第二話 常識
僕は何の因果か、異世界と言う処に召喚されてしまった。しかし、そこは僕が知ってる様な、剣と魔法の世界とは少し違っていた。
実は魔法も存在するし、一般的な武器と言うのも剣や鎗等だが、根本的な価値観と言う物が違っていたのだ。
朝日が眩しい。この世界の空気は気持ち良い。丁度、山に登った時のようだ。
道路は舗装されておらず、土が整地された感じで周りには草木も生い茂っており、季節は夏だと思うが、アスファルトの照り返しもなく、適度な木陰によってそれ程蒸し暑さを感じない。
時折吹く風は清々しく、避暑地にでも来たような感じだ。
「よっ! 昨日は大丈夫だったか?」
「あ、おはよう。お陰様でなんとかね」
寮から学舎へと続く道をのんびりと歩いていた僕に、グレーのツンツン頭のジュードが声を掛けてきた。
昨日は、この世界に来て色々有り過ぎた。クラスメートの7人中6人が女の子だと言うのに、名前のチェックすら出来ていない。
「なんとか」とは言ったものの昨日は寮に案内され、夕食を食べさせて貰った後は自分の部屋で灯りも点けずに、泥のように眠ってしまったのだった。
人数は少ないが、ここは高校に通っている様なものだ。教えられている内容は、今までの常識が全く通じない事ばかりだが、それはそれで新鮮で良い。寧ろ面白いとさえ思える。
昨日は大変だったとは言え、その前は1週間程休んでいたようなものだ。本来であれば夏休み中であるが、受験勉強が忙しかったはずだと思えば、今更勉強することは苦痛な訳ではない。
ただ、勝手が違うため、少々戸惑っているのも確かだ。
ノートと言う物がないし、いや、探せばあるのかもしれないが文字が違う。読み書きは出来るのだが違和感が有り、書いても覚えれる気がしない。
例えば数字の1~50までが50音と同じ発音をすると言われて、数字で文章を書いて内容を覚えれるだろうか? そんな感じである。
「はぁ~ぁっ」
「俺も、こっちへ来てまだ一週間程だが、はっきり言って何をするのにも戸惑っちまうよな」
教室に入って机に突っ伏した僕の何気なく吐いた溜息に、ジュードは、ご丁寧に相槌を打つかの様な言葉を掛けてきた。。
ジュードは僕の前の席に陣取っている。特に決まった席は無いそうで、早いもの勝ちではあるのだが、大体皆、何時も同じ席に座るらしい。
彼も仲間が欲しいと言うところなのだろうが、僕もまだいっぱいいっぱいなため、色々話しかけてくれるジュードに対する態度も御座なりになってしまうと言うものだ。。
「でも、お前が来てくれて助かったよ。この一週間居た堪れなくてな」
「何が?」
「だって俺以外女ばっかりだろ? しかも一瞬ハーレムかと思ったんだが、どうも奴らは男を毛嫌いしているようだしな」
「確かにフレイアも初対面なのにアグレッシブだったね」
「早くここから出たいぜ」
「何かあるの?」
「お前の世界じゃどうだったか知らないが、ここの女共、露出が激しいと思わないか?」
「え?」
そう言われて見回して見ると、確かに少し屈めば下着が見えてしまいそうなミニスカートやホットパンツ率が高い。
季節が夏と思われることもあり、露出が少なくても下着が透けそうなぐらいの薄着だし、ノースリーブだ。
しかし、元の世界での女子高生を思い浮かべれば、それに比較して露出が激しいと言う程でもなかった。
「正確な年は知らないけど、僕らくらいってこんなものじゃないの?」
「お前の世界も、平和だったんだな。でだ、何で奴らの露出が高いかと言うとこれだ」
僕の感想はどうでも良かったらしい。そう言ってジュードは、僕と同じ青銅色のカードを見せた。
「俺らは、この色じゃないか? だけど奴らは既に銅や銀の奴まで居るんだぜ」
