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第3話 武器庫の攻防。

「相手は魔王ですから、装備を整えましょう」

 結局、姫はてめぇの得意分野をお話しになりやがらなかった。

 その上、なぜか俺たちも魔王退治に付き合う事になったらしい。

 抗議したが、俺に拒否権はなかった。

 パーズは治安を守るため、ファイは雑魚退治に飽きたから、と快諾。

 ラルドは回復役なので、拒否権がないのは分かる。

 でも何で俺にもねぇんだ、ちくしょう!

 こっそり逃げ出そうとしたけど、無理だった。

 姫に首根っこを掴まれ、強制連行された先は、城の武器庫。

 図書館のように陳列棚が何列も続き、入口からでも半端ねぇ広さと量が感じ取れる。

 一つの棚は首が痛くなるくらい見上げる高さと、武器屋一軒分の幅がある。

 庫内を歩いていると、小人になった気分だ。

「王室騎士隊の装備には、強化のしようがない程強化を施してありますからいいとしまして」

 あ、ラルドの目の色が変わった。

 パーズの鎧にむっちゃロックオンしてやがる。

 よく色が変わる目だな、オイ。

 俺的には、袖ポケットに鎧が入る瞬間を見てみてぇが。

「そこの緑の服を着た貴方」

「わしかの?」

 必死に鎧を守ろうと逃げ惑うパーズを壁際に追い詰め、両手をわきょわきょさせながら襲いかかろうとしていたラルドが振り返る。

 その隙にパーズが逃げ出していた。

「パーズ。何ですか、その醜態は」

 変態の間違いだと思う。

「誇り高き我が王室騎士隊隊員が、聞いて呆れます。減給するので、反省文の提出をしなさい」

 実によく減る給料だ。

 むしろまだ減る余地があるなんて。

「緑の服の貴方、職業は何ですか?」

 子犬のフリをした気持ち悪ぃパーズを振り返りもせず、姫。見捨てられたパーズは、ファイに殴られた。

「自己紹介がまだでしたの。わしは僧侶のラルドと申すのじゃ」

「そうですか」

 若干すっきりした顔のファイが、手を挙げる。

 嫌な予感しかしねぇ。

「因みにアタシも僧侶でーす!」

 因まなくていい。

 しかもただの自称だろ、それ。

「貴女には聞いていません。お黙りなさい」

 凛とした声とつっけんどんな態度に、ファイが硬直した。

 あからさまに唇を尖らせる。

「何ソレ。感じ悪ーい」

 てめぇも相当感じ悪ぃよ。

 真っ正面から悪口を言われた姫は、むちゃくちゃキレイな笑顔を浮かべる。

 俺たちよりも年下だろうに、迫力と言うか威圧感と言うか、変に恐ぇ。

「悪口を真正面からぶつける潔さは気に入りました。流石は私の民です」

 気に入ったんかい。

 てゆーか、民に何を求めてるんだ、この姫は。

 明らかに敵意を向けられているのに好意を持つなんて、大丈夫か、この国。

「気が合いそうね」

 合わねぇよ。

「そうですね」

 否定しろよ。

 誰がどう見たって犬猿の仲じゃねぇか。

 パーズを取り合って内戦起こしかねねぇくらいの。

「貴女の衣装は後でじっくり吟味致しましょう。それで、ラルドの装備ですが……」

 姫はパーズを連れて、何かを探しに行った。

 時々パーズに指図する声が聞こえる。

「いい姫様だね」

「遂に壊れたか? いい魔導師紹介するぞ」

 ころりと態度を変えたファイに、思わず本音が漏れる俺。

 当然のように問答無用で鉄拳制裁された。

 少しくらい問答させてほしい。

「殴るわよ?」

 それと、その台詞は殴る前に言うべき台詞だ、バカ。

「ファイ嬢よ。殴ってから言うのは、どうかと思うぞい」

 たしなめるのはソコじゃねぇだろうが!

 あーもー、どいつもこいつも揃いも揃って、アホの品評会に出してやる!

「あらごめん、無意識だったわ」

「ナチュラルに殴んじゃねぇよ……。いてぇ」

 殴られた後頭部をさすって、痛みを和らげる。

 あ、こぶができてるし。

 これもう事故レベルじゃね?

