第7話 好きな声優を好きになった理由!
まののんが声優としてデビューしたのは今から五年前の十九歳の時だった。
その前にしばらく子役タレントをしていたらしいのだが、それは公式で発表されていないので詳しくは知らない。
アニメで最初に声を当てたのはロボットアニメのモブで、敵に襲われる町の小学生の女の子だった。セリフは「お兄ちゃん、助けて」のたった一言だけ。
まののんのWiKiによると、その年は二作品のモブをやっていた。次の年は出演作品が増えたものの全部がモブで、大文字の名前有りの役はもらえていなかった。
初めて名前有りの役(単発キヤラ)がもらえたのは、更にその次の年で、それは十月開始の秋アニメだった。三年目の最後にようやく名前ありの役をゲットできたのだ。
その間、まののんはどういう気持ちで頑張ってきたんだろう。WiKiに書かれていない膨大な作品のオーディションで不合格をつきつけられ、どうやって自分を奮い立たせてきたんだろう。
もちろん声優なんて、まののんに限らずみんながみんな同じ境遇なはずだ。
どれだけ頑張っても目が出ず、絶望して辞めた人達も多いだろうし、それでも歯をくいしばりながら続ける人たちが沢山いるのは分かっている。
でも、そんな中で自分の好きになった人が、どういう気持ちでこの世界を生きてきたのかはどうしても気になってしまう。
活動四年目にしてアーティストデビューを果たし、まののんはソロで歌うようになった。
今の声優は歌唱がほぼ必須条件になっているので大変だと思う。
声優に歌が必須だなんて、本来の仕事と関係ないという意見はあるが、オレは声優には歌って欲しかった。芝居がキャラクターの心であるなら、歌は声優の心であると思っているからだ。
まののんの歌を聞いた時、とても優しい歌だと思った。だけど、とても切ない感じもした。
まののんはどんな人なんだろう。何を喜び、何を悲しむのか。何を見たくて、どんな事をしたいのだろうか。
オレは本当の回答を知らない。
だから知りたい。
彼女が幸せになるには、どうしたらいいのか。
まののんに近づきたい。近い場所で彼女を感じていたい。テレビ越しでも、ラジオ越しでも、インタビュー越しでもない、本当のまののんを見たい。
その為に頑張ろう。まののんがデビューしてから今日まで頑張ってきた様に、オレはオレの出来る最大限を頑張ろう。
頑張るという熱意でしか、何かを成し遂げるなんて出来ないのだから。