表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

賽の河原から抜け出せない。

作者: 狐のおすし

 三途の川というものがある。

それはあの世とこの世の境にあるという。

そしてその川の河原は賽の河原と呼ばれ、親より先に死んだ子供たちが親不幸を悔いるために石積みをするという。その石の塔が完成する一歩手前に鬼に壊される。

これを永遠繰り返しているという。

…ということは、私は死んでしまったということなのだろうか。




がさっとビニール袋が音を立てた。

ビニール袋には某雑貨ショップの店の名前が刻まれていた。

中にはとんかちや釘、マーカーなどが目いっぱい入れられている。

そのビニール袋を持っている人物はぽかーんと自分の立っている場所を見ていた。


「…」


その人物は河原に立っていた。

しかしそんじょそこらの河原ではなかった。

まず川の色が普通の色ではない。

何をどうしたらそうなるのかと問いただしたくなるくらい不気味に赤かった。

その赤い川の中を男性女性老人が向こう岸まで泳いでいる光景は異常だった。

それぞれ歩くところが違うようで、橋の上を歩いて渡るもの、浅そうなところをわたるもの、深いところをわたるものと別れていた。

川から石ばかり転がる陸地に目を向けると、今度は子供たちの姿が目に入る。

河原の石を拾いひたすらにそれを積み上げている。


「あと、もうちょ、い…」


近くで石を積み上げていた少年がそーっと石を積み上げていく。

その高さは石を積み上げている少年より少し高い。

まさに少年が石を置こうとしたその時、けたたましい音と共にそれが崩れ去った。

あまりの音に「ひゃっ」と目を閉じてしまう。

そろーっと目を開けてみると、先ほどまでの石の塔はなくなっていた。

石の塔はただの石ころに変わり果て、それを少年が呆然と見ていた。

そしてきっと自分の塔を壊した人物をにらみつけた。

少年がにらみつけている方へ顔を向けると、


「!あ、あれは…」


手にはとげがついた黒い金棒を持ち、黒い髪の毛ににょきっと白い角が2本生えている。

口からは八重歯のようなものが見える。

自分よりはるかにでかく、そして強面の人物に少年が叫んだ。


「何しやがる!」


「俺にも生活かかってんだよ!」


野太い声が河原に響く。

…なんだろう、この感覚は。

だんだん金棒持ってる人が自分のお父さんに似てくるという謎の現象に襲われる。

少年は人物に向かって叫んだ。


「ふざけんじゃねえ!この、鬼!」


…鬼にも一応生活ってものがあるんだなぁ。


賽の河原にて鬼の第一印象:鬼も大変。



そんな印象を頭の中でインプットしていると少年を相手にしている鬼とは別の鬼が近づいてきた。


「おい、お前」


もじゃもじゃとした頭に一本角の鬼が横柄な態度で自分を呼ぶ。


「はい」


「さっさと石を積まんか!」


ぐいっと首根っこを引っ張られ、石がごろごろと転がる地面へと強制的に座らされる。

正直に言うとかなり痛い。

具体的に言うならば角が取れ、丸くなった石が臀部の肉の部分に食い込んで痛い。

ぎっとかなりきつい視線を鬼から受け取りながらしぶしぶ石を積む。

その間にも鬼はぐちぐちと説教をし始めた。


「えー…山田朋実、16歳!しぶしぶしてないでさっさと石を積まんか!」


「何だここに来た原因は!毒キノコを食べたことによる毒死って、どんだけ食い意地を張ってたんだお前は!」


「しかも文化祭の買い出しの途中で道端に生えてたキノコを調理せず食すって、お前は野良犬か!」


説教がつっこみに変わってはおりませぬか、監視鬼。ていうか私そんな死因だったのか。

心の中でそうつぶやくと鬼が「なんだ、その目つきは」とぎろっとにらんだ。

いいえ、なんでもございません。

慌てて心の中で謝罪をしながら黙々と石を積む。

その姿に満足したのか「ふんっ」と鼻息を一つついた後、鬼はどこかへ去って行った。

あの様子からしてほかの子供たちの見回りにでも行ったのだろう。

鬼がどこかへ行った後、先ほど鬼に食って掛かっていた少年がこそっと近くに寄ってきた。


「姉ちゃん、大変だったな」


「そうだね、ていうかここどこなんだろう」


「ここ、鬼たちが言うにはさいのかわらってんだぜ」


さいのかわら、と繰り返すとうんうんと少年が首を縦に振る。

何でもここでは石を積み上げ完成させることで親の供養になるという。

しかし、そうは問屋もとい鬼が許さない。

完成する手前で鬼が金棒で壊すのだ。

