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第9話 強敵現る。

 しばらく歩くと、更に開けた場所に出る。

 天然の鍾乳洞なんだろうか。乳白色のぶっとい柱が、神殿みてぇに何本も無秩序に並んでいる。それなのに、窮屈な感じはしねぇ。

 恐ろしさと神秘を兼ね備えたその奥、城の壁面ぽい物が見える。カラフルな宝石が埋め込まれ、裕福そうな様子がうかがえる。一個くらい持って帰ってもバレなさそうじゃね?

「ほう、これは見事じゃのぅ」

「魔王! って感じはしないよね」

「お金持ちっぽいけど、本当にここにいるのかしら」

「じゃあ帰ろうか!」

「惨たらしく野垂れ死になさい」

 俺の案は、魔導書を開いた姫にあっさりと却下された。直後、洞窟内に響く、まるで俺の脳ミソ空っぽみてぇなイイ音。

 ツッコミのためだけに、ハリセンを持った人型ムキムキマッチョ精霊を喚び出しやがった。

 すんげぇ痛ぇ。本気で叩きやがったよ、あのマッチョ!

 つか、さりげなく俺の死に様がグレードアップしてるのは、スルーですか?

「わーったわーった! 魔導書構えんな! 開くんじゃねぇ! トランクなんかもっとらめぇ!」

 姫をなだめすかし、忠犬のように待ち続ける騎士の後を追う。騎士は俺たちがついて来ると分かったのか、また歩き始めた。

 城の中は、今まで見た事ねぇくらい、とにかく豪華だ。

 ジェムナス城もきらびやかだったけど、この城は更に上を行っている。

 つやつやに磨かれた大理石の床。長い階段に敷かれた、真っ赤なじゅうたん。金色の手すり。壁や床が白い分、それ以外の色が鮮明に見える。

 正面からぱっと見ただけでも軽く十は超える扉には、それぞれ小粒な宝石で様々なドラゴンが描かれている。

 城の主は、相当なドラゴン好きらしい。

 それより気になるのが、この明るさだ。昼間のように明るい。

 家が何軒入んだってくらいに広いホール全体を、たった一つの光球だけで隅々まで照らしている。

 数え切れねぇ宝石が光を反射して、すんごくきらっきら。

 それも、火の揺らめきじゃなく、太陽のように安定した明るさだ。魔力そのものを輝かせる、最上級クラスの魔法……!

 すげぇ……。

 あれ? 魔王って光属性なの?

「…………こっち」

 柔らかい光が降り注ぐ中、騎士の黒がより強く際立つ。

 いくつもの扉を横目に、うねる階段を上る。二階の通路は幅広く、数人並んでも余裕があるな。崩れたらきっと大惨事。スケールがでけぇ。

 漆黒のドラゴンが描かれた扉の前で、騎士が一度立ち止まる。

 縦に長く取り付けられた取っ手は透明で、俺でも一周握れねぇくらいの太さと、両端に金の留め具。その中にはいくつか、水晶の結晶らしき物が見えた。

 もしこれが水晶なら、珍しすぎててめぇこのヤロウ。ヒビとか曇りもねぇし、完璧すぎる。

 扉のドラゴンは、気高くこちらを見据えている。他の扉より、明らかに段違いの豪華さだ。

 改めて隣の扉を見ると、しょぼすぎて涙ちょちょ切れる。

 一見重そうな扉を、騎士はいとも簡単に開けた。

「こたつだ」

「ふぬお!?」

 いきなりンクルに話しかけられて、びっくりした。

 いつから出てたんだ、てめぇ。気配消すんじゃねぇ。

 部屋の中には、変な空間が広がっていた。

 城や部屋の広さからすれば小さいテーブルは、やたらと低い。分厚い布団が挟まっているんだけど、これでいいのか?

 椅子はない。代わりに温かそうな毛皮が敷かれている。

 そーいや、ここ寒いわ。うぅっ、あの毛皮に寝転がりてぇ。

 ンクルはこたつって言ってたな。

 何なんだ、こたつって。

「…………」

 騎士は片膝をついて布団をめくり、うやうやしく畏まっている。

 その姿はパーズ以上に騎士っぽいし、似合っていた。

 いや、まあ、パーズが騎士かって聞かれると、微妙なんだけどな。

 アイツは変態な騎士っつか、騎士な変態っつか。

 で、当のパーズは値踏みするかのように、微動だにしねぇ騎士を眺めている。

 興味津々に近付こうとしたラルドを制し、姫を呼んだ。

「あれは、騎士が淑女をお招きする姿勢です。姫様、まずは貴女から」

「アタシはアンタに、淑女として招かれたことはないんだけど?」

「全力でごめんなさい!」

 騎士としてのプライドを投げ捨て、ファイに土下座するパーズ。ある意味すげぇけど、騎士としてはアウトじゃね?

 パーズにエスコートされた姫は、優しい手つきで布団をかけられる。

「あぁ……何て素晴らしいのでしょう……」

 まさかの洗脳。

 ちょっとコレ、ヤバくね?

「ンクル、こたつってアレだよな?」

「そうだ」

 上半身だけのンクルが即答する。

 だから何なんだよ、こたつって。

「じゃあ次は、レディーファーストだから、ファイ君だね。さ、お手をどうぞ」

 エスコートされて上機嫌のファイが、こたつに食われる。

 そして。

「はぁん……。気持ちいいー……。アタシ、こたつと結婚するー……」

 とろけるファイ。

 姫の二の舞じゃねぇか。

「人とならともかくこたつとだって!? 僕と勝負だ!」

 人とならいいのかよ。

「…………無理」

「無理だ」

 前と後ろからのサラウンド無理にもめげず、こたつに向かって投げ付けられた手袋は、見えねぇ力で弾かれた。

 対物理攻撃用魔法障壁みたいな受け身の力じゃなく、攻撃的な力だ。

 こたつは、魔法が使えるのか。

「…………」

 騎士がまた、布団をめくって招く。

「こ、これは強敵じゃぞ、パーズ殿!」

「分かってるよ! 次は僕だからね!」

 騎士の招きに応じて、パーズが慎重にこたつに食われた。

 分かっちゃいたけど。

 分かっちゃいたんだけど……!

