1話
(ん…?ココは何処だ?俺は一体ここで何をしているんだ?確か塔を登って行くタイプのVRMMOのARPGをネットで見つけて遊んでいた筈だが…。)
男、神谷徹は目覚めたばかりで定まらない視界と、ベッドで寝ていた筈なのに痛みを訴える体に耐えながら先ずは自分の体の状態を見る。何故か手足はチャチイ縄で結んでいるにも関わらず、力を篭められない不思議な縄で縛られ、草原の草の上に寝転がされていた。
そして、次に周りを見る。
辺りは薄暗く、松明の様な灯りのみが照らし出す光で覆われ、その中心に自分を含めて10人の拘束されている男女が居た。皆総じて若く、男衆は徹以外筋骨隆々で下は布切れ一枚の状態で放置され、女衆も上下とも簡素な布切れのセットの状態で一列に座らされていた。
それにしても、男衆は兎も角、女性陣は皆一様に美形ばかりだ。しかもこんな小さな集落では畑仕事等しか仕事が無いと思うのだが、徹の見た限り、半数は色白で外で仕事したことが無いような程だ。
しかも、一人日本人的な容姿のモデルでも見たことが無い位の美貌の少女と、二人ほど欧米人特有の彫の深い顔のモデル並みの美しさと可愛らしさが同居した少女が居た。
髪も同様で、日本人的な黒髪黒目と、欧米人風な銀髪緑眼と、金髪碧眼の3人。
他にも青髪に赤眼の釣り目がちの少女やら多種多様だが、全ての女性が全身黒ずくめの外套を被った者たちに布の服を少し捲って体をチェックされていた。
しかし、ここは本当に一体どこなのであろうか。徹の記憶にこのような村の記憶は何処かの山奥にしか記憶にない。そこでも少しは道が舗装されていた筈だが、ここは見渡す限りに草原に十数軒ほどの家が有って、それが村と言える位の集落に成っているのみだ。
そして、極めつけは近くにいるらしい獣の群れの唸り声。
あれはどう見ても獲物を待ちわびる餓えた獣の声だ。
そして、それが目に見える所まで近づいた時、黒づくめの集団が不意に徹の横にいた青年の腕を掴み、足の縄だけを模様の付いた刃物を触れさせ、切り裂いて立ち上がらせると、何をしたのか分からないが、勝手に青年が動き出した…獣の群れに向かって。
すると…
「ひっ!ま、待ってくれ!俺には家族が…あああああ!!!」
そう叫びながら青年は手を縛られたそのままの状態で獣の群れに突っ込み、後には獣が肉を咀嚼する音と、骨を噛み砕く音が辺りに響いた。
(や、ヤバくないか?この状況。これってヘタしたら俺もさっきの奴の二の舞になるんじゃないのか?)
徹はそう考えたが、答えは出ない。しかし、その答えを教えてくれる者が現れた。勿論黒ずくめだが…。
「お前たち、見ての通りだ。逆らえば容赦なくアイツらの餌だ。そして、今ここにいる奴は皆奴隷として登塔都市エデリックの奴隷市場に売りに出す。男共は戦力として、女共は戦力、娼婦の両方で買い手が見つかるだろう。幸いどいつも男好きのする顔ばかりだからな、商品としては極上だ。……移動は明後日の昼に奴隷商が来る手はずになってるから、それまでは自由だ。…まあ、自由って言っても何も出来ないだろうがな?俺らは村長の家でいて、順番に見張りに来るから何処へ逃げようとも無駄だぞ?精々これからの事を考えて体力の低下を防いでおく事だな。…じゃあな?……おい!こいつ等の見張りに一人残って、後は明後日の打ち合わせだ。それと、そこでさっきから睨んでる女を連れて行くぞ!」
「ヘイ!」
そうして、黒ずくめが女性を連れて村に入った所で、徹はもしかしたらゲームの途中だから、ゲーム世界にいるのかと思い、システムメニューを開こうとしたが…
(?開かないぞ?やはり現実か?もし、寝る前にやってたゲームの世界だったとしたらと思ったんだが…!もしかして音声認識型か?しかし、俺はそんなゲームもってなかったし、やってなかった筈だが…)
そう思いながらも、僅かな希望でそのシステムに縋り付くようにキーワードを呟く。
「…システムオープン」
(お!開いた!…しかし、ゲーム世界みたいな筈なのにログアウトがないし、案の定脳波識別システムがオフに成ってやがる)
「脳波識別オン」
(よし、これで色々と見れるな。…大体の構成は俺がやってたゲームの物に酷似してるな。しかもスキルが俺のやってた物がある程度はそのまま残ってるし。げぇ、武器も防具も、アイテムもないぞ?…HPもMPもSPも無い?って事はやはり現実って事か?…?さっきからこっち見てるが?どうしたんだ?もしかしてこの状態で来いってか?)