そして石を積み上げる、壊す積み上げる、壊すの永遠ループに陥るという。

そういえば夏の恐怖特集でそんな説明があったことをうっすら思い出す。


「もう俺、これで40回目だぜ」


「ちなみに君はなんでここに?」


そう尋ねると少年は、


「ブランコを思いっきりこいでたら誤って両手を離してそのまま落ちた」


「…なんていうか、私たち結構あほらしいよね」


そういうと少年は何も言うなと言わんばかりにため息をついた。



石を積みながらなんとなくあたりを見ると子供たちは自分と同じようにしぶしぶやっていることが分かった。

耳を澄ましていると子供たちの声がうっすらと聞こえる。


「DSやりたーい」


「ねえ、ここにはポテチもないのかなぁ」


「スマホいじりたいー」


ああ、最近の子供ってそうだよなぁってなる発言だった。

子供たちの声を聴きながら最後の一つをまさに積み上げようとしたとき、先ほどの鬼が来てばこーんとボウリングのピンをなぎ倒すように塔をぶっ壊していった。


「…腹たつわぁ…これ…」


「な?」


満足そうに去っていく鬼の姿を見送りながらこめかみに青筋を立てながら石をまた積み上げはじめた。

どうしてくれようぞ、あの鬼め。

何かぎゃふんと言わせる方法は…。

そこまで考えてあることに思い当たった。

これって石の塔を手早く鬼が来る前に積み上げれば私の勝ちなのでは?

そう思った瞬間、しゅばばばっと素早い勢いで石を積み上げ始める。

隣で少年が「えっ!?なに?阿修羅!?」とぎょっとしていた。

鬼が去ってからまだ1分もたっていない。

これはいける、いけるぞ私!

その間に石の塔をほぼ完成させるべくすさまじい勢いで手を動かす。

文芸部員をなめるな、鬼!


「よし、これで私のか…」


最後の石を乗せようとした、その時。


「させるかぁああああああ!」


叫び声とともに金棒が石の塔目がけて発射された。

見事に石の塔が崩壊する。

あまりのことに理解ができず、石を持ったまま金棒が飛んできた方を見る。

すさまじい表情をした鬼が投げた体制で約10m離れたところに立っていた。

そのまますすすっと金棒に近づくとよっこらせっと金棒を肩に担いでまたどこかへと去っていく。


……。



「何しやがるくそ鬼がああああああ!」


怒りに任せて鬼の背中目がけてドロップキックを繰り出した。

げふぅと言う声と共に鬼が河原の固い石が転がる地面に顔からダイビングした。


「おま、私の、石、最速…っ」


「姉ちゃん!落ち着こう!言葉になってない、いろいろとアウトだから!」


もはや自分が何をしているのか分からず、とりあえずがくがくと鬼の襟首(後ろ側の方)を揺らしていると一緒に石を積み上げていた少年が止めに入った。

必死に少年が押さえている間に鬼が地面から立ち上がる。

がくがくとゆすぶられた拍子に何度も顔を地面に打ち付けたのか擦り傷と砂利が顔にくっついていた。


「俺は悪くねーよ!これしないと給料にダイレクトに響くんだよ!」


「知るかお前の給料事情!」


そう叫ぶと鬼が「彼女にプレゼント贈れねーだろ!バカか、バカなのか!」と怒られた。

知るか、爆ぜろリア充が。鬼のくせに彼女とか爆ぜろマジで。

そんな思いを込めて石を投げつけるときれいに鬼の顔にクリティカルヒットした。

今度は顔に鼻血がプラスされる。

石を投げつけられた鬼は「もう知るか!お前はしばらく転生はなしだ!覚えておけ!」と捨て台詞を吐いてどこかへとまた去って行った。



ふーふーっと荒い息を吐きながら荒ぶる気持ちを落ち着かせていると少年がぽつりと言った。


「姉ちゃん、どうするの」


「どうするって…」


「転生以外にここから出る方法って川渡るか逃亡くらいしかないよ?」


その言葉にどういうことかと詰め寄ると少年がたじたじしながら説明する。


「俺たちがずっと石を積んでたらかわいそうだからって本当にたまにだけどお地蔵様が来るんだ。それで適当に何人かを転生、つまり現世のほうに生まれ変わらしてくれるんだ」


その説明を聞いて愕然とする。

つまり、私は…その…。


「ここから出る手段を1つなくしちゃったね」


少年がさらっと言いにくい事実を口にした瞬間。





うそだろおおおおおおおという山田朋実の叫び声が河原に響きまくった。

夢の中で鬼に追い掛け回されるという夢を見たので鬱憤張らされていただきました。

気が向けばまたこれの続きを書く…かも?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