第十話 艦長、愛と歌は世界を救うそうです。
「転移してきたエーテリアス、えーっと──大量に接近」
「……状況は最悪に近いけど、こういう方が展開的には燃えるわね。繁先生、例の武装で出撃させて!」
「完成させてはいるが、マジでやるのか……?」
作りはしたが、どうも乗り気ではない繁は生徒であるも艦長であるカグヤに尋ねた。
「あったりまえでしょ! 言葉の伝わらない奴らに私達の歌をたっぷりと叩き込んでやるんだから!! オペレーション、愛・“おぼえさせてやる”発令よ!」
「なんですかその平和の欠片もないネーミング……まったく」
「文句言っても無駄無駄。あ、第一部隊の三人が出撃、敵陣へと向かいました」
今回の作戦はいつものメンバーとは違い、隊員の再編成を行い、部隊を結成していた。
「ほらいくぞ刹那、貴理子!」
三人の精鋭、飛鳥、刹那、貴理子は斬り込み部隊として数百の相手へと躊躇うことなく突撃を開始する。
「刹那を乗せているとは言え、スタンダードタイプのブースターでブルーに追い付くとは……アイツと私の能力の差なのか?」
「まあ……デタラメな奴だからな」
いつも近くで部下を見ている刹那が、戸惑う貴理子に呆れながら同情する。
「高速で三機接近!!」
「どれもあの時の強者ばかりだな……どうするアレク」
「あの白いのは私一人で相手をする。他の二機は十機以上で追い込め。わかってはいると思うが、ワープできた私達に補給手段はない、損傷を抑える立ち回りをしろ!」
「了解!!」
アレクの一声で部隊が統率されたまま一斉に別れ、刹那と貴理子へと迫り来る。
「よし、はじめるぞ刹那!」
「了解だ……だが、使っているのが“実弾”なのを忘れるなよ?」
「ふふっ、問題ないさ」
刹那は得意の剣を取り、貴理子は得意の銃を持つ、エーテリオン屈指の実力者の二人へ、世界混成軍のエーテリアスが挑む。
「うおぉぉぉーっ! 落とす!!」
「臆せず来るか、だが──遅い!!」
「なっ、銃が!?」
「機体の腕が!」
「メインカメラが!」
刹那の間合いへと入り込んだ三機は一瞬にして攻撃を封じられ、恐怖を感じながらも体勢を立て直し刹那から距離を取る。
「つまらぬものを斬ってしまった、というところか」
「くっ、もう一機のほうを──」
刹那を脅威に感じた相手は標的を貴理子へと変更する。
しかしいくら標的を変えたところで“脅威が変わるわけではなかった”。
「フン、止まって見えるぞ!」
相手の動き、武器の向きを目で追うと、それに合わせてマニュアル操作の照準で狙い、発射する。
「こ、コイツ! 一瞬の内にライフルで四機の武器だけを撃ち落としただと!?」
「フム、アニメの真似というのは意外と簡単にできるものだな……この調子で他も!」
「おーおー、二人ともやってんなぁ……よーし、俺も主人公としてカッコいいところを──!」
二人の活躍を見た飛鳥は、自分より目立たせるわけにはいかないと、気を入れ直して戦いに集中する。しかし、そんな飛鳥に向かって接近する機体が迫っていた。
「神野飛鳥ーッ!!」
「おっと! 赤いエーテリアス、俺の名前を知ってるのか!?」
「放送を見ていればそれぐらいわかる。久しぶりだな、神野」
