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第十一話 艦長、行方不明です。

「ったく……ひどい目にあったぜ」


 女性陣にボコボコにされた飛鳥は罰として、学園祭の後片付けの大半を押し付けられ、ぶつくさと文句を言いながら作業を進めていた。


「ま、お前らしいと言うか、なんというか……」

「たしかに、主人公ってのはヒロインにボコボコにされるイベントなんてよくある話だが……」

「いや、そういう話はしてねぇよ……ま、お前がそれでいいならいいけどよ」


 一人では可哀想ということで手伝いをする大輝だったが、毎度のことながらマイペースな幼馴染みに合わせるのも疲れていた。


「でも、これで世界から追っかけられたり文句言われたりすることはなくなったわけだ」

「方法は……アレだがな」


 あの洗脳放送──もとい、世界中を虜にするアイドル生誕ライブにより、世界中にエーテリオンを知らぬものはおらず、その女性陣の根強いファンは男女合わせて数十億に到達し、各国はエーテリオンの事を目の敵にするどころか、大歓迎の姿勢となっていた。


「あとは倒すべき敵……WCか」

「おいおい、あんなのエーテリアス軍団に比べれば、悪の軍団の戦闘機レベルの弱さじゃねぇか。雑魚だぜ、ザ、コ」

「おい飛鳥……その言い方じゃ、これから強い悪の軍団が来ちまうぜ?」

「ヘッ……それはそれで燃える展開じゃねぇか」


 大輝は飛鳥らしい発言に呆れながら「そんな展開やめてくれ」とぼやき、掃除を再開した。


 ──しかし、大輝はこの後思い出すことになる。


 この男がことフラグ回収に関しては、彼の望む主人公並みにプロフェッショナルであるということを……


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


「きたわねWC……あとはあんた達を全滅して感動のエンディングなんだからね!」

「世界中を洗脳して、宇宙人駆逐したからって感動要素がどこにあるって言うんですか……」


 舵を取りながら小さな声でカグヤの未来図を真っ向から否定する光。


「命、それで相手はどこ!?」

「……艦直上、数は百、接触まで一分」

「な、何よそれ!? ワープもなしに来るなんて、そんなパターン聞いてないわよ! 出せる機体は全機出撃! 急ぎなさい!!」


 不都合な展開に地団駄を踏みながら、目の前へと迫る敵に対し指揮を取り応戦を試みる。



 ……



「貴理子、出撃できない俺の分も頑張ってくれ」

「はい、相馬さん……ですが、私に指揮が取れるでしょうか?」


 前回の戦闘でレッドを海へとバラ撒いた相馬は、貴理子に一時隊長の座を譲り、待機することとなっていた。


「問題ない、お前なら出来るはずだ」

「しかし、零もいないということでの混成部隊……あの阿久津宗二を指揮できるとは……」

「あ……ああ、アイツなら……多分大丈夫だ」


 同じ部屋の住人として、彼の本性を知る相馬は貴理子を元気付ける為に言葉を濁らせながらそう伝える。


「相馬さんがそう仰るなら……私、頑張ります」

「うむ、その意気だ。行ってこい!」

「はい!」


 笑顔で返事をした貴理子はブルーのハッチを閉め、出撃準備を済ませる。


「いきますよ、皆さん!」

「あぁっ!?」

「ひっ!」


(相馬さん……私、不安です)

(しまった……いつものクセで接しちゃったよ……怖がられて見捨てられないかな……)


 共に先行きに不安を感じながら、エーテリオンから隊をなして進撃を開始する。


「よーし、先に行くぜ大輝!」

「ああ…………まさか、な」


 いきいきとした飛鳥を見て、彼を追うようにカタパルトから飛び出した大輝は一抹の不安を抱え、そう呟いた。


「全砲門準備完了! いつでもいけるぜ!!」

「だったら発射よ! 一斉発射!! 近づく敵は全部凪ぎ祓いなさい!」


 前回撃てなかった鬱憤もあり、味方の進軍経路などお構いなしにカグヤは嬉々として主砲を敵方へと放ち、次々に撃墜スコアを稼いでいく。

 平常運転のエーテリオンに文句を垂れる者も数名いたが、その攻撃に便乗し畳み掛けるように全機が連携を取って敵を撃破していく。


「オラオラッ! 邪魔する奴はこの俺が片っ端からぶっ潰してやるよ!」


(……取り越し苦労──だったかな)