「へぇ~。でもこっちが長いからってことじゃなくて?」
どうでも良い話だと思っていたが、僕はジュードの話の先を促した。
もう少し時間が経てば断る事も出来ただろうが、今印象を悪くする必要もない。
情報も仕入れておくに越したことはないからと言う、打算的な考えも有った。
「貢献度って奴だよ。奴らのそれは綺麗な物、つまり美術品なんかを見せていると言う様な貢献になるらしんだ」
「肌を見せるだけで貢献度が上がるのか。まぁ女の子の特権ってところ?」
「問題は、そこじゃない。その行為に価値があると言うことなんだ」
「何を言いたいか、良く解らないんだけど」
「つまり、この世界の女性達は、男に優しいってことなんだ」
「それが貢献度に繋がるからだと?」
「そうだ。そしてそれが社会の常識として身に付いていると言うことだ」
「成程。つまり君は女の子に優しくされたいって事だね? 君の世界では、そうでは無かったって事かな?」
僕は、何気なく推測した言葉をそのまま口から発しただけだったが、彼の何かに触れてしまったらしい。
今まで能天気に明るく話していたジュードの表情が無くなり、一瞬で雰囲気が硬質な物へと変わった。
「俺の世界じゃ、女だって筋肉隆々で男と何も変わらない存在だったよ。こっちへ来てこの生き物達はなんだ? って思ったぐらいさ」
そう言ってジュードは、自分の右手で自分の左腕を摩っている。
「俺は、前の世界で左半身は機械だったんだ。そのバランスを取る為に、右側もかなり機械を埋め込んでいてな」
「サイボーグ?」
「ふっ。懐かしい呼び名だな。お前の世界にも居たのか? 俺の世界でも最初はそんな名前だったらしい。俺達は機械化戦士と呼ばれていたけどな」
「戦士? 兵隊だったの?」
「いや、軍隊に所属していたわけじゃない。10歳以下の子供以外は皆戦士だったのさ。限られた食料を守る事と奪う事が、俺達の生きる全てだった」
「過酷な世界だったんだね。じゃぁ、この世界は………」
「あぁ、俺にとってパラダイスだよ。楽園さ。あいつらがもう少し優しければ、もう浮かれまくってただろうな。だけどそれだけじゃない」
「そ、そう? 他にも何か?」
やけに白熱して、顔を近づけて熱弁するジュード。
僕は少し引いていたし、周りの女の子達の視線も痛いのだが、ジュードの勢いを抑える事は出来ない。。
「お前の世界には、猫耳少女はいたのか?」
「いや、僕の世界では、それは架空の存在でしかなかったけど?」
「だろ? だろ? 俺の世界もだ。しかぁし、お前は街で見なかったか? 猫耳、尻尾フリフリの女の子達を!」
「そう言えば、小さな子供達だけど、見たなぁ」
「もぅ~っ! 可愛過ぎるだろ? しかも彼女達の露出度は、ここに居る女達の比じゃないんだ!」
「そ、そうか。解ったよ………」
「そうなんだよ! そこで相談があるんだがっと、また後でな?」
「はい、はぁい。皆さん、今日も講義を始めますよぉ~」
もう勘弁して欲しいと思っていたところに、アリア先生が教室に入って来てくれたお陰で、僕は助かった。
僕の居た高校と違うところは、皆、講義は黙って真剣に聞くと言うところに尽きるだろう。
そこで僕は、ふと疑問を感じてしまった。
僕は何故、この状況に溶け込んでいるのだろう? 状況に流されているだけか?
流されている事は否定しないが、自分でも不思議なくらい元の世界の事を何とも思っていないようだ。
確かに、別れるのが辛いと思うような、友達も恋人も居なかったが、二度と帰れないだろうと言う事に対して特に思う事もない。
現に、どうしてももう一度会いたいと思う人間も居ないし、僕って余り深い人付き合いをしてこなかったって事か?
