間違えた連載設定
事件が発生した。
玉子町6丁目の安アパートの2階で、君田白枝さん74歳の孫が茹でられてしまったというものだった。
私こと私立探偵、菊池小五郎は、誰よりも早く、警察官よりも早く現場に駆けつけた。
黄身田さんは肩を落とし、パチスロ台の前でうなだれていた。よっぽどショックを受けたのだろう。
「君太さん……」
私は後ろから、その肩を優しく叩いた。
「いくら負けたんですか?」
気味田さんは素直に答えてくれた。
「……78,000円」
「そんなことはどうでもいい! 喜美たさん、お孫さんの名前は!? なんというんです?」
ハゲ田さんは素直に教えてくれた。
「……ヨード卵ヒカリ」
私は即座に事件を解決した。
茹でられたのは孫ではなく、美味しい茹でたまごが出来上がっていたのだ。
私はそれをいただいた。
金色の鍋の中で、お湯の中で踊っていたそのひとつを、冷水にさらすと、殻がむきやすくなった。
食塩を振りかけるととても美味しかった。
「菊池探偵!」
遅れて駆けつけた目暮警部が慌てて私に言った。
「私にも……一口!」
「いやです。事件を解決したのはこの私だ。横取りしようったって、そうはいきません」
朝にはやはり茹でたまごだ。
今日も私の推理が冴えそうな予感がしていた。