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異世界召喚奇譚  作者: ネムイ ネル
第二章 神と異世界
9/13

第九話 無常

 目の前に巨大な山が聳え立つ。来る者を全て拒む様な佇まいで、まるで万里の長城の様に遥か彼方まで連なる山脈は、頂上の方をうっすらと白く雪景色を纏わせていた。

周りの平原は枯れ草しかなく、季節は秋を通り越し初冬と言う感じだが、決して初冬ではなく、今はまだ秋に差し掛かった程度のはずだった。


「これを超えるのか」

「この向こうは、真冬だと言われても信じられますわ」


 フォレスト帝国を出て2週間。僕達は、北の山脈の麓まで来ていた。これから1週間を掛けてこの山を超える予定だ。

途中に立ち寄る村等は無く、ただ只管山道を突き進むだけらしい。


 幸いにして馬車で行ける道が有ると言う事だが、馬が寒さと登り坂の為、かなり行進速度が遅くなると言う事だった。

登りに4日、下りに3日と言う予定だが、僕は、もう少し早くなると思っている。と言うか早くする。僕達には精霊が付いているのだ。


 フォレスト帝国の一月とここに来るまでの2週間。敢えて言えば、フォレスト帝国までの1週間も足された期間、ベンはキャルの教えを真面目に受けていた。

その甲斐あって、今では、精霊達の存在を感じ、簡単な魔法ぐらいは使える様になっている。火を起こしたり、夜、明かりを灯したりする程度だ。

そこで、北に向かうに当たって、僕は、魔法の無効化を覚えさせる訓練を行っている。

ベンの向かい100メートル程の地点には、魔法使いのミヤが魔法の準備中だ。


「それじゃ、軽い火炎系の攻撃魔法でお願い」

「解ったわ」


 ミヤに攻撃魔法を頼んだのは、こちらの魔法を無効化する感覚を掴んで貰いたかったからだ。

そもそも精霊が発現させている魔法と、こちらの魔法では若干無効化にも癖がある。

例えば、精霊に火を起こさせている場合、その行動を止めてもらう事になるのだが、こちらの場合周りの精霊は反応していないため、その火に対する行動をお願いする事になると言うのだ。