しかし、それも仕方ないと思う。
優先順位として受験のための勉強が最優先だったから、友達も日常に支障がない程度の付き合いしかしてこなかった。
戻っても父さんも母さんも居ないし、会ったばかりの爺さん達に思い入れもないしと言うところか………。
「………さん? ………ツさん! ナ・カ・ツ・さ・んっ!」
「は、はいっ!」
そんな事を考えていた僕は、講義を聞いていなかったらしい。
目の前に目を釣り上げたアリア先生が居る。周りの女の子達の目が白い。
ちょっと講義を聞いていなかっただけで、そこまでの反応は無いんじゃないかと思ったが、それが間違いだと言う事を僕は思い知らされる事となってしまった。
「聞いていましたか?」
「いえ、すみません。ぼ~っとしてました」
「昨日この世界に来たばかりで、お疲れだとは思います。でも、与えられるのは当たり前では無いのですよ?」
「はぁ………」
「皆さんにも再三申し上げておりますが、皆さんは、与えられたモノに対する対応が雑すぎます」
そう言いながらアリア先生は、教壇へと戻っていく。年は聞いていないが、後ろから見るスタイルは、かなりな物だ。
それこそ、元の世界ならモデルか芸能人かと思う程だ。なまじ綺麗なだけに、怒っている顔にも迫力がある。
「寧ろ、この概念を皆さんに理解して頂く為に、我が校の様な機関が有ると言っても過言では有りません。私も、皆さんの様な異世界の方と、多々触れ合う機会が有る為に知った事ですが、皆さんの世界では貨幣と言うものが流通していると聞き及んでおります。この中で、貨幣以外の物で物品の交換を行っていた世界から来た方は居られますか?」
アリア先生の言葉に誰も反応しない。僕自身、物々交換の時代でもなければ、貨幣が流通していないと文化も発展しないだろうと思っていた。
「この世界にも、その様な文化が遠い古の時代に有ったそうです。しかし、それは結局物々交換と変わらない、価値が変動し人其々で得られる内容に不公平が生じる物だと解り、今のカードシステムが作られました。これは、大気中のマナに、人が与える影響を人の目に解りやすく現すものです。最初の頃は、拳大の石だったそうですが、技術の発展と共に今のカード型に進化しました」
僕達は自分のカードを取り出し、ひっくり返したり透かして見たりしている。
「私達は、貢献度と呼んでおりますが、世界に与えた貢献度、又は与えられた貢献度が、皆さんが持っているカードに現されます。与える貢献度が与えられる貢献度を上回る事により、カード表示がランクアップしていき、更に高い貢献度を受けられるようになる。その逆は、ランクダウンすると言う事ですね。これが皆さんが持っているカードの仕組みです」
この時点では、僕には違いが解らなかった。要は貢献度を貯めて貢献度を払う。貨幣を貢献度と言う物に置き換えただけじゃないかと考えていた。
精々先払いか後払いの違いくらいにしか違いを感じない。
作った農作物を売る事によりお金を得るのか、農作物を作る事により賃金を貰うのかぐらいの違いじゃないのか? と考えていたのだ。
しかし、次のアリア先生の言葉で、僕は目から鱗が落ちる思いをする事になった。
「与えられるモノは、世界から与えられるモノです。それは自然であったり、他者であったりします。そして、与えられたモノを無下に扱うと、貢献度が下がりますので、気を付けて下さいね」
つまり元の世界では、お金を払って買った物は、買った本人がどうしようと勝手だった。
極端な話、買うだけ買って壊したり捨てたりしても、誰も文句は言わない。
しかし、この世界では買った物に対しても、その扱いにより貢献度が左右されると言う事なのだ。
成程。だから、使うだけと言う事はないし、必要以上にも使われないと言うことか。
しかも、与えられると言うのは自然からも対象と言うことらしい。だから自然破壊は重罪なのかと合点がいった。
「ですから、ナカツさん?」
「は、はいっ!」
