お前らいい加減にしろ
ちょっと変わった恋愛小説を書いてみようと思いまして……。
……どうしてこうなった。
俺の名は雅居弥人。
ごく普通の高校に通う、ごく普通の高校生だ。
この日、俺はいつも通り高校への道を歩いていた。
「おーい!弥人!」
と、後ろから男の声が聞こえてきた。
声だけで判別はできていたが、一応振り向き、姿を確認する。
「おう、歴。土戸も」
「おっす!」
「おはよ、雅居くん」
2人の男女とにこやかにあいさつを交わす。
男の名前は出田歴。
小学校から付き合いのある、俺の親友だ。
女の名前は土戸菜緒。
こちらは中学校からの付き合いだ。
……ちなみにこの2人、最近付き合い始めたんだけど……。
「一緒に登校か、相変わらず仲良いな」
『っ!?』
俺の言葉を聞いた瞬間、2人の顔が真っ赤に染まる。
……あ、しまった。つい……。
「か、勘違いしないでよ雅居くん!!
た、たまたま!たまたま途中で一緒になっただけなんだから!!」
「そ、そうだぞ弥人!!
ベ、別に一緒に登校してるわけじゃねぇんだからな!!」
「……あぁ、うん。分かった分かった」
またか……。
実はこの2人、そろいもそろって意地っ張りというか、素直じゃないというか、そんな感じの性格なんだ。
中学1年で互いに一目ぼれしてから、4年間ずっとこんな感じだ。……やっと恋人同士になったってのに、全然変わらないのは正直どうかと思うんだけど……。
「ほ、ほら!早く行こうぜ!遅刻しちまうだろ!!」
「そ、そうね!行きましょ!」
明らかに動揺したまま、2人は早足で歩きだす。
……実際は、のんびり歩いても十分間に合う時間なんだけど……まぁいいや。
登校後、HRも終わり、もうすぐ1時間目が始まる。
ちなみに席は、俺が前から3番目の左から2列目、歴が俺の前で、その隣が土戸だ。
「あ……あれ?」
「どうした?菜緒」
俺が1時間目の用意を出し終わった時、前から声が聞こえてきた。
「教科書……忘れちゃったみたい」
どうやら、土戸が教科書を忘れたらしい。
1時間目は国語なので、教科書なしで授業を受けるのは無理だろう。
……なんか、嫌な予感がする。
「しょうがねぇな、俺の見せてやるよ」
「あ、うん。ありが……」
「……?どうし……」
お礼を言いかけて、土戸は口を止めた。それに気づき、疑問を口にしようとした歴もまた、途中で止めてしまう。
おそらく2人とも気づいたのだろう。
……教科書を2人で見るために、机をくっつけなければならないということに。
「か、勘違いすんなよ!!
お前が教科書を忘れたっていうから、仕方なくくっつけるだけなんだからな!!」
「そ、そっちこそ勘違いしないでよ!!
ベ、別にあんたと机をくっつけたって、嬉しくなんてないんだから!!」
顔を真っ赤にして言い合う2人。
なお、教室中に響き渡る程の大声だったが、クラスメート諸君は特に驚きもせず、むしろ、またか……、というような目で2人を見ている。
……そう、こんなこと、このクラスでは日常茶飯事なんだ。
当然、このクラスで、この2人が恋人同士だと知らない人間なんていない。
そんなこんなで4時間目まで授業が終わり、現在は昼休み。
この学校には食堂もあるけど、俺はいつも弁当を持参して食べている。
「弥人、一緒に食おうぜ」
「おう」
後ろを向き、俺の机にコンピニで買ったであろう、焼きそばパンと昆布おにぎりを置く歴。
「……いつも思うけど、パンとおにぎりって組み合わせはどうなんだ?」
「うるせー、俺は両方好きなんだよ」
そういって、歴は早速焼きそばパンの袋を破こうとする。
「れ、歴!!」
と、そこに土戸から声がかかった。
見てみると、彼女はほのかに顔を紅潮させ、後ろ手に何かを持っていた。
……あ、なんかまた嫌な予感が……。
「おう菜緒、お前も一緒に食うか?」
「あ、うん……えっと、こ、これ!!」
バッ!と勢いよく歴の前に出されたのは……1つの弁当箱。
土戸の机にもう1つあるから、これは彼女が食べる物ではないだろう。
つまり……、
「お、俺に……?」
「う、うん……」
戸惑いながらも歴に弁当を渡す土戸。
同じように顔を真っ赤にして弁当を受け取る歴。
……なんだこのピンク色の空気、と思ったのもつかの間。
「ほ、ほら!!私達一応恋人なんだし……か、彼氏の健康管理は彼女の義務でしょ!?
