ご依頼
「そういえば、あそこ何でも屋また依頼人が消えたらしいよ」
「え、マジで?」
ここは異世界、月煌街の中心地にある何でも屋Nocturne。いつからそこにあったのか、誰が作ったのか知るものはいない。
「あのさ、ダラダラするのいい加減にしてもらってもいい?」
「えー。後ちょっと!!今いいところ!」
ソファーに漫画を片手に寝転がっているシア。本当に情けない奴だが、今のところコイツ以外に頼れる人がいないので仕方ない。
「後ちょっとっていつ?さっきっからそれ言ってると思うんだけど」
「はいはい。買い物ね。ササメちゃんはお料理下手だもんね」
「壁に埋まる用意はよろしくて?」
「暴力はんたーい。そんで、今日は何が食べたいの?」
「何でもいいや。おまかせで」
「それが一番困るの知ってるよね?」
漫画を置いてシアが立ち上がる。
「さてと、諸々の買い出しに行くとしますかね」
荷物を持って外に出る。夕方の怪しげな空気が月煌街を包む。するとどこからかすすり泣く声が聞こえる。声のする方に向かうと公園の端っこで泣いている女の子がいた。
「どうしたの?お母さんは?」
「ちびっ子が1人で居るなんて珍しいね。ここら辺危ない人が多いからさ、大丈夫?」
女の子が顔を上げてこっちを見る。目が腫れ、服も泥だらけだ。
「お姉さん達、依頼人が消えてるって噂の何でも屋でしょ?お母さんが何でも屋の人は危ない人だから近づくなって。自分で解決できるからほっといて!」
「まぁ落ち着きなって。その件に関しては半分事実で半分嘘だよ。だから何があったかおにーさん達に教えてよー」
「胡散臭い」
「なんだこのガキンチョ」
「ミアはガキンチョじゃないし!ミアにはミアって名前があるんだよ!」
「そうですかー。もういいよ。サメ、夕食の買い出し行こ」
シアが私の手を引く。
「シアの言うことはもっともだけど、だからってこんなところに子供を1人にしておけないじゃん」
「君って本当にお人好しだよね。いつか変な壺買わされてそうだよね」
「どっかの誰かさんは勝手に私のこと何でも屋に入れたよね?お陰様で酷い目に遭ってばっか」
「えー?行く宛のない君を助けてあげたのは誰だっけか?」
「今は頼る相手を間違ったって後悔してる」
「嘘ばっかりー」
シアは笑っているものの目が笑っていない。
灰色…。私には生まれつき人の感情がオーラとして見える能力がある。喜びは黄色。幸せはピンク。怒りは赤、悲しみは青。心配は緑。とまぁ、その他にも感情にはそれぞれ固有の色がある。この能力を持って生まれてしまったがために人の顔色をずっと伺って生きてきた。
基本シアは感情の裏表がないのでシアに気を遣うことが少ない。ただ時々シアのオーラは見たことのない色をするときがある。
ミアちゃんのオーラは悲しさと怒りが入り交じる紫。
「ノンデリなお兄さんは置いといて、お姉さんにも話せない?ミアちゃんが困ってるならお手伝いしたいんだ」
ミアちゃんは少し考えた後、意を決したように口を開いた。
「大事にしてた飼い猫が逃げたの」
「飼い猫?でも何でミアだけで?家族は?」
「お母さんとお父さんはお仕事でいないの。家にもしばらく帰ってこなくて。ミア1人でお料理してたら、急に知らない人が家に入ってきて、飼い猫のノワが連れ去られちゃったの」
「思ってたよりも大事件なんだけど」
「ミアちゃんに危害は加えなかったの?」
「ミアはね、クローゼットに隠れてたの。知らない人が入ってきたら居なくなるまで隠れていなさいって。ずっとノワの苦しそうな鳴き声だけ聞こえてて、ミアどうすることもできなくて」
「だからたった1人で出てきちゃったってわけね。見つけてどうするつもりだったん?ガキンチョ1人ができることなんて限られてるっしょ」
「そんなことミアも分かってるもん!でも」
「でも動かずには居られないだよね」
ミアちゃんのオーラが風に煽られたように揺らぐ。
「ミアの気持ちどうして分かるの?」
「お姉さんもそういう経験したことあるからね。お姉さん達、ミアちゃんがノワくん?を見つけるお手伝いしてもいいかな?」
「いいの?」
「しょーがないから無料でその依頼受けてやんよ」
「お姉さんだけでいいもん。おじさん、ミアのことガキ扱いするから嫌い!」
「オジサン…」
シアのオーラが悲しみの青色に変化する。
「ま、そんなに落ち込むなって!いつか誰でも通る道なんだしさ」
シアの肩を思いっきり叩く。
「それ、全然慰めになってないんだけど?」
「お母さん達家に帰ってこないんでしょ?家に1人で居るのも不安だと思うし、今日のところはNocturneにおいで」
「いいの?」
「もちろん!そんじゃ、私ミアちゃんと先にNocturneに戻ってるから後の買い出しよろしくね」
「ちょっとササメさん?なんかミアと出会ってからの僕の扱い酷くない?」
「気の所為、気の所為。じゃ、そういうことだからまた後でね」
数分後私達はNocturneに帰ってきた。
◇◆
ミアちゃんが物珍しそうに部屋の中を見渡す。
「意外と中は綺麗なんだね」
「一応この部屋事務所も兼ねてるからね。私もシアも自分の部屋は散らかってるから見ないでね」
2人で部屋の中央にあるソファーに座る。
「ミアちゃんは、お母さん達とは仲いいの?」
「ミアでいいよ。分かんない。物心ついた頃にはお父さんもお母さんも仕事ばっかりで私のことはいつも後回しだったから」
「そっか」
「お姉さんは?」
「私?私ね、実は異世界から来たんだ。だからまだこっちの世界の常識とか、何も分からないんだけど、お母さんとお父さんは私のこと愛してくれていたと思うよ」
「お姉さん異世界人なの?異世界ってどんなところ?」
ミアのオーラが喜びの黄色に輝き出す。
「ここの世界のみんなのように特別な力を使える人は少ないかな」
「少ないってことはちょっとは居るんでしょ?お姉さんも特別な力使えるの?」
「どうだろうね」
「えー!教えてよー」
「また今度ね」
「何々?僕が居ない間に面白そう話してんじゃん」
話が一区切りついたタイミングでシアが帰ってきた。
「おじさんには教えない!」
「だ・か・ら!僕はオジサンじゃないってば!」
「じゃあジジイ?それともババア?」
「そう呼ばれるぐらいならオジサンでいいですよーだ」
「何子供にムキになってんの?これじゃどっちがガキンチョか分かんないわ」
「じゃ、ぱぱっと料理作ってくるからちょっと待ってて」
数十分後、シアが作った料理がテーブルの上に運ばれてきた。
「わぁー。美味しそう!!おじさん料理上手なんだね」
「まぁねー。さ、冷めないうちに召し上がれー」
テーブルの上に乗った料理にみんなで手をつける。
「相変わらずシアの料理は美味しいね」
「おじさん明日オムライス食べたい!」
「はいはい。明日ね」
事務所に布団を敷いてあげるとミアはいつの間にか眠っていた。私もシアもつられるように眠りに落ちたのだった。




