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第九話 艦長、学園祭です。

「やあ、ミスター帝。らしくもなく遅かったじゃないか」

「も、申し訳ありません。仕事に追われていまして……」

「安心しろ、今日をもって君の肩の荷はなくなる……そうだろう? 皆さん」

「……え?」


 合衆国オットー大頭領は一人椅子から立ち上がり、主要国首脳会議として集まった周りの者達に問いかける。


「そうだな、君からもらったデータにより準備は完了した……無論ただ作っただけではない、基本データを基準に作り出した新型といってもいい。なにせ、我が国の科学力は世界一だからな! ハッハッハ!!」

「あの……もしかしてですけど大頭領。あのデータを──」

「安心しろ、渡したのは彼だけだ……パイロットは有志の者を集めたがな」


 金髪を手でなびかせながら、クールな態度でオットーが帝に告げる。

 周囲からは小さな声で「一度負けたくせに」など古傷をえぐるような言葉が聞こえてくるが、オットーの余裕を持った態度は変わらなかった。


「さて、早速エーテリオンの場所を調べて──」

「だ、大頭領」


 オットーの秘書が後ろから小声で彼を呼ぶ。余計な話で気分を害されたくなかったオットーも、どこか慌てていた様子の彼を無視することもできず、話の内容を尋ねた。


「……何、全世界で電波ジャックだと? ハッ、何をバカなことを。このご時世、テレビをジャックするのが不可能に近いと言うのに、それが全世界でだと? そんなもの魔法でも使わない限り……――魔法!? まさか!」


 心当たりのあるオットーは慌てて秘書にテレビの持ち込みを命令し、その間二つの可能性を口にする。


 ――侵略者か、それとも……


「準備完了しました! 映ります」

「……」


 一同は息を殺しモニターに集中する。内一人はとある少女の顔が頭に浮かび大量の汗を流し、内一人は復讐心に心を燃やしていた。


「世界中の皆様おはこんばんちわ、こちらは世界の平和を守る、助けるのスローガンを掲げる、遊撃魔導戦艦エーテリオン内の特設ステージでございます。私、今回の司会進行役を務めさせていただく世界の主人公、神野飛鳥、神野飛鳥でございます。えー、現在会場は整備、医療班含め多くの全生徒達が集まっており、熱気がこちらまで伝わってきます!」

「ミスター帝、なんだこれは?」

「存じません。存じていればこちらも心の準備ができましたし……」


 全世界の電波ジャック。一体どれだけの反省書類がデスクに来るのだろうか? 帝は問題の大きさにめまいがした。


「さて、これより我々エーテリオン在学生による学園祭の様子を自宅、仕事場、その他諸々にいる皆様方にお送りいたしますので、ごゆっくりと御覧ください。それではCMです、チャンネルはそのまま……変えられないけどな!」


『突如現れた謎の侵略者WC、人類は彼らの侵略に恐れていた……しかし、彼らに対抗する者達がいた! 新番組、遊撃魔導戦艦エーテリオン、毎週日曜日、午後五時から放送開始! これが主人公の力か……』


『ねえ、何で空は青いの? それはね、光の屈折のせいだよ。じゃあ何で海は青いの? それはね、光の屈折のせいだよ。じゃあ何で世界は平和なの? それはね、エーテリオンがいてくれるからだよ。子供の未来を守る正義の味方、遊撃魔導戦艦エーテリオン』


『エーテリオンって──』


「まったくすごい印象操作だな、日本のテレビというのはこういうのが多いのか?」

「いえ、ここまで露骨なのはさすがにありません……」


 容赦のない放送内容に、帝は今すぐこの場から立ち去りあわよくば家の布団で横になって何もかもを忘れたかった。



 ……



「いいのか、こんな放送で……」

「いいのよ、今回はイメージアップが大事なんだから」


 電波ジャックして何がイメージアップだ、ノリノリに司会を務める飛鳥も、あまりのやり過ぎに少し引いていた。


「某動画配信サイト、生放送ランキング一位に“しました”。二位以降もミラー放送で独占。というか、どのページに飛んでも閉じれず視聴開始になるようにサイトを改竄かいざんしたので、プラグを引っこ抜く等されない限り見ざるおえないかと」

