薇/幻想
短いです。
夢とは、いずれ醒めるものだ。
「お義兄様、起きて下さい」
少女は、昼過ぎにもかかわらず、ベッドの上で惰眠を貪る義兄へと声をかける。
もはや、日課になった仕事を、彼女は機械的にこなす。
「起きて下さい」
彼女は声をかける。
しかし、声をかけるだけで、けして義兄には触れようとしなかった。それは、彼女の仕事には含まれていなかったから。
彼女はただ、機械的に己の仕事をこなす。
「お義兄様。本日、約5年振りにロイザ様が本邸にお戻りになりました」
「……ぅん…?」
「只今、出掛けておりますが、夕方頃お戻りになるそうです」
「……夕…方…?」
「その後、食事をとり帰るそうです」
「……ジェーラ…」
「遅うございます、お義兄様」
「……本邸に、誰が、いるの?」
「ロイザ様にございます」
少女――ジェーラはそう言い、恭しく膝をつく。その姿は正しく騎士のそれであった。
「そう、ロイザが戻ってきたの」
先程まで、ベッドの上で惰眠を貪っていた主は、片目を擦りながら起き上がった。
「お義兄様、眼が傷付きます」
「別にどうでもいいよ。……それにしても、ロイザがねぇ」
「お召し物を」
「ん。……今更、我が片割れは何しに戻ったんだか」
「5年振りの再会ですね」
「………君が此処に来て6年目か」
「そうですね。ロイザ様は、私が来た1年後に出ていかれましたから」
義兄は、ふぅ、と息を吐いた。今日は最高に気分が悪い。全てを投げ出したくなった。
そんな義兄を気にせず、ジェーラは「朝食を用意します」と部屋を出ていこうとする。サラリと、襟足で整えられた黒髪が揺れた。
「ジェーラ」
「何でしょう?」
「君の黒髪は、綺麗だね」
「………ありがとう、ございます」
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夢は醒めるものだ。
幸せなど、最初から無かったのに。
私は幻想を抱き、縋った。
いつかそれは、私と貴方を殺すのだろう。
それでも私は、夢を、見たかった。
エレン視点じゃなかったらサクサク進む。どゆこと。