僕達ほど無意識に精霊にお願いしてしている訳ではなく、ベンの場合はイメージを明確に持つ必要が有ると言うキャルの助言からだ。

僕は、ベンの後ろに控えて若しもの時の為に備えている。僕が居ればベンにまで魔法が当る事は、まず無い。

そうして僕は、ベンに気付かれない様に、徐々にベンから離れていく。まるで自転車に乗る練習の様だ。


 目の前に炎の固まりが迫ってくる。ベンは必至で精霊達に働き掛けている。炎の固まりは、ベンの10メートル程先で消滅した。

ここまで来るのも長い道のりだった気がするが、これで後は今まで通り精霊を感じる訓練を日々行っていけば、無効化する威力も上がるだろう。


「なんか自信失くしちゃうわぁ」

「そこは、褒めてあげる処だと思うよ?」


「だって、私は全然精霊なんて感じられないのに、この間まで魔法のまの字も知らなかった人間に、あっさり無効化されちゃうんですもの」

「それは、もう魔法体系が違うと諦めるしかないね。ベンのは、強いて言えば精霊魔法って言う別物だと思うとか」


「あぁ、成程ねぇ。物は考えようって事ねぇ」


 口で言う程、ミヤも残念がっている訳では無いようだ。いや、自分が使えない事は心底残念がっているようだが、今の魔法を捨てられないうちは仕方ないだろう。

僕は、関わった者には死んで欲しくない。でも、何時でも僕が隣に居る訳では無い。仮に隣に居ても、僕の力が及ばない事も有る。

だから、自分を守る力を付けて貰う事ぐらいしか出来ない。


 フォレスト帝国でララがこれからどう言う政治を行っていくか、宰相であったブラウニーをどうするかは解らないが、それはララが決めて歩んで行く道だ。

ミヤの愚痴を聞きながら、僕は、ヒスイに労われているベンを、彼女達もこれからのこの世界を支えて行くのだろうと、見守っていた。





「寒い」

「寒いよぉ~」

「寒いですわ」

「寒いのです」

「寒」

「いや、寒いなら幌の中に入っていようよ」


 予定より早く頂上に着いた僕達は、頂から見下ろせる僕達が来た方向と、これから向かう方向の景色を眺めていた。

出て来た皆は、寒い寒いと僕の体に纏い付く。お陰で僕は、暖かくて良いのだけど、ちょっと身動きが取れない。

周りには、雪が積もっており、馬も白い息を吐いている。

川等は無かったのだが、この雪のお陰で馬の飲み水にも不自由していないと言う痛し痒しだ。いくら魔法で水を出せると言っても、節約出来るならそちらの方が良い。


 僕達が来た方向には、手前の方から黒、紅、黄、緑、と左側には、フォレスト帝国の森まで見渡せる。真ん中は土色の砂漠地帯で、右側へは緑の草原からジュエル王国の城下町だろうと思える様な物まで見渡せる。

逆にこれから向かう方は、灰色から遠くへ行く程、黒くなっており寒々しいが、所々に街の様な物を見て取る事が出来る。見るからに自然が厳しそうだ。

まるで、移ろい行く季節を、一纏めに眺めている様だ。


「取り敢えず、近場の街へ向かうで良いのかな?」

「そうなのですっ! 予定より早いと言っても、食料や水には限りがあるので、早く街へ行って温まりたいのですっ!」


 結論と理由がちぐはぐだが、要するに寒いのだろう。だが馬達を休ませる必要もあったし、こんな高い処から大陸全土を見渡す機会も中々ないだろうと、僕は景色を眺めていたのだ。

野営をするにも、頂上は吹きっ晒しのため、少し降りた処で風を凌げる様な場所の方が良いだろう。馬車を止めれれば土魔法で壁は造れるし、僕達は先を急ぐ事にした。


「もう行ってしまわれるのですか?」

「誰?」


 そこには、氷のブーツとでも言うべき膝までのブーツを履いた、白銀ビキニアーマーの白い女性が居た。

足まであるのではないかと思われる程、長く白い髪に碧い瞳。抜ける様な白い肌を、この寒空の下に惜しげもなく晒している。

更に幻想的なのは、僕より2メートル程上空で膝を組んで座っており、冷気が彼女から発生しているように見えるその姿は、西洋風雪女又は氷の女王と言う感じだ。


「我が名は、シヴァ。一手お相手願います」

「え?」


「我は、一騎打ちを望む、他の者は下がって下さいませ」

「くっ、皆は馬車に入って結界を!」


 行き成りフッと息を吐いたかと思うと、凄まじい冷気が僕達を襲う。僕は皆に非難を促し、精霊達による気温上昇を試みるが、そもそもの気温も低く空気も薄い為あまり効き目がない。

それよりも、精霊達の上から更に冷気を被せてくる。まるで、空気中のマナに自らの魔力すら上乗せしている様だ。

僕の言葉に危険を感じた皆は馬車に戻り、全員で結界を張り冷気に耐えている。出来れば僕を置いて行ってくれても構わないのだが、彼女達はそうはしないだろう。


「やはり、我如きの気では、何の影響も有りませんね」

「僕を知っているのか?」


 僕の問には答えず、シヴァは頭上から氷の刃を以て、物凄い速さで突っ込んでくる。僕は、その刃を紅月で弾き、斬り折った。

平地とは言え山の頂きである以上、下手をすると転がり落ちてしまう。早期決戦が望ましいのだが、シヴァは、かなりな使い手の様子で容易く勝たせてくれそうには無い。


「ほぅ。我が氷の刃を斬るとは、流石、神気の刃と言う処です。くっくっく。ふぁっはっは! いいぞいいぞっ! もっとだ。もっと我を楽しませろっ!」


 折れた氷の刃を見つめ、何やら納得したかと思えば高笑いを始め、戦闘狂の様な事を言って来るシヴァ。

口調まで変わったシヴァの髪の毛は逆立ち、碧い瞳は真紅になると、二の腕に付けていた装飾具やビキニアーマやブーツまで、紅く炎が燃え上がっているような形態となっていく。