アレクは帰ってきたぞ、と言わんばかりの態度で飛鳥へと攻撃を仕掛ける。
あの接戦をした相手だ、自分が覚えているから相手も覚えているだろうと考えていた。
──名前を名乗ったこともないのに。
「誰だよ!? そんなセンス悪い仮面付けた奴なんて知らねぇよ!」
「なっ! 貴様と一騎討ちしたアレク・マーチスだ!! 忘れたか!」
「名乗られたのも顔見たのも初めてだっての! まあいい、主人公に負けた奴が何のようだ?」
「フン、相変わらずの主人公バカが……だが、貴様が主人公を名乗るなら私は貴様の宿命の好敵手と名乗ろうではないか!」
「いや、負けた分際で勝手に名乗るなよ……ってかいい歳して厨二病かよ気持ち悪っ」
「くっ……こちらが優しく出ていれば付け上がって!!」
「最初に斬りかかっておいて何言ってんだ!!」
「撃ったな貴様!」
「撃って悪いか!」
子供のような言い合いではあるが、なまじ戦闘能力の高い二人の戦いを止められるものもいなく、二人だけの決闘が繰り広げられた。
「三人とも着々と戦力を分断、無力化しています」
「そろそろ頃合いね、第二、第三部隊全機出撃よ!」
次に出撃を控えていたのは、大輝、宗二、三蔵、シャロの前衛第二部隊と、零、相馬の艦防衛第三部隊であった。
「大丈夫かシャロ、相手は──」
「大丈夫、新しい機体もテストは済んでるし……三蔵がいるから……」
「シャロ……」
「いちゃつきゃがって、機体に爆弾でも詰めてやろうか」
新武装の装備作業を進める中聞こえてくる甘い会話に、殺意に吐き気に尻の疼きを感じた繁はイライラとした様子でそう口走った。
「手伝いますよ、班長!」
「バーカ、ホントにするわけねぇだろ。ドライは大事な俺の作品なんだぞ!? ホラ、準備できたぞテメェら! さっさと出やがれ! こっちは他にまだやることがあるんだからな!」
全機に通信機越しに怒鳴り散らした繁。それに急かされて、全機は慌てて出撃を開始する。
「エーテリアスドライ、桑島三蔵で出ます!」
「シャーロット・エイプリー、エーテリアスフィアー、出ます!」
ゲテモノの赤黒色アイン、腕にガトリング砲を備えた青黒色ツヴァイ、隠し腕満載故にポッチャリ体型の黄土色ドライ、そんな三機が所属する二番隊において、全機一軽装で明るい桃色のフィアーは、三蔵の後を着いていくように空を舞った。
「エーテリオンから更に増援!」
「慌てるな! 数はこちらに分があるんだぞ」
「フン、的が多いと狙いやすいな……くらえっ!!」
後続で現れたレッドは艦の傍で姿勢を安定させると、全ての砲門を開き群がる相手に向けて照準を合わせ、全弾を容赦なく発射する。
「長距離からの砲撃! よ、避けきれません!!」
「うわぁぁぁーっ!! 直撃するっ!?」
相馬の放った砲撃により、部隊は死を覚悟する者、ただただ叫ぶ者とで分けられた。
しかし、機体に走る衝撃の後、各々は恐る恐る恐怖で瞑った目を開けるが、特に大きな異常もなく機体は通常通り飛んでいた。
「……あれ、生きてる?」
「なんだ、奴らの使っている弾は……機体に何かを取りけられた……?」
時限爆弾か、ミサイルの誘導的か、それともエーテリオンの新兵器か……弾として機体に取り付いた奇妙な機械に思考を巡らせるが、答えにたどり着くことはなかった。
