表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2話

「ちょっと待って、今奴らが奥の家から出てきた。…2…5…10?さっき確か5人位だったよね?何で増えてんの?」


 家から出てくる人数と先ほどの男たちの人数が合わない事に不思議そうに皆に問いかけるカリン。


「……向こう側から商人が来たか、仲間がパーティー内の仲間の所に行ける魔法を使って村に入り、そのまま中で行為に及んでいたか…どちらにしても早めに始末しないと駄目ですね。…シル?ココから魔矢で狙い撃てる?」


「任せなさい。…けど、防がれたら速射は厳しいわ。その時はお願いね?カリン」


「分かった。その時は僕が行くよ。僕はスピード系の近接専門だし、シルの撃ち漏らしを対処する位の事は出来る筈だから」


 二人の作戦会議が終わると、それぞれがスキルを発動する。


「…ハッ!」


 先ずはシルヴィアが、素晴らしい早撃ちを以って、左手に作った魔弓から右手で魔矢を引き絞り…放った。

 その矢は、放物線を描くことなく黒ずくめの男たちに向かい、最初の一本は一番前の男に命中する。

 その後、次々と矢は刺さり、一度の撃ち漏らしもすることなく男たちを屍の山にした。

 

「おお~、スゲエな…。皆一発で死んでるぞ…」

「…う…これがゲームとは思えない位の迫力ね」

「ねぇ、これってホントにゲームなのかな?あまりにもリアル過ぎない?」

「…確かにこれはリアルすぎるし、HPバーも、MPバーも、SPバーもない事とシステム関係の事を考えると、どっちともいえるが、一応ゲームと考えないと、帰れるって希望が無くなるぞ?」

「それってどういう事?」


 徹の言葉に反応したシルヴィアは、気になって徹に問いかける。


「だって、考えても見ろ。何かしらのシステムトラブルでログアウト出来ないって考えた方が辻褄は合うだろ?異世界やら、ゲームの世界にそのまま入ってきたなんて考えるより」

「…なるほど…」


 徹の慰めになるかどうか分からない意見に、少しだけ心が軽くなったシルヴィアは頷く。

 そして、比較的冷静な雪乃はこの後の事に考えを持って行く。


「まあ、考えても仕方ない事より、今の状況で考えられる事をしましょう。一応出てきた男たちは死にましたが、これがゲームの設定なら時間が経てば消えて無くなるはずです。しかし、問題はこの男たちが居ないことが奴隷商が来た時にどう影響するかです。なので、取りあえず家の中に入りましょう」

「ああ、そうしようか」


 そうして、4人で家の中へと入ったのだが、村長と思われる者は元より、先ほど連れて行かれた女性までも既に死んでいて、今まさに粒子と成って消えて行く所だった。


「これで、ゲームの可能性が一段と高まったが、そう言う世界があるって考えれば、未だ安心は出来ない。いずれにしても、俺たちは死なずにいるのが一番だ。例え蘇生の魔法やスキルが有っても、それが間に合わなかった場合はそのままこの世界で死ぬことになる可能性が高いからな」


 その場を冷静に見つめていた徹は、その光景を見て、より一層ここでは死ねないと思う事にした。


「そうですね。しかし、どうしましょうか?ココに奴隷商がいつ来るか村長に聞こうと思っていたのですが、聞けなくなりましたね」


「ああ、それなら俺調べるのに便利なスキルを持ってる。俺は言った通り、殆どのゲームをソロでやって来た事もあって、開発系から戦闘系の殆どのスキルを覚えてるんだ。…まあ、その代り魔法は一切覚えてないがな?だから、魔物やPKの死体から情報を取ったり、その場に残ってる痕跡から情報を読み取るスキルも取得してるんだ」


 雪乃の呟きに徹が応えると、カリンが余計なひと言を言った。


「へ~、案外使える人なんだ、徹さんって」

「案外は余計だ」


 ポカッ!

 案の定余計な一言を言ったカリンは徹の拳骨の餌食になった


「あたっ!うぅ~、雪~、徹さんがぶった~」

「はいはい、良い子良い子。けど、徹さんの言う通り、カリンも案外は余計よ?」


 雪乃の慰めて貰おうとした所での思わぬ裏切りに、今度は最後の希望にとシルヴィアを見る…が


「え!?味方だと思ってたら、いつの間にか敵に成ってた?!…シル~」


「諦めなさい。所詮女同士の友情より、異性との愛情の方が優先されるのよ」


 にべもなくそう言われて、ガックリ肩を落とし、項垂れながら


「……何か納得…」


 と言って納得する。


「さ、ココでの用は後は徹さんに情報を読み取って貰うだけだから、私達は周りの警戒をしましょう?」

「「は~い」」


 漫才を強引に終わらせ、雪乃が徹に調べ物をしてくれるように頼む。


「んじゃ、俺は早速調べるかな?…(サイコメトリ)」


 村長の着ていた服に手を置き、スキルを使用する。すると、次第に村長の過去1週間の行動が頭に映し出される。そこで見た物は、村ぐるみの奴隷密売組織の裏側だった。

 

