蓮/虚像-3
物語が進まない。
こんにちは。前世は24歳という若さで死んだ、現世は17歳の花屋の娘、エレンです。
昨日、孤児院へ行けなかったので、今日は花売りのついでに向かいます。
お詫びにもならないと思いますが、持て来てる花は全て差し上げようかと。売り上げは、私のへそくりから出しましょう。私が陰ながらこつこつと貯めてきたお金です。それなら、母も文句ないでしょう。
「よっと」
それにしても、ロイザさんから戴いたぬいぐるみ、要求した私が言うのはなんですが、凄くかさばります。
でかい。一個一個が、私の上半身くらい有るとはどういうことでしょうか。持ち上げるのも至難の技です。端から見たら、私はとても愉快な状態だと思います。
腕に、花が入った篭を掛け、両手にぬいぐるみを持って、その間にぬいぐるみを挟んでいます。さらに、その上には三角形を描くように、2個1個と重なっていて、目の前なんて見えません。本当に愉快な格好ですよ、えぇ。
くまのぬいぐるみが全部でかいので更に酷くなっているでしょう。
………ロイザさん、これは嫌がらせですか。もしかして、私のこと嫌いだったりします?
あぁ、横目で周りを見れば、そこらじゅうにカップルが。いま春でしたっけ?
……今日売れば一儲けできたのに。
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えっちらおっちらと、ぬいぐるみが崩れないように歩きます。
あと少しで孤児院に着きますかね? 前が見えないので、よく分かりません。なぜ道程が分かるかは、身体が覚えているので余裕ですよ。………すみません、ぶっちゃけ勘です。
「エレンねーちゃーん!」
「ぅぐっ」
腹に衝撃が……、こいつっ。
手に持っている、ぬいぐるみが、目に入らない、のですかっ。落としたらどうするんだ、このぬいぐるみはパッと見ただけで高いと解ると思うのですが。
「エレンねーちゃん。なんで、きのうこなかったのぉ?」
「そーだよ! 院長先生が心配してた!」
「ぬいぐるみおばけー」
「エレンに、ぬいぐるみとか似っ合わねー。ぷっ」
「………よく私だと気付きましたね」
とりあえず、笑った奴にはデコピンをプレゼントしましょう。あら、悶絶して涙目になるくらい嬉しいですか? そんなに悦んでくれるなんて、プレゼントして良かったです。
「それで、院長先生は何処ですか?」
私を迎えに来てくれた子達に、ぬいぐるみを押し付けて、周りを見渡します。あの心配性の院長先生がいないなんて珍しい。
「院長先生はお留守番。それよりエレン姉さん、この巨大なぬいぐるみの大群はなに」
「前にあげると約束した、クマのぬいぐるみです。ロイザさんから戴いたものですけど」
「………その人、貴族でしょ」
「……よく分かりましたね」
アガーサ、流石です。相変わらず賢い。孤児の中で最年長な貴女がいれば、院長先生がいなくても大丈夫ですね。院長先生が留守番している意味を理解しました。
「あ、そうだ」
「え?」
はい、篭の中の花を一輪、彼女の耳の上に挿してあげましょう。うん、綺麗。やっばり、アガーサの黒髪には白い花が一番映えます。
「いいなー、アガーサ姉さんだけずるいー!」
「ずるいぞー!」
お前ら……元気が良いですね。……なんだろ、この純粋な笑顔を見ていると、自分がとても穢れた存在に思えてならないのですが。まぁ、私は綺麗ではないですけれど。再確認、してしまいますね、はい。
「え、エレン姉さん! この花は……!」
「綺麗でしょう?」
「綺麗だけど……っ」
「きれーい!」
「お花!」
可愛らしいバックコーラスをありがとうございます、おちびさん達。
アガーサ、言いたいことは分かりますが、空気を読みなさい、空気を。そして、そのまま流してください。
「ほら、早くいきましょう?」
院長先生が、首を長くして待っている筈ですし。あの人、変なところで寂しがりやですからね。
この後は、先生に挨拶して、子供達と遊んでさよならですね。
明日、筋肉痛になりますね、絶対。
エレンの回りが平和すぎて、話が進まない罠。
次こそ本気出す(ぇ