 難なく敵を蹴散らす飛鳥のアマツを見て、大輝は肩の力を抜いて戦闘に集中する。


 ──現実にフラグなんて存在しない、そう思って。


「いきなりでちょっと驚かされたけど、結局はいつもの雑魚ね」

「そうですね。まあ、強敵なんて来てもめんど──ん、エーテル反応? 種類は……砲撃?」


 命のシステムモニターに表示された警告表示。それが一体何を表すのかわからない内に艦に衝撃が走る。


「何、直撃!?」

「いえ、攻撃はエーテルの防護壁に阻まれ無傷です」


(……砲撃に合わせてエーテルフィールドが自動で展開した? いや、そもそもエーテルによる砲撃はエーテリオンの主砲、バスター砲以外は未確認のはず。その対処手段がエーテリオンに元から組み込まれていた……)


 始めてエーテリオンを見た時から、建造した、という言葉にどこか怪しさを感じていた命。

 そして、今回敵の新たな攻撃パターンが既にエーテリオンが反応するところを見た彼女はいくつかの仮説を頭で立てながら、その砲撃の元をたどり、各機へと伝える。


 ──敵の新型が現れた、と。



 ……



「フム、どうやら機能は百パーセント生きているらしいな……さすがにこちらが手を焼くほどの力はあるか」


 ヘイラーの射撃によりエーテリオンの様子を伺うジャンナ・D・ローゼスは、百パーセントの力を持つエーテリオンを相手をすることに少し面倒だと感じながらも、ブースターの出力と重力の力を借り、急降下を開始する。


「なによ、アレ」

「ライブラリーに該当なし、やはり新型です」

「まったく、WCも一筋縄にはいかないってわけね……いいわ、全機WCの新型に攻撃開始! 力の差を見せてやるのよ!!」

「っしゃあ! 任せろっての!!」


 カグヤからの指示を受けた飛鳥は、敵の新型というフレーズに心を昂らせ、アマツの出力を最大にし高度を上げる。


「待て飛鳥! 相手は新型なんだぞ!?」

「知ってるよ! 派手な赤で人型、でもエーテリアスとは全然違う……そして単騎だ! 強いに決まってる」

「わかってて近づくなよ! ったく」


 独断専行する飛鳥を援護するべく、大輝も慌てて射撃による支援を開始する。


「来るか……面白い」

「ッ!? なんだよアレ、速すぎる!」

「くっ! 大輝、そっち行ったぞ!!」


 大輝の援護射撃をアインやブルーを遥かに上回る機動力と速度で容易に避けると、迫るアマツを軽くあしらい、スサノオへと接近する。


「倒せる奴から片付ける!」

「ヤバっ──!?」


 ヘイラーは腰から短い棒を手に取ると、棒の先からエーテルの光が瞬時に伸び、エーテルの刃が形成され、それをスサノオに目掛けて降り下ろす。


「月下神斬流──新月!!」

「ちっ、邪魔が──だがそんなもので!」


二機の間を切り裂くように現れた刹那のツクヨミ。しかし、ヘイラーは逆噴射により刃の軌道から身を引くと、降り下ろされたツクヨミの刃を、光る刃で意図も容易く両断する。


「なっ──!?」

「ソレに思い入れがあるかは知らんが──隙だらけだぞ!」


 自らの剣を断たれるという事実に衝撃を受ける刹那に容赦なく剣を構え、そのまま穿つ。


「──! 腕が動かない?」

「俺をシカトしてんじゃねぇーぞ、赤いのよォーッ!!」


 異常に気づいたジャンナは、腕に絡み付いているアンカーを目で確認し、その先に立つツヴァイを睨みつける。


「今だ、やれッ!!」

「了解だ、阿久津宗二!」

「いくよ、綺羅!」

「はい! 凛さん」


 腕を掴み動きを抑制されたヘイラーに、ブルーをはじめとする三機が、銃口を向けて三方向から攻撃を仕掛けようと試みる。


「フン……こんなもので捕らえたつもりか!? そちらとは性能が違う!!」

「なっ、腕一本の力で機体が!?」

「四機仲良く静かにしていろ!!」

「くっ、やはり私では──!」

「ちょっと、こっちに──きゃぁっ!!」

「凛さ──きゃあぁぁぁーっ!!」


 ヘイラーがグッと力を入れ腕を引くと、ワイヤーと繋がるツヴァイはブースターによる踏ん張りもむなしく機体を振り回され、ヘイラーを中心にブルー、グリーン、イエローの順に次々衝突していき、ジャンナがワイヤーを腕から振り払うと、四機は団子になって海へと落ちる。