見れば黒髪の少女が徹を見てコクコクと頷いていた。
少し迷ったが、取りあえず少女の傍まで行くと言う結論に達した徹は先ず見張りを如何にかしないと行けないので、その作戦を練る。幸いというか、徹のスキルはソロプレイを主にやっていたので、使えるスキルは豊富だ。少し遠いが見張りは殆ど見張りの意味を成さない様にうつらうつらしているので、少し脳を揺さぶる眼力を使えば簡単だろう。
(…一応どのくらい使えるのか分からんから、一番簡単な奴で行くか)
そう判断し、この世界で恐らく初めてスキルを行使する
「(水出眼)」
そして、スキルは問題なく行使でき、頭の痛みも何もない。
そして、肝心の見張りは、恐らく脳内に溜まった水の影響で脳梗塞を起こして直に死ぬだろう。
その後、今度は少女を驚かせない様にスキルを使わずに、ミノムシの様に地面を這いながら、何とか座っている少女のすぐ傍まで辿り着いた。そこまで来ると流石に色々と見ることが出来る。黒髪の少女は穏やかな眼差しの中に光が宿った勝気な美少女だ。背は今は座っているから分からないが、160有る無しだったろうか?胸の凹凸は少々少ないようだが、整った顔立ちは十分に男の欲望を刺激する様な、なるほど男が好きそうな顔だ。そんな感じで観察していると、如何も機嫌が悪くなって来た感じなので、一応聞いてみた。
「来たが…良いのか?丸見えだぞ?」
「…散々見ていて、今更ですか…。まあ、今はそんな事に気を遣ってる場合じゃありません。それで、質問ですが、貴方は地球人ですか?」
(なに!?それじゃ、こいつ等はやっぱり地球人でプレイヤーなのか?どうりで顔がそう言う系統の顔だと思った。まあ、特別綺麗なって注釈が付くが)
そう思ってみる徹だが、どうやら少女たちは徹の驚きを違う意味で受け取ったらしく
「その様子では私と同じような結論で、アイテムボックスやステータスを探したが、見あたら無かった用ですね。まあ、あまり期待していませんでしたが。…それでは、キーワードを発するタイプではどうです?」
「ああ、その音声認識の奴なら問題なく使えて、今は脳波認識もオンに出来て、それで色々と見てた所だ」
「…貴方もゲーマーの様ですね。…私は生憎最初に、住む場所と親の影響で音声認識をオフにせざるを得なかったので、このシステムが使えませんでした。どうやら意図的にオフにしていた者はシステムメニューが開けない状態のようです。その事は私の隣にいる彼女たちも同じだったようでどうする事も出来ませんでした。私達、同じギルドの友達で、海外の友達ばかりで一度集まろうって話になって、そのまま朝に成って同時に同じゲームにログインしたら、気付けばこの世界に来ていたんです。初期装備にされた状態で。そのすぐ後に奴らがこの最初の村に来て、着ていた服を全て脱がされ、今の服に着替えさせられて、夜の今までこの状態です。幸いこのゲームの時間設定は現実時間の一時間が、このゲームの一日なので、トイレとかの心配はしてませんが、それでもこのままだといずれ現実が如何にか成ります。その前に如何にかして現実に戻らないと…」
「それで、どうやら雪と同じ日本人っぽい君に協力して貰おうって話なの。…どう?もし何とか出来たら現実世界に戻るまでの間はハーレムになるわよ?しかも、こんな美少女トリオにあんなことやこんな事をして貰える機会って滅多に無いわよ?」
「それに、もし現実世界に戻れたら、それはそれでヒーローになれる可能性が大だよ?なんたって、僕ら3人それぞれとある大企業の令嬢だから。タップリお礼も出来るしね?」
どうやら、彼女たちも知らない間にこの世界に来てしまっていたようだ。しかも、半ば今の状況を受け入れて、自分の体を代償に何とか元の世界に戻ろうと思っているようだ。…戻れたらのはなしだが。
「まあ、色々話もあるだろうが、俺はどのゲームもソロでやっていたんでパーティー設定が分からんから、やり方を教えてくれ。その後、俺の予想通りならパーティーリーダーと同じシステム設定に出来る筈だから、お前らもスキル確認とか出来るだろ」
「そうですね。では、早速パーティーに入れてください。やり方はパーティーの項目を選んで、設定人数を設定すれば、後は一人ずつ視界に顔を映すだけです」
「分かった」
説明を受けた徹は言われた様にパーティーの項目が有ったので、その中の人数の項目を先ず3人で設定する。
その後、一人ずつ顔を見る形のリーディング設定だったので、先ずは目の前の雪に合わせて
(お、ホントだ。しかも、キチンと顔を映しただけなのに全体像で映ってる)
そして、パーティーに入れるを選ぶと、さっきはアイコン程の全体像だったのが、今度は目の前のパネルにパーティー名簿が現れ、今の姿の雪が全体像で現れる。ご丁寧に体の状態付きで。そして、ここで漸く本名が判明。どうやら綾小路雪乃と言うらしい。
そして、パネルの筈なのに余りの綺麗さに思わず見とれていると、雪乃が体を折って徹の耳元で囁くように