「ナイスよ命! このままホットワードも独占、実況もサクラにやらせなさい。荒しと炎上はバランスよく消しなさい、ゼロじゃ盛り上がりにかけるんだからね!」

「りょうかーい」


 命はカタカタとキーボードを叩き、カグヤの命令を忠実に実行する。

 そのたびに帝の胃にダメージが入っていくが、そんなのはお構い無しである。


「さてと……皆様お待たせいたしました、皆さん。突然ですが、このエーテリオン、世界の平和を守るという使命を受けWCと争っていますが、艦内の人間は二人を除き全員が現役の高校生……ということで、今回の放送では学園祭らしくミスコン──第一回ミスエーテリオン決定戦を行おうと思います。解説はこの二人、鬼の整備班班長虎川繁と、仏の医療班班長王乃真人ーッ!」

「どうも」

「皆さん頑張ってください」


 ステージ前の机に二人が並んで座り、一言一言コメントを述べる。


「それではさっそくいきましょう……エントリーナンバー一番、いきなり出るか、一番じゃなければ許さない、我らが艦長姫都カグヤーッ!」

「みなさーん、はじめましてー。エーテリオン艦長の月都カグヤです。私達は今まで世界の平和を守るため、侵略者WCと戦闘を繰り返してきました。もちろんこれからも戦い続けます……なので、世界中にいる皆さん、私達の応援をどうぞよろしくお願いします!」


 珍しくかしこまり、まともなことを口にするカグヤを見て、一同は後に同じ事を考えた。


 ――そこでやめとけばよかったものを、と。


「それでは、ミスエーテリオンを決める前座として……歌います!」

「なっ!?」

「あ゛ぁーあ゛ぁぁぁぁーっ!!」

「おい、カメラ止めろ! いや、音声切って別の曲で誤魔化せ! お前らも見てないではやくカグヤを取り抑えろ! 止めろ、止めるんだーッ!!」


「ちょ、ちょっと何すんのよ! 今いいとこなのっ! あんた達邪魔するなら全員──!!」


 しばらくお待ちください……。そう書かれたフリップが全世界に映し出された。

 いわゆる放送事故、というやつである。


「失礼しました、緊張で少々取り乱していたご様子で……今の歌、どうでしたか王乃先生」

「とても彼女の性格を表した素晴らしい歌だと思います」


 隣の人は泡を吹いているというのに、一体どういう耳の作りをしているんだ。飛鳥は自分で尋ねておいて疑問に思った。


「えー、続きまして……え、マジでこの順番……? わかった。エントリーナンバー二番、猛者の集う二番隊の隊長、一ノ瀬ーッ零!」

「出番だぞ、零」

「う、うん。貴理子ちゃんに言われた通り、私、やってみるね!」

「ああ、頑張れ」


 少し戸惑いながらも決心する零の背を貴理子は優しく押してやる。


「私、一ノ瀬零はこの場を借りて一言言わせてもらう……私は──昔は今みたいな性格じゃなかった! 昔はもっとヤバイ性格で、周りからは変な目で見られて、そのせいで大変な目にもいっぱい遭った! そんな自分がいやで、私は今の性格になっている……だから、その事だけを忘れないでほしい……以上だ!」


 数十秒で終わったそのあまりにも唐突な話に誰もが反応に困り、司会の飛鳥でさえ次の台詞に言い詰まった。


「……えーっと、解説の繁先生。今のはどういう意味だったのでしょうか?」

「あー? なんだ、そんなこともわからなかったのか? いいか、昔はもっとヤバイ性格、変な目で見られ、大変な目に遭った──つまり、私は昔は今よりもワルだったという意味だ。先輩に目をつけられ、罠だの数の暴力だのを受けたんだろうな……そして、それが嫌だから今は少し抑えている……だが、それを今言わせてほしいということは……要約するとこう、最近テメェら私が優しいからって調子に乗ってるな、昔はワルで修羅場くぐってんだ、その辺気をつけて接しやがれ──って意味だ」