「戦意喪失2、戦闘不能4……見た目は少し違うが、所詮は“エーシリーズ”か……あとは姫様を──」

「俺を忘れてんじゃねぇぇぇーっ!!」

「まだ元気なのが一機いたか……まあいい、たった一機でなにが──」


 圧倒的な戦力差に余裕を感じていたジャンナ、故に予想よりも上回るアマツの素早さに対応が遅れ、乱射された銃弾が数発機体をかすめ、えぐる。


「──っ! 旧型風情が私のヘイラーに傷をつけるか!!」

「弾が当たるんなら、倒せんだろ!!」

「実体剣を二本持ったところで!」


 万物を断つ光の刃がアマツ目掛けて走る。

 そのスピードは小型WCの突進よりも速く、並の腕では同型機ですら避けるのは困難である。


 ──並の腕、ならの話だが。


「遅いッ!!」

「バカな!?」


 左腕一本を犠牲にしたものの、アマツは斬撃をくぐり抜けヘイラーの懐へと入り、思い切り機体を激突させ相手を怯ませると、その隙に武器を持つ右腕を断ち切る。


「くっ、旧型と油断しすぎたか……距離を取って遠距離から──!?」


 後退し、小型のエーテル砲での戦闘に移ろうとするジャンナだったが、飛鳥はそれを許さないかのように右手のブレードを投げ捨て、ヘイラーの腕を掴む。


「距離なんか取らせねぇぞ」

「掴まれたか……だが、それでは攻撃できまい。時間稼ぎのつもりか?」

「アマツのライフルにはこういう使い方も出来るんだよ!」


 アマツのバックパックから投げ捨て防止ブースターを搭載しているライフルが切り離され、ライフルはブースターによる単独飛行により、その銃口をヘイラーへと向ける。


「自律攻撃が可能な銃か! ちっ、離せ!」

「この、じっとしてろ! 照準が合わないだろうが!」


 用途外のためライフルの姿勢安定に時間をかけている間に、ジャンナは掴まれた腕を振り払おうとするが、腕はアマツの脇でガッチリと挟まれており、力の差があっても振り払うことができない。


「……やむを得ない、ならば!」

「うぉっ!?」

「敵、高速で移動開始。掴まっているアマツ、エーテリオンから離れていきます」

「あのバカ……!」


 振り払えないのなら、と、アマツを連れたままヘイラーの最大出力で移動を開始する。

 未知の速度に驚きながらも、距離を離されたら打つ手がないと理解している飛鳥はその腕を掴み続けた。


「まだ離れないか! 中々タフな奴だが、いい加減しつこい!」

「そんなに掴まれるのが嫌かよ! うっ……少し酔ってきた」


 上下に、左右に、時に回転し、時に緩急を付け、腕に取りつく異物を切り離そうと、もがくように変則飛行を繰り返すが、海面に叩きつけようともアマツは一向に離れようとはしなかった。


 ──そして


「ハッ、お前の動き──もう見切ったぜ!!」

「なっ──!? コイツ、こちらの勢いを──!!」


 今まで掴まっているだけのアマツだったが、急カーブの途中、進む方向とは逆方向──つまり、曲がらずに直進する方向にへとブースターを吹かせる。

 制御する暇も、姿勢を取り直す暇もなく勢いをつけられたヘイラーとアマツが向かう先──それは自身がヘイラーに何度も叩きつけられた海面だった。


 ズドオォォォーン!!


