ベラドンナ・リリー/沈黙
ある騎士達の会話。
魔物討伐部隊隊長、ハザークは不機嫌だった。
机の上に並ぶ書類の山を、自身の持つ最大級の炎系魔法で焼き払いたいと思うくらいに、彼は不機嫌だった。
「隊長ー」
「なんだ」
「事件発生でーす」
「なんだ」
「間抜けな大人が行方不明でーす」
「またか」
「今回は一気に7人が居なくなりましたー」
「そうか」
「これで被害者は23人ですよー」
「そうか」
「何処行ったんでしょーね。これ、異常ですよー」
「しらん」
「しかも、みーんな大人ですよー。子供は気持ち悪いほど被害無しでーす。なんででしょー?」
「しらん」
生意気な喋り方をする副官、毎日のように起こる全く進展しない誘拐事件に、それに比例して大きくなる書類の山。彼のフラストレーションは溜まる一方だった。
「なぁ、ディラン」
「何ですか隊長ー」
ハザークは生意気な副官の名前を呼ぶ。呼ばれた副官は、私は仕事してますよーと、一生懸命にペンを書類に走らせている。実際はバレバレな演技だ。一定方向にしか腕を動かしていないので、ペンの下の書類が悲惨なことになっているだろうと、ハザークは眉をひそめた。
「私達は、魔物討伐部隊だよな」
「そうですねー」
「魔物を討伐することが仕事だよな」
「そうですねー」
「では何故、私達は誘拐事件の書類をさばいているんだ」
「知りませーん」
「そして何故、私達の仕事である魔物討伐を、貴族のお坊っちゃん方が行っているんだ」
「俺に貴族の考えている事が分かるわけないじゃないですかー」
「貴族様の優雅なお遊びってやつか」
「そういうことでーす」
やっぱり、貴族は好かないし苦手だ。ハザークはそう思う。
何故こうも、自由な奴等ばかりなのか。おかげで、一番危険であり暇な魔物討伐部隊は、一番安全で忙しい書類仕事に明け暮れている。
「何故貴族はこうも……」
「あ、隊長ー。騎士団長もここ最近見掛けませんねー、行方不明のリストに入れていいですかー?」
「あー、団長は入れなくていい。あの人はこの騎士団の中で一番自由な人だからな。ふらっと居なくなるのは何時ものことだ」
「そーでしたー」
「………ディラン」
「何ですか隊長ー」
「お前はその紙に恨みでもあるのか」
「あ」
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□月▽日より、城下■区にあるパン屋の■■■■が行方不明。
騎士団はこれを誘拐事件として捜査を開始。
□月▲日より、城下■区にある鍛冶屋の弟子■■■が行方不明。
騎士団はこれを誘拐事件として捜査を開始。
□月○日より、城下■区の………
《以下省略》
………が行方不明。
騎士団はこれを誘拐事件として捜査を開始。
以上の事件を全て同一犯と断定し、騎士団は捜査を開始。
○月▲日現在、発見者は0。
騎士達、動かしやすい。
エレンがとても動かしにくいことに気付いたorz