熱愛新婚・番外編SS
新幹線はグリーン席を四席分購入したので、向かい合わせに座ることができた。
蘭は通路側に座り、窓側には築地が座った。
蘭の向かいには、築地の後輩で、今回初めて参加する結城が座る。
結城も、築地に劣らずなかなかのイケメンだ。
高身長で、脚もすごく長い。
蘭はなるべく、足が当たらないように気をつけて座ったが、結城の方が申し訳なさそうな顔をしていた。
「ハルさん、すみません。窮屈ですよね」
「いえ。結城さんこそ、オレのせいで足を伸ばせないですよね」
「俺は慣れてるので、気にしないで下さい」
結城は穏やかに答える。
キャップを被り、薄い青色のサングラスを付けていても、キラキラと眩ゆく見えた。
芸能人って、変装してもオーラあるよなぁ。
隣に座る築地も、ただ者ではない雰囲気をまとっているし、この二人が連れ立って歩いていたら、人目を引くに違いない。
実際は、俳優業をやっているだけあって、築地は気配を消すのが得意だ。結城も同じく、それくらいはできるだろう。
なので、注目を浴びて騒ぎになるなんてことにはならない。
それを分かった上で、蘭は結城の緊張をほぐすように、軽く冗談を言った。
「結城さんは、ウィッグを被った方が目立たないかもしれないですね」
「ウィッグですか?」
「はい。京都は外国からの観光客も多いですから。結城さんの背丈なら、いっそのこと外国人に変装した方がバレないかなと」
「なるほど」
「ハルちゃん。それだと違う意味で目立つって」
築地が笑いながらツッコんでくる。
「それ、どういう意味ですか?」
ムッとして聞き返したのは、結城だ。大先輩であるはずの築地を軽く睨んでいる。
築地は缶ビールを飲みながら、からかうように言った。
「お前が金髪でグラサンかけて道歩いたら、どんだけ逆ナンされると思ってるんだよ」
「されませんよ! 俺より築地さんの方がモテるじゃないですか」
「当たり前だろ。俺がモテるのは」
築地の返しに、結城も蘭も反論できない。
たしかに、築地は若い頃から恋愛面で週刊誌を騒がせていたというし、プレイボーイという言葉がしっくりくる。
さすがだなぁと感心していると、築地が朗らかに続けた。
「珂南も、色々噂されてるだろうが。ハルちゃんも知ってるだろ?」
「え? オレはゴシップとか興味ないので」
興味は無いが、情報は事前に仕入れている。
結城がモデル出身の人気俳優だということも、たびたび週刊誌を騒がせていることも知っているが、決して口にはしない。
蘭にとって大切なのは、お客様の好みや希望に添った案内をすることだ。
「だよな。そこがハルちゃんの良いところだよ」
築地が嬉しそうに蘭を見る。
結城もニコニコしながら、頷いた。
「今日は、ハルさんとご一緒できて嬉しいです」
「そう言ってもらえて光栄です。三日間、よろしくお願いします」
蘭は笑顔で答えながら、ちらりと窓の外に視線を向けた。
飛ぶように流れていく景色に、東京から離れていることを実感する。
……左京さん、大丈夫かな?
家で寝ている左京が心配だけど、今は仕事中だ。
蘭は自分を戒めると、二人の会話に耳を傾けたのだった。
(終)