「サウンドコントロールシステム、全体の六割に着弾を確認。尚も増加中」
「お膳立ては上々ね、綺羅ちゃんの準備は!?」
「ステージ、照明、マイク、全て異常なし。衣装、化粧完了まで間もなく、だそうです」
「そ。それじゃ新星歌姫の力、世界に見せてあげようじゃないの!」
「ホントに上手くいくんですかね……」
「さあな」
艦砲射撃がなく、暇になっていた焔は光の問いにぶっきらぼうな返事を返す。
……
「……これで終わりよ」
凛は手に持ったメイク道具を置き、綺羅の肩に手を添える。
「ありがとうございます凛さん。凛さんに化粧してもらえるなんて光栄です」
「別にいいわよ、これぐらい」
使うつもりもないのに持ち合わせていたメイク道具を鞄に入れると、愛想のない返事をする。
「……凛さん」
「……何?」
「私、歌が好きです」
「……そう」
「まだステージで踊ったことはないですけど、それでも私は歌う事が、歌う自分がいて聞いてくれる人のいる歌が大好きです。これから何があっても絶対に嫌いになりません」
「……あんたは確かに、そうかもしれないわね」
一緒に生活することで、自分とは違い秘めたものを持っている事を感じていた凛は、自虐のような言葉を呟いた。
「……凛さん、一つだけお願いがあります」
「何よ」
「このエーテリオンにいる間だけでいいです……また、歌を好きになってくれませんか? 歌が好きだった頃の、私が始めて憧れた時の凛さんに戻ってくれませんか!?」
綺羅が始めて見た凛。
当時同年代にして自分とは違う場所に立ち、楽しそうに歌い、踊る彼女を見て綺羅はアイドルを目指した。
その憧れの相手と同じ舞台へと立つ前に、昔と同じ姿になって自分を見てほしい、綺羅はそう思って自らの願いを口にした。
「それは…………いいわよ」
その一言で彼女が少しでも良く歌えるのなら、凛は先輩として嘘でもそう答えることにした。
「あ、ありがとうございます!」
そんな自分を気遣った言葉に、綺羅は心から嬉しそうに礼を言って頭を下げた。
その一言だけで綺羅にとっては充分なのだ。
「それじゃあ凛さん、私歌ってきます!」
「ええ、せいぜい頑張りなさい」
「はい!」
元気な返事と共に、綺羅は凛を残し待機していた教室から駆け出していった。
「……歌が好きだった頃の私──か」
彼女の言ったその一言を小声で呟き、そんな昔の自分を振り返る。
楽しく歌い、踊るだけで、周りから歓声を貰えた、そんな頃の自分を──
「お待たせしました、黄瀬綺羅上がります!」
「きたな、ステージ準備はできてるぞ!」
格納庫からこちらの準備に戻ってきた繁は、綺羅の到着を見てステージ上昇用の赤いレバーに手を掛ける。
「はい!」
走り際に返事をし、ステージの中央に立つ綺羅。それを確認した繁がレバーを下ろすと、天井が左右に開き、ステージがゆっくりと上昇していく。
「…………はぁっ……はぁっ……──っ」
(……あ、れ……?)
呼吸を整え、軽く声出しをしようとした綺羅は自身の異変を感じ取った。
「……──っ」
(声が……! 緊張のせい!?)
「──ま……っ!」
胸を強く押さえ、繁にステージを止めるように叫ぼうとするが、その声すら掠れて出てこない。
(このままじゃ──!!)
