第1話 問題児集結。
一日の終わり、宿屋で反省会みてぇなのをする。主に、仲間の非常識な行動について。
酒場じゃダメだ。俺は未成年だし、うるさくて話し合いどころじゃねぇ。
今日発売されたばかりの魔法書を読みながら、杖についている宝石の手入れをする。杖本体や荷物はベッドの上。
暗黙のルールってヤツだ。その辺に置いとくと、絶対ぇ失くなっちまう。
曇り一つもなくなった、丸いアメジスト。中でドアが開くのが見えた。
黒い髪を右肩で束ね、前に垂らしている。深緑の奇妙な服(キモノと言うらしい)を着て、キャベツ色の布ベルト(帯だそうだ)で前がはだけねぇように締め付けている。顔立ちはまぁ、可もなく不可もなく。でも、この奇妙な出で立ちにはよく似合っている、渋い顔だ。口調も年寄りくせぇから、俺は三十路だと思っている。
問題児その一、ラルドだ。
パーティー内の紛失事件の犯人でもある。
自他共に認める僧侶で、唯一の回復役なのが憎い。
戦闘時には、対物理攻撃の魔法障壁を展開している俺を盾にしやがるのが、余計憎たらしい。
「見せろよ」
「うむ」
今日一日で何が増えているのかを確認するのが、もう習慣になっている。
ポケットのような袖からは、実に様々な物が出て来た。
財布が六つ、キラキラしたアクセサリーが十数個、小銭がたくさん。
カラスか、てめぇは。
小銭以外は持ち主に返すため、俺が預かっておく。
小銭は宿代とか食事代とか。
「そっちはどうだったかの?」
「とか言いながら、一番価値のありそうな魔導書を盗ろうとすんじゃねぇよ、ボケが」
「おお済まぬ」
手を引っ込めたラルドには、全く悪びれた様子がねぇ。
済まぬじゃねぇだろ。
魔導書はと言うと、相変わらず。封印されているのは誰だか知らねぇが、魔力で形成された人間の左手を、わきょわきょと動かしている。どうやら暇を持て余しているらしく、手遊びをしているつもりらしい。
価値はあるんだろうが、不気味だ。
それだけだったら、墓地でも地下でも置いて来てやるが、ごくたまに見た事もねぇ魔法を使って、戦闘を助けてくれる。
この魔導書も、ラルドの身体検査で出て来た物だ。魔導書を持つのは魔法使いって事で、俺が預かっている。
ただ、預かった当初よりも手が出て来ているような気がすんだよな。
封印されているヤツが何なのか知りてぇし、封印を解いていいのか分かんねぇし、そもそも封印が解けんのかってのも分かんねぇし。
……なんて理由じゃねぇ。
まぁ、ぶっちゃけ、持ってて気持ち悪ぃってのが、この国一番の魔導師に見てもらった理由だ。
魔導師が手にした途端、魔導書はにゅるりと右手を生やした。テンパった魔導師は、思わず持っていた分厚い他の魔導書の角で、生えた右手を殴った。俺も持ってたら絶対ぇ殴ると思う、角で。
殴られた右手をさすりながら、左手が回復魔法を使ったのを見て、俺たちは顔を見合わせた。僧侶が使う回復魔法とは、明らかに根元の力が違っていたからだ。
「わしらは風の力を借りておる」
「コイツは月の力を借りてたぜ。月の力を借りる回復魔法は、今はもう使われてねぇ、古代の魔法だ」
魔導師もそれを知ってて、何かに思い当たったんだろう。
明日また予定を空けておくから来てくれと言われた。
上から目線で。
「上から目線で?」
「ああ。『明日、予定を空けておきますから、また来なさい』ってな」
「あはは、レキサ様らしい」
う。来たな。問題児二号め。
ドアを振り返ると、ヤツがいた。
風になびく程度の短髪は琥珀色で、切れ長の瞳は焦げ茶色。王室からの支給品だと言っていた鎧は磨き上げられ、今日も綺麗な鏡面仕上だ。針の先で掻かれたような模様が、華を添える。顔はイケメンと呼ばれる部類。
なのだが、それらを帳消しにしてもなお手に負えない性格をしている。黙っていればいいのに残念だ。
変態を変態でコーティングした変態、パーズ。
ちなみに俺はコイツが王室騎士隊隊員だとは信じていねぇよ。だって変態だし。
「姫って、いつもあんな感じなのか?」
「いつもより優しい方だよ」
そう言って、パーズは姫――この国一番の魔導師――から、普段どんな扱いを受けているのか、興奮気味に語り始めた。
変態話に興味はねぇんだけど。
右耳から左耳ヘ突き抜けて、どっかで行方不明になっているその内容は、多分一般人にはどこが萌えポイントなのか理解できねぇと思う。
「この間の爪先ぐりぐりはよかったなぁ……」
ぐりぐりされてちぎれとけばよかったのにな。
「ふーん、大層なご身分ね?」
「おぶぅ!」
突然、パーズがドアごと吹っ飛んだ。俺の脇を視認できねぇスピードで横切り、壁に上半身を食われて止まる。
第三の問題児が――。
「誰が第三の問題児よ!」
「ふぬぉーっ!?」
視界が急激に変わる。
気付いたら、床と濃厚なキスをしていた。ディープキスってヤツだ。
俺はノーマルなんで、床なんぞに熱烈なアピールをされても困る。大いに困る。
どうやら俺は、ファイに背負い投げされたらしい。
「てめぇな。俺のファーストキスを返せ」
「あら、床も彼女にカウントするほどモテないの?」
何とか壁から脱出したパーズを、ドアと床で挟み、ファイ。サンドイッチみたいだ。
「うっせぇ。万年バカップルに言われたかねぇし」
「心外ね。バカはパーズだけよ」
ファイはサンドイッチに座った。
ファイの目は据わった。
相当怒ってるな、コレ。
「あぁっ、ファイ君っ。キミの椅子になれるなんて、僕は何て幸せ者なんだろう! 僕の夢が一つ叶ったよ!」
その夢は跡形もなく砕け散るべきだ。今すぐに。
明日また行かにゃならんと告げると、ファイはさっさと帰ってしまった。
まだ夢見心地のパーズを残し、俺たちも自宅に帰る。
ドアと壁の修理代っていくらすんのかな。