(…、これは何ともまあ…。んじゃ、あそこにいた他の奴も、何処かから連れ去られてきた被害者で、ここはさしずめ最後の中継地点ってとこか?そんでもって、奴隷商は…!明日?明後日じゃないのか?…何処かで情報がすれ違ってんのか?だが、それにしてもこの村長まで女性を襲おうと争いになったのが村長まで死んでる原因か…。女性が殺されたのは、抵抗されてか、壊れて飽きたかだと思うが。まあ、そんな事は今は良いか。取りあえずは町の情報を取るか…よし。近いな。ここからならそれ程遠くない。服もあの黒ずくめの男たちの服を怪しまれない程度に破いて服にして、他の余ったのはアイテムボックスに入れて町で加工すれば何とか成るだろ)


 そこまで読み取って考えた後、皆に服を持って来て貰おうと周りを見ると


「…如何した?」

「どうやら囲まれたみたいです。そして、中央の小太りの男がどうやら奴隷商で、さっきの場所に居た人達も、何人か見えます」


 徹の質問に雪乃が応える。


「…奴隷商は何人?」

「全部で大凡50人ってとこかな?この家をぐるっと囲んでるよ。家の見晴らし台から丸見えだ」

「……じゃあ、今回は全員で行こうか?俺は正面を担当するから、皆はそれぞれ攻撃範囲ないの敵を一掃して?」

「人質は?」


 このカリンの言葉に


「自分らの命が優先。余裕があるなら回収って感じで。もし盾に取られたら、惨いかも知れないけど、先ず人質から始末して、邪魔が無くなった所で敵を殲滅」

「「「了解」」」

「…じゃ、行くぞ」


 そう言うと徹はスキル【俊足】を発動し、奴隷商の正面に躍り出た。そして、まず大将の首を取ろうとしたが…


「そうは行くか!」


 ブン!っという風切り音と共に、徹の攻撃を妨害した。そして、妨害した本人は立派な片手剣を肩に担いでニヤツキながら徹を見ている。


(こいつ、さっきの速度に着いて来れたって事か?…なら…)


「(瞬足)」


 今度は俊足の三段階上の速度のスキルで、先ず周りの奴隷商から首をへし折り、心臓を手刀で突き刺し、殺して行く。


「おいおい、今のスピードは俺様にも見えなかったぞ?…旦那、コイツは俺には分が悪い。なんで俺はここで引くぜ?代金は貰ってる分で良いから、じゃあな?」

「おい!それは契約違反だぞ!?最後までキチンと護衛せんか!」


 周りにいた奴隷商が、残り5人まで減った所で、護衛と雇い主が喧嘩を始めた。


「ちょっーと待てや、兄ちゃん。このお姫様がどうなっての良いのか?」


 喧嘩を始めた奴らの横で、女の子に刃物を突き付けてる護衛の様な奴が徹を脅してきた。

 全く意味のない脅しで。


「…誰だ?その子」

「た、助けてください!私はこの国の国王の娘です。理由あってお城から出ていた所をこいつ等に連れて来られたんです。お礼はします。お願いします!」


 その懇願を聞いてよく見ると、確かに先ほど奴隷の印を押されていた女の子だった。

 青髪に赤眼の少しおっとり系の見た目だが、横で刃物を突きつけられている様で、頻りに横を見ながら怯えている。


(う~ん、これはゲームでいう処のNPCか?それともお姫様プレイか?そもそもこの世界で国の概念は有るのか?これは助けるってより、この子を最後に残すって感じの方が良いな)


 そんな風に思っていたのだが、向こうは徹が考えて居るのを助けようとしていると思ったようで、顔をニタッとさせながら、アホな要求をしてきた。


「此奴を返して欲しかったら、あっちで応戦してる女共を大人しくさせて言う通りにしろ、そいつらと引き換えでこのお姫様を返してやる!…さあ、どうする!?さっさと決めろ!」

「んじゃ、お前らをその姫さん共々皆殺しって事で」

「……へ?」


 どうやら想像してなかった返答に、男たちは元より、お姫様も目が点に成っている。

 しかし、そんな事お構いなしに、徹は皆殺しの理由を説明する。


「へ?じゃねえよ。お前らは知ってるのかも知れんが、俺はそのお姫さん?とは面識も何もないんだ。本当に姫さんかどうかも分からん。しかも、仮に本当に姫さんだとしても、護られる事のできるお城を出た時点で攫われる覚悟はしてないとおかしいだろ?それで、攫われれば奴隷ってのが普通なら、それは自業自得ってもんだ。そんな奴の代わりに、俺の仲間を差し出すなんて事を誰がするってんだ?…以上。んじゃ、皆殺しって事で、一応俺から殺すことは無いけど、護る事もしない。ってことで助かりたかったら死なない様にしてて?お姫様?」


 徹はお姫様にそう忠告すると、再びスキルを行使する


「(氷結眼)」


 そう徹が念じると、徹の視界に入った者が次々粉々に成り、消えて行った。


「な!」

「貴様、一体何をした?!」


 そうして、残ったのは二人。

 最初に徹の攻撃を妨害した奴は既に何処かへ消えていた。

 そして、お姫様と、それに刃物を突き付けている男のみが残った。

 そうしている内に、雪乃達の方も片付いたようで、徹の所に集まってきた。

 そして、その場の状況を眺めて雪乃が一言


「…随分可愛らしい方ですが、丸め込まれましたか?私たちよりそっちの方が好みなんでしょうか?