体を強張らせる綺羅。
そんな時、上昇を開始していたステージに、一人飛び込む人影があった。
「まったく、何やってんのよ」
──凛であった。
「……あ……りん……さん、どうして……?」
「あんたが言ったのよ、エーテリオンにいる間、昔の私に戻ってほしいって言ったのは……だから歌うの、私は昔から歌が好きだから」
「凛さん……」
「それに新人のあんたなんか、危なっかしくて客席から見てらんないわよ……だから──」
急いで着た衣装を整えると、頬をうっすら赤くし、少し恥ずかしそうな表情で、自分を助けてくれた後輩に言葉を送る。
「私があんたの為に歌ってあげる。その代わり、あんたはみんなのために歌いなさい!」
「はい!」
照れ隠しですぐにそっぽを向く凛に対し、綺羅はいままでで一番の笑顔で答えた。
……
「どうやら、二人で歌うらしいですね」
「ふーん、何があったかは知らないけど、衣装を二つ用意したのは成功だったわね……それじゃあ、エーテリオンから全世界に向けて最高のライブの始まりよ!!」
焔同様、指揮を取るだけで少し暇だったカグヤはやる気を取り戻すと、椅子から立ち上がり声高らかに作戦の最終フェイズを発動する。
「エーテリオンのブリッジ前方の甲板が開放し初めました!」
「今度はなんだ!?」
「ひ、人です! 二人の少女が甲板に!」
「奴ら……何のつもりだ、一体!」
戦艦の上に立つ二人の少女。身なりは仮装のような派手な服装。そんな者が突然現れ、何をするかなど誰にも理解は出来なかった。
「……歌います──リンリンスターライト!」
急に世界中に配信される明るくアップテンポで盛り上がる電子音の伴奏。当時小学生の緑川凛が数年前日本で“特定層”を中心に大ヒットを打ち出した一曲──それが、リンリンスターライト。
──いわゆる電波曲である。
「戦場で歌だと!? バカにしているのか!」
「しかし、各機混乱しています!」
「当たり前だ! こんなチープで訳のわからない歌……放送を切れ、戦闘に集中するんだ!!」
「……だ、ダメです、撃ち込まれた装置から機体に音が送られているようです!」
「なんだと!? そのために……くっ、たかが歌だ! 気にするな!!」
聞きなれない者にとっては理解し難い電波曲が嫌でも耳に入り、それを止める術がないとくれば、誰だって混乱もするだろう。
しかし、アレクをはじめとする隊長格は焦ることなく指揮を保とうと各機に正気を保たせようとする。
「たかが歌だ──なーんて、思ってるんでしょうけど、このサウンドコントロールがただの音響装置だと思わないことね!」
「相手の動きが! これが二人の歌の力……?」
その電波曲と共に、エーテリオンに進行する機体は次々に停止し、その場からピクリとも動かなくなる。
「どうした、貴様ら!」
「……き」
「……何?」
「綺羅凛! 綺羅凛! キラアァァァーッ!! キィィィラアアアァァァァァーッ!!」
「リンリン! リンリン!! リンリンリ──ブヒイィィィーッ!!」
「きーらりん! きーらりん! フゥッフゥッフゥッフゥッ!!」
「どうしたおい! 各機聞こえているのか!? 応答しろ!!」
応援コールのような奇抜で奇妙な叫び声が通信を通して右から左からと飛んでくる。
自分の部下が一瞬にしてサイコパスへと変貌した恐怖は、更にサウンドコントロールを撃ち込まれていない隊長格の動きを止めた。
「このサウンドコントロールは二人の歌をエーテルの波長として送るのよ! そして、威力は下がるけど、世界配信の映像にも加工した歌を配信済み、これで世界は平和になるわ!」
「って、それただの洗脳兵器じゃないですか!! 歌で世界が平和になると思ったのに、兵器の力ですか!?」
「ハン、世界はそんなに優しくないわよ! そもそも二人の歌を変換して送っての効果なんだから、歌の力でも間違いないでしょ? あれが二人が歌に込めた思いなのよ!」
「人類を家畜にするのが二人の思いだとするなら、僕は一生アイドルを信じませんよ!?」