「その様な態度では、すぐにカードがグレーになってしまいますよ?」
「え?えぇ~っ!」
「私も口煩く言いたくありませんので、以後気を付けるようにお願いしますね?」
「はいっ!解りましたっ!」
僕の返事に、アリア先生はニッコリ微笑んで頷いてくれた。
しかし、僕はこの時の話の内容を半分も理解していなかったのだ。
この世界のエネルギーだが、基本的に個人個人が持つ法力と呼ばれる物と、大気中に溢れるマナと呼ばれる物で賄われている。
簡単な例を上げると、お湯を沸かしたりするのは法力を利用する魔道具と呼ばれるもので、時計みたいに常時動く物は、大気中のマナで動く魔道具と言う事だ。
大規模な魔道具、例えば可動式の橋を動かす魔道具等だが、これは大気中のマナを大量に消費するために、そこに大気を流し込む魔道具などが対となってる。
また、大気中のマナを大量に使用する魔法を発動した場合等は、その場のマナが正常になるまで時間が掛かるそうだ。
マナ自体は、精霊や聖獣や植物などから発生するらしい。地球上における酸素の様なものだと考えれば良いと思う。
老廃物もなく、限りなくエコロジーなエネルギーだと言える。
それともう一つ。この世界には、精霊と言う者が存在する。
呼び方は色々あるそうだが、大別して、風、火、水、土、光、闇の精霊が居ると言うことだ。
この世界での魔法とは、精霊に働きかけ、マナを利用し発生するものらしい。そして、今は外でその精霊達と対話する講義の真っ最中だ。
「はい、皆さん。屋外で一番身近に居るのが、風の精霊さんとなります。後、昼だと光の精霊さん、夜だと闇の精霊さんが居ますが、光と闇の精霊さんは、あまり人と対話してくれません。後は、当然水の周りには水の精霊さん、火の周りには火の精霊さんがいます。土の精霊さんは少し恥ずかしがり屋さんで、人が多いとあまり出てきません」
そう話すアリア先生の周りには、精霊が集まっているのであろう光がキラキラと煌めいている。
「精霊さん達とのお話は、法力を使って行います。法力とは内なる力ですので、自分の内なる力を自分の周りに放出するような、纏わせるような感じをイメージしてください。その法力に惹かれて妖精さん達が寄って来てくれます」
法力については、フレイアに初日に叩き込まれた。これが使えないとキューブが起動しなかったためだ。
机上にあるキューブは、PC端末の様なものだった。資料の悦覧から、ノートの保存まで出来る。ネットサーフィンの様なことは出来ない。
こちらのキーボードは、仮想キーボードの様な感じで、キューブから発生する映像だ。
当然だが、キーの配置が僕が使っていたPCとは違うため、僕には上手く使えない。それでも目の前に表示される映像にタッチすることにより、タッチパネルのように使える。
キューブ無くしては、講義を受ける事もままならないのだ。
一人一台、この学校を出るまでは使っていて良いと言うことだったので、そのうち慣れるだろう。
僕は、目を閉じて瞑想のように内なる力に集中していた。
その時、「キャッ!」と言う声がしたため、集中が途切れ、目を開いてしまったところに映った光景に、僕は吹き出してしまった。
そこには、風の精霊を制御できなかったのか、逆立ちした様にスカートから上着から髪の毛まで逆さまにして、ピンクの下着を露わにしている女の子が居た。
確か名前はキャルロットだったか。緑のロングヘアーの、ちょっとおっとりとした感じの女の子だ。
服装も、皆よりは大人しめで露出は少ない方だと思う。
「あらあら、キャルロットさん落ち着いて下さいな」
「で、でも~っ!」
更におっとりした感じで、アリア先生がキャルロットの方へ近付いて行くが、その猛威は収まるどころか更に強くなり、周りの女の子達も巻き込んでいく。
「ちょ、ちょぉっとぉ~。キャルさん落ち着いて下さいませんこと」
「ふふふ、この時の為に抜かりはない」
僕の横に来たジュードは楽しそうだ。と言うかジュード、その防塵眼鏡は準備が良すぎるだろ?