だから、し、仕方なく作ってきただけなんだから!!」
「お、おう!!分かってるよそんなこと!!
俺だって、受け取らないと悪いと思ったから受け取っただけで、別に嬉しくなんてねぇからな!!」
また始まった……。
もういいや、2人のことは気にしないで、さっさと食べ始めよう。
「な、なによそれ!?せっかく作ってきてあげたのに!!」
「別に作ってくれなんて頼んでねぇだろ!それに、俺はいつもパンやおにぎりで済ませてるって、お前も知ってるだろ!?」
「いつもコンピニで買ったものばっかり食べて、体に悪いでしょ!!
だから、ちゃんと栄養を考えて作ってきたのに!!」
「余計なお世話だ!!お前は俺の母親か!?」
あー、なんか今回の言い合いは長いなぁ……。
「だったらいいわよ!!もう弁当なんて作ってあげないんだから!!」
「っ……!……す、好きにしろよ!!俺は別にお前の弁当なんて食いたくねぇし!!」
「なんですって!?」
……なんか、いつにもましてヒートアップしてるな。
ちょっと、止めた方がいいか?
「2人とも、少し落ち着……」
「じゃあこの弁当もいらないわよね!!返してよ!!」
「あ……」
今渡した弁当を歴から取り上げる土戸。……俺の声、全く届いてないな。
「………」
流石に言い過ぎたと後悔しているのか、苦々しい顔をしている歴。
そんな歴に背を向け、土戸はうつむいて呟きだした。
「どうせ、私が作ったお弁当なんておいしくないし……食べたくないわよね」
「な、菜緒……」
「……せっかく、作ったのに……。
歴を喜ばせようと思って、がんばったのに……」
「っ……!!」
それを聞いた瞬間、歴は意を決した表情になる。
そして、無言のまま、土戸から弁当を取り返した。
「あ……れ、歴……?」
「……悪かったよ、意地張って」
「え……」
「……弁当、ありがとな」
「……うん!」
そうして、2人はしばらく、笑顔のまま見つめ合っていた……。
……こいつら、ここが教室だって分かってるよな?
空になった自分の弁当を片づけつつ、俺は心の中でこっそりため息をついた。
そして放課後。
帰り支度をしていると、歴から声をかけられた。
「悪い弥人。今日は先に帰るな」
「ん、いいけど……」
いつもなら俺、歴、土戸の3人で帰るはず。
……理由は、なんとなく分かるけど。
「今日は菜緒と2人で帰りたいんだ、な?」
「うん。ごめんね、雅居くん」
「……だろうと思ったよ。じゃ、また明日」
「おう、またな!」
「また明日!」
俺と別れると、2人は手をつないで教室を出ていった。
……せめて学校を出てからつなげよ、と言いたいところだけど、まぁいいや。
小さくため息をつく。
今はあんな様子だけど、明日になったらまた、意地を張って言い合いを始めるんだろう。
付き合いの長い俺はもちろんのこと、このクラスの人達も、はっきりいってもう慣れた。
……だけど、それでも俺は、思わずこう呟いた。
「……お前ら、いい加減にしろ」
この小説を書こうと思った経緯:
最近短編小説書いてないな。
たまには恋愛小説とか書いてみよう。
↓
そういえばツンデレってあんまり書いたことないな。
よし、せっかくだから書いてみよう!
↓
でも、女の子がツンデレってちょっとありきたりだよな。
だからって、男だけそうするのも……。
よし!いっそ両方ツンデレにしよう!!
……結局、ちゃんとツンデレとやらになったのか少し疑問ですが、とりあえず勢いで書くのは楽しかったです。
ここまで見て下さり、ありがとうございました!!