一話、ねこみみ公爵と異世界の少女2
◆
元来、昔から、産まれた時から。
――取りあえず、思いつく限りの過去の記憶の中で。
彼女――道之木 美鶴が迷子になった回数は、数えても数え切れないほどにある。
気がついたらすでに学校であったり、……それだったらまだ良い方なのだが、その逆で、気が付いたら授業中に家に帰って居た、という場合も多数ある。
その全てが、歩いていてふと気がついたら突然に、という場合が殆どを占めていた。
中でも、目を開けたら目の前に黒髪ねこみみの男が居た、何て事があったり――。
「で、迷ってきた、と?」
「はい……」
「わざわざ俺の上に?」
「みたいです……」
訂正します。
前文の言葉は、現在進行形の出来事であったりします。
学校帰り、普通に通学路を友達と歩いて居た美鶴は、不意に何時もの気配を感じて身構えた。
何時もの気配、とは……まあ何の変哲も無い。数え切れないほど繰り返された結果、身に付いた、迷子になる瞬間の危機感である。
そして目の前が眩く光り――気づいたら、黒髪に猫耳を生やし、うさぎの様なあかい瞳をした男の膝の上におちて居た、と。こういう事になる。
「まあ、俺も退屈していたから許してやろう」
そう呟いて、ねこみみをピンッと立てた彼は、ゆっくりと美鶴を床へと下ろした。……と言っても、床一面が大量の本に覆われ、壁一面に、まるで一個の壁画の様に造られている本棚から、ばさばさと定期的に本が落ちて、床に積載されて行って居る為、『床の上』と言うよりは、本の上、と言った方が正しい気がするのだが。
しかし、この本の恐らく持ち主であろう猫耳の彼は、特にそれを気にした風もなく、近くにうず高く積まれた本の上へと腰を下ろした。
「もう一度言うが、俺は退屈だったんだ。お前がここに来ることになった経緯とやらを話せ」
「え?」
「どうにか出来るかどうかは俺の管轄外だが。お前の奇妙な体験談は『俺の退屈しのぎ』位にはなるだろう?」
だから聞いてやる、と不遜に言い放った彼は、ついっと人差し指で空中に円を描く。
すると不思議な事に――そこから、柔らかな歌声が漏れ出し、彼の手にはいつの間にか、美味しそうな砂糖菓子と紅茶が乗せられていた。
まさに、魔法である。
あんぐりと口を開ける美鶴の姿に、猫耳の男は怪訝そうに眉を顰めた。
「まさかとは思うが、魔歌を知らんのか?」
「ま、か……?」
「知らんのか」
反復して返した美鶴の言葉に、何か納得したように頷き、猫耳の男はふわりと耳と同色の尻尾を楽しげに揺らす。
「そうか、それならば……まあ、辻褄が合わんことも無い」
「えと?」
何が言いたいのだろう、と小首を傾げる美鶴に、彼はくつくつと喉を慣らし、口角を意地悪く吊り上げた。
「信じるか否かはお前次第だ。だが事実――現実は、拒めはしない」
「つまり……どういうことです?」
「急かすな。俺は焦らすのが好きなのだ。……が、まあ良い。教えてやろう」
コクリと喉を鳴らし、期待に満ちた表情を浮かべる美鶴。
その表情に、愉快そうに喉を慣らした後で、彼は言葉を続けた。
「数十年に一度、お前の様な者が来ることがあるのだ。だからこそ『この世界の住人である俺』は理解し、断言する事が出来る。ここは、お前の居た世界ではない」
「え? それってどういう……」
「どういうも何も、言ったままの意味だろう。『ここは、お前の世界ではない』」
「は……え、ええぇぇえ?」
突然の言葉へと動揺の色を見せる美鶴の姿に、猫耳の男は更に可笑しそうに、ルビー色の瞳を細める。