「何かムカつく……!」

「つ、次はわしの番じゃあ!」

「あっ、バカ! 行くんじゃねぇ!」

 俺の制止を振り切り、悪魔の誘惑に立ち向かったラルド。

 当然、あえなくこたつに食われた。

 コ、コイツ……、できる……!

「…………」

 とろけきっている四人を見ても、表情を変えねぇ騎士。

 背を向けたンクルは、肩を震わせている。泣いているのか?

 てめぇのせいだ。てめぇがもっと早く忠告していれば、こんな事にゃならなかったんだ。

 俺はできる限りの力で、対物理攻撃用魔法障壁を展開する。いつでも反撃できるよう、魔力を練り上げて。

 静かに布団がかけられた。

「……はふぅ……たまんねぇ……」

 何なんだ、コレは!

 超強力な誘惑魔法で敵を誘い込む。のこのこ入って来たら、重厚な布団で押さえ込み、逃げられなくする。でもって、洞窟内の冷気で冷えた体を、じんわりとあっためるフリして催眠魔法をかける。

 何て効果的な連続魔法攻撃なんだ! 状態異常のフルコースかよ!

 しかも、メインの拘束魔法は脱力するタイプらしい。普通、拘束魔法つったら、紐やムチで縛られるようなのか、ピリピリした痺れが走るものだ。脱力させて自由を奪うなんて、聞いた事がねぇ!

 古代魔法か!? 古代魔法なのか!?

 じっくりコトコト弱らせたトコで、一体ナニを……何をされるんだ、俺たち!!

「ハッ!? まさか、これがウワサに聞く、複合魔法ってヤツか……!?」

 もしそうなら、黙って拘束されっぱなしになるワケにゃ、行かねぇ!

 それに俺ぁ、マゾじゃねぇし! 誰かさんと違って!

「こたつむりになっても知らんぞ」

「構うもんか! 俺はコイツを分析してみせる!」

 全魔力を振り絞って、対魔法攻撃用魔法障壁を展開する。俺のレベルじゃ結構キツい、上級魔法だ。

 魔力を細く紡ぎ、格子状に編む。魔法による攻撃を緩和してくれるんだが、編むのがすんげぇめんどい。細くならねぇし、均一にもならねぇし。

 対物理攻撃用魔法障壁を分厚い壁とするなら、対魔法攻撃用魔法障壁は薄いベールのような物。その柔らかさと繊細さで、攻撃魔法を包み込み、威力を緩和させる。

 何とか維持できる程度で、少しでも気を抜くと、障壁がすぐに崩れちまうんだ。そんなに長くは持たねぇだろう。

 満足に動けねぇ体にムチ打ち、布団の中に入る。

 中をこうこうと照らす、オレンジ色の光。火炎魔法と光魔法の複合魔法かと思って触ったら、熱かった。けどやっぱり、火炎魔法とはどっか違ぇんだよ。

 ダメだ! 俺に分かるのはここまでだ! 高等すぎてついてけねぇ!

 てゆーか、暑ぃ! 息苦しい!

 やべぇ、俺死ぬ! 死んじゃう! 一生こたつから出られなくなって、じっくりコトコト死んじまう!

 これがこたつむりってヤツか!?

 死因、こたつむり。

 ……ダセェ! 超ダセェ!

 ちくしょう、布団どけえええぇぇぇ!

 こたつむりになんかなってたまるかと、必死でこたつから顔を出し、新鮮な空気を吸う。

 死ぬかと思った。まだ心臓バクバク言ってるぜ……!

 お、俺はこのまま死ぬのか……? じっくりコトコト。

 死因として考えたら、これ以上ねぇってくらい穏やかで理想的かも知れんが!

 こたつと結婚してぇ気持ちはすっげぇ分かるし、俺もできればこたつと結婚してぇが!

 ……死因、こたつむり。

 ムリムリムリムリムリ! 絶対ぇムリ!

 来月発行の最新魔法書に載る! 『この上なくアホでマヌケな死因ランキング』に初登場で堂々の第一位! やったね!

 イヤアアアァァァ!!

 てゆーか! 俺らの目的は魔王退治! じっくりコトコトこたつむりされに来たんじゃねぇんだよ!

 すっかり忘れてるけど!

 あ、でも魔王と戦わなくていいならそれでいいや。

 ……ハッ!?

 ま、まさかこれが魔王の正体だったりしねぇよな!?

 歴代の勇者様は、これに勝って来たってぇのか!?

 何つー人非人!

 でもこれに勝てるくらいの圧倒的な力を持つなら、勇者様と認めてやらなくもねぇ!

 ついでにあがめたてまつってもいいぜ! 今ならお買い得! さあどうだ!

 魔王って、強ぇ魔物を一瞬で焼き殺すとか、言語の壁を考えずに世界征服するとか、ちょっとしたミスでも部下をバリバリ食うとか思ってたけど、本当にとんでもねぇのな!

 別の意味で!

 それにしても、まったりとしてしつこくなく、それでいて濃厚な食われ心地。

 帰りてぇけど帰りたくねぇ……。

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