闇市
「おはよー。朝だよ二人共。いつまで寝てる気ー?」
事務所のキッチンから溢れるいい匂いで目を覚ます。
「あっ!!おじさんオムライス作ってくれたの!?ミアが昨日言ってたから!?」
「いや?たまたまオムライスの材料が冷蔵庫に入ってただけだし?別にミアのためじゃないよーだ」
シアのオーラが照れ隠しの薄いオレンジ色に光る。
「素直じゃないなー。さ、ご飯食べてノワくん見つけに行こうか」
「うん!!」
「ご飯食べたら一旦知り合いの情報屋の所に向かうよ。ちょっと値段は高いけど、月煌街で起こったことは何でも知ってるからさ」
シアのオーラが仄暗く光る。
また灰色…。この色がどんな感情を指すのか未だに分かっていない。かといって本人に直接聞くのも気が引ける。
「さ、食べ終わったことだし、準備しようか」
「念のため武器も持って行った方がいいかもね」
「ノワ無事だといいな…」
ミアのオーラが心配の緑に光る。
「絶対に大丈夫とは今は言ってあげられないごめんね。でも、お姉さん達最善を尽くして頑張るから」
「うん。ミアもがんばる!」
「ほらほら準備できたなら行くよー!情報手に入れるだけじゃにゃんこは戻ってこないぞー」
Nocturneを出て裏通りを数分歩くと隠れるように建っている喫茶店に着いた。
「マスターいる?」
シアの声に反応して奥から初老の人柄の良さそうな男性が出てきた。
「おやおや、誰かと思えばシアくんですか」
「いつも通りシュガースカッシュで。今日は三人分よろしく」
「それ美味しいの?」
「ふふふ。シアくん、二人をいつもの部屋に案内していてくれるかな?」
「一応僕もお客さんとして来てるんだけどなー。まぁいいけどさー。そんじゃ、行こっか」
シアはいつも来ているのかするすると店の奥に進んでいく。
店の一番奥にある重厚な扉の部屋についた。
「さ、ついたよ。さっき僕が言った“シュガースカッシュ”って言うのは情報を買いに来たっていう秘密の暗号。これでもマスターとは長い付き合いなんだ」
シアはどこか遠くの方を見ている。
「そう言えば今更だけど、ノワくんが攫われた原因って何か心当たりあったりする?」
「うーん…」
「少し待たせてしまったかな」
珈琲とオレンジジュースを持った間マスターが部屋に入ってきた。それと同時にカラフルな物体がミアの肩に止まった。
「珍しいね、その子が私以外の肩に留まるなんて」
「うんうん。えっ!ノワのこと知ってるの!?」
ミアのオーラが喜びの黄色に輝き出す。
「おや、君セラと喋れるのかい?」
「ミアね、動物さんとお喋り出来る力持ってるんだって。それとね、珍しい動物が寄って気安い体質だってお母さんが言ってたの。だからこの子もすぐ懐いてくれたんだと思う」
「なるほど。その子はシムルグという鳥だ。君が嫌じゃなければそのままセラと仲良くしてほしい」
「はい!」
「それで、君が例の異世界人だね?」
マスターがギョロリと私を見る。マスターのオーラは心配の緑だ。
よかった。怒っているわけではないみたい。
「はいそうです。あの、私ここに来ちゃいけませんでしたか?」
意を決して口を開く。
「いや別にそういう決まりはここにはないよ。ただ、珍しいお客さんが来たものだと思ってね。さて、話を戻そう。今日はどんな情報をお探しかな?」
「昨日月煌街で起きた民家押し入り事件は知ってるか?」
「もちろん。情報は入っているよ。そこの家の珍獣が闇市でオークションにかけられる予定なのも知っているよ」
「えっ!!ノワが売られちゃうの!?」
「おや、もしかしてこの子があの珍獣の飼い主かい?」
「はい!ノワを取り戻したくてお姉さん達に手伝ってもらってるんです」
「そうか。大変だったね」
マスターが優しくミアの頭を撫でる。
「それでシアくん、これから具体的にどうするつもりなんだ?この子の為に君はどこまで賭けられるんだ?」
マスターの目が鋭く光る。
「僕がやれる範囲までだよ。とりあえず闇市に向かおうと思ってる」
仄暗いオーラの中でシアは私の知らない顔をする。
「はぁ、無理はしないでくださいね。君を心配する人はたくさん居ますから」
「たくさんね…。まぁ、死ぬ気はないから安心して」
「健闘を祈ってるよ」
マスターにお礼を言って喫茶店をあとにした。
◇◆
裏路地に広がる怪しい空気の中をズンズンと進んでいく。
「本当に喫茶店で待ってなくてよかったの?」
「お姉さん達ががんばってくれてるのに、大人しく待ってるなんてミア出来ないよ。それに、ミアは動物とお話出来るから何か役に立てるかもしれないから。危ないのはミアも分かってるよ」
「本人がそう言ってるんだし、いいんじゃない?好きにさせとけばいいじゃん。ほら、着いたよ」
