ユーカリ/新生
意外と難産でした。
エレンの思考と日常。
私が産まれたのは、ごく普通の平民の家でした。
両親は2人して花屋を営んでいます。
決して裕福ではなく、むしろギリギリな生活ですが、幸せ、だと思います。
母は、おおらかな性格をしており、少し気の強い方で、父を尻に敷いてます。この前、本当に敷いているのを見てしまいました。記憶から抹消したいです。
父は、真面目な性格ですが、少し気が弱いというかなんというか。無性に同族意識がします。気が弱いせいか、母の尻に敷かれています。この前、本当に尻に敷かれていたのを見てしまいました。何故でしょう、心の汗が止まりませんでした。記憶を抹消したいです。
私は、どうやら容姿は母似で、性格は父似だそうです。
……なんでしょう、素直に喜べません。
今は亡き敬愛する姫様、私は元気にしております。
姫様のいらっしゃるそちらには、まだ行けそうにありません。姫様が安らかに眠っていられるよう………って寒っ。
母さん、毛布下さい。毛布。
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「花はいりませんかー」
いきなりですが只今、街の大通りで花売りをしています。
母が言うには、人手は足りているとのこと。朗らかに笑いながら「花を売ってくるついでに、良い人を見つけてきな」と、半ば追い出す形で外に出されました。
酷いです。私、男性の方はあまり興味無いのですが。だって元男だし。
もし、男の人だぁいすき! だったら、精神に異常をきたしているか、ノンケではない方だと思います、はい。
女性の身体になってから、もう17年経ちます。いい加減、女性の方へ思考を引っ張られるだろうと普通は思うでしょう。私もそう思っていた時期がありました。
まぁ、結論から言いますと、多少は思考が女性的になりました。17年も経ちましたからね。スカートを履くなんて余裕ですよ。料理だって出来るようになりました。楽勝です、えぇ。
しかし、しかしですよ? これとそれとは違うのです。
私が死ぬ前は、24年間男として生きていました。女性に産まれて17年ですが、それは身体の年齢であり、私がエレンとして生きた年数ではありません。約10年ちょっとです。私の中では、未だに男性としての部分が多いのです。
だからといって女性が好き、という訳ではありませんが。だって今女だし。
「花はいりませんかー。1本10センですよー」
ぼーっとしているのもあれなので、道を行く人々に声を掛けていきます。あ、2本ですね? ありがとうございます。
良い人探しなんてしませんよ。というか、母は私に何を求めているのでしょう? 結婚してほしいのでしょうか。そういえばこの前、父に孫が見たいとぼやいていたような……。母よ、諦めてください。私は一生独身を貫くと決めました。ごめんなさい、と心の中で謝っておきます。
「………っ」
なんでしょう? なんか悪寒がします。いつもは、今は亡き姫様のことを思うとするのに。珍しいです。震えが止まらないのですが。
花を売るの止めて、家に帰っていいですか。
「ただいま帰りました」
「あぁ、お帰り。今日は早かったねぇ」
母が、いつもより早く帰ってきた私に、目を丸くしています。
すみません、震えが止まらなくて商売にならないので帰ってきました。無理です。なんか昔より酷くなってます。毛布下さい、毛布。
「また悪寒かい? 心配だねぇ…。医者に見てもらっさほうが」
「無理です。経済的に無理です。きっと医者にも分からないと思いますよ、えぇ」
そうかい? と言って、とても心配そうにしている母。心配よりも毛布を下さい、今すぐに。
姫様、どうしましょう。私、もしかしたら近いうちに姫様のところへ逝くかもしれません。
エレンの母は、肉食系女子。
プロポーズは彼女から。
エレンの父は、草食系男子。
プロポーズされました。
※1セン=5円くらい