目の前は、阿鼻叫喚と化して、白や水玉や縞模様や黒い下着が乱舞している。
どうしてこう言う時、女の子って前を抑えるんだろう? お尻が丸見えです。
「ほらほら、そうやって騒いでいると、精霊さん達は益々楽しむだけですよ?」
「精霊が楽しむって、どう言うことですか?」
「あらあら、ナカツさんは、余程精霊さん達に好かれているのか加護が強力なのか、全く被害を受けておられませんね? 精霊さん達は、とても悪戯好きなのですよ。だから、ああして恥ずかしがったり、困ったりしていると益々調子に乗るのです」
「だから、アリア先生は、隠しもしないのですか?」
そう。アリア先生は、全くスカートを抑えようともしていない。大人びた黒いシースルーな下着は、スタイルが良い事も有り鼻血物だ。
「何を隠す必要があるのでしょう? 特に見られて困る様な物は、着けてはおりませんし、こうして精霊さん達が肌に触れるのは、とても気持ちが宜しいのですよ?」
「な? この世界の女の人は、皆こんな感じなんだよ」
いい加減、鼻の下を伸ばしたジュードが鬱陶しい。確かに嬉しいが、恥じらいが無いのもなんだかな? と思う。
それ以上に僕は、アリア先生の態度に何か違和感のような、不自然なような、言い様の知れないモヤモヤした何かを感じていた。
そう言えば僕がこの世界に来た時には、風の精霊達のお陰で恐怖のスカイダイビングでも無事だったなぁと、その時の事を思い出していると、僕の周りにも小さな光が集まりだして来た。
それに伴い、周りの喧騒も収まって行く。スカート姿の女の子達は息を荒げながら、地面に女の子座りで座り込んでいた。
「あらまぁ、精霊さん達がナカツさんの所に皆集まってしまいましたわ。これは珍しいですわね」
「珍しいのですか?」
「まだ、こちらに来て二日目でしょう? 普通は、大気中のマナを呼吸や食事で体内に取り入れて、一月ぐらいで精霊さん達に認識されるようになるのですよ?」
「俺は、まだ精霊自体感じれないぞ?」
「そうなの? ジュードの周りにも結構居るみたいだよ?」
「ナカツさんは、精霊さんが見えるのでしようか?」
「え? えぇ、何かキラキラ光る粒子みたいなのが、見えますけど?」
「それは、稀有な才能ですね。この世界でも精霊さんを、はっきり見る事が出来る人は少ないのですよ?」
「お前って凄かったんだな?」
「そ、そうなのかな?」
何が凄いのか全く解らなかったが、隣で興奮しているジュードをこれ以上刺激したくなくて、僕は曖昧に相槌を打っておくことにした。
あれからジュードは、暇が有ると僕のところに来て、色々な話をしている。見掛けによらず、話好きな様子だ。
僕は、どちらかと言うと話し下手なので、もっぱら聞き役となっている。色々とこの世界と学校の情報をくれるのは有難い。
「ちょっと宜しいかしら?」
僕とジュードの会話に入って来たのは、ストロベリーブロンドとでも言うのか、赤みがかった金髪縦ロールのお嬢様だ。
名前は、確か………。
「わたくし、カテリーナと申しますの。そしてあちらのピンクの髪の毛の子がチェリシュラ。青い髪の毛の子がサピスですわ」
「あ、ご丁寧にどうも」
言われた方を見ると、ピンクの髪の毛の子が手を小さく振っていて、青い髪の毛の子が軽くお辞儀をした。
「そして、そちらの緑の髪の毛の子が、キャルロット。銀の髪の毛の子がアリエンテ。赤い髪の毛の子はご存知ですね? フレイアですわ」
「は、はぁ………」
そちらでは、緑の髪の毛の子は小さくお辞儀をして、銀の髪の毛の子は、なんか睨んでる? フレイアは、こちらを見もしていない。
行き成り全員の紹介をされて、何が始まるのか僕には全く予想がつかなかった。
「ジュードさんは、ご存知だと思いますが、今週の週末に奉仕活動がございますの」
「奉仕活動?」
カテリーナの話によると、僕達は今の状態だと与えられているだけのため、貢献度が下がる一方らしい。
そのため、2週に1回、二日ある休みの一日を奉仕活動に充てられていると言う事だ。
因みに、この世界の一週間も精霊の6種類と無の日による七曜で、闇の日と無の日が休みとなる。