「たんこぶでもできたかの?」

 頭をさすっていると、ラルドがふむと唸って、回復魔法をかけてくれた。

 風に吹かれるように、痛みが消えていく。

 月の回復魔法をかけられたら、どんな感じがすんのかな……。

「さんきゅー」

「うむ」

「このお馬鹿!」

「がふっ!」

 ラルドが鷹揚にうなずいた、その時。

 姫の声と、分厚い魔導書の角のような物で殴る音、それからパーズが石の床にめり込む音が聞こえて来た。

「あんっあんっ、レキサ様、ぱんつ見えますよ?」

「お黙りなさい、変態! 貴方は私の足拭きマットになっていればいいのです!」

「はぁぁん! もっと踏み付けてぇぇん!」

「あんのエロ……!」

 ファイがすぐさま音源へ駆け付ける。

 俺たちも後を追った。

 そこには、辞書レベルのゴツい魔導書を手に、ジト目をくれながら何度も踏み付けている姫と。

 頭を石床にめり込ませながら、踏まれて喜ぶパーズの姿があった。

 ……OK、想定内。

「まったく。主君の下着を見るなんて、とんでもない王室騎士隊隊員がいたものですね」

 やっぱりか。

 無言で近付いたファイが、パーズに跨がる。

 一瞬、とても王室騎士隊隊員とは思えねぇ、欲望丸出しの表情で振り向いたパーズ。

 すかさずファイの一撃が顔に打ち込まれた。

「きゃん! ごめんよ、ファイ君!」

「いいえ。ちっっっとも気にしていないわ?」

 そう言いながらヘッドロックをかけるファイには、許す気配がこれっぽちもねぇ。

 最初こそ「おっぱい、おっぱい!」などと超喜んでいたパーズだが、そのうち「ギブギブ!」に変わり、終いには静かになった。

 武器庫につかの間の平和が訪れる。

「ラルド。貴方にはこれをお貸しします」

 そんな二人を豪快スルーする姫。

 手には紅い小箱を持っている。

 飾り気はねぇけど、一目で高級品と分かる箱だ。

「回復魔法の威力を高める、翡翠の指輪ですよ」

 なるほど確かに、小箱の中には緑色の指輪があった。

 ラルドに指輪を渡した姫は、次に俺をじっくり観察する。

 俺の装備は、幻覚効果のある霧を発生させる杖と、手の生えた魔導書、ごくごく普通の魔法書に、それから平凡な魔法使いのローブ。

 どっからどう見ても、魔法使いにしか見えねぇ格好だ。

 変わったトコっつーと、金髪に紫の瞳をしてるってトコくらいだな。

 だけど、観察し終わった姫は、深々と溜め息をついた。

「はぁ。攻撃力に望みがない上に、センスのかけらもありませんね」

「前はあの杖を使ってたんだよ」

 ラルドが持っている杖は、実は俺がこの間まで使ってたヤツだ。

 赤い宝石に火トカゲが二匹、へばりついていて、デザインはもちろんだけど、その威力がお気に入りだった。

 いつの間にか失くなってて、いつの間にかラルドが愛用しているだけで、紛れもなく俺のモンだ。

 ま、今の杖も気に入っちゃいるけど。

「事情は大体把握しました。ですが、せめてその服を何とかなさい」

「何とかっつってもなぁ。これ以上強ぇ防具もねぇし、外見重視にすると防御力少ねぇし。どうしろっつーの」

 そもそも、魔法使いってのは頭脳派だかんな。

 体力は一般人とあんま変わんねぇ。

 いや、中には戦士系並のヤツとかいるにはいるけど、それはそれ、これはこれ。

「そうでしたね。これは失礼致しました」

 姫はドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。王族らしい、気品に満ちた動作。

 案外、根っこは悪くねぇのかもな。

「お詫びと言っては何ですが、いいローブを見繕って差し上げましょう」

 ツカツカと歩き始めた姫の後を追う。

 パーズは死んでるが……まぁ、いいか。

 いくつもの棚を通り過ぎ、棚の内容が武器から防具に変わる。

 クローゼットのようにローブが陳列されている服屋でも、こんなに綺麗にこんなにたくさんの服を扱っている店は、そうそうねぇだろう。