それがまた、顔立ちが整って居なければ憎たらしいものの……、ここを異世界だ、と断言し、頭にぴこぴこと動く耳、尾骶骨辺りにふわふわと動く尻尾を持った彼に、残念ながら似合ってしまうのだから、何だか口惜しい。
「しかし、運が悪かったな。その現れた先がここだと、この先観光も何も無い」
「――?」
ふっ、と自嘲気味に笑ってみせる彼の姿に、美鶴は首を傾げた。
その彼女の瞳を正面から見つめ、猫耳の男は『やれやれ』と言った風に両手を広げ、首を振ると、周囲を取り囲む本の山へと視線を向けた。
「ここは、不思議な場所だと思わないか?」
「……本が、際限なく生まれて居る様に思え、ます」
「あながち、それは間違いではない」
するり、と衣擦れの音を立てながら立ち上がり、彼は片手にカップを持ったまま、見果てぬ場所まで伸びる本棚を仰ぎ見る。
「この本達を一言で表せば、アカシックレコード、だろう」
「あかしっく……こーど?」
「知らんか。――まあ良い。簡単に言えば、星の記憶、さらにわかり易く言えば、これらは全てが全て、歴史書だといえる」
彼の言葉に、美鶴は足元に無造作に転がっている本へと目線を向ける。
若干古ぼけた表紙をしたそれは、しかし虫に食われた様な様子も無く、ただただそこに、忘れられた過去で在るかのように打ち捨てられている。
いや、彼の言う言葉が本当に正しいのであれば、それは実際『忘れられた過去』と表現するのが正しいだろう。
壁に並べられた数え切れない本の群れが、歴史書に遺された史実であるとするならば、足元に打ち捨てられるようにして積み重ねられたその本は、潰えた史実、ではないのだろうか。
そんな事を、じ、と考え込んでいた美鶴の耳に、声を押し殺して笑う猫耳の男の声が響いた。
「忘れられた過去に興味を示すか。……お前は、何とも着眼点が俺と似ていて面白い」
「そうでしょうか? 何と言うか……私は常に迷子ですから。時折、忘れられた何かの中に迷い込んで居たので‥」
「ほう?」
美鶴の言葉に、興味深げに尻尾を揺らし、彼は続きを促すように視線をこちらへと向ける――が、ふと何か思い立ったように片手を上げると、美鶴が言葉を紡ぐのを阻止する。
「いや、待て」
「はい」
「その前に『この場所に閉じ込められた同士』として、自己紹介をしよう」
「……、閉じ込められた?」
彼の放った言葉に含まれて居た、若干ただ事ではない単語に、美鶴は瞬時に反応して目線を上げる。
その反応を、見越して居たらしい猫耳の彼は、くつくつと喉を鳴らして可笑しそうに笑い、特に気にした風も無く、言葉を続ける。
「俺の名前は、ギルフォルド・ディ・リアンデ。王国魔歌剣士隊に所属している。そうだな……義父の気が向けば、将来は公爵の地位を賜るだろう」
「す、ごい地位ですね」
「珍しい事ではない。我が王国は小さいのだ」
「それにしてもですよ」
「そうか」
特に気に留めた様子も無く短く答え、ギルフォルド・ディ・リアンデと名乗った、猫耳公爵……もとい、公爵候補の男は、「で?」と美鶴へと目線を向けた。
「そちらの名前は?」
「あ、ええと……。道之木 美鶴です」
「ミチノ・ギ・ミツル?」
不思議な場所で名前を区切った彼――ギルフォルドの言葉に、美鶴は慌てて首を振る。
彼の名乗りで、考慮すべきだった。
「いえ、名前がミツルです。だから多分、ミツル・ミチノギと言えば良いでしょうか……」
「ああ、そういう事か」
悪かった、と軽く謝罪をして、ギルフォルドは美鶴へと目線を向ける。
「ならば、改めて‥ミツル。この『閉ざされた歴史書の塔』へとようこそ」
「あ、はい。あの‥ギルフォルドさん」
「俺の愛称はギルかリッドだ。そのどちらかで構わない」