 物凄く毒の籠った一言に、辺りの温度が2~3度下がった感じがした3人。


「いや、俺はどうでも良いんだが、今使ったスキルは、単体向けの奴でな?大人数は時間が掛かるんだ」

「なら、私がやってあげます。(操氷)(アイス)」

「…ぎゃー!!お…俺の腕がーーー!!」


 突然雪乃が目を瞑ったと思ったら、お姫様を拘束していた刃物が突然持ち手から凍り付き、そこから氷が移動して、その拍子に腕が割れると言った物凄い光景が作り出された。

 しかし、それを作りだした本人は無表情。…否、少しお姫様の方を睨んでいた。


「畜生!こうなったら全員ここで道連れだ!出でよ≪アラクイナ≫俺の右目と引き換えに、こいつ等を喰い尽くせ!」

「は?!それって禁忌の召喚魔法じゃない!誰に教わったのよ!」

「誰でも良いだろうが!お前らはココで死ぬんだからな!」


(お姫様の口調も変わったから、あれが地だって事は、ゲームだとすれば一気にプレイヤーの可能性がたかまったな。けど、男の方は完全にイベントキャラだな。自分で目を犠牲にしてまでやる召喚魔法なんて聞いた事が無い)


 徹が考えている間も、召喚魔法は進み、男の右目は現れたドラゴンに食われて、男はそのまま痛みを堪えつつ逃げて行った。

 しかし、ここで男の運が悪かったのは、シルヴィアが逃げるのを見逃さなかったこと。


「あ、逃げてる奴はっけーん♪…逝っちゃえ♪」


 いかにも楽しそうと言った感じのシルヴィアの魔矢に貫かれ、男はアッサリ絶命した。


「…アイツが死んだのは良いが、コイツを抑える手綱が無くなったな。俺の記憶通りなら、コイツは本来召喚魔法レベル95で召喚できる最上級ドラゴンだ。奴の様にレベルが低い奴は代償召喚でしか呼べないが、本来の強さはそれ位って事だ。…お前らのスキル及び魔法の最高値のレベルは?」


「私の火炎魔法のレベル50ですね。しかし…」

「ああ、このドラゴンの属性は火と雷と風だ。1つは同じ属性だが、レベルが劣る分、相殺されて終わりだろう…」


 徹の質問に雪乃が応え、それを更に徹が却下する。


「……じゃあ、ここは俺がやるしかないか…。本当はやりたくなかったんだが…」

「何をするのか知りませんが、早くしないと食事が終わりますよ?それに、対抗手段があるなら、やった方が良いと思いますが?」


 雪乃のもっともな考えに頷き、徹は仕方なくほぼ封印していたスキルを使う事にする。

 このスキルは周りに味方が居らず、敵と引き分けで倒せてもイベントクリアとなる特殊イベントにしか使ったことの無いスキル。

 謂わば自爆スキルだ。何せ、使った後1時間は身動きとれず、スキルも魔法も使えないのだから。しかし、その効果は絶大。使えば半径100メートルのフィールドが吹き飛ぶ。

 しかも、その速度は広がりきるまで大凡30秒。

 マラソン選手なら良いだろうが、装備を付けた者にはかなりギリギリな時間帯だ。

 しかし、このままではこのドラゴンの餌食。

 やるしかない。


「…だな。じゃあ、やるか。皆今から俺がスキルを発動したら、俺を抱えて即行で逃げてくれ。少なくても半径100メートルは消し飛ぶから。カリンと雪乃で抱えてくれて。シルヴィアがそこいらの落ちてる奴隷商の服を片っ端から拾ってアイテムスロットに入れてくれ」

「……!分かりました。カリン?徹さんの横に来て、抱える準備をして?徹さんがスキルを発動したらすぐ行きますよ?シルは言われた通り直ぐ拾って来て?」

「分かったわ」

「分かった」

「…え…私は如何したら?」

「貴女は勝手に逃げてください。邪魔です」


 お姫様の質問に、にべもなく突き放す雪乃。

 まあ、仕方ないだろう。この女が居なければもしかしたらこのような事態には成っていないかも知れないのだ。

 

 そして、いつの間にか服を拾いに行っていたシルヴィアが合図して来る。


「こっちも全部拾ったわよ~!?」

「じゃあ、行くぞ?…【邪神の眼】≪破壊フィールド=カタストロフ≫!!」

 そのスキル発動後、徹の全身の力は抜け、それに伴い意識も薄れて行った……。

 


 









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