「ちょっと、嘘! 何あれ?」

「神に匹敵。いや、神なのかも」


「加勢しなくて大丈夫なのか?」

「あの手は、下手に加勢すると、極大魔法とか使うからな」


「一騎打ちを望んでるなら任せた方が良いのです」

「それに、あれだけの者には、アタシ達じゃ足手纏いですわ」


「あんなの、俺なら瞬殺されちまうな」

「貴方はこれから強くなるのですっ! しっかり見ておくのですっ!」


 カティやアリエンテ達が、僕の方を心配気に見て居るのだが、そちらに構う余裕など与えてくれない。

今まで雪の精霊か氷の妖精かと言った風貌が、一気に憤怒の闘神の様な容姿へと変貌する。


「あ~はっは!あ~はっはっは!」


 高笑いを続けながら、今度は紅月よりも太い黒い片刃の剣を、まるで腕が何本も有るかのように縦横無尽に振るってくる。

僕は紅月で受けるのだが、斬れない物が無いはずの紅月でも斬れない。


「あ~はっはっは! これは、我の闘気の塊だっ! 易々と斬れはせんぞっ! あ~はっはっは! 楽しいっ! 楽しいぞっ!」

「この、戦闘狂がっ!」


 僕は、シヴァが斬り込んで来た剣を弾くのでは無く受け流し、態勢の崩れたシヴァの脇腹を月詠のナイフで斬り割いた。

しかし、虚を突かれたシヴァは一旦離れるが、ナイフが当たったはずのところには、素肌に見えるのに掠り傷一つ無い。若干、赤く線が付いている様に見えると言うところか。

それをシヴァは、自分の手でなぞり、ニヤリと僕に獰猛な笑みを浮かべる。


「これ程かっ! もっとだ! もっと楽しませろっ!」


 突破口が無いまま、僕はシヴァの攻撃を受け続けた。ナイフで受けるとナイフが折れそうだったため、紅月で受けてナイフで攻撃すると言う二刀流だ。

咄嗟の思い付きだったのだが、徐々にシヴァの身体に赤い線が増えていく。それだけ当ててはいるのだが、このナイフでは斬る事は不可能な様だ。

シヴァは空中に足場が有るかの様に、無造作に僕に斬り掛かって来る。僕も精霊達に足場を作って貰うが、やはり空中では踏んばりが効かず、大したダメージを与えられない。


「ふっふっふ、いいぞっ! いいぞっ! いいなぁっ! おぃっ!」


 膝を付き、肩で息をしているシヴァだが、まだやるつもりなのか? 僕ももう余り持たない。何か良い手は無いかと思案している処で、シヴァが急に剣を収めた。


「そのナイフでは無く、我を持てば、主はもっと強くなる。主を我があるじと認めよう」

「はぁっ?」


「契約だ。我が名はシヴァ。破壊神シヴァ。我は主と共に有る事を誓う。ナカツよ」

「え?なんで名前を?」


 そして、シヴァは急に僕に抱きついて来たかと思ったら唇を奪われた。引き剥がそうとしても剥がれない、舌まで絡み付かせる濃厚な接吻を食らってしまった。


「「「えぇ~っ!」」」


 漸くシヴァが離れたかと思ったら、僕の前には黒く輝く剣が残る。しかし、自分で破壊神とかって、神なのか?


「なんか剣、手に入れちゃいました」


 皆、なんでそんな白い目で見るんだよ。僕だって何が何だか解らないのに。

しかし、魔法を併用されていたらと思うとぞっとする。単純な戦闘狂で良かったと、僕は安堵の息を吐いていた。




 7日の予定の工程を5日で終えた僕達は、近くで街に見える場所を目指している。シヴァには襲われたが、寒いせいか魔獣や獣も出てこない荒地を、単に馬車に揺られるのみの工程だ。