奉仕活動を行うのは、個人でも団体でも構わないのだが、8人集まると割の良い募集が有るらしいので、一緒にやらないか? と言うことらしい。
因みに個人でと言うのは、単独で自分で考えて貢献度の上がる様な事をすると言うことだ。
例えば、広場や公園の掃除をするとかである。それに比べて募集があると言うことは、望む人が居るために確実に貢献になると言うことなのだ。
勿論一人で出来る様な募集も有るらしいが、あまり多くは無く、そう言うのは僕達にはまだ難しいらしい。
つまり、同じ広場や公園の掃除をするにしても、募集が有るのと勝手にやるのでは貢献度に差が出ると言うことだ。
「と言うことで、わたくしの指示に従って頂けますこと?」
なんと高飛車な! と思ったが、断る理由も無かった為、僕はその申し出を受け入れる事にした。
「うん、いいよ。何も解らないけど、宜しくね」
「え? も、勿論ですわ。わたくしに任しておいて頂ければ何の問題有りませんわ」
何故か顔を紅くして、短いスカートを翻しながら、カテリーナは女の子達の集団へと戻っていった。
「まぁ、別に良いけどよぉ。あいつ責任者になって楽するつもりだぜ?」
「それって楽なの? どっちにしても、僕は、何も解らないから、有難いよ」
「お前って結構大らかって言うか、呑気だな」
ライトノベルや漫画の様に、行き成りギルドに登録して、魔物倒してお金稼いでなんて話は、この世界では無い。
ジュードの話では、討伐依頼や護衛依頼を受けれる斡旋所と言う物が存在するらしい。
奉仕活動の募集と言うのも、斡旋所に有る依頼の内の一つと言うことになる。
斡旋所と言うのは、元の世界で言うハローワークとかアルバイト情報の様な所だ。
長期の依頼から、1日限りの物まで、種々様々な依頼が有ると言う話だ。
この世界には、会社と言う物は存在しない。
考えて見れば解る事だが、会社組織と言う物が必要ないのだ。会社組織とは、分業と専門職化により効率化された営利団体だ。
事務処理に特化した人、営業に特化した人、物作りに特化した人、それらを管理する人に分業し其々専門化する。
同じ事をするのだから、得意になり効率的になる。そうして得た利益を全員で分配する。
だが、まずこの世界で事務処理に該当するものが必要ない。カードが全て代替えしてくれる。
利益の分配も同じくカードにより行われる。沢山売れば儲かると言う物でもなく、不良品を売ろう物なら逆に貢献度は下がってしまう。
従って、組織立って居るのは、僕の世界での役所に相当するような所だけとなるのだ。
この世界の授業は、本当に驚かされる事ばかりだ。
カテリーナが言っていた、奉仕活動の話が出たところで、街に出る注意みたいな話を聞いたのだが、魔法が使える人は杖を、使えない人は剣かナイフを腰にぶら下げて外出する様にとの事だった。
これは自己防衛の為と、周りの人に自分の事を知らせる為と言うことらしい。
「でも、それなら、何も付けなくても良いんじゃないですか?」
「この世界で、何も身に付けて無いのは、異世界から召喚されたばかりの人か、子供だけですよ?」
「召喚されたばかりですけど?」
「もう、教えました。出来る事を周りに知らせる事は、この世界では大事な事なのです。もし、何も付けないと身分詐称となります」
「でも僕、剣なんて使った事ないし、魔法も使えませんよ?」
「ナカツさんは、大変珍しい争いのない世界から来られたのですね?」
「いや、争いは絶えませんでしたけど、武器を持つのは法律で禁止されていましたから」
「逆に、野蛮過ぎて規制されていたと言うことでしょうか?」
「否定は出来ませんけど、銃とかは無いのですか?」
「銃? あぁ、火薬を使った殺傷能力の高い武具の事ですね? 有りません。そんな物を作ったらそれだけで貢献度が下がりますし、そんな物が大量生産されて多量に命を奪ったら、作った人の知らないところで作った人の貢献度が極端に下がりますから」
何か今、とんでもない事を聞いた様な気がする。自分の知らないところで貢献度が下がる?