闇市の中でも特に目を引くサーカス風のテント。中には明かりが灯っていてとても賑わっている。
「さて、ここからはさっきよりも慎重に行動しないとね。そんで、ここから二手に分かれる。僕は裏から侵入するから、二人は正面から参加者として探ってほしい。僕は一人の方が動きやすいからさ」
「あんた一人で大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。なるべく早く見つけられるように頑張るよ。何かあったらインカムで連絡するから安心してー」
シアが手をひらひらと振りながらテントの裏側へと走っていく。
「それじゃ、私たちも行こうか」
ミアのオーラが濃い緑色に変わる。
「大丈夫だよ。ミアのことは私が守るから安心して」
「うん⋯」
「他に心配事でもあるの?」
「ノワだけじゃない。たくさんの動物さんが助けてって。おじさんみんな助けてくれるかな?」
「大丈夫。シアならきっと助けてくれる」
ミアの目線に合わせるようにしゃがんでそっと手をそっと握る。
「ノワくんだけじゃない。ここにいる動物全部救えるように頑張れる?」
「うんっ!ミア動物さんのためにがんばれる!」
「よし!じゃあ行こうか」
マスターに借りたドレスに着替えて仮面を着ける。
怪しく光り輝くテントの中へ入る。
「珍獣オークション、イグナルスへようこそ。お美しいお嬢様方、ご参加は初めてでしょうか?」
燕尾服に仮面を身にまとう男が声をかけてきた。
男のオーラは様々な色が混じり合い濁っている。
「えぇ。ここでは珍しい珍獣が手に入るとお聞きしましたので」
「流石お嬢様方はお目が高い。もう少しでオークションが始まりますので奥の部屋でお待ちください。あとこちらをお使いください」
男が数字が書かれた札を手渡し、後ろの扉を開く。
「時間の許す限りお楽しみくださいませ」
扉が閉まる一瞬男が微笑んでいたような気がした。
中は劇場のようになっておりたくさんの人が集まっているようだった。
「仮面の上にこの暗さ、いかにも怪しい取引が行われているって感じね」
私とミアはちょうど空いていた端っこの席に座った。するとタイミングを見計らったようにステージに明かりが灯る。
「紳士淑女の皆様、お待たせいたしました!ただいまより珍獣オークションを開催いたします!」
会場のあちらこちらから歓声が上がる。
「今日はいつもよりも面白い珍獣が揃っているらしいですわよ」
「そろそろ新しいペットが欲しいと思っていたところだ」
「まぁ、楽しみですわね」
あちこっちから聞こえる楽しそうな声に怒りを覚える。色々なところから捕らえたり、盗んだり。それによってどれだけの人が悲しみ、怒りを覚えたのだろうか。
「それではオークションを始めてまいります。皆様、お手元の番号札をお持ちください。まずは世にも珍しい虹色に光る孔雀をご覧にいれましょう」
司会の男の掛け声とともに布に包まれた大きな鳥籠が運ばれてくる。
「それでは、こちらは10000ライ(※日本円で100000円)からです!」
男が布を取った瞬間、会場全体がざわめき出す。
「どこに虹色の孔雀がいるのかしら?」
「籠の中には何もいないじゃないか!」
「私たちをバカにしているのかしら?」
司会の男も籠に何もいないことに気がついて焦りだす。
「何故何もいないんだ!?皆様、大変申し訳ございません!少々手違いがあったようでして⋯。少しお時間を頂戴いたします!」
追われるように司会の男はステージからはけて行った。
「シアがちゃんとやってくれたみたいでよかった」
『ヘルプ!動物さん解放したはいいものの、全然言う事聞いてくれないし!あと僕普通に捕まりそう!』
「えー。そっちでどうにかしてよ」
『え、無理!それ食べちゃダメだってば!!とりま迎えに来てほしいなー!』
「ヤダ!!」
『そんなこと言わずにー!!ヤベッ見つかった!』
ガチャッ。それを最後にシアとの通信が途切れる。
「はぁー。なんでコイツと何でも屋やってるんだろう⋯。ミア、あのバカ捕まったみたいだから助けに行こうか」
「えー、しょうがないなー」
暗い劇場から外に出る。裏側に人が集まっているのか廊下には誰もいない。
奥に進むと怒鳴り超えが聞こえてくる。
「なんてことしてくれたんだ!テメェーのせいでオークションが台無しだ!!どうしてくれるんだ!」
「どうせ盗んだり、違法に捕獲した動物ばっかりだったんだしよくない?僕はただ、動物を元あった場所に戻してあげようとしただけだし?」
「黙れ、俺様はこれで飯食ってんだよ。テメェーこそ、何でも屋とかいうチンケな商売やってんだろ?」
「君のように違法なことはやってないよーだ」