シヴァは、僕と共に有ると言っていたがこの世界にそんなに長く居ない僕としては、どうしようかと考えていた。シヴァは、剣になっていて沈黙を保っている。

一人になった時にでも話し掛ければ応えてくれるかも知れないと考え、今は放置することにする。ふとヒスイを見ると、毛布に包まって震えて居るように見えた。


「寒いのか?」

「ち、違うのですっ!」


 僕は、熱でも有るのかとヒスイの額に手を当てると、大袈裟な態度で避けられてしまった。


「な、何をするのですっ!」

「いや、熱でも有るのかな? って思って」


「ふぅ、知らないからなのか、落ち着き過ぎなのですっ! これから魔族の街に行くのですよ?」

「魔族の街?」


「あの山脈より北側は、魔族が支配する地域なのですっ! 街も魔族が支配しているのですっ!」

「そんな街に向かって大丈夫なのか?」


「それは、大丈夫なのですっ! 魔族の中にも魔王討伐に協力的な魔族が居るのですっ! 街を作っているのは、そう言う魔族なのですっ!」

「なら、そんなにビクビクしなくても良いんじゃない?」


「ビクビクなんかしていないのですっ!」

「ナカッツ! ナカッツ! 猫耳だっ! 尻尾だっ!」


 毎回の事だが、ジュードが騒いでいる。予測通り、こちら側の街には獣人達が居るようだ。

頑丈そうな、高く石で出来た外壁の門の様なところに、大柄の二人の獣人が槍を構えて立っている。


「止まれ!」


 門番二人が槍を交差させて馬車を止める。ガラは慣れた物で、一枚の羊皮紙を差し出している。


「勇者だと?早いのでは無いか?」

「今回は、少々お告げが御座いましたので、一度、様子を見に来た次第です」


 こう言う時は、ヒスイも普通に喋るんだなと、妙なところで感心ししていると何か睨まれた。こう言う時の女の子って、超能力でも持ってるんじゃないか? ってぐらい勘が働く。

しかし、獣人と言うのは表情が読み難いと言うか、解らない。何時も獲物を狙う様な目にしか見えないのは、僕の偏見だろうか。


「そうですか。少々お待ちを」


 鉄で出来た大きな門が開かれ、僕達の馬車は、街の中へと進んだ。何人かの獣人に馬車の周りを囲まれ、先導されて行く。

僕等を護衛している様な、他の場所へ行かせないようにしている様な、なんとも不思議な対応だ。

しかも向かっている先は、一際高くなっている場所に有る屋敷なのだが、何処かおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。

街の中で道行く者達は、獣人が多いようだが、人に見える者もちらほら見かける。皆、こちらを一瞥するが、すぐに興味を失ったかの様に元の動作へと移る。


 活気は感じられず、皆、淡々と何かをこなしている様子だ。

街の中を進み、暫くすると馬車が止まった。周りの獣人達が止まったせいだ。


「ここから先は、貴方達だけでお進み下さい」


 そう言われた先には、開けた事が有るのかと思う程、ギギギと言う重たい音を立てて開いていく門が有る。

その先は、赤い空、夕焼け等の暖かい感じではない、どす黒く赤い、まるで血の様な色をした空の下に、古びた洋館が鎮座している。

ガラは、「解った。ここまで有難う」と言い、馬車を進ませた。




 そのまま門の先へ進み、屋敷の前まで馬車を移動させると、屋敷の前で一人の女性が待っていた。オーソドックスな丈の長いメイド服を着たその女性は、全くと言って良い程、顔に表情がない。

