[閑話]毒芹/汝は私を死せしむ
残酷表現が出ますので、お気をつけ下さい。
ある少女の追憶。
とても、大切になった弟がいた。
とても、大切な弟がいた。
とても、大切だった弟がいた。
もう、ずっとずっと昔のはなし。
確かにあの子は、私の"大切"だった。
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人は死んだら、何処へ逝くのだろう。
「いや、いやぁあっ、やだ、やだやだやだぁああ! 死にたくなぁぃぃぃっ」
昨日まで、手を取ってお互いを慰め合い、時には抱きしめあって共に寝ることもあった"彼女"が、私を殺そうとナイフを振り上げる。
"彼女"は私の大切で、
"彼女"は私の唯一で、
"彼女"は私の世界だった。
"彼女"が振り上げたナイフを、私は身体を捻り避ける。そのまま、捻った時についた回転を利用して"彼女"の背に回り、持っていた剣を首筋に当て、一気に裂いた。
剣を持っているのにも関わらず、ダイレクトに伝わってくる肉の感触に吐き気がする。
止めどなく溢れ出す血液が、床を、手を、視界を、私を、世界を、真っ赤に染め上げた。
床に1つ、頭と胴が離れきれず、不恰好に繋がった死体が出来上がる。
さっきまで"彼女"だったそれは、今はただの肉の塊になった。
あぁ、綺麗に死なせてあげられなかった。痛かったかな、痛かったらごめんなさい。
涙なんてもう、出ない。
肉の塊になった"彼女"を見つめて思う。
人を殺す度に、皆は私を化け物だと罵る。
「お前は、何も感じないのか」と。
私は逆に問いたい。
君達は、生きるために殺した動物を憐れむのかと。
確かに最初は、可哀想と憐れむのかもしれない。でも、何回も殺めていくうちに、そんな自己満足な憐れみなど抱かなくなる。抱けなくなる。
"生きる為に殺す"
殺しあう相手に、可哀想と言って自分の命を差し出せるほど、私は人間が出来ていない。
人も、動物も、皆同じだ。
何かを殺して生きている。
だから、私は生きている。
「よくやった、褒美だ」
ずっと私達の殺し合いを『観戦』していた男がそう言い、パンを1つ、私の目の前に投げた。
"彼女"だったものは、木で出来た箱の中に入れられていく。そして、そのまま運び出された。
なんて酔狂な。
"彼女"は何も残さなかった。
この地面についた、おびただしい血液も、地に吸われ、他の子の血液に塗り替えられて、消えるのだろう。
"彼女"は、何も遺せなかった。
"彼女"は、どこに逝ったのだろう。
あの世とは、本当にあるのだろうか。
死んだら皆、あの世の天国と地獄のどちらかに逝くらしい。"彼女"がよく言っていた。
動かなくなった身体は、地へと還り、新たな生命の礎となって世界を廻る。
なのに、人は死者の身体を箱に入れ、地に還らないようにして埋めていく。
私は、何故? と問いたかった。
だけど、今、やっと理解できた。
「寂しいんだ、悲しいんだ、苦しいんだ」
その人がいない現実を認めたくなくて、だけど受けとめないといけなくて。
旅立ってしまった魂はもうないけれど、せめて身体は繋ぎ止めておきたくて。
その人が生きていたという証が欲しくて、縋りたくて。
だから、人は、
「……エル、寂しいよ」
こんなにも辛いのか。
私の世界は、死んだ。
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ねぇ、私は何か遺せると思う?
「新入りだ。お前が教育しろ」
「……わかりました」
「くれぐれも、殺すなよ」
「わかってます」
「………」
「………」
「ねぇ、君、名前は?」
「……ジュラス」
「そう。私の名前はエルよ」
「エル?」
「そう、私はエルよ」
白い花。
"彼女"が好きだった花。
その花が凄く似合う子がいたの。
綺麗な黒髪によく映える。
"彼女"以外の大切ができた。"彼女"は怒るだろうか、それとも……。
人は死んだら、何処へ逝くのだろう。
エル、貴女は何処へ逝ったのだろう。
「エルー!」
「どうした?」
何処からか、"彼女"の笑い声が聞こえた気がした。
いろいろと辛い、鬱になりそう。
ギャグが書きたい、でも書けない。