「二人はたぶん、一緒に楽しんでほしいと思ってるんですよ、たぶん。おそらくそれがサウンドコントロールシステムの影響で、たぶんああなっちゃったんですよ、おそらく」
答えは二人の心の中ということもあり、さすがの命も“たぶん”だの“おそらく”だのを乱用して弁明するせいで、光のアイドル不信の誤解が解けることはなかった。
「くっ! こうなれば!!」
「なっ! 逃げる!? いや、アイツ──!!」
このおかしな現象を食い止めるため、飛鳥の一瞬の隙を突き、エーテリオンへと向かうアレク。
それを追おうとする飛鳥だったが、アレクの指示により、行動可能なエーテリアスがそれを阻む。
「ちっ、なにやってんだよあのガキは!」
「腕を飛ばす奴か──だが!」
エーテリオンの護衛を任された零は、迫るアレクに向けて両腕を射出し迎撃を試みる。
しかし、彼女よりアレクの方が操縦技術は一枚上手であった。
迫り来る両腕のワイヤーをたった数発で撃ち切り、攻撃手段をなくしたアインの腹部めがけて思い切り蹴りをお見舞いする。
「くっ、そおぉぉぉーっ!!」
「フン、もらったぞ!」
甲板で今まさに歌っているアイドルに向けて銃を構えるアレク。
カグヤは主砲による迎撃を命令するが、そんなものを撃てば二人は反動や風圧により艦から吹き飛ばされてしまうと、命に止められる。
「やらせるかぁぁぁーっ!!」
「チッ、まだいたか! だがそんな機体ではただの的だ !!」
アレクの上方から突貫する相馬だが、重武装を身にまとったレッドでは根本的に機動力が欠けていた。
放たれた銃撃はレッドの装備するミサイルポットに命中し、誘爆を引き起こし大爆発を起こす。
「……やむ無い犠牲か」
「勝手に殺さないでもらおうか!」
「バカな、エーテリアスだと!?」
「だから、レッドは換装装備名なのだよ!!」
装備を排除し、身軽になった相馬のエーテリアスは携行装備のナイフを手にし、アレクの乗るエーテリアスの左肩に突き立てる。
「くっ、これでは他の機体を相手に戦闘などできないではないか!」
「大人しく後退してください、アレク・マーチス大尉」
「シャーロットか……さっきの放送では随分と色々言っていたな。あれがお前の本心か? それとも奴らにそそのかされたか!」
「そそのかされてなどいません! 全て私の意思です!」
「そうか……ならばせむて私の手で──!」
「──っ!?」
アレクはナイフを突き立てる相馬を勢い良く振り払い、右手に持つライフルをフィアーへと向ける。
咄嗟のアレクの行動に反応が遅れたシャロ。回避行動を取るにも間に合わない。
「人の女に手ぇ出してんじゃねぇぞッ!!」
「ちっ、ライフルを──!」
「三蔵……ありがとう」
「シャーロット……? そうか……お前がシャーロットを……お前のせいかぁぁぁーっ!!」
片腕になりながらもブレードを手に、シャーロットをすけこました三蔵へと怒りの炎を燃やし、斬りかかる。
「女取られて逆上かよ。そういうの、大人気ないんだよ!」
「手が多ければ強いと思うなよ!」
「三蔵!」
たった一本の腕から繰り広げられる剣劇は、十数の手を持つドライを意図も簡単に圧倒し、三蔵はみるみる苦戦を強いられる。
「一本! 二本、三本! ほぉら、どんどんなくなっていくぞ!!」
「くっそ、こんなのと飛鳥はやってたのかよ! しかも勝ったってか!? 強すぎだっての!」
ドライの補助腕を次々に切断され、打つ手が無くなっていく三蔵に、アレクは手を緩めることなく攻撃を畳み掛ける。
「十二本! これで──私の勝ちだッ!!」
「いいえ、隊長──あなたの負けです」
刺突によりコックピットを狙うアレクと三蔵の間から、急に姿を現したフィアーはアレクのエーテリアスを蹴り飛ばすと、怯んだ相手に向けてサウンドコントロール弾を全弾撃ち込んだ。
エーテリアスフィアーの特徴──それは派手なピンク色の機体でありながら、EG用の光学迷彩によりその姿を忽然と消し去るステルス機能であった。