僕達は、馬車から降り、その女性の前まで行く。


「主がお待ちしております。どうぞ、こちらへ」


 透き通る様な声なのだが抑揚のない声でそう言うと、そのメイドは僕達に背を向け屋敷の中に入って行く。

僕達は顔を見合わせると、ヒスイを先頭に彼女に付いて屋敷の中へと入って行った。

あくまでもパーティのリーダはヒスイである。こう言う時には、ヒスイを先頭にその後ろをベンとガラとミヤ。僕達は更にその後ろに居る形だ。

屋敷の中は、西洋風の大きな階段が正面に有る天上が高い入口を入ったのだが、灯りは、蝋燭だけのようで暗く、隅々まで光は届いていない。


 黙って蝋燭の灯りの中、先導する侍女に続いて歩いているヒスイも緊張している様子だ。

一際大きな両開きの扉の前で、侍女は立ち止まる。僕達もその扉に向かいあった。


「お客様をお連れ致しました」

「入れ」


 侍女がノックをして、言葉を告げると中から返事があった。扉を開けるが、中はやはり薄暗いままだ。

暗い蝋燭の灯りの中、奥の椅子に腰掛けた者が浮かび上がる。暗い中、燃える様に赤いその瞳だけが光って見える事が、彼が紛れもなく魔族である事を証明していた。

白い襟の大きな開襟シャツに黒いズボンと言う質素な服装だが、それ故に内に秘める力が大きい事が解る威圧感だ。


「ようこそ、勇者一同」

「突然の来訪に快くお招き入れて下さり、感謝致します、ヴラド公」


 ヴラド公と聞いて、僕には連想される人物が居た。ヴラド・ツェペシュ、通称ドラキュラ公。

もし、この世界でのドラキュラの持つ意味が吸血鬼だとしたなら、彼は吸血鬼と言う事になる。


 それであれば、この屋敷の雰囲気も理解出来る。小竜公では無いなと僕は一人納得していた。

ただこれは、あくまで僕の知識であり、現段階では、この情報で断言するのは危険だ。

少なくともヒスイの態度から、行き成り襲われると言う事は無いと思うが、僕は一つの可能性として対策を練っておくことにした。


「で、今回は何用だ? 時期としては、まだ早いと思ったが、供物次第では望みを聞かぬでもない」

「今回は、様子見とお考え下さい。公のお力添えは考えておりません」


「ただ様子を見るためだけに、あそこへ行くと?」

「はい」


 ヒスイの淀みない返事に、ヴラドは暫し目を瞑り思考する。


「よかろう。であれば、今回は、その剣を置いていけ。それで吾輩は静観すると誓おう」

「何?」


 ブラドが指で指しているのは僕の剣、即ちシヴァだ。

あまりにも予想外の言葉だが、こんな事で思考停止しているわけには行かない。僕は、ぐっとシヴァを握り締め答えた。


「悪いが、この剣を差し出す気は無い」

「ふん、力無き者が力有る者に何かを頼む時は、代償が必要なモノだ。吾輩が寛大だからこそ、従者如きの剣で手を打とうと言うのだぞ?」


「成程。では、我より力無い貴方は、我に何を差し出しますか? 我が主を侮辱した報いは、貴方の命ぐらいでは代償には、成りませんよ?」

「な、何だと!」


「シヴァ」

「主よ、先程の包容は、嬉しかったです」


 包容って、握り締めただけなのだが、ブラドの言葉を聞いて頭にきたのか面白がっているのか、シヴァが実態化した。それを見たブラドは、思わず立ち上がっている。

空中に浮かんで脚を組んでいるシヴァは、薄ら笑いを浮かべて、まるでヴラドを蔑んでいるようだが、後ろから見ると少々と言うかかなりエロティックだ。


「分不相応に我を所望しましたね? 我を所望する意味が、貴方には解っておられますでしょうか?」


 シヴァの言葉が終わるや否や、ヴラドの足が凍りついていく。みるみる内に、ヴラドは氷の氷像と成り果てる。


「くっ、舐めるなぁ~っ! 氷の化身風情が、こんな物で吾輩を止められると思うなぁ~っ!」


 氷の拘束を力で破ったヴラドに氷の刃が突き刺さる。それを無数の蝙蝠になって避けるブラド。


「ぐはっ! な、何故っ!」


 離れた位置で原型に戻ったヴラドに、鋭い速さでシヴァが素早く斬り掛かり、それを避けたヴラドの腕を斬り落とす。

それがヴラドには信じられないのか、シヴァから距離を取り驚愕の表情を浮かべていた。