「テメェーは余計なことを知りすぎた。ここで死んでもらう」
ミアと息を合わせて扉を蹴破る。
「マジ助けに来るの遅いってー」
縄でぐるぐるに巻かれているシアがこっちを見上げる。
「せっかく助けに来てあげたのにさー。何その態度」
「お姉さん、もう帰ろーよ」
「ちょっと待って嘘!さっきの嘘!」
「俺様を無視して話を進めてんじゃねぇーよ!どっかで見た顔だと思ったが、昨日見逃してやったガキじゃねぇーか」
身長が高くガラの悪い男がこっちを見る。男のオーラは黒く禍々しい。
「おじさん、私のノワ返して!!!」
「ヤダねー。それ俺様になんのメリットもないだろーが!残念だがそこのバカが解放した中にテメェーのペットは混ざってないぞ」
「何で⋯」
「あのペットは今日のオークションの目玉商品にする予定だったからなー。どれも大事な商品に違いはないが、あれは特に高く売れる。念には念をってやつさ」
ミアのオーラがメラメラと赤く燃え上がる。
「おじさん、本当に最低だね。みんな、ミアに力を貸して!」
ミアの掛け声に周りの動物たちが集まってくる。
「なるほど。動物を操る能力持ちか。確かに厄介⋯⋯だが、俺様には通じないね」
男が手をかざすとあっちこっちから縄が出てきて動物と私たちを捕まえる。
「動物さん!!」
「クソ野郎!流石闇市でこんな商売してるだけあるわ」
「お褒めにあずかり光栄だ。さ、これでテメェーらが勝てる可能性が消えた。大人しく捕まるなら俺様のは配下に加えてやるよ」
「お前こそ僕のこと忘れてない?」
どこからともなく現れたシアが男に飛び蹴りをかます。
それと同時に何かが焦げる匂いが部屋に充満する。
「いつの間に縄から出やがった!テメェーの能力はこんなこと出来るようなもんじゃねぇーだろ!」
「ん?別に僕能力使ってないよ?」
「はぁ?なら何で出れたんだ!?」
シアがニヤリと笑う。
「それはね⋯⋯じゃじゃーん鏡!」
「鏡ィ?そんなんでどうやって⋯」
「ほら、僕ってイケメンじゃん?どこでも身なりは確認しときたいっていうかー?あっ、鏡貸してあげようかー?」
「コイツ⋯!!」
「あとさ、僕の許可なく従業員勧誘するのやめてくれるー?あっ、自分の後ろ見てみたほうがいいよー」
「はぁ?」
男がすごい勢いで後ろを振り返る。
「はぁ!?何でテントに火が!おい!さっさと消火しろ!こんなんで俺様の商売が終わってたまるかよ!クソ!今回は見逃してやるが次はねぇーぞ!」
男が部屋を出ていった。
「二人共怪我がないようで安心した。ノワはこの奥の部屋にいると思う」
シアが私とミアの縄を解く。
「シアこそ、よく縄から抜けられたじゃん。テントの火もシアの仕業?」
「それはNocturneに帰ってから話そうね」
奥の部屋は男が使う部屋なのか装飾品がたくさんある。
「ノワ!」
机の横にある大きな檻にミアが近づく。
「ちょっと待って。思ってた猫と違うんだけど?」
「珍獣オークションの目玉商品として攫われてる時点で普通の猫じゃないでしょ」
ミアがノワくんを檻から出す。
「ノワはね、鵺っていう動物なんだって」
「鵺?」
日本にも伝説の動物として居たような。
「さてと、ここにも火が回ると大変だから一旦Nocturneに戻ろうか」
◇◆
あれから1日も経ってないのに久しぶりに帰ってきたような気がする。
「お姉さんたち、本当にありがとうございました」
ミアが頭を下げる。
「頭を上げて。困ってる人を助けるのは当たり前だし」
「ちょっとは僕たちのこと信用してくれた?」
「うん。お姉さんも⋯お、お兄さんもかっこよかった」
「めっちゃ嫌そうな顔するじゃん」
「で、あんたが縄を脱出できた理由は?」
「鏡で光集めて縄に火をつけただけだよ?」
「あれ、マジだったんだ」
「ミア、一つだけ聞きたいことがあるんだけど⋯」
ミアのオーラが薄い緑色に光る。
「いいよ。何でもどんとこい!」
「人が消えてるって噂本当なの?」
「うーん。依頼人が消えてるのはね⋯」
「消えてるのは?」
「僕たちがポンコツだからだよ」
「は?」
ミアが口を開けたまま固まる。
「だから言ったじゃん噂は半分事実で半分嘘って」
「なるほど⋯⋯」
「さ、そろそろガキは帰る時間だよー」
「また依頼があればまたおいで。いつでも待ってるから」
「本当にありがとう!お兄さん、お姉さん!またねー!」
ミアが笑顔でNocturneを出ていった。
「依頼こなしたもののさ、収入ゼロなんだが?」
「それね。今回は依頼ちゃんと成功させたし、また依頼が来ることを願うしかないねー。サメ、今日は何が食べたい?」
「何でもいい」
「だからそれが一番困るんだってば!」