 勢いをつけた二つの巨大な質量は海面に接触すると、大きな水柱と音を立て海中へと沈んだ。


 ──その後、浮き上がることもなく……深く、深くへと。



 ……



 飛鳥が消息を経ってから数時間、エーテリオンブリッジでは重い空気の中捜索を絶えず継続して行っていた。


「命、アマツの反応は?」

「依然ありません。繁先生曰く、あの程度のことで機体は壊れない、だそうです」

「あーもう、武器に投げ捨て防止機能付けるなら、機体にも自動帰還機能でも付けときなさいよ、まったく……」


 探索は命、艦の移動を光に任せているため、やることのないカグヤぶつくさと暗い表情で文句を垂れる。


「まー、焦っても仕方ないだろ? 大丈夫だって、機体爆発しても帰ってきそうな奴なんだぜ? 心配すんなって」

「だ、誰もあんな奴の心配なんてしてないわよ! いい? ただでさえ隊長機二機とドライが戦闘不能で、ツクヨミ、スサノオ、フィアー以外全機損傷。刹那はあれから自信喪失して目が虚ろだし、シャロは三蔵と一緒じゃないと出撃しないって駄々こねてるの! だったら、次敵が来たらスサノオ一機しか戦えないのよ!? こっちはサブキャラ単騎の縛りプレイなんて断じてゴメンよ!」

「誰がサブキャラだ、誰が!」


 飛鳥が心配でブリッジに上がっていた大輝は、自分の不当な扱いにツッコミを入れる。


「まあ、サブキャラは半分ぐらい冗談として、たしかに今敵が現れると厄介ですね。それも、今回みたいな相手が来たら最悪です」

「でも、手がかりがない状態で探しても……」

「……こんだけ探していないとなると……たぶん無人島ね」

「……はい?」


 一体どういう根拠でその答えにたどり着いたのか、光は首をかしげながら振り返る。


「無人島よ、無人島! 海に沈んだ仲間は大抵無人島に流されるものなのよ!」

「そんな、映画じゃないんですから……」

「とはいえ、行方不明なのは“そういうことに巻き込まれやすい人”ですし……」


 フラグ回収のスペシャリスト、根っからの主人公体質、幸運と悪運の塊、それが神野飛鳥という男であった……。



 ……



「……ここは、無人島か」


 海辺に流れ着いた機体のひしゃげたハッチをこじ開けて出た先に飛鳥を待ち受けていたのは、見るからに人など住んでいない、木々が生い茂り、周りを海で囲まれた孤島であった。


「ふふ、俺も主人公が板についてきたみたいだな……さてと」


 通常、遭難時の生存率を上げるためには、ここはジッと機体の中で救難信号を送るのが正しい行動である──が、あえて飛鳥は島の中へと歩いていった。


 ──だって、そっちのほうが面白そうだから。


 こういうイベントでは、大抵島の中には女性がいて、会えば戦う決意なり、新たなる力なり、何かしらを得て戦線に復帰するのがセオリーというものである。

 もちろん出会う人間が男という可能性もありはするが、飛鳥の都合のいい第六感は「この先に美女がいる」と訴えかけていた。


「どこだー、俺の運命の女神さまー、できればワンオフの新型機とかくーださーいなー……あ?」

「……ん?」


 ノリノリで探索していた飛鳥はその人影を見ると、その足を止めて、ピタリと硬直した。

 たしかにそこに人はいた。しかしその人物の格好は、きわどい民族衣装でもなければ、魅惑の裸姿でもなかった。

 そう、その姿を端的に表すのならば、科学捜査の防護服とでも言うべきか、それともロケットの宇宙服とでも言うべきか……とにかく、飛鳥の願望である人物像とはかけ離れた、怪しさ満点の人物がそこにいた。


「この星の知的生物か……調査通りだが、やはり防護服は必要ないらしいな。すまないが話を──」

「えー……っと……さらば!!」


(なんだよあれ、なんだよアレ! この島、地下に変な実験施設でもあるんじゃねえのか!? くそっ、だとしたらこの流れは映画序盤で無知な観光客が口封じに殺されるパターンじゃねぇか!! そんな名前もないモブキャラみたいな死に方、俺は絶対認めねぇぞ!)