「なら、ええと……ギル、様」
「堅苦しいのは嫌いだ。呼び捨てで構わない」
ふん、と鼻を鳴らして再び本の山へと腰掛けるギルフォルド。それを横目に、美鶴は言葉を続けた。
「なら、ギル。さっきも思ったんですけれど……、『閉ざされた歴史書の塔』というのは?」
「ここが異世界である、と言った様に‥それもまた、言葉そのままの意味なのだが」
「この場所から、出られない、と?」
「そうだ」
「私も、ギルも?」
「ああ」
コクリと頷き、ギルフォルドは、疲れた様にふう、と息を付く。
そして自分の横を片手で叩き、美鶴に横に座るように促した。それに特に反抗する理由も無い美鶴は素直に従い、座った途端に目の前に差し出されたティーカップも素直に受け取る。
「先ほどの反応からして、ミツルは魔歌を知らない様だな」
「まか……?」
「四つの元素精霊を歌を歌って操り、自然現象を起こす方法だ」
「あ……さっきの、魔法、ですか?」
「そちらの世界では魔法と言うのか」
ふむ、と顎に長い指先を当て、彼は何か思案する様に眉間に皺を寄せる。
そして暫らくして、一度頷くと、何事も無かったかのように、言葉を続けた。
「俺はミツルの世界で魔法と呼ばれるものの中で、歴史の中に埋もれた、忘れられた魔歌を探しにここへとやって来た」
「そして出られなくなった?」
「……簡単に言えば。しかも、未だに忘れられた魔歌を見つけられていない」
赤い瞳を鋭く細め、ギルフォルドは不機嫌そうに呟く。
しかし、美鶴からしてみれば……この大量の本の山の中から、たった一つの、しかも忘れられて、埋もれてしまった本を探す事でさえ困難な様に思える。それを軽いことの様に言い、未だに諦めきれていない様子を見ると――、彼はいわば、研究熱心な研究者に近いのではないのかと、美鶴は自分の中のギルフォルドの印象を上書きし直したのだった。
なんせ彼の容姿は、その中身と外見では相当ギャップがありすぎるのだ。
切れ長で涼しそうな目元に、通った鼻梁。赤い瞳は宝石の様に濃く輝き、それを縁取る髪と同色の漆黒の睫毛。キリッと釣り上がった眉は、不敵に口角を上げた口元によく似合い、男らしい、という印象を相手に印象付ける。
――しかし実際の彼はというと。
不遜、傲慢、研究者脳、といったとんでもない三拍子を自ら揃えてしまうほどに、癖がありすぎる性格をしている。
「そこへ来たのが、ミツル、という訳だ」
「ああだから……良い退屈しのぎだ、って言ったんですね」
「事実、そうだろう?」
整った容姿を不敵に歪め、ギルフォルドは笑う。
「存外、ミツルが俺の突破口になるとも考えられる」
「はあ、そうなんですか」
「気の抜けた返事だな」
現状に追いつくのが精一杯の美鶴が返した返事が気にくわなかったのか、ギルフォルドは、む、と眉を顰めると、何か思いついた様に立ち上がる。
「そうだな。魔歌が無かった世界から来たミツルには実感が沸かないのも無理は無い。だから俺が特別に見せてやろう。……俺がこれだけ固執し、古に失われた魔歌を必死に求める理由を――」
ゆらり、と尻尾が楽しげに揺れ、ギルフォルドの頭上に付いた耳がピンと立つ。
正直、美鶴からすると、魔歌というのが不思議なのはもとより、それ以上に何故この世界が、自分の世界での所謂『獣人属性』なのかが気になる所なのだが。
表情がよくよく読み取れないギルフォルドなだけに、彼の感情を顕著に表してくれている耳と尻尾は、美鶴にとってはかなりありがたい存在だったのだけれど。
そんなことを美鶴が考えて居るとは露知らず。
ギルフォルドは、腰に帯刀した赤い宝石が柄頭に嵌った剣を抜き放つと、すう、と息を吸い込んだ。