「余り見ないでください。凄く恥ずかしいんですから。それに、カリンが言ったように、お礼はたっぷりしますから、今は他の2人をパーティーに入れて態勢を整えましょう」
(?確かに油断している奴らが何かの拍子見張りの異常に気付いてにこちらに来ないとも限らない。早めにするに越した事はないな)
そんなことを思いながら、次に金髪の如何にも悪戯っ子と言った感じの少女だ。
これもさっきと同じように合わせ
「(パーティーに入れる)」
そして、「入れる」、「入れない」の項目が出るので
「(入れる)」
こうして、またしても目の前にパーティー表示になった金髪碧眼の少女の全体像が表示される。
そして、この子はシルヴィア・レノンと言うようだ。
更に、もう一度残りの一人の銀髪緑眼の少女を視界に収め、先ほどと同じ手順でパーティーに入れる。
この子はカリン・バーミリオンだった。
こうして3人の少女が一つの徹のパーティーに入った所で、一つのクランとしての誕生が決定した。
「次に私たちのメニュー表示ですね。…徹さん?でいいんでしょうか?」
「ああ」
「では、徹さん。パーティーメニューにパーティーメンバーのシステム表示機能という項目がある筈です。その表示をオールにしてください。そうすれば、さっき徹さんが言ったように、徹さんのパーティーシステムメニュー設定をパーティーメンバーが同様に活用できるようになります。」
「おう、…これか。(オール)」
「…ありがとうございます。…まあ、有りえませんが、もし私たちが徹さんを裏切る様な事になったら、その設定を変えるなり、パーティーから外すなりすれば、私達にメニューを使う事が出来なくなりますから、脅しには丁度いいでしょう?」
ニッコリと笑って凄い可能性を提示指摘来た雪乃だが考えてみれば彼女たちも相当な駆け引きの筈だ。
もし、俺が言う事を聞かずに、メニュー画面のみ出来るようになった状態で一人いなくなれば、後に残る彼女たちはどう足掻いても奴隷商に売られて男共の慰み者の末路しかない。それに比べれば、情報を小出しにしながら、現実への希望を持たせまま、自分たちの安全も図れる俺を操る立場にいる事が何かといいのだろう。
それから、三人は己のステータスを見る。
「それではアイテムで着る物を…な!?あ、あれ?アイテムが無くなってる!?レベル…はこのゲームに無いみたいですね。魔法とスキルは…これは無事でしたね。これが使用不能だったら如何にも出来ない所でした。しかし、このステータスだと、私達がやっていた魔法とスキルのレベルのみを上げるゲームとやはり同じようですねシステム自体が知っている物と酷似してますから、そうだとは思いましたが、しかし、HPバーや、MPバーが無いって事は、考えたくないですが、異世界の可能性も考慮に入れないといけませんね…」
どうやら雪乃も徹と同じ状態の様だ。
「ああ、それは俺も確認した」
「では、皆も一応確認しましょうか?」
「うん。…僕は異常なし。何もないって事ね?」
「同じく…」
雪乃達の申告によって状態も分かったが、そろそろ見張りが交代を告げに来ない事に不審を抱く頃だ。
「…まあ、皆の装備が無いのは諦めるとして、そろそろどうやってあいつ等を始末するか考えないとな?」
「ええ、かっこよく言ってくれている徹さんには申し訳ないですが、私の正面に寝転がってマジマジ見ながら言ってくれても、如何にも締まりませんから」
徹が言った後に、ため息を吐きながら雪乃が言った。
その事にカリンもシルヴィアも「エッチだね」や「このスケベ」など言っている。
「じゃあ、先ずこの縄から斬りましょうか。この中のスキルが本当に使えるか確認もしないといけませんし」
雪乃はそう言うと一旦目を閉じて「(ファイア)(操火)」と頭の中で唱えると、次に目を開けた時には皆の縄は焼き切れていた。
「あれ?どうやったの?!」
余りの事にカリンが聞くと、雪乃は「フフフ」と上品に微笑みながら
「この間新しいスキルが何個か使えるようになったって言ったでしょ?その中に操火という物があるの。それと、魔法のファイアを組み合わせて皆の縄を焼き切ったのよ」
「へ~、なんだか便利そうなスキルだね。…じゃあ、早速村に行って奴らを始末しちゃおう?徹さんも、シッカリ雪の大事なとこ眺められたでしょ?続きはこれが終わった後で皆でサービスして上げるから、早くいこ?」
「…分かった」
(そこまで俺って顔に出てるのか?確かに綺麗な体で、もっと見ていたいと思ったが)
「心配しなくても、雪の体が綺麗で、見惚れる位なのは同性の私たちが認めるわよ。体つきは華奢なのに、全体の美しさで海外のモデルにもしょっちゅう推薦されていたしね?」
(ほ~、それ程か…)
「もう…そんな事はここでは良いでしょう?さっさと行きましょう?」
そうして、全員が立ち上がって、村の入り口に向かった所で、丁度様子を見に来た黒ずくめと交戦になったのだった。
そして、その時他の捕まっていた者達は、皆何処かへと隠れ、その場には一見誰もいなくなっていた。