「えぇっと、ナカツさんの世界に有ったかは存じ上げませんが、兵器でしたか? 大量殺人を行う様な物」
「えぇ、有りましたけど」
「やはりですか。そう言う物は、この世界では作られません。無差別に大量に生命を奪う物や、自然を破壊する物はこの世界では、作った時点で大量に貢献度を失う事になります。そしてそれらを使って、無差別に大量に生命を奪ったり、自然を破壊した時点でカードは黒くなると考えて下さい」
「く、黒くですかっ!」
アインシュタインやエジソンもこの世界だと、重犯罪者になったのかも知れない。
僕は、この時アリア先生が「無差別」を強調していたことに気がついて居なかった。
「この世界でも、聞いた話ですと同じ規模の魔法が存在します。ですが魔法は、精霊さんが応えてくれないと発動致しません。つまり精霊さんが認める程の理由が有って、初めて行使される訳です。しかし、この世界にも不逞な輩は存在します。対個人で身を守る術が有るのに行使しないのは、逆に自殺願望者と同程度と言う事になるのですよ」
「今ひとつ解りませんが、自分の身は自分で守って当然と?」
「簡単に言えばそう言うことですね」
「解りました」
何か釈然としないものがあったが、これは僕が育って来た文化によるものだろうと、その時は解った気になっていた。
「後、街には獣人の方達や、妖精族の方達も居られると思いますが、あまりジロジロ見てはいけませんよ?」
「妖精族って?」
「そうですねぇ。耳の尖っているのが特徴のエルフさん達や、ちょっと身長が低いドワーフさん達や、角が生えている鬼族の方達ですかね」
「そんな人達も居るんですね」
「彼らは、我々とはまた違った種族固有の掟のような物があります。まだ全てをお教えするには時間が足りませんし、私も全てを熟知している訳ではありません。トラブルを避ける為にも、今は極力係わらない様にお願いしますね?」
「解りました」
確かに僕は、まだこの世界の事を何も知らないに等しいし、トラブルに巻き込まれたくはない。
極力係わらない様にしようと、アリア先生の言葉を真摯に受け止めた。
で、奉仕活動当日になった訳ですが、皆さん露出高過ぎです! ジュードお前もか!
一応説明すると、ジュードがカーキー色のハーフパンツに青いアロハシャツの様な開襟シャツ。
カテリーナが、下着が見える程生地が少ないデニムっぽいホットパンツに、胸と肋辺りまでしか隠してない赤いビスチェの様な物。
チェリシュラは、ヒラヒラの白いミニスカートにオレンジのタンクトップ。
サピスは、水色のフレアスカートに白いノースリーブのブラウス。
キャルロットが、唯一膝下まである白いノースリーブのワンピースだが、下着が丸透けです。
アリエンテは、白いミニスカートにグレーのタンクトップ。
フレイアは、赤いタータンチェックのミニスカートに、クリーム色のタンクトップ。
皆、肌が白いので眩しいです。
但し、ジュードとフレイアは、見るからに剣と言う感じの長剣を腰にぶら下げている。
僕は、アリアさんに見せて貰った中で、刃渡り50センチぐらいの、サバイバルナイフの様なナイフを太腿に付けている。
その他の女の子達は、何か可愛い感じのロッドを持っていた。
魔法の杖と言うより、子供向けアニメで出てきそうな30~50センチぐらいのバトンみたいな奴だ。
「今日は、プールの清掃が取れましたわ。勿論清掃後、水を貯めるまでですので、水を貯めた後は泳いで良いそうです。皆さん水着を忘れないようにお願い致しますわ」
「水着なんて持ってないよ」
「あら、それもそうですわね? でも買っても良いですし、濡れても構わない服を持っていけば宜しいですわよ」
「あぁ、着替えもないから、それなりの物を買いたいなぁ」
「こんな事もあろうかと。じゃぁ~ん」
「じゃぁ~んって何それ?」
「これを差し上げますわ。ジュードさんも要ります?」
「いや、俺はいいよ」
カテリーナが手にしているのは、黒いハーフパンツだ。確かに水着としても問題なさそうだ。
「有り難く頂きます」
「はい。帰りに街も案内致しますわよ。着替えも買いたいでしょうし」
「あぁ、それは助かるよ」
「はい。それでは参りましょう!」
ニッコリと微笑むカテリーナは、高飛車な感じだが、悪い子ではなさそうだと僕の中で評価が上がった。
道すがら、歩きながら、それぞれ自己紹介をしてくれた。
「カティと呼んでくれて構いませんわ」
「チェリーでいいよ? 宜しくね」
「サピス………です」
「キャルロットです。キャルとお呼び下さい」