 一つ一つに魔力がこめられているのか、まるで魔法の中にいるみてぇだ。そのどれもが洗練されてて、個々の魔力として存在しているのもうなずける。

 普通は、種類の違う魔力がこめられている物を近くで保管していると、魔力が移ったり、最悪混じって使い物にならなくなる。

 イメージとしては香水だな。

 ここの物は全部、丁寧に保管されている。

 その中の一つを、姫が取り出す。

 手に取らなくても分かる魔力。これは防御系と風系の混合か? 表面には防御系の魔力を宿し、内面には風系の魔力を宿してる。

 淡い紫色の生地に、細い金糸でドラゴンの刺繍が施された、高そうなローブだ。値は張るだろうが、相応以上の質と見て、間違いない。

「これは……?」

 確認のため、一応聞いてみた。

「一般的な生地より、薄くて軽い物を使用しています。ドラゴンを形作っている糸には、高度な防御魔法がかけられていますので、生半可な攻撃なら弾くでしょう」

「やっぱりか。これを俺が着てもいいのか?」

「構いません。誰にも使われる事なくここで朽ちて行くよりは、作者も本望でしょう」

「よかったじゃない。今のローブより、断然センスいいよ、それ」

 色合いと言いデザインと言い、全くもってその通りだと思う。

 控え目だけど上品で、宮廷魔導師が着ててもおかしくない風格がある。

「俺に似合うか? コレ」

「良い服は、着る者を選びません」

「んじゃ、着てみるわ。試着室とかあんの?」

「パーズ。案内なさい」

 姫が手を打ち鳴らすと、パーズがスッと足元に跪く。

「おお。お前、そうしてると騎士みてぇだ」

「失敬な。僕は騎士だよ」

 騎士だけど、その前に変態が付く方な。

 全国の真っ当な騎士のみなさんに謝れ。土下座しろ。

「黙れ変態」

「あきゃっ」

 ファイに尻を蹴られて喜ぶパーズ。

 イケメンタイムは終わったらしい。

「パーズ。遊んでいないで、早く試着室に案内しなさい」

「はいっ、ただ今! 試着室はこっちだよ」

 パーズに案内された部屋の隅に、試着室はあった。

 防具屋とかでもあるにはあるんだが、規模が違ぇ。

 宿屋の一室くらいの広さはあるな。

「はい、じゃあローブ脱がすよー。両手挙げて」

「何でてめぇが同席するンだよ」

「決まりだから仕方ないでしょ。僕だって、ジスト君よりファイ君を脱がしたいよ」

 そう言いながらも、パーズに慣れた手つきでローブを着替えさせられた。

 一人でも着替えられるんだがなぁ。

「ん、よく似合うよ、ジスト君」

 どこからか、大きな鏡を持って来た。

 備え付けとけよ。血税の無駄じゃねぇか。

 それにしても、スゲー着心地がいいな、コレ。

「何か、癒されるわー」

「良質な魔力だから?」

「かも知んねぇ」

「触ってるだけで気持ちいいもんね」

 なぜだか知らんが、コイツが言うと妙にエロい。なぜだか知らんが。

「ジスト君って、時々僕をケダモノを見下すような目で見てるよね……」

「変態の間違いだろ。行くぞ」

 まだ何か言いたげなパーズを置いて、試着室を出る。

 新しいローブは今までの物より軽く、まとわりつく感じもない。

 似合う似合わないは別として、これはなかなかいいな。

「お気に召したご様子ですね」

「あら、意外と似合ってるじゃない」

「そうじゃの。そうしていると、宮廷魔導師みたいじゃな」

「いや俺、中級までしか使えねぇし」

 評判は上々のようだ。

 まぁ確かに、何かすげぇ魔法が使えそうな気が……。

「って、きめぇ!」

 ふと魔導書を見たら、嬉しそうにうにうに動いていた。

 思わず投げちまったが、魔導書は床に着く事なく浮いた。

 魔法を使える余力ができたらしい。

「さて、お次はファイと言いましたか。貴女の服を見繕いましょう」

 再び豪快スルーする姫。昨日、魔導書の角をお見舞いしたヤツと同一人物とは思えねぇな。

「ファイ君、ファイ君、キミはこれなんてどかーん!」

