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一話、ねこみみ公爵と異世界の少女






 1話、ねこみみ公爵と異世界の少女








 ◆



 空を見上げていました。

 そうしたら、不意に空が歪み、ゆっくりゆっくりと落ちてきました。

 私は咄嗟にそこへと走り、落ちて来る空を抱きとめました。


 ――それは、紛れもなく『人』でした。



 ◆



 ガタゴトと音を立てて、立て付けの悪い馬車が石畳の上を走っていた。

 今にも崩れそうな様相だが、それを操る御者も、中で何か考えるようにして眉間に指先を当てている人物も、特にその事を気にした様子は無い。

 どちらかというと、心ここにあらずといった様子で、ただただ朝靄が掛かる街の中を、二頭と二人は疾走していた。



 ――馬車の中で考え込んでいる彼、ルイード・フォン・クランクは、この国の権力在る……というよりも、この国の第一位王位継承者なのである。

 そんな彼が、こんな立て付けの悪い『甚だ王子らしくない』と形容すべき馬車に乗り、夜明けの町を疾走しているのには多少の訳が在った。


(混沌の魔歌使いが行方不明……、ねぇ‥)


 ルイードの頭の中に、つい先日見た、嫌味たらしく、王子を王子とも思わず、けれど何処か屈託無く憎めない笑顔を浮かべて居た幼馴染の黒い髪と赤いルビーの様な瞳が思い浮かぶ。

 その彼が、突如として行方をくらませたらしい。


 心配が胸を過ぎる……が、それと同時に、『それならそれで良いか』とも心の中で思ってしまった。


 ――混沌の魔術師。

 ルイードの幼馴染がそう呼ばれるのには、多少……どころか、多大なる理由が存在している。

 それこそがまさに、彼を『彼らしくした要因』であり、この王国そのものが彼自身を畏怖している理由だろう。

 だがこれも、彼らしいのだが……。

 何か大きな事件を起こしたとしても、彼の人柄を知り尽くして居るこの小さな王国内では、『ああ、またか』で済まされてしまうのだから凄い。


 しかしまあそれは置いておこう、とルイードは心の中で区切りをつけると、再び頭の中で思案した。

 今問題なのは、彼がどういった人物であり、どういった人柄をしていて、どんな見目をしているのか。そんな事はどうでも良いのだ。

 どうでも良い、というのは些か放任すぎる言葉なのだが……、どちらかというと、それを考える前に、その件の彼が存在して居ないのだ。


(また一人で旅に出たと考えるべきか、否か)


 彼の養父である公爵は、恐らく笑いながら前者だと断言するだろうが。


(さて、……今回は私の勘が『確実に面倒事だ』と言って居るのだがな)


 自分と彼の養父と。どちらが正解なのだろうか、と。

 ルイードは馬車の中で想い、ガタンッと容赦の欠片も無い止まり方をした馬車の外で、先刻思い浮かべた彼の養父が、にこにこと笑って居るのを見つけ、その場を立ち上がったのだった――。






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