死霊の生贄 タカサカ・チェーンソー
エンジンが唸りを上げ、回転する刃が肉を切り裂く。鮮血が飛び散り辺りを赤く染める。次々と向かってくるゾンビを淡々と挽肉に変えていく。友人が待っているであろう部室棟を目指して図書館前の広場に血路を開いていく。
チェーンソーを武器に戦うジョージの後ろに隠れるように俺は歩いていた。テキサス生まれのタフ・ガイは全身を真赤に染めて、悠然とゾンビに向かって行く。二メートル近い長身は鍛え抜かれた筋肉で覆われ、血で汚れたエプロンを着ている。防塵マスクを被り、手には大きなチェーンソー、背中に二本の鉄パイプ。今年一番チェーンソーが似合う友人は、高坂のレザーフェイスかジェイソンか。俺はゾンビよりもジョージが怖い。
雄叫びと共に突進するジョージは県道を突っ切って部室棟に走った。ジョージが吼えれば血煙が上がりゾンビ共を地獄に送って行く。
部室棟に向かう内に段々と俺も興奮して来ていた。俺はジョージの背から鉄パイプを引き抜き、ゾンビの前へ躍り出た。叫び声を上げて、目の前のゾンビの脳天に厳ついのをくれてやった。脳漿を撒き散らしてゾンビは動かなくなる。ジョージはこっちを見て少し笑った後、防塵マスクをこっちに手渡した。
「本当は俺が予備で持ってるつもりだったんだが、お前にやるよ」そう言って俺の肩をポンと叩いた。
この頼もしい男と共に再び部室棟を目指した。二号館周辺は大量のゾンビで埋め尽くされていた。ここへの道中で散らかしてきた連中の総数よりも多いだろう。しかし義理堅い我が友人は、生きているかも定かではない部員達を救うため、一切の躊躇いも無くゾンビの群れに飛び込んで行く覚悟を決めていた。もちろん俺自身もそうしようと心に決めていた。既に自分がジョージの後ろで震えていた事など覚えていなかったのだった。
「なぁジョージ、この量のゾンビを相手にして生き残れるかな?」もちろん答えは分かり切っているが俺はジョージに尋ねた。するとジョージは肩を竦めて答えた。
「なぁに、この位の量ならママの朝飯より軽いよ。それに俺はテキサスじゃあ、これの倍はいる牛を追ってたんだぜ?」そう言って笑いながら、目の前のゾンビを殴り倒した。
ジョージと俺は四方八方から向かってくるゾンビをなぎ払いながら進んだ。ジョージがチェーンソーを振るう度に腕が飛び、肉が舞い、血が噴出した。やがて俺たちは部室棟までの血路を切り開いていた。周りにはゾッとするほどのゾンビの残骸が散らばっていた。
「俺がここでゾンビを食い止めるから、お前は部室に行って誰か生きてるやつがいないか見てきてくれ!」ジョージはそう言ってゾンビに刃を振り下ろした。
「待ってろ! すぐ生きてるやつを連れて戻ってくるからな!」そう言って俺は部室棟に駆け込んだ。
仮設の部室棟の中には人気が無く静かだった。聞こえてくるのは、外から響くジョージの雄叫びとチェーンソーの唸り声だけだ。部室には直ぐにたどり着いた。
部室の扉には鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。いつもなら狭い部室に集まっている友人達はいなかった。目の前には白濁した目を此方に向けて立つ……。
一仕事終え、口元の吐瀉物を拭いて部室棟から出ると、ジョージがこっちに駆け寄ってきた。
「どうだった? 誰かいたか?」俺にそう尋ねた。俺が小さく首を振ると「そうか」と言って少し残念そうにした。
「なぁジョージ、仕返ししてやろうぜ。敵を討ってやろうぜ」俺がそう言うとジョージはジッとこっちを見て、力強く頷いた。
「そうだな、仕返ししてやろう。ペイバックタイムだ」
そう言って俺たちはゾンビの群れに飛び込んだ。せめて一匹でも多く地獄に送ってやろう。
「ゾンビとダンスだ!」