シヴァの手に有るのは、氷の刃だ。僕達にも何が起こっているのか解らなかった。


「あら? もう終わりですか? 我は、全然楽しんでおりませんよ? そんな力で我を所望したのでしょうか?」

「き、貴様、何者だ?」


「我を知らなかった事が、貴方の敗因です。そして、これから死に行く者に教える必要は、有りません」

「ま、待てっ! 解った! 吾輩は手を出さない。これで構わぬだろ?」


「何を言っているのですか? 力無き者が力有る者に何かを頼む時は、代償が必要なのでは無かったのですか? それにこれは、我が主を侮辱した代償です」

「わ、解った。謝る。何を! 何を差し出せば良い?」


「ふん、つまらないですね。申し訳有りません、主殿。後は、お任せしますわ」

「いや、助かったよ。ってちょっ」


 シヴァは、甘い顔を僕に向けると、またしても僕に口付けをし剣に戻る。

それと同時に、ヴラドの斬り落とされた腕が、蝙蝠となってヴラドの腕に戻っていき、ヴラドの腕は元通りとなった。


 多分、斬り落とした腕を氷漬けにしていたのだろう。身体本体で無いために、戻せなかったと言うところか。

それより、周りの目が白く感じる。僕は、この危機を乗り切る為に話を変える事にした。


「ヒスイ、この先も、こんな厄介な事が必要な場所を通るの?」

「えぇ、街を避けても良いのですが、その場合、勇者が来ている事を知られると、最悪、侵攻と取られ戦争に発展する恐れが有るのですっ!」


「じゃぁ彼には、親書を書いて貰おう。僕達を穏便に通す様にね。書いて貰えるかな?」

「わ、解った」


「これは、僕等の要求であって、貴方の命の代価が何かは、貴方自身で考えて下さいね」

「な、何だと?」


「後、もう街に出るのも面倒なので、今日はここに泊めて貰おうか?」

「解った。部屋と食事は用意させる。元よりそのつもりだったので、用意はすぐ出来る」


 そして、僕達は、侍女に先導されて客間へと案内された。

しかし、この侍女、主が戦っている時も顔色一つ変えなかった様に見えたし、今も先程の事など何も無かった様に、入って来た時と同じく無表情に先導している。

あまりにも不自然なのだが、僕は、これ以上関わり合いに成りたくも無いため気にしない事にした。




 僕達は、用意された部屋で歓談していた。

暗い部屋は、精霊達に明るくして貰っている。思いの外綺麗に掃除されていて驚いた程だ。


「大丈夫かなぁ?」

「何が?」


「何か敵の懐に態々留まっている感じですわ」

「食べ物に毒が入ってたりしないか、不安ですね」


「それより、明日は、街に出ようぜ」

「アンタは、猫耳が見たいだけでしょ?」


「そう言えば、女性の獣人って見掛けなかったよね?」

「女性や子供の獣人は、滅多に人前には出てこないのですっ!」


「何? 何故だ?」

「絶対数が少ないので、獣人達の間で大事にされているのですっ!」


「な、なんてこった」

「あんたは、獣人が怖くないのか?」


 ベンが何か不思議そうな顔でジュードを見て居る。よくよく見るとガラも顔を引き攣らせているし、ミヤも汚物でも見るような顔だ。


「何言ってるんだ? あの尻尾の触り心地を知らないのか?」

「アンタ何時触ったのよ?」


「あ、いや、昔だよ、昔」

「まぁ、ジュードさんの趣味については置いておきましょう」


 キャルの言葉に、うんうんと頷くアリエンテとサピス。この二人は、何気に何時も息が合っている。

フレイも余計な事を口走らない様に矛を収めたようだが、ジュードを睨みつける目は怖い。


「それで、何故獣人が怖いのでしょうか?」

「だって、素早いし、力は有るし、凶暴だし」


「ベンは、それより凶悪な魔王を討伐しなきゃいけないんじゃないの?」

「それは、そうなんだけど」


「どうもジュードさん達は、人間と仲が良い獣人をご存知な様ですが、私達は、獣人とはあまり友好とは言えない関係なのですっ!」

「と言いますと?」


「過去の歴史が有るのですっ。人間は、昔、獣人を奴隷として使っていたのですっ」

「人より素早く、力も有り、凶暴なのに、どうやって奴隷にしていたのですか?」