そして――不意に、トンッと彼の靴先が妙に響く音色を響かせた。
「――『世界に眠る赤の記憶。詠み伝えし我が歌は。リディアルクレーネに捧ぐ』――」
靴が奏でるリズムと、それを弦楽器か打楽器の伴奏の様にして、ギルフォルドの歌声が紡がれる。それは、先刻までの低く心地良い声音とは若干違い、透き通る様な……形容するのであれば、ハープを奏でるような、独特の音をしていた。
「――『焔彩る空の中。深紅の花が我が手で踊る』――」
とん、ととんっ、と‥舞う様に彼の足がリズムを刻み、歌声が徐々に質量を増していく。
そして、ギルフォルドの剣が一瞬、中の上で不思議な動きをする。
……と、その瞬間。
ボッと音を立てて、中空に突如として木造りのランプが浮かび、そこに赤い炎が灯る。
それに目を見開いた美鶴を尻目に、ギルフォルドは更に靴先でリズムを刻み、更にそれを増やしていく。
「――『終末は其の手に。いざ、歌に終止符を』――」
それが幾つも幾つも部屋の中に浮かび、ついには美鶴のすぐ傍にまで現れ、思わず怯む。慌てて後方へと足を引こうとしたところで、ギルフォルドの刻んで居たリズムがひときわ大きな音をたて、しんっ‥と静まり返った。
つい、と視線を向ければ……そこには、したり顔でこちらを見つめるギルフォルドと、中空に無数に浮かんで居る木造りのランプが。
「これが、魔歌だ」
「……何か、すごい歌だって事は解りました」
「それだけ解れば十分だ。俺が古の忘れられた魔歌を探して居る理由も、その延長線上だからな」
カチンッと金属音を立てて、赤い宝石の埋まった長剣を彼は鞘へと仕舞う。
そして改めて美鶴へと向き直ると、ふ、と息を吐き出した。
「魔歌を説明するのは難しい。ただ……そうだな。魔歌は自然現象を生み出す音楽の一つだ、と俺は思って居る」
「俺は、って事は――実際は違うって事ですか?」
「そうだな」
美鶴の言葉にこくりと頷き、ギルフォルドはランプの一つを手に取ると、それを指先でくるりと一回転させる。
「見ての通り、魔歌はこうしてなかった物を生み出すことが出来る。つまりは、使い方次第では人と人との争いに使われる事も、ざらにある」
そう言葉にした後で「いや、」と、彼は更に言葉を続けた。
「違うな、……実際は、そちらの方が多い」
「こんな綺麗な歌が、戦場で歌われて、人を傷つけているんですか」
「ああ」
特に取り繕うでもなく素直に頷き、ギルフォルドはふわふわと中空を漂うランプを避けながら美鶴の傍へと近寄って来た。
「考えてみろ。自然に起こった自然現象も、時として人を傷つけるだろう。……炎は人を焼き、水は人を穿ち、風は人を切り裂く。地は人を飲み、闇は人を蝕む」
「そうですね‥」
「魔歌はそれそのものが意味を成している訳では無い。それそのものが祈りで、自然現象を自由に使役するための力なんだ」
それは、相当に危ない力なのではないだろうか、と……美鶴は心の中で思ったのだが、それを読み取ったかのようにギルフォルドは笑い、言葉を続ける。
「だたし、人には向き不向きがある。そして人は神にはなれない。――つまりは、まあ‥掌くらいの火球を投げつけるのが、精一杯だろうな」
そう言ったギルフォルドの言葉に、美鶴は安心した。
……のだが、同時にある事が疑問となってくる。
今現在、中空で漂って居るランプの群れは、明らかにそれを超越したものではないのだろうか、と。
しかし、それもまた彼は読み取った様で、瞳を細めると美鶴の目の前に片手に持って居たランプを突き出した。
「しかし例外は居る。例えばこの俺」
