を呟いた飛鳥は、三度目のグーパンチを顔面にお見舞いされた。

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