「力無い子供の獣人を、躾けたのですっ」

「つまり、拐っていたのね?」


 罪悪感が有るのか、ヒスイの言葉も何時もより弱々しい。


「それで獣人は北から出てこないし、人間に対して友好的では無いと言う事ですか」

「その通りなのですっ」


 凶暴だと言うのは、人間に対してだけかも知れない。僕の知識でも有色人種に対する白人の偏見と言う物は、近代でも根強く残っていたと認識している。

ましてやお互いの容姿が明らかに違うのだから、その確執は簡単には収まらないだろう。

女性や子供を人前に出さないのも、この経験則からかも知れないし、そもそも絶対数が少ないのも、人間が奴隷にする為子供を拐ったのが原因かも知れない。


「取り敢えず、今晩は、皆一部屋で固まっていた方が無難かな?」

「仕方無いのですっ! 不本意ですが、そうするのですっ!」


 僕が、話題を変えたと同時に侍女の人が、食事の用意が出来たと僕達を呼びに来てくれた。

心配した事も無く、用意された食事は、かなり美味しい物であった。


 風呂も用意されており、僕達は、取り敢えず旅の汚れを落とす事ができ、暖かい食事と暖かい寝床にありつく事が出来たと言える。

女性陣が風呂に入っている間、男性陣が外で見張っていると言う、何も無かったため何とも間抜けな感じであったが、何かあってからでは遅い。

そう僕達は、慰め合って、風呂に入ったのであった。


 ただ、やはり、全員一部屋で寝る事にしたため僕を含む男性陣は、椅子やソファーで寝る事となってしまった。

4人部屋を3つ用意していくれたため、部屋にベッドが4つあるのだが、女性陣が2人ずつベッドに寝ている。

僕に入れと言うのが若干居たが、この状況で入れる訳がない。


 僕は、皆が寝静まったのを確認すると、テラスに一人で出た。別に夜風に当たりたかった訳では無い。


「シヴァ」

「呼び出して頂けるとは、光栄ですわ、主殿」


 僕の呼びかけに応じて、シヴァが実態化する。何時もの様に空中ではなく、テラスの淵に腰掛け、やはり脚を組んでいる。

昼間もそうだったが、実態化する時は、まずこの氷の女王風の姿がデフォルトの様だ。

じっくり見ると、かなり美しいと言える。ここから変化した容姿と合わせても、聞きたい事は色々あったのだが、僕は、まず自分が言うべき事を話した。


「僕と共に有るって言ってくれたけど、僕は、この世界の人間じゃないんだよ」

「そんな事は、存じております」


「予測はしていたけどね。僕の名前を知っていたし」

「はい」


 屈託のない笑顔で微笑むシヴァ。若干吊眼なのだが、微笑むと可愛い。


「じゃぁ、異世界にも付いてこれるって事?」

「当たり前です。我は破壊神シヴァ。神と名が付く一人です」


「いや、神様がただの人間の僕を主っておかしくない?」

「ご謙遜を。我より強き者。それは、我が主となるべき者です」


 そう言ってシヴァは、僕に向き合い寄り掛かって来る。


「だって、シヴァって本気を出してなかったよね?」

「魔法を使わなかったと言う意味では、主殿も同じです」


「それは、そうだけど」

「我らの魔法は最大の物であれば、星すら消滅させてしまいます。それは、本末転倒です」


「僕の魔法は、そこまでの威力は無いよ?」

「しかし、あの山脈を無き物とするぐらいの事は、出来ます」


「買い被りすぎだよ」

「ふふ、未だ半覚醒と言うところでしょうか?」


「どう言う意味?」

「まだまだ、強くなると言う意味です」


「じゃぁ、ちょっと聞きたい事が有るんだけど」


 そう言った僕の唇を、シヴァの人差し指が縦に塞いだ。


「申し訳有りません。この旅が終わる頃には、全てをお話出来ると思います。今は、何も聞かないでいて下さい」


 シヴァの本当に申し訳なさそうな顔に僕は、頷くしか出来なかった。

ふっと、寂しそうな顔をして、シヴァは両手を僕の肩の上に乗せて、正面に顔を近付けてくる。

そして唇を奪われ、シヴァは剣に戻った。


 何か誤魔化された様な気がするが、今は、これ以上話をしてくれる気は無いのだろう。

しかし、シヴァの口吻は、剣に戻る為に必要なのだろうか?