「アリエンテ」
「フレイでいいわ」
「ジュードだ」
「うん、知ってる。ナカツです。宜しく」
と、こんな感じだった。ジュードが言う程、男を毛嫌いしていると言う感じは受けない。
若干、アリエンテとフレイアには、好かれては居ないようだが………。サピスと言う子も良く解らない。
そう考えると半分は好意的ではないと言うことで、カティは高圧的だと受け取れば相対的に、男を毛嫌いしていると言う判断も頷ける。
残念ながら、この世界に四次元ポケットのような物は無い。女の子達は、昼食を作って来てくれたらしく、バスケットを持っていた。
当然、僕とジュードが移動時にそれを持つ事になった事は、仕方がないことだろう。
しかし、街へ出てみると、ジュードの言っていた事が誇張じゃ無かった事が良く解る。
前は初めてだったのと、横に月詠が居たからかあまり周りを見ていなかったんだなぁと思った。
こうして見ると、確かに、色々な獣耳をした尻尾を生やした女性が結構おり、露出が高い服装ばかりだ。
しかも、下着が見える事など全く気にしていない感じだ。慣れているのか、そんな風景に見入って居る様な男は、僕と隣に居るジュードだけだ。
「な? 言った通りだろ?」
「そうだね。でも、これが普通だと、慣れちゃうんじゃないかなぁ?」
「何言ってんだよ。嬉しい物は嬉しい。ここはパラダイスだろ?」
「でも、そんなに露出していない女の人も結構居るみたいだけど?」
結構日差しが強いのに、肌をあんまり出していない人も結構居る。
そう言う意味では、日傘を刺した中世の貴婦人みたいな人も居るし、種々様々と言うところだ。
「そりゃ、人其々、着る物にも趣味が有るんじゃないか? これだけ平和なんだし」
「平和じゃないと趣味は出ないの?」
「趣味が戦闘に向く」
「御免、意味が解らない」
「如何に効率良く武器を使用出来るかとか、弱い部分のガードをどうするかとかに意識が回ると言うことだ」
「成程………」
あれから、ジュードの話を聞いていたが、ジュードの世界では、青い空と言う物が無かったらしい。
しかも、ここに居る様な可愛い女の子や綺麗な女の子と言うのは、皆無だったと言うことだ。確かにそんな世界から来たなら、ここは楽園と思えるのかも知れない。
僕は、どうなんだろう? 嫌じゃないのは確かだが、まだまだこれからが不安なため、そこまで楽観的になれないところがある。
そんなこんなで現場に着いた僕達だが、着いた途端、女の子達は服を脱ぎだしてしまった。そうですか、下は水着でしたか。
と思った僕は、甘かったです。それ本当に水着? 下着じゃないの? 透けてますって。
「こら~っ! ジュードッ! ちゃんと掃除しなさぁいっ!」
「アイアイサーッ!」
カティさん、仁王立ちです。ジュード乗り乗りです。
なんなんだ、この乗りは? と思ってたら、手を掴まれました。青い髪のショートヘアーなサピスだ。
慎ましやかな胸だが、ちゃんと主張している上に、布が薄く更に面積が少ない。目のやり場に困る。
「水の精霊」
「へ?」
サピスが淡々とそう言うと、サピスの周りにキラキラした水飛沫の様なものが集まっていく。
成程、水があるから水の精霊が居るのか。僕も水の精霊に集中してみた。
「風の精霊」
「おぉ~っ!」
サピスが見せてくれたのは、水の精霊と風の精霊の共演だ。
それらが小さな竜巻の様になって、見る見るプールを綺麗にしていく。
「凄ぉ~い。私も私もぉ~っ」
目ざとく見つけたチェリーを筆頭に次々と参加して、皆で水の精霊と風の精霊で遊んで居たら、あっと言う間にプールの清掃は終わってしまった。
今は、皆で日陰に座って水が溜まるのを待っている。水は、近くの川から引いているらしい。
ケアンズとかに、海の水を引き入れたプールが有るが、それと同じ様な物だろう。僕達の仕事は好評で、次回もお願いしたいとの事だったとカティが言っていた。
女の子達が作ってくれたお昼は、サンドイッチが主流でおにぎりは無かった。
後で知ったのだが、おにぎりと言う習慣は無いそうだ。米が無い訳ではなく、小麦が主流と言うことだった。
米はアルコール、つまりお酒を作る方に回される方が多いらしく、あまり主食には使われていないそうだ。
川から引いた水は塩素臭くなく、とても気持ちの良い物だった。少々冷たかったが、これは引いたばかりなので仕方ないらしい。
明日の昼頃には、太陽の光で水温が上がると言うことだった。
その日、色々と満喫して寮に帰った僕の部屋には、月詠が居た。