「な、なるほど、彼女なりの最終警告、というやつですね」

「そうだ」

「……ううっ、貴理子ちゃん」

「我慢するな、お前は今泣いていい、泣いていいんだ」

「うん……ふえぇぇーん」


 自信満々に解説する繁の憶測を聞き、部隊裏で零は貴理子の胸の中で可愛い声を出しながら泣いた。


「さて、二連続でこれはヤバイな……どうにかして挽回できる人間を……」

「はぁ……まったく、見ていられませんね。次は私が行きます」

「命!? だ、大丈夫なのか?」

「私を誰だと思っているんですか。茨命ですよ?」

「いや、だから心配なんだよ……」

「失礼ですね。まあ見ていてください……私の実力を」

「あっ、おい……ったく、エントリーナンバー三番! ダウナー系? いいや私はクール系ヒロインだ。エーテリオンの頭脳、茨ーッ命ーッ!」


 ややヤケクソ気味になりながらも司会としての責務を全うするために、檀上に上がる少女の紹介をカメラに向かって行った。


「……」


 ステージに立つも、下を向き少し黙り込む命。


 ──しかし、次の瞬間。


「動画を見てるみんなー、茨命ちゃんだよーっ! 今日はみんなにあえて命、茨ッキー! だから、元気のない君も、そうでない君にも、元気になれる魔法を届けちゃうねーっ! せーの……がんばれ、がんばれ、おにーちゃん! キュンキュンキュイーン!」

「ブハッ! ゲホッゲホッ!」


(アイツ何が見ていてくださいだ! ミスコンで優勝するために小さな少女好きの大きなお友達にターゲットを絞ってキャラ作りやがった!! しかも立て続けに滑った後の“コレ”だ、それ以外のターゲットにも効果が充分ある!)


「あーっ、いけなーい、もうこんな時間だぁっ! 残念だけど命の出番はもうおしまいみたい……でも安心して次に出てくる貴理子ちゃんも“とってもとっても可愛い”から!」

「なーっ!? アイツ何を言って!」

「それじゃあみんな、ばいばーい! キュンキュンキュイーン!」

「それでは続きましてエントリーナンバー四番、葵貴理子ーッ!」

「──っ!? 覚えていろ貴様らぁ……!」


 高すぎるハードルを前に顔を歪める貴理子だが、名前を呼ばれたからには出なければならないという真面目な性格が、少女をステージの上へといざなった。


「……あ……あ……」


 見知った顔が自分を、自分だけを見る。

 小さく体を震わせながら言葉を詰まらせていた貴理子だったが、彼女に与えられるプレッシャーが、そして自分の姿を黙って見る相馬の姿が、貴理子の中の何かを弾けさせた。


「みんなー! マジカル眼鏡副委員長、葵貴理子だニャー! アナホリセメウケ、ニャンニャンニャーン、世界よ平和になーれ! みんな笑顔になーれ……! ど、どうだ……!」