僕は、疑問を抱きながら、一眠りすることにした。




 翌日、僕達を見送ってくれたのは、僕達を案内してくれた侍女だけだった。

なんでも、この時間ヴラドは、まだ寝ているらしい。吸血鬼なら当然かと、僕達は納得した。


「これを」


 侍女から渡されたのは、3通の封書と、真っ赤な石が埋め込まれている指輪だった。


「これは?」

「ブラッドリングと言う、相手に与えたダメージ分、自分が回復すると言う魔装備です」


「これをくれると?」

「それと、こちらもです」


 そう言って差し出されたのは、羽の着いた蛇の絡まった杖と、物凄く大きな刃を持った斧であった。


「こんなに?」

「ケリュケイオンの杖とバルデッシュです、命の代償と申しておりました」


「じゃぁ、遠慮なく頂いておくよ」

「はい、道中お気をつけて」


 僕は、馬車に乗り込むと、封書と指輪をヒスイに渡した。斧はガラに、杖はミヤに渡す。

思いの外、ヴラドは誠実に用意していたらしい。


「これは?」

「ベンにでも装備させてやれば良いんじゃない?」


「良いのですか?」

「勇者なんだろ? それぐらいの装備を持ってても良いんじゃない?」


「有難うなのですっ! ベン!喜ぶのですっ!」

「本当に良いのか? こんな物貰って」


 僕は、微笑んでサムズアップで応えた。

僕達にこの世界の理で出来ている装備は必要ない。サラ辺りは、研究の為持ち帰って欲しかったとか言い兼ねないが、まず持ち帰れないだろう。

この世界の物は、この世界の者が使うに越したことは無い。僕は、そう考えていた。




 街で食料や水等を補給し、装備等も見て回る事にした。

これから寒くなりそうなので、外套等の防寒装備や、便利な物が有ればと言う事で、少しゆっくりと街の中に有る店を物色していたのだ。


 ヒスイの言う通り、僕達を歓迎している雰囲気では無いため、僕達は固まって行動している。

寒い地方だからか、皆服装が地味な感じがする。つまり、僕達は目立つのだ。

なのでまず、外套を購入する事にした。足まですっぽりと覆う形で、フードも付いている。皆、同じ物にしたため、黒魔術の宗教団体の様だが、贅沢も言っていられない。


「しかし、本当に獣人の女性って居ないんだな」


 本気で残念そうなジュード。周りも残念な人を見る様な、生暖かい目を向けるが、それ以上突っ込む様な事は無かった。

だが、流石に獣人が結構居るせいか、武器屋では、かなり大きめの戦斧や大剣があって、ジュードとフレイは目を輝かせていた。

この二人は、自分達は否定するが、かなり戦闘狂だと僕は思う。絶対口に出せないけど。


 ガラとミヤは、元々自分達が持っていた大剣と杖を売っている。中々逞しい。

僕も、やはり金属製の武器と言うのは、何時見ても心躍らされる。僕達は暫く武器屋で堪能し、防具屋も見に行った。


 この街に売っている物は、南側では売っていない様な物を売っていると言うことだった。

ガラとミヤは、防具全般を買い換えた様子だ。僕達もヒスイに勧められ、魔法防御が着いた装備等を購入して貰ったのだが、女性陣は、民族衣装等の方に興味が有った様だ。

まるで、女性の服を買いに来た様に、キャッキャ騒ぐ女性陣達から少し離れたところで、僕達男性陣は居辛い雰囲気を感じている。


 そうして何事もなく、街で準備を行い、食事まで済ませて、僕達は北で最初の街を後にしたのだった。


 馬車は、暗雲立ち込める北を目指していた。


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