「ギルは、すごい魔歌使いだったのですね」
「ああ。大体の人間は一種類の魔歌しか使えない。……が、俺は二つの属性を同時に操る事が出来る」
その先に、ギルフォルドが何を言いたいのか。……それは、美鶴にも何となく解る気がした。
「火と水は歌うことで人に従う。地はリズムに反応して人に従う。風は己の中のメロディを奏でる事で人に従う」
「つまり、先刻のギルは……リズムを刻みながら歌をうたった。つまり、地の力で木造りのランプを造って、そこに火の力で炎を灯したのですね?」
「正解だ」
楽しげに美鶴の頭をぐしゃぐしゃと撫で、ギルフォルドはくつくつと喉を鳴らした。
「ミツルの読解力と把握能力は、俺が思って居た以上のようだ」
なんだか子供扱いされて居る様な気がして――というより実際、身長差が親子に近いほどにあるため、美鶴も何だかんだで彼に言い返すことが出来ない。
美鶴自身の身長が平均よりやや低め、という事もあるのだが、ギルフォルド自身もかなりの高身長だと、美鶴は思う。
羨ましい‥と、じ、と彼を見つめて居ると……ふと、そのルビーの様に赤く美しい瞳がこちらへと向けられた。
「という事で、俺はこの歴史書の中から古の魔歌を探しているんだが」
「……それは何か、理由があっての事‥ですか? 例えば魔王との戦いに備えて、だとか、世界滅亡の危機だとか」
「いや、単なる道楽だ」
平然と言い放ったギルフォルドの言葉に、美鶴は思わず脱力したくなった。
彼とはほんの数時間――いや、悪くしたら数十分ほど前に知り合ったに過ぎないけれど、ギルフォルドが相当な物好きだという事は、美鶴にも理解できている。
つまり、彼が言っている事は‥正真正銘、嘘偽り無い本当の事、だという事だ。
簡単に言えば、彼は本当に道楽でこの場所へと来た、と。
「しかし、ここが『閉ざされた歴史書の塔』だったのであれば、しっかりと下調べをしておけば良かった、と。今更ながらに一応は思って居るのだ、これでも」
そうは言うが、彼に焦った様子も、現状を嘆いて居る様子も、そのどちらも浮かんで居る様子はない――、というよりも、彼が最初に言っていた様に、本当にただ単に塔に引き篭もり、退屈しているだけの様に見える。
「俺の友か義父が助け出してくれるのを期待するのみ、だが……」
「ここへ来るって事は、言っておいたんですか?」
「いや、何も言わずに飛び出して来た」
「……、」
ケロリとした様子で言ってのける事から、それは恐らく日常茶飯事に近いことなのだろう。
そしてその『日常茶飯事の中の今回のみ』が異常事態だという事に、彼の周囲の人間がどれだけ気づいて行動してくれるのか……。
「だから取りあえず、退屈凌ぎにミツルを元の世界に返す方法と、ここから出る方法、それから一番の本命。古の魔歌を探そうと思うのだよ、俺は」
「そうですか‥」
「ついでに言えば、俺が見つけるまでミツルは強制参加だ」
「え……」
てっきり、どこか邪魔にならない場所にでも居ろ、と言われるかと思ったのに。
検討が外れて、美鶴は思わず呆然とした表情を浮かべた。
そんな彼女の様子に、彼はくつくつと面白そうに笑うだけで、お気に入りの玩具を手に入れた子供のように、容赦をするような気配は微塵も見当たらない。
(とりあえず、部屋を探そう……かな)
若干諦めを感じた美鶴は、溜息をひとつ付くと、今の状況に流される事を許容する事にした。
幾ら本だらけの塔だと言っても、休む場所くらいはあるだろう。
そう推測して、美鶴は自分を奮い立たせ、背後で腹を抱えて声を押し殺したまま笑い続けるギルフォルドの姿に、気付くはずも無かった――。