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第12話 魔王とドラゴン。

 まだ耳がびりびりする。そのくらい、ラズりんの雄叫びはデカかった。他のみんなも、魔王様とンクル以外は耳を塞いでる。

 溢れ出た魔力が、暴風となって吹き荒れる。

 竜人は自分に向けられた魔力を、吸収して蓄える事ができる。魔法攻撃や、武器に秘められた能力であっても、吸収できるらしい。

 当然なんだが、蓄えておける量には限りがあって。

 それを超えると、竜人は自分の命と体を守るため、狂えるドラゴンになって破壊活動を始めるんだそうだ。

 その最初の段階が、魔力の解放。入り切らなかった分を放出する。

 俺と姫と魔王様は、対魔法攻撃用魔法障壁を展開したからすぐには飛ばされなかったけど、その他のヤツは豪快に飛ばされた。

 で、何で俺が飛ばされてるのかってぇと。

 障壁が数秒で解けた上、イイカンジに山になったみかんに襲われたからなんだな、これが。

「いたたたたた! 魔王様のバカ! みかん投げすぎ!」

「みっみかんが凶器になっておるぞ!」

「きゃっ! いったーい!」

「ファイ君!」

「その、何だ。……済まぬ」

 前代未聞、魔法みかんの嵐。俺たちはなすすべなく、大ダメージを負った。

 くそ……! 魔王様をみかんの投げすぎで呪ってやる! 七代末まで祟ってやるからなーッ!!

 草原で遭遇したドラゴンより、一回りも二回りも大きい体。光を呑み込む真っ黒な鱗は、扉に描かれたドラゴンにそっくりだ。

 ルビーのような真っ赤な目が大きく見開かれる。焦点が合ってねぇ。

 口から溢れる粘液で、大理石の床が溶ける。酸性か……。

 ……もう絶滅しちゃえよ、マジで。

 ちなみに、みかんは溢れる魔力に堪えられず、爆ぜている。

 シュールだな、オイ。

 魔王様ンちでこたつとナベを堪能するのもありえねぇが、みかん漬けにされるってのもどうかと思うぞ、俺は。

「レキサ姫様!」

 パーズの叫びに我に返る。

 この暴風みかん乱舞の中、姫は何事もなく立っていた。姫の傍にンクルの姿がある。

 二人とも、障壁を展開中だ。

「貴方にも限界があるのですね」

「当然だ。人間だからな」

「後どのくらい、吸収できそうですか?」

「二分も持たん」

 会話の内容と状況から察するに。

 ンクルの活動力として、ラズりんが放出している魔力を吸収しているらしい。

 これは、魔王様の力がそんだけすげぇのか、それとも単にンクルがへっぽこなのか、判断に迷うな。

「打開策はありますか?」

「蓄積した魔力を全て放出させるか、気絶させるかだ。前者はどのくらいかかるか分からん。後者はラズリの耐久力から言って、かなり厳しい条件だ。死闘は免れない」

「本当に厄介ですね……」

 ……死亡フラグじゃねぇか。

 ドラゴンとでさえ勝ち目ねぇってのに。

 そんな絶体絶命のピンチを救ったのは。

「ラズりん、済まなんだ……!」

 魔王様渾身の――巨大みかん。

 いい加減みかんから離れろっつの。

 おまけに、そこかしこに飛び散ってるみかん汁でみかんを作り、巨大みかんに重ねた。

 食いモンで遊ぶんじゃねぇよ。

 もう、何なんだ、この戦い!

 巨大みかんに潰されたラズりんは、余分な魔力を放出して縮む。

 何か、紙風船みてぇだ。

 そして。

 ――ぷちり。

「潰れてねぇ?」

 巨大みかんに潰されたっぽい。

 魔王様は慌てて、巨大みかんを小さな無数のみかんにする。

 いや、消せよ、そこは。

 みかんの山を掻き分けて、潰れたラズりんを救出する魔王様。

 だから消せよ。出しっぱなしかよ。

 ものっそいみかん臭になったラズりんは、人間の姿に戻って気絶していた。

 みかんが邪魔だっつの。

 ラズりんって、すげぇ頑丈なのな。ドラゴンだから当たり前か?

 少なくとも、大量のみかんがある光景は、当たり前じゃねぇとは思うが。

 再び気絶から目覚めたラズりん。

「…………魔王!」

 嬉しそうに魔王様をぎゅっと抱き締める。

 みかんのせいで、感動的シーンが台なし。

「いやあ、やり過ぎてしまったな。失敗失敗。てへっ。みなの者、風呂に入って行くがよい」

「言われんでも入るわ、ボケェ!!」

 俺の叫びと共に、姫の魔導書の角がダブルで魔王様の後頭部に炸裂。魔王様が昏倒し、ラズりんは慌てた様子で揺する。

 こうして、プチみかんパニックは去った。

 教訓。

 みかんは武器にしない。

 大惨事になるから。

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