「死ね! 地の果てへ行って、独り寂しく死ね!」

 どこからかパーズが布きれ……じゃねぇ。えっちな服らしき物を持ってファイに特攻、瞬殺された。

 蹴られててめぇで効果音を言うのは、コイツだけだと思う。

 取り敢えず祈っとこっかな。化けて出ませんよーに。

「じゃあメイド服」

「却下よ」

「せめて今より丈が短いスカートを!」

「間に合ってるわ」

 魔法書の訪問販売を断るノリで断られてるし。

「つーか、今より丈が短ぇって、それってスカートなのかよ?」

 ファイはホットパンツをはいているから、完全にパンツ見えるだろ、それ。

「布ね」

「布ですね」

 ファイと姫の声が綺麗に重なった。

 俺もそう思う。

「だって、今のパンツじゃ、ぱんつが見えないじゃないか」

「死ね。今すぐに」

「きゃん!」

 もう黙れよ、てめぇ。

「水色ストライプ!」

「アンタの大好きないちごぱんつよ!」

「いちごかあああぁぁぁ……」

 パーズは星になった。

 合掌。

 どっかに隕石が落下したけど、放っとこう。

 結局ファイは、青い軍服を選んだ。

 紺色の長い髪を綺麗にまとめ、斜めにかぶった帽子の中にしまいこんでいる。

 ゴツいコンバットブーツは紺色で、真っ青の紐がいいアクセントになっている。

 そんな青の中、炎のように燃える真っ赤な瞳が、印象的だ。

 一見すると男に見間違われそうなほど、ファイは凛々しかったし、軍服もこれ以上ねぇってくらい似合っていた。

 けど、胸の主張が強く、ボタンがはち切れそうだな。

 ふと姫を見ると、自分の胸を見ていた。話では俺より年下っぽいし、これからに期待ってトコか。

「あぁ、ファイ君。どうしてヒールの高い靴をはかないんだい?」

 ファイの姿を見て力尽きたパーズが、床に這いつくばったまま聞く。

 割とどうでもいい。

「そんなにヒールがお好きなら、私が踏んで差し上げます」

「きゃう!」

「いい声で鳴きますね、パーズ。これはどうですか? ほらほら!」

「はあああぁぁぁん、きっ気持ちいいです、レキサ様あぁん!!」

 変態をぐりぐりと踏み付ける姫は、とっても生き生きしている。

 Sだ。

 生粋のドSだ。

 一方のファイは、面白くなさそう。

 むすっとして、どこかへ立ち去った。

 と思ったら、ロープを手に戻って来た。

 中央の柱へパーズの手を引き、連れて行く。

 何かを察したのか、パーズは汗だらだら。

「ファイ君。確かにレキサ姫様のヒールは気持ちよかったけど、僕はキミに踏んでほしい」

「そう」

「だからお願いだ。ヒールの高い靴をはいてくれ。僕のために」

「そう」

「そしてそれで僕を気の済むまで踏み付けてほしい!」

「そう」

 不様にお願いしている間に、柱の一部になった。

 不格好なオブジェだな。

 当の本人は、少し鼻息が荒くなっている。

 縛られて興奮して来たらしい。

 変態め。

「ファイ君、怒ってる?」

「いいえ」

 言葉とは裏腹に、絶対零度の声で返すファイ。

 まぁ、他の女とイチャイチャしているのを見せ付けられてちゃ、気分はよくねぇよな。

「それじゃあ、何で僕を柱にくくり付け……ハッ!? これはいけないプレイなんだね!?」

 何だよ、いけないプレイって。

 明らかに十八禁レベルの口ぶりだよな?

 ファイはと言うと、どこからか拝借した布で、パーズに目隠しをした。

 いやそれ、そう使うモンじゃねぇし。

「あぁ。ファイ君、何をしてくれるんだい? すっごく興奮するよ! レキサ姫様が御覧になっているのに、キミは何て大胆なんだ。でもそんな所も大好きだよ」

 ケダモノを見下すような目で見ている姫を、てめぇに見せてやれねぇのが残念だ。

 俺たちは満場一致で、パーズを武器庫に放置。

 出て来れねぇように鍵をかけた。

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