 怪しい格好の人物に背を向けると、今度は生きたいという願望を胸に足場の悪い森の中を全力疾走し、なんとか振り切ろうと試みる。

 しかし、その必死に逃げる姿は、どうみても“序盤で死ぬモブキャラ”の姿であった。


「まったく、勝手にいなくなられては困るのだが?」

「のわっ!?」


 あの格好では追い付けまいと踏んでいた飛鳥だったが、自身の正面から赤いパイロットスーツを着た女性が“ワープでもしたかのように”現れたことにより二重の意味で驚き、すっとんきょうな声を出し、その場に尻餅をつく。


「……あ……あ……え?」

「ん? ああ、異星のサルに言語が通じないのは当然か……待て、今翻訳機を──」

「だ、だれがサルだ! 主人公たるもの相手が何語で話そうが理解できる能力ぐらい持ってるんだからな!!」


 勝手に自分の能力と称しているが、これは学園祭の放送で世界中に対して会話するために、シャロのつけていた翻訳機を繁が量産し、着用していチョーカーを「カッコいいから」という理由でつけ続けていたお陰であった。


「ほう、わかるのかローメニア星の私の言葉が」

「お、おう……まあ、なんせ主人公だからな」

「と言いつつ、その首輪のお陰なんだな?」

「うぐ……バレちまったらしょうがねぇ、これは俺の仲間が作ったエーテル翻訳機なのさ!」

「ふむ、さぞエーテル技術に精通した仲間なのだな……興味深い、会ってみたいものだな」

「そうか……でも残念だが俺達の艦、エーテリオンにはそう簡単には連れて行けないんだ」

「それは残念だ……お前もエーテリオンの一員なのか?」

「ああ、俺はエーテリオンで一番強いエーテリアスのパイロットだぜ」

「そうかそうか、お前が一番強い──さっきのパイロットだなーッ!」

「へ? いてててててて!! な、何すんだよ! 折れる、折れるっての!」

「お前の口は壊れた蛇口か!? よくもそこまでペラペラと情報が出てくるものだな! 色仕掛けをしようと思った私が愚かだったよ!!」


 ハニートラップか、尋問により情報を聞き出そうと思っていたジャンナも、まさかこんな軽い流れで聞きたい話をほとんど聞けるとは思ってもなく。変な事をしなくて良かったと心の底から安堵しつつ、背中を踏みつけ、飛鳥の右腕を締め上げる。


「い、今からしてくれてもいいんですけど──っててててて!!」

「言え! 姫様について、貴様の知ることを!」

「ひ、姫? 姫ってなんだ──あたたたたたーっ!!」

「今さら口を固くするな面倒くさい! 洗いざらい全てを話せ!!」

「まてまてまてまて、まってまってまって!! 知らないから! 姫とか全然知らないから!!」


 このままでは本当に折れると悟った飛鳥は、左手で地面をバシバシとタップしながら、必死に知らない事を伝えようと叫び散らす。


「とぼけるな! エーテリオンを発信源とした映像に、たしかに姫様の姿があったのだぞ!」

「いや、知らないですって!」

「貴様ッ! アヤセーヌ・ルーナス・ローメニア姫だぞ!?」

「だから知らねって──知らないです知らないです知らないですからッ! いたたたたたた!! 知らないでごめんなさい、私は何の役にも立たないモブキャラです、だから許してください!!」


 腕が少々あらぬ方向に傾きはじめたので、飛鳥も必死にジャンナへ弁明と謝罪の言葉を伝えようとする。

 目には珍しくうっすらと涙を浮かべていた。それだけ痛いのだ。


「……そう、か。嘘ではないらしいな」

「今だッ! ヘッ、一度俺を離したのがお前の運のツキよ! この俺の真の実力──疼く右腕と輝く右目の力を解放したらお前なんてイチコロなんだからな──!!」


 ……


「あっ、すいません、調子に乗りました、いたたたたた! もうしませんから話してくださ──あああああぁぁぁーっ!!」


 ジャンナの拘束から抜け出した飛鳥は、挑発から十秒も経たない内に再び関節技をキメられていた。

 刹那とは違い、さすがに生身での戦闘までは最強というわけではなかった。


「反省したか?」

「はい……反省しました」

「まったく、話が進まないではないか……こんなのが私を追い込んだ相手なのか……?」

「あのー」

「なんだ」


 二度目の拘束から解かれた飛鳥は、ジャンナに対して恐る恐る声をかけた。


「さっきのパイロットだとか、追い込んだ相手だとか……一体何のことですかね?」


 ジャンナがヘイラーのパイロットだということどころか、未だに怪しい研究者の一員だと勘違いしている飛鳥。

 その言葉が頭にきたジャンナは、理解力の乏しい飛鳥に対し三度目のサブミッションをお見舞いした。

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