 貴理子はカメラに向かって恥のかけらもないアピールをやりつつ、チラリと諸悪の根源の様子を見るが……


「ブフッ、マジカルって……ニャーって……」

「──ッ! それなら、相馬さんは……」


 助けを求めるように相馬の反応をうかがうが、そこにはあまりの衝撃に頭の理解が追い付かずに呆然としている隊長の姿があった。 


「……あ、いっけなーい、もう時間みたいー……貴理子みんなともっと一緒にいたかったけどー残念……みんなーバイニャー……」


 半ば棒読みでアピールをやり終えた貴理子は、そのままなにかに流されるかのようにステージから去って行った。


「さて……これはまともな人材で軌道修正しなければ……」


 司会が板に付いてきた飛鳥は会場の盛り上がりを考え、サッと出演順番を組み立てる。


「続きましてエントリーナンバー五番、魚見焔ーッ!」

「瓦百枚割りまーす!」

「続きましてエントリーナンバー六番、神崎刹那ッ!」

「その巻き藁を斬る!」

「続きましてエントリーナンバー七番、白雪光ーッ!」

「僕は男ですーっ!」

「続きましてエントリーナンバー八、九、十番、医療班森、渡辺、早瀬ーッ!」

「まとめるなーっ!」

「そして、エントリーナンバー十一番、期待の新人、シャーロット・エイプリーこと、シャローッ!」


 数人をバンバン紹介していき軌道を元に戻すと、艦内でも最近話題に上がるシャロを登場させる。


「えっと……はじめまして、シャーロット・エイプリーです。もともとは合衆国の軍に所属していましたが色々あってエーテリオンのパイロットとなりました……えっと……その……」

「軍はどのようなところでしたか?」


 話下手なシャロに助け舟として話題を渡す飛鳥……司会者の鏡である。


「軍は……最悪です。汚い、臭い、とにかく不衛生でした。蹴落としあいもあり、私もよく標的になっていました。人間関係は一部だけよくて他はギスギス、とても活動しづらい肥溜めのような場所で、こことは大違いです、そもそも──」

「な、なるほど、大変だったんですねー……」


 時々遠い目をするシャロを見て振る話題を間違えたと直感した飛鳥は、話が長くなる前に話題を終わらせる。


「合衆国の軍というのは大変なそうだな」

「フン、軍などほとんどがそういう物だ、私のところだけの話ではあるまい」

「準備完了いたしました」

「そうか……では船取りを始めようか」


 全世界に自分の劣る部分を放送され少し苛立つオットーだったが、その報告を聞いて機嫌を良くしニヤリと笑う。


「以上、シャロさんでした。色々な話が聞けて面白かったですねー」


(……さて、前菜は全て出し終えた。後はメインディッシュを紹介することで人気の総取りは完了する……この艦の姫が誰であるか、何より俺の見立てが間違っていないということを教えてやる!)


「さあ、最後にして至高、エーテリオンの女神の登場です……姫乃川──」


 少年が自信を持って推しメンを紹介しようとした時であった──


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


「何事!?」

「エーテル反応探知、艦のすぐそばにワープ反応、数は数百を超えています」

「ハン、いい機会だわ。戦闘を全世界に見せて私たちの勇士をその目に焼き付けてやるわよ!」

「……あー、無理っぽいですね、それ」


 ワープ先の機影をモニターで確認した命が乗り気のカグヤにそう知らせた。


「なんでよ!」

「目標識別コード……エーテリアスです」

「最近、守るべき人類のほうがWCより手ごわい気がする……」

「あのジジイ……何またやらかしてんのよーっ!!」


 頭を押さえながら心配して見守る帝のことなど露知らず、カグヤは怒りの丈を口にした。



 ……



「アレク……今の放送」

「……生きていてくれたことだけでも十分だ、それに艦を手にすれば連れ戻すことだって容易だ」


 かつての部下の変わり果てた(色々な意味で)姿を見て、アレクの赤いエーテリアスは目標に向かい先陣を切る。

 エーテリオンバスターの二次災害による被害により負った怪我を隠すため、部下を失ったという自分の弱さを隠すため、その顔にふざけてるとしか思えない仮面を身に付けて……。


『突如現れた各国のパイロット達の駆るエーテリアス、それに対しカグヤは例の作戦を実行することを決意する。ステージに立つ綺羅、その時凛は……そして以前の仲間と衝突するシャロ、その結末は……次回、遊撃魔導戦艦エーテリオン第十話、艦長、愛と歌は世界を救うそうです。もちろん主人公は俺だ!』


「世界中になに次回予告かましてるんですか、飛鳥さん!」


 あることないことをカメラに向かって予告する飛鳥に、光が我慢できずにツッコんだ。


「いや、司会としてそっちのほうが盛り上がるかと」

「あんたはさっさと出撃しなさい! 光も早くこっちに来なさい!!」


 艦長席に座るカグヤは緊迫の状況だというのにふざけている二人に対し、バンとデスクを叩き声を荒げてそう叫んだ。


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