隠密性と軽装のフィアーはまるで忍者を彷彿とさせる機体であった。
「くっ、たかが歌を聞かせる兵器で……兵器……で……へい……き……」
グワングワンとする頭を押さえながら、意識を保とうとするアレク。しかし、撃ち込まれたサウンドコントロールの数はそんな男の精神を容易く犯し、次第に理性というものは微塵もなくなっていき……
──数分後
「リンリンリーン! リンリンリーン! キラキラリンリンリーン! あーっはっはっはっは!!」
「アレク隊長……アイドル依存症になって……」
「なんというか、悲惨だな……これは」
再戦に燃えて機体を赤く染め、お手製の仮面まで装着した男の末路に、三蔵達は思わず目を背けてしまった。
「迎えと思われる空母が接近、意識のあるEGから回収していきます」
「じゃ、こっちも全機帰還よ」
「りょーかーい」
戦闘も一段落し、いつものゆるゆるムードに戻ったブリッジは全機の帰還を命令する。
──一方その頃
「さて、今回の件だが……君達の意見を聞こうか」
オットーは椅子に座りながら、真剣な面持ちで各国代表に問いかけた。
「……私は──」
皆が押し黙るなか一人の代表が口を開く。
「綺羅ちゃん推しだ!」
「なに、お前も綺羅ちゃんか!?」
「バカどもめ、私は凛ちゃん推しだ」
「だが、あの貴理子ちゃんも捨てがたいな」
「いや、それを言うなら命ちゃんだろう!」
「やはり貴様、ロリコンか。大和撫子の刹那ちゃん以外にはありえん」
「フン、やはり貴様らはその程度か……」
回りの意見を聞き、それを鼻で笑いながら立ち上がるオットー。その態度に周りは腹を立てて問い詰めた。
「ならば貴様は誰がいいというのだ!」
「無論──光ちゃんだッ!!」
その名前は会議場に何度もこだまし、周りは何かを察したかのように冷たい目でオットーを見ると、次々に席から立ち上がり会場から去っていった。
「おいおい、どうしたみんな、何故いなくなるんだい? もっと光ちゃんの魅力について語ろうではないか、なあ!」
オットーは一人取り残され、周りが何故帰っていくのか理解できないまま、モニターでまだ放送されているエーテリオンの番組を見ることにした。
「これで丸く収まったと言うべきなのか……まあ、世界中は丸め込めたのかな……?」
昔聞いたことのある曲のせいか、それとも彼女達と知り合いだからか、サウンドコントロールシステムの影響を受けなかった帝はどさくさに紛れて外へ出ると、未だに推しメントークに花を咲かせている各国代表を見て、何とも言えない安心を手にすることができた。
『お待たせいたしました皆さん、それでは最後の参加者の発表です!』
『どうも、姫野川綾瀬です』
『彼女こそこのミスエーテリオンにふさわしい、エーテリオンにおいて最高の──!』
『ちょっと飛鳥、司会が贔屓してるんじゃないわよ!』
『なっ、俺は感想を素直にだな!』
『つまり、飛鳥さんは他の人にはそれほど感想を抱いてないと』
『ちが──おい、ちょっとまて、なんだお前ら、ヤメ──!』
多くの女性人に袋叩きにされるところで、エーテリオンの放送は終了した。
そして、その放送が終了した事を確認すると、一人の女性は椅子から立ち上がり、一言呟いた。
「ようやく見つけました──“姫様”」
女性は赤い軍服からパイロットスーツにへと着替えると、ウェーブのかかったオレンジ色の長髪を整え、一機の機体へと乗り込む。
それは同じ二足歩行のエーテリアスに似てはいるものの、形状の全く違う薔薇色の人型兵器。
「ジル、レイ、アールテーミスは任せるぞ」
「ジャンナ様、アモールを百機連れるとは言っても、やはり一機では……」
「相手はアモールを何百と撃墜する手勢です、ここは私達も──!」
「無人のアモールを撃墜しているとはいえ所詮は“旧型”だ。いくら手勢だとしてもアールシリーズはエーシリーズに遅れなど取らん。ジャンナ・D・ローゼス、ヘイラー──出る!!」
WCの戦闘兵器を引き連れたジャンナの操るヘイラーは、大気圏を突入し、エーテリオンへと舵を向けた。