最終話 粋な土産。
混浴しようと言ったパーズが、地味に散ったり。
女子が脱いでるトコを覗こうとしたパーズが、フツーに散ったり。
女湯に侵入しようとしたパーズが、ド派手に散ったりしたが、概ね平和だった。
……学習しろよ、てめぇ。全国のパーズファンのみなさんに言いつけちまうぞ。いるか分かんねぇけど。
翌朝。
ロープでぐるぐる巻きにされたボンレスハムことパーズが、女部屋の前に捨てられていた。
イッちゃってる顔してるし、自業自得なので、丁重に放置して差し上げた。ありがたく思え。
朝食はみんなで食べた。パーズがちゃっかり着席している不思議。
平和すぎて、何だかなぁ……。
魔王様は寂しがりなのか、また俺たちがここに来ると聞くと、いつでも来てくれと言った。勿論ラズりんに、看板は立てるなとしつこく説教された後で。
「オレも来ていいですか?」
「あれ、あんたまだいたの?」
「しくしく……」
「うわぁ、しくしくとか自分で言っちゃうなんて気持ち悪ぅー」
すっかり忘れてたけど、勇者様もまだいたのか。ファイの容赦ねぇツッコミに撃沈したし。
「コイツのこのツッコミに堪えられねぇなら、うちのパーティーはムリだな」
昨日のごたごたを思い出す。
石像王子を戻すんだって話をしたら、ついて来るっつって。
最低限、ルー・ガルーを一撃で倒せねぇと厳しいと条件を出したら、まさかの未遭遇。
どうやらやりすごしたらしい。
「勇者様なので優しくしていただけるとか、ちやほやしていただけるとか、そう言った優遇制度はないんですかー!」
「あるわけねぇ! どんだけ甘ったれなんだ、てめぇは」
「ごめんなさい、ごめんなさい、生きててごめんなさっ!」
噛んだ。
一事が万事、こんな調子。
あーもー、めんどくせぇー!
せぇい!!
「んー! ん? んんー! んんんー!」
あ、沈黙魔法にあっさりかかってやんの。
「勇者様って、案外弱っちいのな?」
「勇者様の産地には、スライムくらいしか出ないって聞いたよ。魔法が使えない魔物ばかりだから、耐性がないんじゃないかな」
なるほど。
いきなり背後から、攻撃魔法を当てられたりしねぇのか。
「使えねぇ。そんなお荷物いらねぇよな?」
「そうですね、世界レベルの方向音痴だそうですし」
実は勇者様、迷子になったので道を聞こうとしたらしい。
迷子なのに洞窟入るなんて、自殺行為じゃね? 迷子の自覚はあんのか?
「んんー! んー!」
「ラズりん、コイツを産地に返品してくれ」
「…………ラズリ」
「ラズりん、勇者様を御自宅へ送って差し上げろ」
「……御意」
魔王様の命令は聞く、ラズりん。
きゅるるっと一声、鳥のように鳴くと、そこには昨日遭遇した青いドラゴンがいた。
ソイツは勇者様をくわえて去る。
これってもしかして……。
「草原で遭遇したドラゴンって、ラズりんだったのか」
「そうだ。だから小生が少しだけ、本来の姿を取り戻せたのだ。流石にあの短時間では、喋るだけで凄まじい魔力を消費したが」
「今は大丈夫なのか?」
「ああ。数日は持つし、魔王が召喚されれば魔力を補充出来る」
恐ろしい事に昨日、姫は魔王様と召喚契約を交わした。
まぁ、半ば騙す感じだったけど。
……やっぱり偽物じゃね?
あと、本人の希望で、ンクルは姫の所有物となった。俺が持ってても使えねぇしな。
「おぉ、そうだ! うぬらに土産を渡さねばな!」
とっても今更だが、思い出したように魔王様が懐をごそごそ漁る。
「うわぁ……、綺麗ー」
「粒もすごく大きいね」
「なかなか良い物です」
「高く売れそうじゃの」
「バカ、もったいねぇ」
魔王様が俺たちにくれたのは、掌に収まるくらいの、でっけぇ宝石。
パーズにはトパーズを。
ファイにはサファイアを。
ラルドにはエメラルドを。
レキサにはアレキサンドライトを。
そして俺には、みかんを。
今まで見た事ねぇくらい、つやっつやのみかんだ!
何て美しい! 目が潰れちまう!
まぶしいくらいのみかん色! 太陽みたいだぜ!
これぞまさしく、俺が求めていた究極のみかんッッ。
いや、これはきっと、アメジストだ。
みかんのフリしたアメジスト!
ほら、よく食卓でプリンに擬態してるアレ的な何かだ!
皮を剥いたら、でっけぇアメジストが……。
「…………」
皮を剥いたら、皮。
いやいや、実はこれを剥いたら……皮でしたが何か?
ご丁寧に、キモい顔まで描かれている。ヘタウマ。
「…………」
「あたっ」
泣くぞ、コラ。
みかんDEマトリョーシカを、魔王様に力一杯投げ付けてやった。
全身みかん色になっちまえばいいと思うよ!
「済まぬ、こちらだったな」
ようやく、俺の手にアメジストが収まった。
「うぬらの名前を聞いた時、土産はこれしかないと思ってな!」
「魔王様、ステキーッ! アタシと結婚してー!」
「はっはっはっ、喜んでくれて何よりだ! が、余は結婚しておるぞ!」
「それでもいいわよ! 全然いい!」
「ファイ君!? 魔王様、僕と勝負だ!」
この世界、今日も今日とて平和である。
きっと、この魔王様が生きている限り。