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オペレーション四三三二一『スティールアベンジャー』

 該当地域の要救助者確保後、当域にて敵対勢力を防ぎ――



 それは、摂理への反乱。

 死の谷に終わりを告げる落陽と共に、爛れた死の波が奔流となって暗澹と流れ込む。



 度重なる交戦によって壊滅した合衆国海軍ブロックワン最後の生き残り、シエラアルファツーのウォーケン中尉は、同盟国内で実弾を装填したM二五ライフルを構えて交戦に備えていた。

 成る程、奴らは確かに極めつけの悪夢から這い出た死霊そのものだ。濁った目をしながら、血まみれの口をこれでもかと開き、迫ってくる。五倍率に設定したスコープの中で、奴らは五倍恐ろしく、五倍おぞましく感じた。

 酷くゆっくり、イライラする程、ゆっくりと此方に向かって来ている。それは今まで灼熱の砂漠で相手にしたイラク人、民族浄化と証し略奪を行う民兵、今まさに無辜の民を虐殺せんとするテロリストとも違う脅威。自身の為、家族の為に国境を目指し、或いは食料を求めて歩む民とも違う、救生対象。

 だから、腹立たしく、悲しく、虚しかった。

 何故、こいつらはこんな目にあわんといかんのか。 多くの涙が、多くの命が、多くの願いが失われた。

 こいつらはそんなこと望んでなかった筈だ。

 だというのに、それが今尚この地で行われようとしている。

 こいつら自身の手で。

 怒りが沸点を超えた。

 スコープから目を離さずにオペレーションハンドルを引き、薬室を開く。神の光輪も斯くやと黄金色に輝く、一七三グレインのM一一八弾が顔を覗かせ、離した手からその全てを薬室へ納めた。重々しく閉鎖されたその瞬間、地獄の中で生命が芽生えた。

 ――俺はお前たちを喰らう気は無い。だが、殺す気なら十二分にある。

 ウォーケンは安全装置を解除し、スコープ越しに最も近いターゲット、狙いやすいターゲットへと順にクロスヘアの交線を横切らせていく。先ずは四発、その後素早く左右に残弾を放って後退。後方を確認後に再度撃ち続ける。これを繰り返し、距離三百に入ったら四十ミリと汎用機関銃の出番だ。

 単なる計画だが、ないよりかはマシだ。計画があり、攻撃の意志を伴ってこそ全ての戦いの業に長じた天使の群れがそれに屯すのだ。

 トリガーに指をかけ、揺れる照準を敵に合わせた。

 全ての射手、ライフル、標的に神の慈悲を祈る時が来た。

 ――先ずはお前からだ。死に損ない。

 トリガーを引く。

 連結を解除されたシアは、容赦なく撃鉄を死に神の鎌よろしく振り落とした。撃鉄が雷管を穿ち、炸薬の轟音を朗々と響かせると共に、時速二千フィートの中で金切り、音速の壁を突き抜けたFMJ弾は冥界の扉まで敵の魂を掠め取っていく。

 着弾は喉の下、胸の上。軍事的には一撃必殺の狙点とされる鼻からニップルを結ぶサークルゾーンのド真ん中。スナイパートライアングル。入り込んでから突き抜けるまでの間、致命的な衝撃波を用いて脳の毛細血管を弾け飛ばし、脊椎を掻き切ってその不死者を鬼籍に刻んだ。


『シエラアルファツー、エンゲージイン』


 速射の音が響く。

 闇の中を暗緑の視界に染め、現実には黄金の波が炎を吹き上がらせると共に鋼の礫を叩きつける。伸びる火線が次々とターゲットを捉え、銃口が勝ち鬨を上げる。

 状況は乱戦に入っている。

 豚のような発砲音を上げるMk四六機関銃を冷却等無視して左右に掃射、収束する銃弾の滝はほぼフラットな放物線を描き二百メートル先の敵を刈り尽くした。拓かれた射程は約三百メートルとなり、すかさず彼は砲撃へと転じた。

 現代戦における即興的砲撃の要であり、数多の分隊を救い、数多の戦友を奮い立たせた立役者、四十ミリ擲弾砲。

 立て続けにトリガーを引く、シリンダーは激しく回転し弾頭は一息に投射される。最初は緩やかに、だが徐々に加速し最終弾の撃発と同時に魂を飲み込む灼熱のドームが膨れ、巻き込んだ全てを破片に変えて引き裂いた。半径十五メートルを計六つ、長さにして約二百メートルに連なる帯となり死の旋風が疾った。

 効果的な、誠に効果的な破壊のカーテン。幾つ吹っ飛ばせたか、最早そんな事など――キルカウントすら忘れて魅いるほど、そいつは見事な戦果。

 だが、もはやそんなことはどうでも良かった。

 そう、どうでも良いのだ。

 慎ましやかに首を数える必要も、それを司令部に報告する必要は無いのだ。これは近代装備に身を包む兵士が、大義名分を負って執り行う戦争では、決して無い。更に血腥く、更に原始的で、更に暴力的で、更に利己的な殺戮競争。ある者は虐殺というだろう、ある者は聖戦というだろう、だが違う。

 こいつは、生存そのものだ!

 空っぽになったチェストリグを脱ぎ捨て、アーマーのポーチから弾倉を取り出しM二五に挿し入れる。開いた口から命を埋め込み、光が漏れる。持ち主に雷撃の力を持たし、神の力を宿す人類の錬金の極み。キャッチを叩いてボルトを前進、力強い鼓動の如くライフルを震わせ、息吹きが戻る。

 周囲を威圧する、これぞ、これぞ、これぞ、これぞ。

 ライフルを構える、原初に。

 照準を定める、今に。

 引き金を引き絞る、繁栄あれと。

 紫電一閃。

 同心円上に空気を散らし、人が放つ銃声は雷鳴の如く轟き死者の雄叫びを叩き砕いた。

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