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菊/朧げな思い出

最初は短編予定だったのですが、思いのほか長くなりそうなので中編になりました。

息抜き感覚で書いていきます。


突然ですが、私の前世は姫様付きの騎士でした。


……えぇ、わかってます。

別に私は厨二病患者でも、精神異常者でも、現実と空想を区別出来ない痛い人でもありません。これは本当の事なのです。


俗に言う転生、でしょうか?

私が物心ついた時に、突然ふっと思い出しました。その時、不安定ながらも自我が確立していたせいか、いろいろなものが変に混ざり、壊れかけたのは良い思い出です。


まぁ、本当の事を言いますと、洒落にならない話です。今だから笑い話に出来ますが、当時は一週間近く寝込んだらしいのです。


……話を戻しましょうか。


さっきも話ましたが、私はとある国の騎士でした。

騎士団の団長には及ばなくても、姫様付きになるくらいには実力と信頼はあったと思います、多分。

無かったら無かったで、もう過ぎた事ですし、どうでも良いですが。



私が仕えていた姫様は、国一番の美貌の持ち主で、優しいだけではなく姫としての役目もきちんと理解し、とても賢い御方でした。


ベタほめですね。今だから言えることですが、私は一騎士として姫様を愛しておりました。ただ姫様を傍で御護り出来るだけで私は幸せなのです。


ですがある時、姫様が私に仰ったのです「我が騎士エルージュ、どうやら私は貴方のことを愛しているようです」と。

初めは冗談だと思いました。しかし姫様の真剣な眼差しに、この方は本気だと分かりました。そして何故か急に悪寒に襲われたのを今でも覚えております。


その時の私は是と返事をすることが出来ませんでした。私は騎士として姫様を愛しておりましたが、一人の女性として愛しているかと言うと、話は違ってきます。かの方は姫です。対する私は騎士。身分うんぬん以前に、主と従者という関係で、護るべき御方。そのような特別な関係にはなれない。後から思ったのですが、結局のところ私はその事を理由にして、姫様からの想い、姫様への想いから逃げていただけでした。それを責めるかのように、私は暫くして姫様の騎士から外されました。


私が就いたのは、対魔物の部隊でした。

対魔物となると、一般の騎士では荷が重すぎます。ただでさえ魔物の数は多い。なのに部隊の騎士の数は少ない。そこそこ出来る私に、お鉢が回って来たのでしょう。毎日が戦いでした。



そんな時です、勇者が現れたのは。



初めは噂だけでした。

一振りで百の魔物を滅した、魔物の上位種である魔族を圧倒した、魔物の集落を魔法で大地ごと消した、等々…。


嘘かと思いました。しかし大きくなってゆく噂に、とうとう国も無関心では要られなくなりました。王は城へと勇者を招待したのです。


一目みた勇者に、私は柄にはなく落胆をしてしまいました。勇者、彼は文字通り勇む者。ただの巨大な力を持ち有頂天になった青臭い餓鬼でした。えぇ、身の程もわきまえていませんでしたよ、えぇ。


勇者は言ったのです、「俺が魔王を倒してきます。その代わり、倒した暁には、そこにいる姫を下さい」と。

王は渋りましたが、しぶしぶ了承しました。相手は勇者、私達には何も出来なかったのです。姫様からの突き刺さる視線にも、私は何も出来ず、ただ無力でした。そして何故かまた悪寒がして、身を震わせたのも、はっきりと覚えています。


その後、対魔物部隊に勇者との合同討伐の命令が下りました。どのくらいの力量を勇者は持っているのか、それを測るためです。


いざ、戦いを始めますと、勇者は噂に違わぬ実力を出してくれました。

ですが、ぶっちゃけますと、彼は勇者を辞めたほうが良いと思います。むしろ、魔王のほうがしっくりきますよ、はい。


順調だった討伐。しかし、予想外の出来事が起りました。



魔族が、現れたのです。



皆、その威圧感にまともに動けないでいました。頼みの勇者もです。マジかよ! と叫んでしまいそうでした。お前は勇者だろう! とも。所詮は餓鬼でした。


最悪です。動けないと攻撃は愚か、逃げることさえ出来ません。きっと皆殺しですね、わかります。


しょうがないですね。此処で部隊が全滅しては国が危ないです。勇者も然り。

私は声を張り上げました。「逃げろ!」と。


皆は、弾かれたように城の方向へと走り出しました。

魔族は、可笑しそうに嗤いながら一人だけ逃げずにいる私に向かって来ました。


それからの事は、余り覚えていません。分かるのは、自分は血塗れになり地に這いつくばっていた事と、片腕を無くし、驚いた表情でこちらを見る魔族だけでした。


魔族が何かを話していましたが、死にかけの自分には分かりません。最期に脳裏に過ったのは、姫様のあの真剣な視線。そしてまた、あの悪寒が身体を駆け抜けました。


それが騎士エルージュとしての最後の記憶です。







************







「エレンちゃん、薔薇を三本くれないか」


「はい。彼女さんにですか? お熱いですねー。情熱的ですねー」


「冷めたコメントをありがとう。赤いリボンで頼めるかな?」


「はいはいっと。今回だけ二本特別におまけです。出血大サービスですよ。絶対に成功させて一番に報告して下さいね」


「うわ、変なプレッシャーかけないでよ」


「前回みたいに、出すに出せなかった何てことが起こらないように、おまじないですよ」


「引くに引けなくなった……」


「ちゃっちゃとプロポーズを成功させて下さい。後になって後悔しても知りませんから」


「酷っ」


「経験者は語るってやつです」


「エレンちゃんって、俺より年下だよね? …はい、お金」


「丁度ですね。ありがとうございましたー」






今の私は、しがない花屋の娘です。








エルージュは自分に自信が無い子。姫様、悪寒がします。

エレンはいろいろと開き直った子。姫様、悪寒が止みません。

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