第8話 変態騎士と謎の騎士。
みんな黙って洞窟の中を進む。
順番は前からパーズ、俺、ラルド、姫、ファイ。
ファイはパーズの傍に行きたがったが、挟み撃ちを考えると、今の並びが一番いい。
薄暗くなって来たところで、ラルドが袖ポケットからランプを出して、みんなに配る。
前から気になってたんだけど、コイツの服ン中って、どうなってんのさ? 明らかに容積おかしくねぇ? 誰かコイツの服を剥いでくれ。
火炎魔法で、みんなのランプに火を点ける。
周囲を照らすと、壁も天井も堅い岩盤をくり抜いたみたいになっていて、ちょっとやそっとじゃ崩れる心配はねぇだろう。ここなら、爆発魔法を使ってもいいと思う。やんねぇけど。
それと、入口の大きさからは考えらんねぇくらい狭ぇ。剣を振り上げたり振り抜いたりしたら、間違いなく天井か壁に弾かれる。
もしここがドラゴンの巣だったら、絶対ぇ入りたくねぇな。
「……! みんな止まって! ってうわぁ! ちょ、潰れるー!」
玉突き事故発生。親亀の上に子亀ならぬ、パーズの上に俺、俺の上にラルド。
……安らかに眠れよ。
「…………ん」
「おわッ!?」
ランプの明かりに照らされて、黒いブーツが見える。びっくりしたー。
と、ソイツはしゃがみ込んで、俺たちをしげしげと眺めた。
真っ黒な艶消し鎧と肌触りがよさそうな服を着込み、腰には金細工が施された剣を差している。
パーズも黙っていればモテるイケメンだけど、それと比べるなんて恐れ多い。整いすぎて逆に恐ぇ。
茶髪は肩で切り揃えられ、体格はパーズよりもがっしりしている。脱いでもすげぇコトになってそう。
全体的なイメージは、正統派の騎士だ。着ているものがいいからか、何か強そう。
身近な騎士がアレだから、ついつい見比べちまう。
そんな男が、無表情なまま小首を傾げた。
「…………大丈夫?」
取り敢えずは心配しているらしい。悪いヤツではなさそうだ。
「おぉう、済まんの。すぐどく」
不意に背中が軽くなる。俺もパーズの上からどいた。
パーズは汚れた鎧を丁寧に払って取り繕う。そして男を見据えた。
「…………なに」
男が立ち上がって尋ねる。くそっ、結構背が高い。
神様とやらは不公平がお好きらしい!
しかもよく見ると、ブーツで底上げされてる。ただでさえ高い身長をこれ以上高くして、天井にぶつかっても知らんぞ。
「何って、ちょっとこの奥に? だよね?」
「俺は帰りてぇから聞くな、ボケ」
「…………そう」
「君こそ、何でここにいるの?」
「…………」
あ、黙った。
パーズがすげぇ困ってる!
「えーっと、じゃあ、この奥に魔王はいるんだよね?」
「…………いる」
「よーし、帰るぞてめぇら!」
「死になさい」
「ごめんなさい!」
ちくしょう! ボスからは逃げらんねぇのか! 泣きそうだよ、俺!
てか、今、姫が死ねっつったよな!?
「いるにはいるんだね?」
「…………そう」
ちょっと冷静になろう、俺。
姫ならそんなコト言わねぇ……はず。
うん、断言できねぇな。
「僕たちは魔王に用事があるんだ。悪いんだけど、案内してくれるか、そこをどいてくれないかな?」
「…………」
よし、冷静になった。
姫は死ねとは言ってねぇ。
これで行こう。
でもって、いつの間にか話が進んでた。
奥に向かって歩き出す、謎の騎士。
「案内してくれるみたい。行こう」
「帰りてぇ!」
「惨たらしく死になさい」
「行かせていただきます、ちくしょうめ!」
どうやら聞き違いじゃなかったみてぇだ。
国に帰って公開処刑されたらどうする、俺!
そんな俺をよそに、謎の騎士は一定速度で歩みを進める。
「カッコよくない?」
「ええ。整った顔立ちは、王室騎士隊長の中でもトップクラスだと思います」
ファイと姫は、すっかり謎の騎士が気に入ったようだ。
女の子らしい会話で盛り上がっている。
何かムカムカして来た。
「うぅっ、ジスト君、僕もかっこよくなるべきかなぁ……?」
あ、コイツ、マジ泣きしてる。
変態を直すって選択肢がねぇ時点で、勝ち目ねぇと思うぞ。言わねぇけど。
「……大丈夫?」
振り返った謎の騎士が、パーズを気遣う。
逆効果なんじゃね?
「僕は君に決闘を申し込む!」
そら見ろ!
「…………大丈夫?」
「俺に聞くなよ! 指差さない! 困った顔もしない! しょんぼりもダメ! ああ、もう! 早く前向いて案内しろ!」
「…………わかった」
「パーズは私闘禁止! 手袋投げ付けない! ファイに勝利を誓わない! 何とかの証とやらをしまう! 手袋拾ってさっさと進め!」
「ジスト君! これは騎士同士の神聖な戦いなんだ! 邪魔しないでくれたまえ!」
めんどくせぇー!
「ファイ、殴ってヨシ!」
「おっけー! でもその前にあんたも殴らせなさい!」
「私もご協力致します」
「いってぇー! こんちくしょー!」
なぜだか知らんが、ファイにグーで殴られ、姫に魔導書の角で殴られた。何でだよ!
もうヤダ、このパーティー! 新種の魔物にヤられたって言いふらしてやるー!